あわれび同袍



 街路樹の落ち葉が一面に敷かれた黄金色の風情はひとつの季節の終わりを告げて、幾分寒さを交えた清々しい空気によく似合う。

 小春日和の暖かな午後、先日の木枯らしが落とした葉が一歩踏み出すごとに乾いた音を立てて耳を楽しませてくれるから、まるで小さな子供がふざけるように、僕はこんもりと膨らんだ落ち葉をわざと狙って踏み歩いた。

──ああ、このかさかさ感が溜まらない。凝り固まった気持ちが洗われるような気分になる。

 友人のアパートメントへ続く街路樹は季節ごとに風情を変えて行き交う人々の目を楽しませてくれるが、この時期のちょっとくすんだ黄金色の道を僕は特に気に入っている。

──この壊す感覚が何とも言えないなあ。癖になりそうだ。

 右手に揺れる紙袋には、友人が贔屓にしているケーキ専門店で買ったパウンドケーキが入っている。
このデザートは友人のためにというよりも、むしろ彼の同居人たちにと選んだもので、自分たちを大歓迎で迎えてくれるだろう弾ける笑顔を脳裏に描けば、一瞬にしてふっと温かい気持ちに包まれる。

 とはいえ、彼の同居人たちのためにって気持ちが大きかったのは本当だとしても、友人のことをぞんざいに扱っているつもりは毛頭ない。
こういう焼き菓子を友人も好んで食べるのを知っているからこそ、この手のものはいくつあってもおそらく邪魔にはならないだろうと読んでの手土産である。

 友人は甘さを抑えたスイーツが特に口に合うらしく、目の前にあれば口寂しさを誤魔化すように何気に手を伸ばしている。
そのくせ、「甘いものが好きなのかい?」と尋ねれば、「それほどじゃないさ」と素っ気ない。
どれだけ天邪鬼なんだ。
実は自分が甘いもの好きなのだと本気で気づいてないのだろうか。

──けど、あの様子だとアリだよなあ。

 甘いもの好きは長い付き合いの中で知った友人の数ある嗜好のひとつだ。
だから僕は友人宅に遊びに行く時は何かしら持っていくようにしているのだが……。

「さて、コレを気に入ってくれるやら」

 右手にぶら下がる紙袋の存在を思うと、どうにも口元が緩んでしまう。
手土産にと求めた、多種多様なドライフルーツと上質のブランデーをたっぷりと含んだパウンドケーキは、見た目以上にずっしりと重い。
甘さの中に大人の香りが漂うこのケーキは昔から思い入れのあるケーキ専門店の自慢の一品で、早々と売れ切れてしまう人気の商品だ。
比較的早い時間に店を訪れてもコレを拝める機会など稀の稀。
今日ガラスケースの中に見つけた時は思わず我が目を疑ったくらいだ。

 手土産を持って行くならあの店のケーキにしようと前々から決めていたけれど、まさかこれが手に入るとは、本当についている。
きっと友人も目を見張るに違いない。

 僕の足が幾分、早足となった。

 落ち着いて話をしたい時はどちらかの家に行くのが僕らのいつものパターンだ。
友人はありえないくらい見目麗しく、とても目立つ外見をしているので、彼との付き合いは面倒なくらい余計な気苦労がつきまとう。
外で会えば周囲の視線が痛いくらいに突き刺さってくるのは序の口で、無遠慮に近づいてくる輩がいるわ、堂々と後をつけてくる不審者がいるわ、おちおちそこらへんで立ち話もできやしない。

 ひさすら人目にさらされている当の元凶の本人は突き刺さる視線を流し慣れているのかもしれないが、まわりの人間はそうはいかない。
そんな高等技術をそこらの一般人は普通持ち合わせていないものなのだ。

 なのに、友人はいつも毅然としていて、「俺を見習えばいい」などと簡単に言ってくださる。
それを実際行動に移すには両腕を回した太さの鋼ほどの丈夫で図太い神経がいるんだってわかってて口にしているのだろうか。
まったくもって、はなはだ疑問だ。
本人はそれでいいかもしれないが、もう少し周囲の迷惑も考えてほしい。

 幼い頃から飛び級を重ね、稀なる秀才と言われ続けきたお蔭で僕もそこそこ不躾な視線に慣れていたつもりだったけれど、友人の目立ち度はとてもじゃないがそんなレベルではないのである。
そもそも比較すること自体が間違いで、言うなれば、そこらの惑星の一大陸と銀河系の広さを比べるようなものなのだ。

 休みの日はもっぱら家にいたがる友人のせいで、ここしばらくは僕が足を運ぶほうが断然多いが、執拗に纏わりつく好奇心の視線にギブアップして、「うちに来ないか?」と誘ったのは、実は僕のほうが先だった。

