トップページヘ

             2015年・虫の写真と詩

☆★☆



  ウラナミシジミ

 うららかな小春日
 ヘリオトロープのウラナミシジミ

 羽の表の青さを
 羽の裏のさざ波に透かしている

 うららかな小春日
 ヘリオトロープのウラナミシジミ

 あなたの不純も
 わたしの一途なわがままも
 さあ、この青さで洗い流しましょう


             ~~2015年11月8日~~
  

☆★☆



  ヘイケボタル・幼虫

 一族郎党寄り合いて
 傍若無人のからみ癖

 からみ癖は御身のためにならず
 と、申し上げたき心地なれど

 われらヘイケの一族は
 からみ上手が生き上手
 
 さりながら さりながら
 独居を好む我が身には
 厭わしきこと この上なし

 三十六計逃げるにしかず

 逃げましょ 逃げましょ
 からみ癖の一族を尻目に


             ~~2015年10月11日~~
  

トップページヘ





  ジョロウグモ・♀

 朝の気温 14℃
 昼間の気温 24℃
 10℃の気温差 どうしましょうか

 糸の強さ 一定
 糸の太さ 一定
 この不変 もてあまします

 等圧線 ではありません
 等間隔 のつもりです

 よじれよじれの 几帳面
 誰にも負けない A型気質


            ~~2015年10月11日~~
  

☆★☆



  アオスジアゲハ

 雨上がりの路傍に
 突如顕われた 青いステンドグラス

 目を細めて覗けば見える
 青い希望
 まぶしい未来

 耳をすませば 聞こえる
 パイプオルガンの
 尾を引くのどかな音色

 イギリスの田舎町
 迷い込んだ古い協会
 あの静寂がよみがえる


            ~~2015年10月10日~~
  

トップページヘ





  アケビコノハ

 羽を閉じれば 端正な木の葉
 失意の底に落ちたような
 ふくらみのある枯れ葉

 羽を開けば
 山吹色の金粉にまみれた
 黒丸印の脅し

 いいね、失意も
 いいね、脅しも
 
 もちろん もちろん、どちらも好き!

 アケビコノハは かすかに身震いし
 華やかな脅しを そっと閉じる
 わたしの指先に 金粉をまぶして


          ~~2015年9月20日~~
  

☆★☆





  首相へ~~喪中のコカマキリ

 衝撃のあまり 目がふさがってしまった
 
 多くの仲間が豪雨に流され その喪中のさなか
 虫の世界の9条までも踏みにじるか

 武器弾薬を作らせる前に 災害地へ迎え!
        使わせる前に 話し合いに迎え!

 アメリカの後追いではなく
 自らの意志と力で アジアの友好国を増やせ!

 狭い国土をアメリカへの追従に差出すばかりか
 国民までも差し出そうとは!

 世界中の人々が
 井の中の蛙 と嘲笑する声が聞こえる

 道を踏み間違えていることに 気がつけ
 君の言動が これ以上クレイジーになる前に


          ~~2015年9月19日~~
  

☆★☆



  コカマキリ

 体は小さくても オッケー!
 色は焦げ茶でも オッケー!

 二本の鎌がシュワッと 飛び出しさえすれば
 首がキコッと 廻りさえすれば

 まんいち そうでなくても

 たとえ 鎌を一本無くしても
 たとえ 首がこわばっても
 わたし オッケー!よ

 霜が降りても
 コカマキリで あることを わすれずにいる限り
 わたし ずっと オッケー!よ



          ~~2015年9月18日~~
  

☆★☆



    ミヤマカミキリ


 登る 登る 登る

 山桜の太い幹

 高見へ 高見へ 高見へ

 空の光に届くまで
 
 あえて さようならは いうまい

 また会おう また会おう


           ~~2015年9月1日~~


  

トップページヘ



 
    女王蟻


 さあ、結婚飛行は終えた
 大空を飛んだ羽は 切って捨てた

 わたしは 女王

 これより
 黒大蟻の大国を造ろうと
 土地を求めて ひとり彷徨う

 崇高な思いを秘めたものは
 みな 孤独

 わたしは 女王
 体内に宿す無数の卵が
 溢れんばかりの わが光明になる

           ~~2015年8月10日~~


  

