ポプラ並木の憂鬱
Melancholy of The Poplar Avenue
1979年、39分、8mm、カラー
初公開:シネマトラベル−3(札幌・4丁目プラザ7Fホール)
出演:平田篤 吉田宗弘 川渕恵子 成田実 田上和生
原作:坂口安吾『蝉』 脚本:吉田宗弘
[解説]
中学・高校を通じて8ミリカメラはまわし続けていたが、おもちゃ以上のものとしては考えていなかった。しかしPFFの前身である自主製作映画展に入選した『アスファルトに眠る』(桂田真奈・1977)を観て、「このぐらいで金を取って観せていいんだ。したら俺たちだって」とナメてかかった末にできた作品。当時所属していた文芸同人誌「大瓢」のメンバーで内輪的に作った。坂口安吾の原作を現代に翻案し、蝉の声に悩まされる青年が、友人たちを訪ね歩き、哲学的な問答を繰り返す。全共闘後世代のしらけ切った倦怠感を描こうとした。後にラストシーンを『100年後』に吸収のため、現在は上映不可能。
M君の幸福な日々
Happy days of Mr M
1979年、20分、8mm、カラー
初公開:シネマジャム(札幌・北海道文化芸術センター)
出演:丸山亨 宇都宮美 川渕恵子
[解説]
主人公M君の周囲に出没する正体不明の人物たち。覚めても覚めても夢の中から逃げ出すことができない。疾走する無人の地下鉄の中で、M君はふたたび眠りに就く。フィルモグラフィー上は第2作目にあたる作品。1作目のドラマ作品『ポプラ並木の憂鬱』が学芸会以下のシロモノとなってしまった反省から、とりあえず自分の守備範囲の中でどれだけのことができるかと作ってみた。中村雅信さんの『北京の秋』を始めとして、さまざまな映画からの稚拙な引用を臆面もなく行っていて、今となっては赤面するばかりだが、『非解釈』『海辺の記憶』『ゴーストタウンの朝』を生み出していく前段階として観れば、面白いかもしれない。富士8ミリコンテスト1980学生奨励賞を受賞。
フィルムは溶けても、スクリーンは溶けない
Film can melt but Screen cannnot
1980年、3分、8mm、カラー
初公開:大瓢新歓上映会(札幌・北海道大学教養部)
[解説]
まぎれもなく実験映画。画面には字しか出ない。フィルムやカメラの限界性について問いかける文章が続き、最後にフィルムの送りを止め、映写機の熱でフィルムを溶かす。当時は『NO PERFORASIONS』(奥山順市・1971)という、同様のコンセプトの作品の存在を知らずに、こんなことを考えるのは俺だけだろうと、得意になってやっていた。上映のたびにラストを溶かして短くなり、現在上映不能。
非解釈
Anti-Interpretation
1980年、25分、8mm、カラー
初公開:すべてバカタレMovie Show(札幌・メゾン・パンタグリュエリオン)
[解説]
初めて東京で上映された作品。撮りためられた日記的映像に、自らさまざまなパフォーマンスをした映像をミックスした。暴力性、政治性が前面に出てきた。上映しながら、作者である自分もヒリヒリしてくるような作品を、と思って作ったように記憶する。今までの個展上映では、この作品が常に一番古い作品として上映されてきた。あらゆる意味で、原点のような作品。
短く優雅な入院生活
Short and Elegant days in Hospital
1980年、7分、8mm、カラー
初公開:富士8ミリコンテスト入賞発表映写会(札幌・教育文化センター)
[解説]
肺のパンク(自然気胸という病気)で入院した時、病院のベッドの上から撮った光景。窓の外の吹雪。動かなくなった腕時計。それだけ妙に生々しいリンゴ。自分の体に接続されているチューブ。その中の体液。富士8ミリコンテストで学生奨励賞というのをいただいたが、当時のフィルムには文学臭いナレーションが被せてあって、その後、音だけの現在の形にあらためた。
ターミナルビーチX
Terminal Beach X
1981年、40分、8mm、カラー
初公開:33日間札幌一蹴「ニューウェーブ戦線から」(札幌・駅裏8号倉庫)
