旅日記Vol.63 | 冬の宇奈月温泉とアルプスエキスプレス (全ての写真はクリックすると大きくなります) | 2014.1.11〜12 宇奈月温泉 |
仕事柄、年末年始は休みどころか仕事の連続。気がつけば三が日など終わっていて世間ではそろそろ正月気分も抜けようという頃、やっと休みにありつける。普段は土日も日勤ばかりだが、やっと人並みに日曜の休みが出来て、冬のこの時期、少しはのんびりと温泉にでも行こうかと#2と意見が一致した。そうだ、宇奈月温泉。去年日帰りでダブルデッカーエキスプレスに乗って訪れ、近いうちに泊まってみたいと思っていたんだった。クルマで行くのも味気ないなあ…時間はかかっても、旅の気分を味わいたくて電車の旅にしよう。
富山の宇奈月温泉といえば黒部峡谷のトロッコ電車が有名。でも冬季は積雪のため運休となってしまう。この冬場にも観光客を呼ぼうと宇奈月温泉ではイベントを行っていて、その一環として富山地鉄とタイアップ、一部の列車の運賃を無料にするという「宇奈月温泉謝恩号」を走らせている。このチャンスを無駄にする手はないというもの、しかも土日祝日のみ運行の観光列車「アルプスエキスプレス」も乗れるのが判った。アルプスエキスプレスはもと西武5000系『レッドアロー』を導入して走らせていた富山地鉄が、JR九州で数々の観光列車成功の実績を持つ水戸岡鋭治氏の手による大胆なリニューアルを近年実施して、一躍トップスターの座を得たものだ。
温泉、それにアルプスエキスプレス。これはもう決まり。あとは宿だ。去年温泉街を散策していたら駅前にオシャレな足湯カフェがあった。そこは旅館「フィール宇奈月」に併設されているもので、旅館自体は仲居さんを置かず部屋やレストランではセルフサービスとして、料金をリーズナブルに抑えた今時の温泉宿。ホテルのスタイルに倣ったその手法は賛否両論があるかもしれないが、ボクは干渉されずに自由に過ごせるこの宿が気に入り、早速ネットで予約。あとは行く日を心待ちに…。
天気は雪。でも大雪にはならずに済みそうで当日の朝は雪がちょっと降った程度、むしろ風情があってイイ。夜勤から帰り、支度を整えてFitはしばし留守番。路線バスでまずは金沢駅へ向かう。こうしてバスで出かけるのも久しぶりだ。
富山まではJR北陸線。のんびり午後の普通電車でも良かったが、目下高架化工事中の富山駅では電鉄富山駅までの経路がやや複雑で、乗り換えの時間に余裕がない。そこで特急料金を奮発して1055M『北越5号』自由席で向かうことに。これが功を奏するとは、この時気がつくはずもなかった。
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特急『北越』は国鉄時代からのベテラン485系が使われている。来年3月に迫った北陸新幹線開業まで最後の活躍、全国の鉄から熱い視線を浴びている。前日の運用がそのままなら3編成しかない国鉄特急色の中からK2編成が充当されるはずだったが、運用が差し替えになったようで列車はリニューアルされているR28編成だった。485系オリジナルのスタイルからはかなりイメージが変わってしまっているが、今の485系の中で居住性はトップ。シートはE257系の『かいじ』と同じものだという。普通車のシートでも背面、座面の調整が出来てなかなか快適だ。内装も大胆に手が加えられてて、およそこれが485系とは信じがたいものに仕上がっている。
三連休の初日とあって、駅には鉄とおぼしき人の姿も。いるいる。
『サンダーバード』などをやり過ごし、やがて発車の時刻が迫った。どこか遠くまで旅してしまいそうな誘惑と錯覚。電車は静かにホームを離れ、新潟へと走り出した。
