虫めづる姥やの虫の写真と詩(2019年〜2023年) |
クロコノマチョウ 別離の哀しみが三つも重なり くらくらする目に 飛び込んでくる飛翔の 暗さ 若葉の香りのする眩しい日だまりのなかで 傷んだ目に好もしい暗い飛翔が わたしを虜にする いつだってチョウは そなえ持つ華麗さを 隠さないものなのに クロコノマチョウの今朝の飛翔は 隠したくてならないすばしこさで なによりもわたしを慰めてくれる 2023・5・5 里山にて |
字書き虫(ハモグリバエ) 緑の葉群(はむら)がぼくらの国 一葉の極薄の空間がぼくらの棲み処 火群(ほむら)を逃れた葉を食しながら 飛び立つ日の希望を文字にしていく 停戦。誠実から遠く 終戦。虚実の上塗り 平和。手に負えそうもないけれど 挑戦するのはこの文字しかない ぼくらが書き残す迷いぬいた平和。が 葉表を突き抜け 空に向かって 透けてくれますように! 〜〜2023年1月7日〜〜 ☆彡「野川ほたる村だより」に掲載☆彡 |
冬虫夏草・クモタケ わが庭の賓客 キシノウエトタテグモさまに 寄生するのは何者ぞ まかりならぬわ 許せぬわ 息まいてみても 日ごと伸びるわ 純白の胞子を 飛ばすわ飛ばすわ すわ! 一大事 わが庭はクモタケだらけか キシさま どうか、ご無事で 巧みに避難なさいませ! 〜〜2022年10月10日〜〜 |
ウスキツバメエダシャク みずほ銀行のお知らせ版を 読ませたくないのではありません 尾状突起をひけらかす というのでも ありません なぜか ここにいる というしあわせ なぜか たのしい というしあわせ 人が忘れてしまった なぜか ここにいると愉しい を、甘い白さで見せてくれる 〜〜2022年8月15日〜〜 |
ハイイロヤハズカミキリ 細い竹筒のなかで 誰からも干渉されずに 灰色の日々を過ごしていた 心のどこかでは そりゃあ、いつかは緑の林へ 飛び立つ日がくることも知ってはいたさ だけど、そんな日は 突然やってくるものなんだな 何にも不自由を感じていないときに 突然やってくるものなんだよ ぜんぜん驚きはしてないさ 灰色は何事にも驚かない色なのさ 〜〜2021年6月4日〜〜 |
ナガヒラタムシ 何億年もの昔から 人類よりも大昔から 地球を知っているご先祖に きっちり並ぶ鱗を託されたのでしょう 託された重さをさりげなく背負い 里山にいたのでしょう ここの風はどうでしょうか 慣れないビニールの光は? つぶらだけどきりりとした目 すこし戸惑っているようで 違和感を感じているようで 申し訳ないです 人類のはしくれ 〜〜2021年3月13日〜〜 |
ゴマダラカミキリ あなたが兄さんに捕まると わたしの頭はきゅっと固まるのよ 一本よこせ こいつに髪を切らせるんだから スポーツ刈りの頭しか持ってない兄さんたら わたしの長い髪を欲しがるんだもの ギシックギシ あなたは少しためらってわたしの髪を切る 兄さんに叱られないために ギシックギシギシ 顎を鳴らしてわたしの髪を切る もう捕まらないでね わたしの兄さんには 〜〜2020年7月1日〜〜 |
ツマキチョウの蛹 凛として ひとり 作春から今春まで 一年をまるごと抱え 身体は早くも ざわめくけれど 淡雪が降るわ 雨が降るわ こんな日には羽化はしない 凛として 耐える 一年を耐えたものにも 透けた身体での一日は長い それなのに迷いもせず 身じろぎもしない 蛹のなかの静かな 凛々 〜〜2020年4月1日〜〜 |
テングチョウ 春がきたのに コロナコロナコロナ ヒトのあなたはコロナの行方を 憂えている 凌げるヒントが チョウのわたしにあるのに わたしの存在に気がついてくれたお礼に チョウの呪文を教えましょう 緑のなかに コロナは来ない チョウのわたしには 緑の木がいっぽん 緑の草花がいっぽん ヒトのあなたには 緑の木がろっぽん 緑の草花がろっぽん 思い返してみてください コロナがはびこるのは 緑がないところ 雪が積もった街 コンクリートで囲まれた部屋 緑のなかに コロナは来ない 〜〜2020年3月1日〜〜 |
ツマグロヒョウモン・妻 妻だから黒い? のではありませんよ 黒いのは褄 端っこが黒いだけですよ それだけで 悪に近いですか? 黒って悪ですか? 褄の黒さが際立ち過ぎやしないかと 白い帯模様を入れているのに? それでも悪っぽいでしょうか? スミレが好きな方にとって わたくしの子どもたちは天敵 どうか 見逃してください どんなに母親があくどい色をしていても 子どもたちのスミレ好きは純粋 どうか 大目に見てやってください 〜〜2019年10月15日〜〜 |
ガガンボ 刺さないのに 許されぬ悪事を働いた人さえ 刺さないのがガガンボなのに ガガンボのボは母のボ ガガンボは蚊の母 そのように思われ続け 長い歴史を背負ってきた それだからか 脚が半分千切れても 壁に張り付いて耐え得るのは 〜〜2019年4月16日〜〜 |
ベニカミキリ 紅色のスカーフを買ったけど 幾つになっても似合いそうもありません 似合うのはあなたしかいないと思って送りました そんな手紙が添えられていた紅色のスカーフ うれしくて くすぐったかったあの日…… ……十数年が流れ ここにいた ここにいたのよ 似合う虫が かぐや姫のように竹から生まれる虫が 形見を遺して逝ってしまった 園子さん 清楚な人だったのに これから長い物語を書こうとしていたのに 似合うと思い込んでくれたようには 幾つになってもなれていはいない ただ 遺された紅色を思う気持ちが強まるばかり 〜〜2019年3月23日〜〜 |