旅日記Vol.55  Stones in Exile 2010.8.1 東京

例年、仕事柄「夏休み」というものに全く縁がない。泊りがけでどこかへ行楽といきたいものだが、少しでもそれを叶えられないかと溜まったANAのマイレージ、それに勤務シフトなどを照らし合わせているうち、唯一日曜と休みが重なった8月1日なら日帰りだが東京へ行って来れそうだ。

さて東京で何を…と考えるうち、ちょうどローリング・ストーンズの名作『Exile on the Main St.(メインストリートのならず者)』の録音シーンのドキュメンタリー映画『Stones in Exile』が公開されたところ。サイトをチェックすると残念ながら金沢での上映予定はなく、北陸では唯一富山での上映がある。しかし1週間レイトショー1本だけの上映では観るチャンスが限られてしまう。昼間の上映は東京渋谷の「アップリンクファクトリー」だけで、時間を有効に使うならこの渋谷で観るのがベストと考えた。それに上野の国立西洋美術館ではちょうど「カポディモンテ美術館展」が行われていて、ついでに美術観賞と定番のエアロな買物(笑)も出来れば、なかなか充実の夏休みになるかも。
旅を決めたのは直前だったが、ANAの「いっしょにマイル割」で安くあげようとサイトをチェックすると席も残っていてラッキー。さっそく予約を済ませた。

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それにしても連日の猛暑。今年はどこへ行っても猛暑だからこればかりは仕方ないだろう。当日の朝も晴れてやはり暑くなりそう。そう思いつつ小松空港へとクルマを走らせる。

この季節、夏休みも手伝って朝の東京便はディズニーランドへ向かうであろう家族連れが多いはず。NH752便のチェックイン(いっしょにマイル割はSkip未対応)を済ませ搭乗待合室に入ると、直前に出発するJAL便の乗客もいるはずだが全体に少なめ…。これには驚いた。確かにこの日は日曜。ビジネス客が見られないのを差し引いたとしても、ETC1,000円均一の影響は公共交通機関を蝕んでいるのは間違いない。
しばらくして搭乗案内があり機内へと向かう。ここでANAの地上スタッフに元スカイシップスタッフのK嬢が。再会と同時に見送られることになった。行ってきま〜す。

さて機内はというと、確かに件の家族連れも見られたが搭乗率はやはりさほどではない。B777-281を使うほどでもないその乗りについ「不景気」という言葉を重ねてしまう。窓側並びが大方埋まっただけで、通路に挟まれた席は殆ど空いていた。ちょっと驚き。
そのままドアクローズされ、しばらくしてプッシュバック開始。今日はR/W24からの離陸だ。エプロンのグラウンドスタッフに手を振ると、機はゆっくりとR/Wエンドへとタキシングしていく。スクリーンにはエマージェンシーのデモが始まった。いつもの光景だ。ショートホールドしていると東京からのJAL機が着陸、後を追うようにR/Wに乗ったかと思うと離陸滑走開始。映像には物凄い勢いでR/Wが飲み込まれていく。やがてセンターを少し過ぎた辺りでテイクオフ。

遠くに富士山を望むしばらく東京便に乗らないうちに飛行コースが変わってしまった。以前はコマツサウス1ディパーチャーで福井NDBへ向かい、南に変針してV52で名古屋を目指していたが、今は離陸後すぐに南に変針、そのまま浜松へ向かうので雄大な姿を見せていた白山は殆ど真下になった。この先は南アルプスがずっと近くに見える。

「ポーン」。クライムを終えベルト着用サインが消灯。短い水平飛行に入ったが、ドリンクサービスは有料化されてなんだか寂しいことこの上ない。かつて早朝便では簡単だったが軽食まで提供されていたのを思うと時代の流れを感じてしまう。やがて左手に小さく富士山が見え始めた。雪のない夏姿だ。機長のアナウンスが入り、順調な飛行は国際線並の高度をリクエストしたことが判った。

真下に海が見えてきたかと思うとそれは太平洋。海岸線が描く大きなカーブが駿河湾と知る。ところどころ沖縄のようなエメラルドグリーンの入江が点在するのは伊豆半島。大島をヒットした辺りでエンジンが絞られ、もう羽田空港に向けディセンド開始。遠くに三浦半島を望み、房総半島に差し掛かる頃には高度もだいぶ落としてベルト着用サインも点灯。夏場なのでジョウナンアライバルからのアプローチでR/W16Lへのダイナミックなターンを期待していたが、この日は北風だったのかキサラズサウスアライバルからR/W34Lに正対。東京湾に浮かぶ船がいっぱい。R/W脇のPAPIは赤二つ、白二つ…そしてタッチダウン。快適なフライトだった。

