関西私鉄ストーリー

本日も御乗車、ありがとうございます。

このページでは地下鉄銀座線ストーリーに引き続き、私鉄王国関西のことを紹介致します。

 

●春日野道の謎

鉄道をつくる際、法規的には「地方鉄道法」と「軌道法」というのがあって、地方鉄道というのはごく普通の鉄道だが、軌道というのは厳密に言うと道路敷に布設されるものをいう。ど・道路…?

道路に電車といえば、本来は路面電車の事を指す。でも私鉄にはここで言う「軌道」からスタートしたものが多いのも事実である。関東では京浜急行とか、関西ではもっと多くて阪急神戸線、宝塚線、京阪…。どれも今ではれっきとした普通の鉄道。さすがに多くは路面を走っていないが、京都の地下鉄東西線と直通運転している京阪大津線には、一部路面区間があるというのも面白いところ。

これには深い訳がある。確かに本来路面電車であったはずの「軌道」は、そのまま路面電車に徹したものと、実は都市間の高速輸送をもともと狙っていたものに別れてしまっていた。しかしその「軌道法」はあくまでも路面電車のためにつくられたものであったので、高速走行には適していないのは言うまでもない…というか、電車がスピード違反してしまう(笑)。

確かにそうだ。いくらなんでも道路の真ん中を100km/h以上で電車が走っていたのでは、危ないことこの上ない。道路交通法も守れない(笑)。そこで監督官庁は都市間の高速輸送にこだわる私鉄各社の要請に折れ、「線路の一部が道路に接していれば良い。」という判断を下すことになる。阪神電車や、京浜急行などでは線路の両側がフェンスで仕切られ、その外側に道路が並行している区間が最近まで残っていたし、大阪市内の京阪本線や奈良市内の近鉄奈良線には路面区間が存在した。

この判断は後に「専用軌道」というものまで生み出す。だったら「地方鉄道並みに線路を敷くことだっていいじゃないか」という事になり、本来道路を走るべき軌道はだんだん専用の敷地を持つようになり、軌道を大きく外れる結果となった。逆に本来の軌道は「併用軌道」という別のカテゴリーになった。

今では地方鉄道も軌道も境目がなくなってしまった。信じられないような話だが、大阪市交通局すなわち地下鉄は、御堂筋などの道路整備と同時に地下鉄も建設するという理由から、軌道法の適用を受ける全国でも稀な例である。確かに地下鉄は道路の下を進む事が多いから、道路敷内にあると言ってもいいのかもしれない。いうことは、地下鉄は道路の一部分を走っている解釈なのだろうか。逆の解釈をすれば、「ホワイティうめだ」等の地下街には地下鉄が走っていて当たり前なのだろうか(笑)。

話は大きく外れてしまったが、阪神電車も軌道からスタートしている。それも開業当初は大阪市電乗り入れを考慮して極めて路面電車に近いスタイルだった。この点は当初品川付近で東京市電の路線を利用した京浜急行もそっくりである。線路は開業直後から高速化に向けた改良が始まり、路面区間で併用軌道だった御影付近を一気に高架化し、ついで神戸市内の併用軌道区間の地下化を図る。大阪の出入橋にあった仮ターミナルはのちに梅田地下駅へ移した。

阪神電車で神戸市内に入ると岩屋駅を境に地下区間になる。開業当初はこの先終点三宮まで国道上を路面電車同様に走っていたのだが、地下化と同時に駅を整理することになり、春日野道駅は廃止されることになっていた。しかし当然のように廃止反対の声が上がり、結局駅は地下化して復活することになった。

問題が起こった。既に工事がだいぶ進んでしまっていた。いまさら駅を追加するのは非常に困難ということで、阪神は上り線と下り線の間隔を少々広げ、そこにホームを作るという最小限の設計変更で乗り切った。駅は開業した。

それはそれで良かったのかもしれない。しかし…である。

このホームの狭さといったら…

確かに極端に狭い

あまりにも駅のホームが狭く、普通電車以外停車しないこの駅では、猛スピードで通過する特急の恐怖に耐え続けなければならないという宿命を背負うことになってしまった。ホームの幅はせいぜい1m程度(白線の内側)しかなく、端のほうではそれすらも切っているのかも…。駅で電車を待つ利用者は、特急の通過のたびに顔を引きつらせて柱の影に隠れることを余儀なくされたとか。

しかし、あまりに危険なせいか、晩年になってようやく徐行運転を行うようになった。よくもまあ大きな事故もなく、ましてやこんな話が大事にもならずに、70年以上も続いたものだと感心するばかり。

その後、平成13年11月から岩屋駅を含めた神戸市内の阪神本線の改良計画が始まり、春日野道駅もホーム新設工事が進められた。平成16年9月25日、阪神春日野道駅は線路の両側に幅員2.6mのホームを持つ「普通の地下駅」となって再スタートした。


次は思わぬところで線路が繋がっているという話です。そして関西私鉄ストーリーは一応終点となります。

【予告】 線路は続くよどこまでも

【参考文献】

関西の鉄道 1997陽春号 阪神間ライバル特集 関西鉄道研究会
関西の鉄道 2005新春号 阪神電鉄だより

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