 互いの家を行き来するようになってかれこれ九年になるが、知り合いはたくさんいても親しい仲となるとぐんと数が少なくなる僕は元来、人付き合いがマメなほうではなく、こんなふうに誰かの家を訪ねて行くことはあまりない。

 だから、このちょっとくすんだ黄金色の道は、僕にとって昔から特別な道だ。
ずっと親しみを感じている。





「こんにちは。あれっ、朱里くんは?」
「ああ。今さっき、ジャックと出かけたばかりだ」

 玄関先で出迎えてくれるいつもの笑顔が見あたらなくて、思った以上に拍子抜けする。
友人のあとに続いてリビングに通されながら、ひょいと持ち上げた紙袋がちょっと空しかった。

「へえ、そっか。それは残念。ケーキを買って来たんだけどな」
「そのうち帰ってくるだろう。お、こいつは『チナム』のブランデーケーキじゃないか。豪勢だな。
それじゃあ早速いただくとするか」

 いそいそとケーキの箱を手にする友人の姿を見て、僕はしてやったりとほくそ笑む。
友人のこんなうきうきした様子を見られただけでも早起きした甲斐があるというものだ。

「なあ、おまえ何がいい? お勧めはスパイスティーだけど」
「え? アースが淹れてくれるの?」

「何を驚く。俺だってそれなりにできるぞ」

 日頃はスプーンを持つのも面倒臭がって、まさに家庭的なイメージからかけ離れたところのいるような友人だが、「それなりにできる」という彼の言葉は誇張でもはったりでも何でもない。
根っからの面倒臭がりなので誰かがやってくれるとなると自分からは動かないが、その気になればそんじょそこらのお嬢さん方よりも遥かに家事に長けているのは本当のことだ。
 
 それもそのはず、何しろ彼は十二歳の頃から八歳の子供を育ててきた列記とした『親』なのである。
身の回りどころか、家事一般すべてこなせても何ら不思議はない。

 世間一般的に考えれば、十二歳の少年が子育てをするなど論外だ。
まず福祉管理局の職員をはじめとする多くの大人たちや世間が認めるわけがない。
だが、彼の場合はその非常識がまかり通った。

 僕の友人、アスファラール・ティア・エステルは使徒星からやってきたセリーア人である。
よって、彼は銀河連邦が定めるいかなる枠組みにも縛られることはない。

 セリーア人は僕たち地球人種と成長過程や寿命などが異なる絶滅危惧種で、強い念動力をはじめとする特殊能力を持っている種族であり、地球人種が正面からぶつかって敵う相手ではないのだが、彼の非常識がまかり通る最たる理由は、そんなセリーア人の身体体質的特徴が重要視された結果ではなく、彼の出身である使徒星が銀河連邦加入国ではないことに尽きる。
それは使徒星が銀河連邦と対等の位置付けにあることを意味すると同時に、セリーア人を含む使徒星に属するすべての生物において、銀河連邦政府は銀河連邦法を強要する権利がないことを示し、アスファラールが治外法権を保持している以上、彼が銀河連邦法に縛れることはない。

 でもだからと言って、アスファラールが治外法権を振りかざすような生活をしているかと言えば、そんなことはない。
銀河連邦法に束縛される義務はないとはいってもアスファラールは積極的にこちら側の法を破るようなことはしていないし、かといって法を守ることにストレスに感じているわけでもなさそうだ。
彼が信じるところにおいてこちら側で定められた規則が抑制となった場合はその限りではないかもしれないが、今のところ警察沙汰になったことはないし、僕の胸のうちにとどめておくべき少々のことが何度かあった程度で、それらとて大きな問題として取り上げるほどではない。

──まあ、いざとなれば彼の気性からして、法など糞くらえと言わんばかりに無茶を突き通すくらいやりかねないけど。

 アスファラールは自分の信じる道を決して歪めないという矜持を持っている。
一部の者の目には頭が固くて頑固で自分本位な人間に映ってしまうかもしれないけれど、そんな彼の譲らない頑固さを僕は結構気に入っている。
自分の信念を貫きとおす強い意思を持っている彼だからこそ、ひとりの少年の養育権および親権の保有をもぎ取れたのだろうから。





「早いなあ。もう四年になるんだねえ」

 アスファラールが淹れてくれたスパイスティーは、一目見た限りでは普通の紅茶と何ら変わりがなかった。
綺麗な澄んだお茶の色合いが茶器の内側に描かれた絵柄を赤く染めて、まるで夕陽に染まった海みたいだ。
もっと癖がきついかと思えば、飲むとき生姜の香りが鼻をくすぐって初めてスパイスティーなんだなとわかる程度で、意外にこれはこれでおいしかった。

 アスファラールに知られるわけにはいかないが、実はどんなお茶が出てくるかと内心ひやひやしていたのである。
何しろ、彼が淹れてくれる機会なんてのは滅多にない。
理解と信用は別物なのだ。