羽田空港に到着したB777-281
NH752便 羽田空港に到着

結局朝ゴハンはビッグバードで済ませることにした。飲食店の開店時刻はバラバラだったが、最近開店したという「エアポートグリル&バール」でモーニングセット。料理が供されるまで少々時間がかかったのが気になる。ボクたちはスンナリ入れたが、朝食の時間帯でもあり店の前にはウエイティングの列が出来ていく。しかし店内には空席も多く見られ、新規開業なのは仕方ないとしても、手際の悪さは頂けない。スタッフ教育とフロアマネージメントが課題だろう。
でもR/W34Rから全国へ向け飛び立つ飛行機たちが手に取るように見えるのはなかなかいい景色。ジャンボ機の姿がめっきり減ったなあ…。

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さあ行動開始。まずは上野に向かうことにして、久しぶりのモノレールでまずは浜松町へ。ちょうど区間快速が発車直前で間に合った。羽田のアクセスはこの老舗のモノレールと、京急が熾烈な争いを続けていて、モノレールは京急のエアポート快特に負けじと快速運転で所要時間短縮に努めているようだ。
第一ターミナル駅を発車、しばらくして地上に出ると妙なS字カーブがあり線路は大きなビルに飲み込まれた。今秋オープンする国際線ターミナル駅だった。まだ駅は開業していないので電車はゆっくり通過していくが駅そのものはもうすっかり出来上がっていた。それもそのはず翌日にはモノレール・京急両社の新駅オープンのプレス発表が行われ、全く使い込まれていない駅はピッカピカ!!
再び線路は地下に入り天空橋を通過、航空保安大学校の前で地上に出ると整備場前を通過。以前この駅の反対側には仕事でいつもお世話になっている荏●製作所の大きな工場があったが、今は空地になっていた。見慣れたモノレールからの風景も、朝の時間帯はどこか活気を感じるのは不思議だ。逆に帰りの便の前だと都市の疲れを感じてしまう。

浜松町でJRに乗り換え。最近モノレールとの連絡通路が増えて便利になったが、以前はモノレール駅ビルの狭い階段やエスカレーターなどでごった返していたものだ。京浜東北線快速で上野へ。電車を降りるとさすがに真夏の暑さが厳しい。

目指す国立西洋美術館は上野公園の中。美術館はフランスの建築家、ル・コルビジェが遺した芸術作品だ。前に行われていた耐震補強工事も終わり、今はほぼ元の姿を見せてくれている。築後50年、この建築を世界遺産にという声も多いようだ。

国立西洋美術館
国立西洋美術館(ピロティがほとんど写ってません(汗))

さてカポディモンテ美術館展。こちらはコルビジェの設計した本館ではなく、のちに増築された別館での展示だった。ヨーロッパの芸術作品を見ていると、つい時間の経つのを忘れてしまう。常設展が行われている本館にも寄りたかったが、そろそろ渋谷に向かわなければならないので残念ながらここを後にする。

山手線をほぼ半周の旅(笑)で渋谷へ。田町-品川間の田町電車区に国鉄特急色の電車の姿はなく、品川客車区、それに東京機関区にはブルートレインや特急牽引機の姿もない。時代の流れなのは仕方ないが、食い入るように居並ぶ車両たちを見ていた頃が懐かしい。あの頃、みんな輝いて見えたなあ…。

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アップリンクファクトリーは東急百貨店本館の横を入ったところ。場所は確認していたがこんなトコに映画館があるのかな…と、ちょっと不安になってしまう(笑)。上映まで少し時間があったので途中冷たいものを補給してしばし休憩。ああ人心地がする。なにしろ暑い。
それは映画館というより、小さなビルの一室に映写設備を持ち込んだものという言葉がふさわしい位、こじんまりとしたシアターだった。たまたま今日1日は「映画の日」。ファンクラブの会報に同封されていた割引券を持っては来ていたが、使うことなく二人とも1,000円に割引に。『Stones in Exile』。日本語で「ストーンズ・イン・エグザイル」と書いてしまうと、ストーンズを知らない人だと、どうもEXLEと勘違いされそうなのは困りもの。客席もこじんまりしていたが、金沢のシネコンよりずっと多くの人が入った。