☆★☆

 
    クツワムシ


 アレチノウリが ごっちゃごちゃ
 ヨモギもススキも ごっちゃごちゃ
 女子に蹴散らされ 食べ残され
 少年には とても 我慢できない

 クツワムシの少年は
 整理整頓がモットーだ
 一人静かにしゃぐしゃぐ食べる
 ときどき そっと 鳴きたくもなる

 ゴッチャ ゴチャ
 ゴッチャ ゴチャ

 ある日
 少年は大人になって
 整理整頓が苦手な女子を好きになり

 困ったあげくに鳴きだした
 人目を気にせぬ大声で

 ガチャガチャ ガチャガチャ!
 ガッチャ オチャオチャ!


           ~~2015年8月1日~~


  

トップページヘ



 
    ウズマキグモの子ども


 どっちに巻けば いいんだっけ
 右巻きだっけ ぐるぐるぐる
 左巻きだっけ ぐるぐるぐる

 どっちだって いいんだっけ
 途中で糸が切れたけど
 どっちだって いいんだよ

 ぼくが ちゃんと 隠れることさえできるなら
 おいしいものが ぐるぐるぐるぐる
 目を廻してくれさえしたら


           ~~2015年7月8日~~


  

トップページヘ



 
    ヨツスジハナカミキリ


 黒と黄色だよ
 要注意の色だよ
 蜂に似てて 怖いだろう

 だけど ほんとのチックンはしないから
 怖がらせるだけが ぼくらの思う壺だから
 ただ誰にも触られずに
 おいしいものをいただきたいだけだから

 いただきまーす あまあい花粉
 いただきま-す あまあい樹液

 林の夏の平和が いつまでも続くよう
 ほんとのチックンをするヤツが
 ぼくの所にも君のところにも
 きませんように


           ~~2015年5月29日~~


  

トップページヘ



 
    玉蟲の羽


 里山の落ち葉に埋もれていた
 玉蟲の羽
 小粋な縞の 色あせない歴史

 うっすらと汗ばんだ
 手のひらに並べれば
 思いは正倉院へひとっ飛び

 薄暗がりで出会った玉蟲の厨子へ
 幾百年の歳月にも色あせない御物へ
 風化しない知恵のひとつへ

 里山の落ち葉に埋もれていた
 玉蟲の羽
 早春の光にたじろぎもせず光る



           ~~2015年3月27日~~


  

☆★☆

 
    アオムシ


 わたしもこれから
 きりりととがった さなぎになります

 わたしも このあいだまで
 おなじ葉っぱを いっしょにたべた
 せんぱいのように

 でも
  わたしはわたしのやりかたで

 わたしをおおう
 雨のつぶがかわくころには
 きりりととがった さなぎになります



           ~~2015年3月17日~~
  

☆★☆

 
   蟻地獄3兄弟


 天国 地獄 大地獄 天国!
 わあい 天国だ

 天国 地獄 大地獄 天国 地獄……
 ……あ~あ 地獄

 子どもたちが大声で指遊びをしている
 蟻地獄3兄弟の巣の近く

 天国 地獄 大地獄
 天国 地獄 大地獄

 蟻地獄の巣が
 しーんと耳をすませている


           ~~2015年3月11日~~
  

☆★☆

 
   シマアメンボ・2


 えっさかほいさ なんのその
 
 空こそ飛べないぼくだけど
 冒険もとめて上陸できる

 川べりのでこぼこ路だって なんのその
 えっさかほいさ なんのその

 わらわばわらえ オオアメンボ
 わらわばわらえ ヒメアメンボ

 きみたちみたいに
 自由に空こそ飛べないけれど

 水面を離れ獲物を探すこの冒険に
 心躍らすぼくなのさ


           ~~2015年3月11日~~
  

トップページヘ



 
   ニイニイゼミ(の脱け殻)


 地中の土をかき分けて 上へ上へ
 闇のなかを這いあがった

 地表にあらわれたときは
 どこもかしこも どろんこ!