出演:川口善之
[解説]
夢と破壊衝動のはざまで、自らの眼球を切り裂く主人公K。〈まなざし〉を失った男は、通り魔となって市民たちに刃を向ける。初公開時には75分あり、記憶編と破壊編とに分かれていた。ほとんどの撮影は主役の川口君とふたりだけで、札幌のあちこちをさまよいながら即興的に撮っていった。『非解釈』と同様に、セリフなしを原則として、シナリオもなく、撮影当日の目覚める前の夢のイメージだけをたよりに撮影を進めた。タイトルはJ・G・バラードのSF短編『終着の浜辺』の原題からいただいた。テーマ曲のように頻繁にかかる音楽はギャング・オブ・フォーの『ソリッドゴールド』というアルバムのA面1曲目。
TBXノイズ編
TBX (Noise Version)
1982年、7分、8mm、カラー
初公開:さっぽろ映画際北海道作家公募部門(札幌・東映ホール)
出演:川口善之
[解説]
『ターミナルビーチX』の予告編を作っているうちに、気持ちが乗ってしまってできあがった。結果的にはこちらのほうが評判がよくて、時間が短いことも手伝って数多く上映された。1秒から2秒単位でカットを切り刻み、テレビ画面撮りした戦争の映像や皇室の映像を挿入したもの。その暴力的なイメージとリズムが評価されたわけだが、音楽に頼る部分が多かったと思う。音楽は1981年8月、日比谷野音で行われた『天国注射の昼』で勝手に録音したもの。使用許可を取りたいが、いまだにバンド名がわからない。初公開の時、思い切りボリュームを上げて映写したら、観客の中で大喜びして椅子に火をつけようとしたキ×ガイがいたそうだ。映画ってのはそれだけ人を煽動する力を持っているんだと驚いた。
ダイナマイト・ロード
Dynamite Road
1982年、40分、8mm、カラー
初公開:ダイナマイト・ロードショウ(札幌・4丁目プラザ7Fホール)
出演:平田篤 荒井均 川口善之 川渕恵子 杉浦茂
[解説]
6年ぶりに街に帰ってきたリュウは、爆弾を持っていた。絞殺されたリュウから爆弾を引き継ぎ、地下街で爆死するケイ。リュウを待ち続けるキリコ。朝鮮籍のチンピラ、デュクは皇居へ向かう。主役の平田篤は、第1作の『ポプラ並木の憂鬱』で主役を演じた人。やはりどこかでドラマへの色気がくすぶっていて、ふたたび平田氏を主役に、劇映画を試みた。が、雑なカット割りと性急な展開に非難轟々という結果となる。しかし『極星』の中で「5年前に札幌で撮った映画」として引用したので、いくぶんかは救われた。なお、主人公リュウを雪の中で絞殺する殺し屋を演じた杉浦君は、後にオウム真理教の文部大臣となった。出世頭である。
海辺の記憶
Memory of Seaside
1982年、5分、8mm、カラー
初公開:ダイナマイト・ロードショウ(札幌・4丁目プラザ7Fホール)
出演:山崎幹夫(手)吉田宗弘(撲殺される男)平田篤(撲殺する男)
音楽:勝井祐二
[解説]
たぶん最も多い回数、上映された作品だと思う。PFF83に入選。のちに日比野幸子さんのプロデュースでベルリン映画祭でも上映された。87年のユーロスペースでの個展まではツネマツマサトシさんの音楽を無断使用していた。その後、許可はいただいたが、新たに『極星』『猫夜』『VM』シリーズなどの音楽担当、勝井祐二にオリジナルを作ってもらった。
手を本当にカッターで切るというインパクトが話題になったわけだが、これは当時、札幌で『三月のライオン』の原型となるシナリオを書いていた矢崎仁司監督に『非解釈』を観せた際、「ためらってないで、もっと(手を)ビシバシ切れ」と言われて、なにくそと作った、というのが裏話。
呼吸
Breathing
1982年、3分、8mm、カラー
初公開:ダイナマイト・ロードショウ(札幌・4丁目プラザ7Fホール)
[解説]
フジカP300にオートフェーダーを付け、部屋の中の光と影を一定のリズムでフェイドイン、フェイドアウトを繰り返して撮った小品。当時、毎週一本、3分のフィルム作品をつくっていて、そのうち公開したのはこれだけ。あとは別の作品に吸収されたり、そのまま人目に触れずに眠り続けている。