映画はかつて録音を行ったスタジオにミック・ジャガーとチャーリー・ワッツが現れて当時を懐かしむシーンから始まった。その後のレイヤー構成が絶妙!!。本来ならダラダラとリフやセッションが繰り返されているはずなのに、「悪魔を憐れむ歌」のような長閑な印象は全くない。録音時の映像に最近録られたインタビューなどを交え、むしろスピーディーに仕上がっていた。あの環境で、あの状況で、あの名作が出来上がったという、まさに真実の映画だった。

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残る目的はお買物(笑)。山手線で新宿へ移動して南口のオッシュマンズ。最近エアロのウェアはヨガなどカルチャー系やランニング系に押され、またダンス系などファッション中心と化しているのも惜しまれる。特に男子の冷遇さは…。ただしこの店はいくつか別注品があるのが魅力。ここでは#2がen4thの別注ショートパンツなど購入。
ちょっと早めの晩ゴハンをサザンテラスの「エルトリート」で。今年早くに金沢フォーラスから撤退したエルトリート、メキシコ料理が金沢では受け入れられなかったのだろうか、それとも結果的に地元以外の出店を利用者自身が拒んだのだろうか。とにかく大好きなファヒータが目の前に。メニューも少し増えていて品定めにも目移りまた目移り(笑)。まあファヒータ食べたのには間違いないとしても…。

都営新宿線で神保町へ。たまたま急行が来て、しかも冷房の効いた車内で座れたのはありがたい。新宿線の電車はすっかり10-300系が主力になっていて、新しいのは気持ちがいいが最近流行りの共通設計なので、車内などJR東日本E231系などと殆ど同じ(実は製造メーカーが同じ)なのはちょっと味気ないかも。個性がないというか。
神保町では「書泉グランデ」でちょっと鉄な本を。買いたい本はいくつか決めていたが、結局手にしていたのは阪急電鉄と南海電鉄の特集本。東京に来たのに関西私鉄の本とは場違いだったが、まあいいか!!

まだ少し時間がある。今度は上野のジュエン…乗り換えがイマイチ面倒なので、新宿線を小川町で降り、新お茶の水で千代田線に乗り換え。やって来たのは6000系。オリジナルは昭和43年の生まれだが、まだ色褪せないそのデザインに当時の先進性が伺えるというもの。子供の頃、チラリと鉄雑誌で見たときの驚きと羨望を思い出す。「こんなカッコいい電車が走っているんだ!!」常磐線から乗り入れた国鉄(当時)103系1000番台がやけに野暮ったく思えたものだ。湯島で電車を降り、湯島天神を背に上野まで少し歩く。

ジュエンでもこれといったウェアはなく、ソックスとシューズを購入。以前からここのメンバーズカードを持っているので全品20%オフ。しかも買ったLykaのシューズは半額だったので、かなり安い買物が出来たのはラッキーだったかも。…そろそろ時間だ。短い東京滞在だったが、羽田空港へとまずは御徒町から山手線を品川へ。京急に乗り換え。
最近京急を愛用しているのは、先に書いたとおり夕方のモノレールだと車内はお土産など手にした地方へと帰る客の、いかにも都市で疲れましたと言わんばかりの空気がどうも馴染めない。帰ってからの空気とのギャップ。それが京急だとあまりギャップを気にすることなく帰ることが出来る気がする。
7月に行われたダイヤ改正でエアポート快特が増えたのに加え、京急蒲田が通過になり空港までノンストップになった。ちょうど来たのがそのエアポート快特で、速さが断然気持ちいい。目下高架化が行われている京急蒲田は上り線が既に高架化を終え、今走っている下り線も早晩高架化されることだろう。伝統の「蒲田の踏切」…箱根駅伝で選手が足を取られ捻挫することもあったが、それも過去帳入りする日も近い。

穴守稲荷を通過して地下に潜ると天空橋を通過、ここから第一ターミナルまで電車のスピードが上がるはずが、しばらくして徐行。国際線ターミナル駅を止まりそうなスピードで通過した。モノレール同様こちらも既に完成。ちなみに京急もモノレールも空港内アクセスとしても機能させるため、第二ターミナル-国際線ターミナル間はタダになるそうだ。