津幡を過ぎ、倶利伽羅峠が近づいてくると午後には平地から消えてしまった雪がまだかなり残っている。こんな雪景色を見ながらの電車の旅はホント久しぶり。さて485系とあれば沿線には…倶利伽羅駅の近く、それに倶利伽羅トンネルを出てすぐのポイントでは、この天気でもやはり数人…。まあ人のコトは言えないか(笑)。
富山県内に入り、また雪が舞い始めた。新幹線の高架橋が右へ、左へと展開する。時代の転換はもう近い。
数人の鉄が待っていた呉羽山トンネルを潜り、神通川を渡ればもう富山到着。電車を降りると隣のホームには475系普通電車が停まっていて、国鉄急行色に復元されて人気のA19編成が発車を待っていた。その隣は413系。こんな光景もあと1年ちょっとしか見られないのか…。
目下工事中の富山駅は仮設の駅舎が以前よりもずっと金沢よりにあり、まずホームから改札口までの通路が長い。改札を出て富山地鉄の電鉄富山駅は逆の直江津側。しかも真っすぐには進めず、今は時間に余裕がないと乗り換えは厳しいようだ。
電鉄富山駅は直営の商業ビル「エスタ」の1階にある。本線、立山線、不二越・上滝線の電車が発着して活気が感じられる。宇奈月温泉謝恩号に指定されている次の特急『うなづき9号』に乗ろうとキップ(特急券は別料金)を買い、改札口へと向かうと発車まで30分以上もあるのに、そこには既に乗客の列。しかも見る見る伸びていく。これには驚いた。謝恩号の人気がこれほど高いのかと目を疑ったが、良く見るとそれは某旅行会社のバッジをつけた客の列。しかも皆謝恩号のキップを手にしているではないか。
寒いコンコースで待つとようやく稲荷町から回送の14760系が到着。改札が始まると列は瞬く間にホームへとなだれ込んでいき、電車のドアが開くや否や、席の争奪戦となってしまった。幸い列の前半に居たので#2を座らせるコトは出来たが、僕は結局宇奈月温泉まで立つはめに…(泣)。座りきれない程の団体客をせっかくの企画列車に乗せる旅行会社の神経はどうかと思う。
しかも電車は立ち席スペースの多い普通電車仕様の14760系。『うなづき』にはシートが別物の特急仕様車を使ってほしかったなあ。電車は発車するとスグに稲荷町までの複線区間で、ダブルデッカーエキスプレスの『うなづき10号』とすれ違った。最前部でカメラを手に待ち構えていると、後ろにいた女性が「鉄ちゃんだ」。余計なお世話!!
数日前から北陸は雪となっていたが、富山県内では雪の積もり方に随分差があるのが判る。富山市内は殆どなく、寺田から上市にかけてまた雪景色となり、滑川辺りからはまた雪がない。さすがに黒部川に沿って宇奈月温泉へと分け入っていく辺りからは急に雪が増え、雪国の様相に。電車もゆっくりと上り坂へと挑んでいく。やがて山肌が急峻になり、いくつかトンネルも。その先に宇奈月温泉が見えてきた。
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宿の「フィール宇奈月」は駅を出てスグ。トロッコ電車の宇奈月駅との間だ。宿はちょっと年季の入った建物だったが手入れはしっかりされている。部屋は駅が見える方の八畳間をチョイスしておいた。チェックインを済ませ、エレベーターホールに置いてあるサイズ別の浴衣をピックアップして部屋に入ると、なるほど地鉄とトロッコの駅が良く見える。もう後はプライベートな時間を満喫するだけ。
おフロの前に、併設の足湯カフェ「ボンフィーノ」でコーヒーとアイスを賞味。ここのアイスは沖縄のブルーシールなのだ。去年の9月に訪れた時に店の方と「10月にも沖縄で食べてきます」なんて話をしてて、沖縄で買ったブルーシールの缶バッジを見せたり。「そういえばお二人、覚えてます」と言われ、ちょっと嬉しい。
ちょっと温まったので駅周辺をちょっと散策。トロッコの駅はシャッターが閉じられ、トロッコ達もシートをかけられて春をじっと待っているようだった。春になればまた多くの人が訪れて賑わいも戻ることだろう。さあ宿に戻っておフロだ!!