 脚も目も 口も触角も
 大人の自分を生み出すための
 背中のひび割れも

 どこもかしこも どろんこ!
 ああ 力みなぎる どろんこパック

 このどろんこパックから
 きらきらの新しい大人が
 生まれてきたのさ


           ~~2015年2月24日~~
  

☆★☆

 

    クロナガアリ

 零下3℃まで下がった2月の朝
 巨大な実を運ぶヒトに出会った

 もうアリではなかった その力は
 か細い体の何倍もある実を運ぶ その苦役は

 絶壁を乗り越え
 オーバーハングの岩を登り
 巨大な実を決して落とさず

 あっ、とも焦らず
 うっ、とも呻かない

 そこで、もう、やはり、
 彼女はヒトではないと 思わせた
 働きアリにしかできないと
 彼女に寄り添いたい者に 思わせた

 ……アリヲヒトノオオキサニスルト
   8バイノチカラガアリマス……

 図鑑の文字がテロップになって流れていく

 ……アリヲヒトノオオキサニスルト
   8バイノニンタイガアリマス……



             ~~2015年2月11日~~ 
  

☆★☆

 

   シマアメンボ・1


 車椅子を押している日に出会った アメンボ
 こんな山間の町に 母をあずけてしまった
 そう思っているときに出会った アメンボ

 シマアメンボですよ
 乾いた道を歩いてますよ
 谷川は二メートルも下なのにね
 平気な顔で散歩してますよ

 母の表情は変わらなかったけれど
 私の胸には 明るい日が射した あの日

 二メートルもの石垣を上がってきて
 のんびりと散歩する
 風流なシマアメンボのいる町に
 母をあずけている自分を
 すこし許せる気になった


                 ~~2015年2月5日~~
  

☆★☆

 

   アオスジアゲハの幼虫


 ここがどこだか しらないよ
 どこからきたかも しらないよ

 ふと きがついたら ここにいる
 かおりのよい はっぱのうえだよ

 どこからどこまでが おつむ? なあんて
 どこからどこまでが ぽんぽん? なあんて
 どこからどこまで あんよができる? なあんて
 どうでもよいよ

 すこしねむって またおきて
 すこしたべて またねむって
 おなじことをやってるねって?

 ちがうかたちになるためには
 おなじにおもえることを
 なんじゅっかいもやらないと いけないんだよ

 そのことだけは しってるよ


                 ~~2015年2月2日~~
  

トップページヘ



 ☆★☆

 

   キマダラカメムシ


 寒いよ、清里は
 夏は楽しい別荘村
 寒いよ、晩秋は

 森閑とした山荘の木のポストに
 籠もってはみたけれど
 寒いよ、しんしんと

 ガスとか電気とか水道とかの請求書が
 ハラリと落ちてきたりすると
 寒いよ、絶交状のようで

 台湾生まれの祖先の皆さま
 台湾生まれの仲間の皆さま
 寒いけど、清里の雪はきれいだよ
 ツアーで観にきてください


                 ~~2015年1月25日~~
  

☆★☆

 

   オオホシオナガバチ


 高原のホテル
 渡り廊下の壁面
 行き交うスリッパの音

 聞いてか聞かずか

 小首を傾げ
 長い産卵管
 誇らしげ

 琥珀色の光
 濁りのない風
 選び抜いた朝

 さあ、出かけます
 産卵の刻です
 フランス窓をもっと
 もっと広く開けてください


                 ~~2015年1月19日~~
  

☆★☆

 

   コアシナガバチの巣


 個室のなかで
 お隣にも知られない今日や明日が
 どのように育っていったのか

 夕日が当たる個室は
 不織布のような強い光を帯び

 透き通る思い出にも似て
 わたしを撫でた母の手にも似て

 目を凝らさずにはいられない


              ~~2015年1月10日~~
  

 トップページヘ