斎藤 毅:抽象数学の手ざわり

作成日:2021-10-09
最終更新日:

概要

副題は「ピタゴラスの定理から圏論まで」。

ピタゴラス数でつまづく

0 章は「ピタゴラスの定理から圏論まで」と題されている。ピタゴラスの定理を満たす自然数をピタゴラス数という。 ピタゴラス数に関する次の定理でつまづいてしまった。p.3 から引用する。なお、 本書では式番号を左端にあるが、引用にあたって式番号を右端に移した。

定理1 `(a, b, c)` をピタゴラス数とする.

  1. `d` を `a, b` の公約数とする.`d` は `c` をわりきり,`(a/b, b/d, c/d)` もピタゴラス数である.
  2. `a, b` がたがいに素であるとする.`a, b` の 1 つは偶数で,もう 1 つは奇数である.
  3. `a, b` がたがいに素であるとし,`a` が偶数で `b` が奇数とする. たがいに素な自然数 `n gt m ge 1` で,一方は偶数,もう一方は奇数であり,
    `a = 2nm, b = n^2 - m^2, c = n^2 + m^2`
    (0.2)
    をみたすものが存在する.

私はこの (0.2) の証明を目で追っていったがついていけなくなった。 途中を書くと、式 (0.4) の導出まではついていけたが、 その先が ? となったのだ。

`aq = 2nm, bq = n^2 - m^2, cq = n^2 + m^2`
(0.4)

最終的に `q` が 1 に等しいことをいえばいいが、まず `q` が整数であることをいう。 これにはユークリッドの互除法を使う。`a` と `b` はたがいに素なので `a, b ` の最小公倍数は 1 であり、 `1 = ai + bj` をみたす整数 `i, j` がある。この両辺を `q` 倍して (0.4) を代入すれば、 `q = qai + qbj = 2nm * i + (n^2-m^2) * j` は整数であることがわかる。ここまではわかった。 次は、`q` の範囲を絞りこむところである。 `n` と `m` がたがいに素であることから、`kn + lm=1` となる整数 `k, l` がある。 両辺を 2 乗して 2 倍すると次の式が得られる:

`k^2*2n^2 + 2kl * 2nm + l^2 * 2m^2 = 2`
この式の左辺を変形すると次の式が得られる。
`(k^2+l^2)(n^2+m^2) + 2kl * 2nm + (k^2-l^2)(n^2-m^2) = 2`
私は、本書の p.13 で言われていた次の文の意味がわからなかった:

`q` は (0.4) より左辺を割り切るので 2 の約数です.なので `q` は 1 か 2 のどちらかです.

何度か読み直してやっと理解した。つまり、(0.4) の 3 式を変形した式に代入すると次が得られる:

`(k^2+l^2)(cq) + 2kl * (aq) + (k^2-l^2)(bq) = 2`

この両辺を q で割ると次が得られる:

`c(k^2+l^2) + 2akl + b(k^2-l^2) = 2/q`
左辺は整数であるから右辺も整数でなければならない。よって、`q` は 1 か 2 である。 この引用した1行を理解するためにけっこうな時間がかかった。 この本全体を理解するには 40 年以上かかるだろう。

書誌情報

書 名抽象数学の手ざわり
著 者斎藤 毅
発行日2021 年 7 月 16 日(初版)
発行元岩波書店
定 価1300 円(本体)
サイズA5
ISBN978-4-00-029705-9
備 考岩波科学ライブラリー、南越谷図書館で借りて読む

まりんきょ学問所 数学の部屋 数学の本> 斎藤 毅:抽象数学の手ざわり


MARUYAMA Satosi