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この日のNH759便小松行きは107番搭乗口。沖止めか…。セキュリティを潜ると1階バス案内ラウンジでしばし待たされる。来た時の便よりは乗客が多く、少し安堵。リムジンパスと同じ配色のバスに乗り込み機へと案内される途中、一番後ろの席で混んでいる車内をよそに子供が二人分の席を独り占めしていたのは気になった。しかも親が注意すらしない。公共の場でのマナーを教えられない若い親。近くで立っていた年配の乗客が気の毒だった。
機はかなり遠いところに駐められていた。席に着き出発を待つものの定刻を過ぎてもタラップ車が離れない。最終の搭乗に手間取っているのだろうか。航空各社は普段なにかと「定時運航にご協力ください」とアピールしているのに、理由もなく遅延というのは納得いかないなあ。せめてアナウンスなど入れて状況を説明するべきだとは思う。
結局定刻を10分以上過ぎてドアクローズ。この時間の羽田離陸は待たされることが多いので、ブロックタイムもその分余計に見込んである位だ。出来るだけ早く管制にクリアランスを求めなきゃいけないのに。

暑さの中、いつもどおり見送ってくれるグラウンドスタッフに手を振って、機はR/W16Rエンドへ向かっていく。幸い離陸待ちは僅かで、すっかり暗くなった羽田空港を後にする。B777-281は力強く大地を蹴った。

さてここから先の飛行コースも大幅に変わったようだ。これまで小松行きは離陸後一旦南に向かってから西へ変針するハネダリバーサル9ディパーチャーや、米軍横田基地の空域一部返還後はザマ1ディパーチャーが定番、いつも機の右手には東京の夜景を楽しめたものだ。そんな常識を覆して(大げさ)機は北上、江戸川の河口を真下にKAIJIで西へ変針してKANEKへ向かうカネク1ディパーチャーに変わった。ちょうど江戸川河口では花火大会が行われていたのだろう、大輪が丸く小さく見えた。
KAIJIからは飯能上空へと文字通りハンノウトランジション。この辺りまで来ると都会の喧騒は機窓から失われ、徐々に漆黒に包まれる。飯能を過ぎ松本へと飛ぶ。

最近、自宅にいると小松空港到着機が近くの空を降下していく。胴体や尾翼のロゴがはっきり見えるほど近い。小松空港は到着経路が決められていない珍しい空港で、東京からの到着機は小松上空から先の決められた空域を、管制が指定した高度で一旦通過後滑走路へと向かっていたため、ファイナルアプローチ前は小松上空通過後必ず右左どちらかにターンしていたが、今はR/W24の場合ほぼダイレクトに降下していくことが多いようだ。
そのためディセンド開始地点も羽田寄りになったようだ。水平飛行の時間がまた短くなり、今までと違う機窓を見せながら緩く左ターンして、もう小松へと針路を決めているようだ。この辺で降りることが可能ならそのまま家に…なんて。ホントにそんなルートなんだろう。やがてスクリーンには小松空港R/W24の灯火が小さく真ん中に見えはじめた。これは今まで見たことがない。自衛隊と共用の小松空港は進入角度が0.5度浅い2.5度。やたら遠くに感じる。

徐々に灯火が近づき、タッチダウン。なるほどこれが羽田-小松間の新しい飛行ルートか…と感心しているうち、機は静かにスポットイン。マーシャラーさんの手がチョーク挿入を合図、エンジンが止められ短いフライトが終わった。乗客はみな押し黙るように到着口へと向かう。そんな中、朝見送ってくれたK嬢が笑顔で迎えてくれたのが嬉しかった。

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猛暑の中、1日だけの東京往復だったが、充実していた。「Stones in Exile」は予想を大きく超えた傑作映画で強く印象に残ったのは言うまでもない。行った甲斐があった…。また小松-東京間の新しい飛行ルートが判り、今後の旅の楽しみがまた一つ増えた感があった。
しかし、如何に世の中が不景気とはいえ、このハイシーズンの航空便利用客の少なさは…。高速道路の休日1,000円制度は延長されたばかりか非ETC車にも拡大した結果、長距離でもクルマでの移動がかなり一般的になったのだろう。これは一見消費拡大に繋がったかもしれないが、公共交通機関は乗客を奪われてしまう結果を生んでしまった。未来永劫続けるべきではない。今や低迷する景気を掘り起こし、民衆の目を再び旅の魅力へと向けさせる手法とは言い難い。
加えて高速道路走行中のマナー低下も著しい。本線進入時や車線変更のノーウインカー、トンネルでの無灯火…一つ間違えば大事故、家族の命をも奪ってしまう。それに渋滞の多発、大気汚染、二酸化炭素排出量の増加。
クルマは確かに便利な乗り物である。反面ドアからドアへの移動は閉鎖空間の形成ではないだろうか。羽田空港のランプパスでの親子連れの行為。過剰なETC割引は「躾」の場をも奪い去ったのかもしれない。

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