レイル・ストーリー3 もうひとつのトロッコ


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レイルストーリー3、ただいま発車いたします。


 ●もうひとつのトロッコ

北陸富山で「トロッコ」と言えば、黒部峡谷のトロッコ電車こと黒部峡谷鉄道があまりにも有名である。本来黒部川水系の電源開発を目的としたこの鉄道は歴史も古く、大正15年の一部開通の後、終点欅平までは昭和3年12月6日に開通している。最初は工事専用だったが、その後観光客の便乗も許されるようになった。キップの裏には「生命の保証は致しません」と但し書きがあったという話も有名である。昭和40年代後半になると、トロッコは観光客中心となって関西電力の工事線から昇格(?)し、黒部峡谷鉄道と名を変えた。

このトロッコは戦後、黒部第四発電所、通称「黒四」の建設のため、さらに上流を目指す。今でも一般客は欅平までしか行けないが、実はその奥の急峻な黒部川沿いを関西電力専用の線路は延びていて、一旦トンネルに入ったあと、列車ごと400mも垂直に上昇する。つまりトンネルがそのままエレベーターになっているのだ。その先も殆どがトンネルで、しかも乗鞍火山帯の中を進んでいるため中は40℃以上の高温。普段は見られないが専用線用トロッコは耐熱構造で出来ている(もっとも現在はトンネルに空調が完備されたという話だ)。
この関西電力専用線は通称「上部軌道」と呼ばれる。これに対し黒部峡谷鉄道は「下部軌道」とも言われる。

黒部峡谷鉄道は富山地鉄本線の終点、宇奈月温泉から出ているが、立山・黒部アルペンルートの入口で富山地鉄立山線の終点、立山駅のすぐ近くにもトロッコが走っている。こちらのトロッコは常願寺川がもたらす災害を防ぐためつくられたもので、「立山砂防軌道」というものだ。

立山はかつて活火山だった。噴火口は立山・黒部アルペンルートの高原バス路線のすぐ南側に位置する「立山カルデラ」がその名残なのだが、ひとたび大雨になると脆い山肌ごと崩れ、富山平野全体に被害を及ぼしてきた。明治維新後、富山県は常願寺川の砂防事業に着手した。この川は明治政府がオランダから招き、木曽三川の水防にも尽力した技師ヨハネス・デ・レーケをして「これは川ではない。滝だ」と言わせたという。

富山県による砂防事業は完成直後に大雨に逢い、残念ながらことごとく崩壊した。これを重くみた富山県は政府に直訴、常願寺川の砂防事業は国の直轄事業として再スタートした。この時工事用としてつくられたのが立山砂防軌道なのである。こちらも黒部峡谷鉄道同様に急峻な崖を進むため、レールの幅は610mmという日本で最も狭いものである。(黒部峡谷鉄道は762mm)

立山砂防の基地

このレールが延々と続いている

立山駅に隣接する基地

遊園地の電車のようなレール

基地には常願寺川砂防の歴史と、立山カルデラ、砂防軌道の事を詳しく紹介する立山カルデラ砂防博物館(入館料400円)というのがあり、中には引退したトロッコの機関車が展示されている。また、建物の下はトロッコ達の車庫となっている。

トロッコの機関車

レトロ感あふれるインパネ

かつて活躍した機関車

レトロなインパネ

立山砂防軌道は地鉄立山駅のすぐ近くに基地があり、そこから延々18kmあまりも山肌を縫い、終点水谷までを結んでいる。もっとも終点の近くには立山温泉という処もあったらしいが、水害によって温泉の施設もそこへ向かう道路も破壊されてしまったという。
なぜカルデラは目の前なのに18kmもの道のりが必要なのかというと、高低差を克服するために普通の鉄道では見られない18段連続スイッチバックを始めとした超登山鉄道だからだ。博物館ではそのスイッチバックが模型で再現されている。

この鉄道は砂防が目的であり国土交通省管轄のため一般客は便乗出来ないが、そのスイッチバックを体感してもらおうと、博物館にあるトロッコを模したスクリーンでその一部始終を映写している。(ただし体験学習会が夏場だけ週2回行われており、その時にトロッコに乗るチャンスはある)

樺平スイッチバックの模型

ビデオ映像

18段スイッチバックの模型

スクリーンの映像

現在「散居村」で有名な富山平野が災害から守られているのは、この砂防事業のおかげだと言っても過言ではない。それを支えているのが立山砂防軌道なのである。年間100万人が訪れるという観光地、立山・黒部アルペンルートのすぐ傍らに、こんな地味でありながら重要なトロッコが今日も走りつづけている。


立山駅のすぐ傍に、小さなトロッコが行き来しているのを見かけた人もいると思います。それが立山砂防軌道だったのです。ただしこれは黒部峡谷の「トロッコ電車」ではありません。お間違えなきよう…(笑)

次はようやくボクの住む石川県からの話題です。

【予告】消えた金名線の謎

―参考文献―

鉄道ピクトリアル 1996年9月号 <特集>北陸の鉄道 鉄道図書刊行会刊

―協力―

立山カルデラ砂防博物館

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