ポポヴィチュの不等式(Popoviciu's inequality)とは、凸解析の分野における不等式である。
`f` を区間 `I ⊆ RR` から `RR` への関数とする。 もし `f` が下に凸であれば、3点 `a, b, c in I` に対して次式が成り立つ:
`f(a) + f(b) + f(c) + 3f ((a + b + c)/3) ge 2 [f((a+b)/2) + f((b+c)/2) + f((c+a)/2)]`
もし関数 `f` が連続ならば上式が区間 `I` の全ての点 `a, b, c` が成り立つことと `f` が区間 `I` で凸となることは同値である。 関数 `f` が狭義凸であれば、上記不等式の等号は `a = b = c ` を除いて外すことができる。
ポポヴィチュ(Tiberiu Popoviciu, 1906-1975 )はルーマニアの数学者。 ベルンシュタイン作用素 ( Bernstein operator ) による関数近似の研究を推し進めたことで知られる。 日本では、ポポヴィチュはポポビチュ、ポポビッチ、ポポヴィッチ、ポポヴィシウ、ポポヴィチウなどと表記される。 某掲示板ではポポビッチからの連想でヌポポビッチと呼ばれた。 さらにこの掲示板ではポポヴィチュの不等式が拡張され、これがヌルポビッチの不等式と呼ばれている。 私が Popoviciu に対してポポヴィチュの読み方を当てた理由は、何かをよりどころにしたはずなのだが、 今となっては忘れた。
なお、関数 `f` が凸であることの定義を述べる。区間 `I = [a, b]` において定義された関数 `f(x)` が下に凸な関数(以下、単に凸関数という)であるとは、 そのグラフ上の2点 `PQ` を結ぶ線分(弦)が曲線 `y=f(x)` の `PQ` の弧の上方にある(一致を含む)ことである。
これを言い換えると次のようになる。`P = (p, f(p)), Q= (q, f(q)) (p lt q)` とおけば、 線分 PQ を `t : 1-t` (ただし `0 lt t lt 1`)に内分する点の `x` 座標および `y` 座標はそれぞれ次で与えられる。
`x_t = (1-t) p + tq, quad y_t = (1-t) f(p) + tf(q)`
よって、`f(x)` が凸であるための条件は
`y_t -= (1-t) f(p) + tf(q) ge f(x_t) -= f((1-t) p + tq)` …… ※
が成り立つことである。線分の両端を含めて考えれば、`0 le t le 1` および任意の `p, q, in I` に対して※が成り立つとき、`f` は `I` で凸関数である。
`m = (a + b + c) / 3` とおく。`a le b le c` として一般性を失わない。`m` は `a, b, c` の平均であるから、`a le m le c` が成り立つ。 `b` と `m` の大小関係で場合分けする。
`b le m` から `3(m - b) = a + c - 2b ge 0 ` (☆)が成り立つ。また、`a le m` から`3(m - a) = b + c -2a ge 0` (★) が成り立つ。
さて、`f(x)` の凸性より、次の 2 式が成り立つ。
`f(a) + f(b) ge 2f( (a+b)/2)` …… (1)
`f(m) + f(c) ge 2f( (m+c)/2)` …… (2)
さらに、次の不等式が成り立つことを示す。
`f(m) + f((m+c)/2) ge f((a+c)/2) + f((b+c)/2)` …… (3)
関数 `f(x)` は区間`[p, q] ( p gt q)` において凸であるとすると、`t in [0, 1]` なる `t` に対して次の 2 式が成り立つ。
`(1 - t) f(p) + t f(q) ge f((1-t) p + t q )`
`t f(p) + (1 - t) f(q) ge f(t p + (1-t) q )`
辺々足して次の不等式を得る。
`f(p) + f(q) ge f((1-t) p + t q ) + f(t p + (1-t) q))` …… (4)
ここで、`p = m, q = (m + c) / 2, d = t(q - p)` とおく。
`d = (b + c - 2a) / 6` とおくと、(★)から `d ge 0` がいえる。また、`q - p = (2c - (a + b))/6` であるから 、
`(b + c)/2 - m = (b + c - 2a) / 6`
`(m + c)/2 - (a + c)/2 = (b + c - 2a) / 6`
`p = m, q = (m+c)/2, t = d / (q - p) = (b + c - 2a) / ((-a-b+2c )// 6)`
以上の値を (4) の右辺に代入して計算すると、次の式が得られる。
`f(m) + f((m+c)2) ge f((a+c)/2) + f((b+c)/2)`
これは (3) 式そのものである。よって(3) 式が証明できた。
ここで、(1) + (2) + (3) * 2 を辺々加えると、
`f(a) + f(b) + f(c) + 3f(m) + 2f((m+c)/2) ge 2f((a+b)/2) + 2f((m+c)/2) + 2f((a+c)/2) + 2f((b+c)/2) `
が成り立つ。両辺から `2f((m+c)/2)` を差し引き、整理すれば、証明すべき式が得られる。
`f(x)` の凸性より、次の 2 式が成り立つ。
`f(a) + f(m) ge 2f( (a+m)/2)`
`f(b) + f(c) ge 2f( (b+c)/2)`
さらに、次の不等式が成り立つ。
`f(a+m) + f(m) ge f((a+b)/2) + f((a+c)/2)`
以下は `b le m` と同じように証明すればよい。証明終わり。
下図は、下に凸な関数 `f(x)` と `a le b le m le c` の場合の `a, b, c` の位置関係を模式的に記した図である。ここで、`x#y` は `(x+y)/2`の略記である
ポポヴィチュの不等式については、カラマタの不等式 (Karamata's inequality) を経由して証明するのが普通だが、 ここではカラマタの不等式を経由しない方法をとった。
上記は、「関数が下に凸→ポポヴィチュの不等式が成立」を示したが、逆に、 「ポポヴィチュの不等式が成立→関数が下に凸」も示せる。証明は省略する。
このページの数式は MathJax で記述している。 またグラフは SVG で記述している。
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