宿のおフロには貴重品用のロッカーが備え付けられていて、脱衣所への入り口にも履物用のクリップが用意してある。またおフロのシャンプー・ソープ類はブランドものが数種揃えられていてビックリ!!隅々まで気配りされていて好感が持てる。しか午前零時に男女のおフロを入れ替えるので、不公平感もナシ!!温泉はもちろん源泉かけ流し。
晩ゴハンは宿ではなく駅前の「旬菜酒家 宇奈月屋」という居酒屋でというプランにしておいた。居酒屋と聞いていたものの、落ち着いた雰囲気のお店で料理は割烹レベル!!八寸にあったカニみそも良かったし、ブリ大根はトッロトロ、刺身もキットキト、天ぷらもサックサク、シメはおにぎりのお茶漬け。料理が出されるタイミングもバッチリでボリュームも十分。温泉に泊まって美味しい料理を頂けて、こんなホッコリした気持ち、久しぶり。
宿に戻りもう一度おフロ。芯まで温まって部屋に戻ると…しばらくして夢心地に。ああ、来て良かった〜。
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来たときからずーっと雪がチラついていたが、朝になっても同じだった。屏風のように迫る周りの山々はキレイな雪化粧、静かに流れる黒部川、そして時間。至福の時とはこのようなのを言うのだろうか。もちろん朝ブロへ。外はまだ氷点下で凛とした空気に包まれている。
朝ゴハンは宿のバイキング。ここは和食・洋食が揃い旅行サイトでも評判だという。業務用食材そのままではない手づくりの料理は嬉しいし、雪景色を眺めながら食べるのも美味しさが増すというものだ。フワフワの出し巻き卵や出汁の効いたお味噌汁…朝から満足。窓の外には、折り返し『うなづき2号』となるダブルデッカーエキスプレスが入線。ちょいと外出してしばし鉄など。
ダブルデッカーにとって、本格的な雪の季節は初めて。京阪時代にはなかったその組み合わせに、行列の中の人たちもさぞ驚いているだろう。最後尾からキャビンアテンダントの方が手を振っていたのが印象的だった。
帰りの電車は『うなづき8号』。アルプスエキスプレスこと16010系第2編成での運転だ。しかも宇奈月温泉謝恩号にも指定されている。午後の発車なのでそれまでは温泉街の散策だ。時間に左右されない個人の旅ならではの楽しみといえるだろう。降り続いた雪が止み、青空が覗くようになった。
温泉街のあちこちで見かけた南天の紅い実。そして冬の青空。
去年の9月に訪れた時は温泉街の上流側、トロッコ電車が黒部川を渡る雄大な景色が望める山彦橋へと歩いてみたが、今度は温泉街をゆっくり散策。宿でもらった地図を頼りに静かな山あいを楽しんだ。
温泉街には2箇所の足湯がある。まずは黒部川と宇奈月谷が合流する場所に近くの宇奈月公園に設けられた足湯「おもかげ」へ。ちょっと熱めなので思わず「アチチ」なんて言ってしまったり(笑)。
足湯を一つ楽しんで、向かい側のお寺の「お湯かけ薬師」を参拝。もちろんお湯は温泉だ。
街の中ほどにある「やまとや」は豆腐屋さん。でもとうふプリンなどオリジナルのスイーツが気になるところ。ぜひ食べたかったが訪れた時はまだ製造中で、これままたの機会に取っておくコトに。もう一つの足湯「いっぷく」は観光案内所と無料休憩所「いっぷく処」と同じ建物にある。建物自体はお土産屋さんだったところをリノベーションしたもののようで、泊まった宿の「フィール宇奈月」同様、集客に向けての努力が伺える。
こちらの足湯は建物の中。雨や雪でもオッケイ。観光客はもちろん地元の人も買い物がてら寄り道…といった雰囲気に、つい心も温まる。そして両親へのお土産は「福多屋菓子舗」の和菓子。1月中だけ限定の『花びら餅』と、栗を使ったお菓子。お店の方の柔らかな物腰がとてもうれしかった。
踏切が鳴った。レッドアローだ!!折り返し『うなづき8号』となるアルプスエキスプレスがやって来た。そろそろ駅で指定券を購入しなければ…。その前に、「カフェおみやげ いわさき」で黒部スイカのソフトクリームも賞味。
