バックビートに乗っかって
夜の渋谷を、池袋まで歩いた。 山手通りを進み、新宿からは線路沿いに進んだ。 日曜の深夜、一週間が始まる前の一瞬の静寂が、冷たい空気と時を止めたように固 まって漂っている。 一週間で最も人のいない時間だった。車のない路の真ん中を歩きながら、明りのない高層ビルを眺めた。この時間特有の、不安や疲れをどこかに押し殺したような空気があちこちに漂い、行き場もなく浮かんでいた。 いつもならもう眠らなくてはいけない時間だった。覆ってくる夜の静けさと追い立てられるような焦燥が、僕に遥か遠い場所へと意識を向かわせる。 「いつもどこか遠いところを見ている」 いつかそう言われたことがあった。まだ十代だった頃、ちょうどこんな時間帯、好きな人と二人でほとんど車の通らなくなった道を歩いていた時だ。 そんなことはなかったけれど、それからもたびたび同じようなことを言われたから、僕は人からそう思われているのかもしれない。 「こんな時にもそんなことしか言えないの・・」 そう言われたこともあった。もっと大切なことを言わなければいけない時、くだらない話を延々としていた時だ。これもあの頃からあまり変わっていない気がする。 夜が明ける月曜日は、この間働いたぶんの代休だった。もうすぐ朝が来る。あともう少しで、街が動き始める。 さっき渋谷の店で交わした言葉を思い出した。いつもより、相手にきちんと伝えるべき最後の時だったのかもしれない。そう思いながら、人のいない日曜日の夜はどこか切なく、もの悲しく、また遠くどこか懐かしい場所へ帰れるような気もした。 だけどまた、一番大事なことは言えないまま、意識は夜の都市をただ静かにたゆたっていた。 |
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