もしかして帰りも団体に占領される…なんて嫌な予感もしないでもなかったが、今度は余裕で乗るコトが出来た。アルプスエキスプレスは3両編成、その中で2号車はカフェテリア風に改装された座席指定車。ボックス席、カウンター席などいろんなタイプの席が用意され、カフェもある。ダブルデッカーエキスプレスとはまた違った魅力で人気も高く、しかも土日だけの運行なのでこのチャンスを待っていたのだ。
冬の宇奈月温泉。トロッコの時期とはまた違った静かな温泉街の雰囲気が、ボクの心に安らぎを感じさせてくれた。それにちょっとした街角の風景も。
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さあ、いよいよアルプスエキスプレスの旅だ。JR九州では赤や緑の単色ベースとなった水戸岡氏の手による電車たちだったが、こちら富山地鉄では西武レッドアロー時代の装いのまま。鉄としては嬉しい限りだ。#2とアサインされた半円形のテーブル席(2人席)に座り、富山までの車窓を愛でながら時間と空間を楽しむことに。ボクは京阪特急そのもののダブルデッカーエキスプレスの高級感と眺望、レッドアローから転身したアルプスエキスプレスのカジュアルさ、どちらも好き。いっぽう#2はアルプスエキスプレスが特に気に入ったようだ。
富山地鉄の「レッドアロー」は2編成。アルプスエキスプレスになっているのは第二編成で平日は指定席車となる2号車を外し、2両編成の第一編成と共に特急から普通まであらゆる運用に就く。ちなみに第一編成の車内は西武時代の趣きを色濃く残していて、結果的に2編成が全くタイプの異なる電車となったワケだ。
家族連れ、グループ客などを乗せ、アルプスエキスプレスは静かに山あいの温泉街を後にした。
電車はゆっくりと黒部川沿いに山道からやがて富山平野へと歩を進めていく。途中『うなづき5号』の運用に入ったダブルデッカーエキスプレスとすれ違い、魚津付近のJR北陸線との並行区間では681系北越急行車「スノーラビット」の『はくたか8号』と並走。
宇奈月温泉で止んだはずの雪はいつしか車窓を雨に変えた。カフェテリアでアテンダントさんにコーヒー(\200)をオーダー、届けられたコーヒーをすすれば、もう鉄ならずとも至福のひととき。立山連峰は雲の中に隠れてしまったが、それでも十分だ。限定販売のアテンダントさんのスカーフ柄巾着袋も購入出来た。
自由席車の1・3号車の端部は西武時代にトイレ・洗面所があった場所。アルプスエキスプレスでは窓に沿ったテーブル席になり、ここは子供用の展望席なんだとか。シートも小さめのようだ。惜しむらくは端部に貫通扉がないので、ちょっと走行音が耳につく点だろうか。その端部には地鉄オリジナルデザインの暖簾がかけられているのがユニークだが、出来れば改善を望みたい。
いつしか富山市内の喧騒が車窓を包み、アルプスエキスプレスの旅路に終わりを告げた。
ちょっとおナカが空いたので、駅前のCIC地下の「麺屋いろは」で富山ブラックラーメンを食べ、金沢へは413系の普通電車に。小杉で追い越すはずの『はくたか10号』が遅れ、結局石川県内に戻った津幡で先を譲るコトに。ボク達の乗った列車も遅れてしまったが、その次の七尾線からの普通電車は津幡駅の手前でさらに待たされていた。特急に遅れが出やすい冬場は、運転指令さんも大変だろう。
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雨の金沢駅に到着、路線バスで自宅へ。とても短い旅だったけど、命の洗濯まで出来た思いに満たされた。
取材日 | 2014年1月11日〜12日 |
カメラ | Nikon D7000 Nikon D3100 OLIMPUS XZ-1 |
レンズ | TOKINA AT-X124 PRO DXU TAMRON SP90mm F/2.8 Di MACRO TAMRON 18-270mm F/3.5-6.3 DiUVC PZD i.ZUIKO DIGITAL 6-24mm F1.8-2.5 |