 一口飲んで一息つける穏やかな味に、僕はほっと胸を撫で下ろした。

 そう、僕はここにきて安堵していた。
この安堵はこの憩いのひとときにか。これまでの四年間を振り返ってか。
いや、きっとすべてに対してなのだろう。

「あっという間だったな」
「でもこれでお役御免だ」

 そう、やっとこれで肩の荷を下せる。

「ああ。待たせたな、エスター」

 四年前、アスファラールが珍しく僕の顔色を窺うように「パートナーになってくれないか」と言ってきた時、あらかじめ期限付きのパートナーなのだという説明も同時にあった。
そうでなければその場で丁重に断っていたかもしれない。今でもそう思う。

 あの日、アスファラールは気乗りのしない僕にいくつかの情報を差し出してきて、つらつら僕の将来への展望までご丁寧に語って下さった。
それはもう至れり尽くせりなくらいなほどの優遇さでもって僕をとことん喜ばせてくれ、信じられないくらいの大盤振る舞いで、これは絶対何か裏があるんじゃないかって疑ったくらい、それは僕にとって美味しすぎる話だった。

 インドアの僕でさえ、世間とは世知辛い世の中だということくらい知っていたから、「そうそうこんなにうまい話などあるはずがない。どこかに穴があるはずだ」と用心しながら聞いていたつもりだったのに、耳を傾けるほどにどんどん僕の気持ちは惹き寄せられて、気が付けば外堀はすべて埋められていて、断る術などなくなっていた。
情けないことに、ミイラ取りがミイラになってしまったというわけだ。
計算通りにミイラを一体作ることができて、きっとアスファラールはここぞとばかりほくそ笑んでいたに違いない。

 彼の言葉はまさに悪魔のささやきと呼ぶにふさわしかった。
外見は天使のクセに、詐欺である。

 そんなわけでいいようにはめられた感じがしないわけではないが、それでも強引に押し付けられてパートナーになることを了承したわけではない。

 アスファラールが教えてくれた情報は僕の興味と関心をうまくくすぐるもので、 彼からの提案に全く惹かれなかったと言ったら嘘になる。

 これだけははっきりと言える。
アスファラールと組んで、やりがいのある仕事に就くことにも正直憧れたから僕は自分で決めて、彼の提案を受け入れたのだ。

 四年間だけのペア──。

 今、その期限がやっと訪れた。

 この四年間楽しくもあったが、それと同じくらい苦汁もなめた。
アスファラールはいい友人であるが、彼の才脳や能力についていくには荷が重すぎると充分知らされた四年間でもあった。
思い出がありすぎて困るほどいろんなことがあった。
それでも今振り返れば一気に駆けぬけた四年間だったと言える。
今ここで生涯忘れることがないだろうと言いきれるほどに。

 とても充実したアスファラールとの日々──。
それも今日でひとつの区切りを迎える。

「じゃ、まずはこれを返すよ」
「ああ」

 僕らは互いにELGの象徴ともいうべき赤いピアスを交換し、それぞれ本来の持ち主の手に乗せた。

 パートナー同士で自分の血を固めて作られたピアスを交換するのはELGならではの独特な慣習であり、互いの繋がりの深さを示す意思表示でもある。
この慣習は今でもほとんどのELGが行っていると聞いている。

 僕とアスファラールも例にもれず、ペアを組んだ時、紅玉のピアスを交換し合った。

「あとはこの用紙にサインすれば手続きは完了だ」

 あらかじめ用意してきた連帯協力者解約申請書には、すでにエスター・ストマーのサインが記入されている。

 アスファラールはちらっと一度僕を見据えたが、ペンを握ってからは一気にすらすらと自分の名前を綴っていった。
その間、僕はそんな彼の手の淀みない動きをじっと見守っていた。

「悪かったな。長い間付きあわせて」
「いや。いい経験をさせてもらったよ。それに朱里くんは僕にとっても特別だから」

「ま、おまえのトクベツは俺のトクベツとは違うからいいけどな。
で? トクベツの本命のほうはどうするんだ?」
「ふうん。アースでも気になるんだ?」

「まあな。彼女は元気か?」

 元来、人間にあまり興味を持たないアスファラールが他人のプライベートに関心を抱くのはとても珍しい。

「お蔭様でね。この冬は風邪ひとつひいてないはずだよ。
実はね、リズ、来期からコスモアカデミーに入学することが決まったんだ。
医学研究者を目指したいんだそうだよ」
「そりゃまたあまりにもらしい選択だな。で、あっちのほうは大丈夫なのか?」

「JS式治療さまさまだ。
まだ年に一度は定期検診を受けているけど、今では感染力もほとんどないらしい。正直ほっとしてる」
「それはよかった」

 僕には、父、母、妹という三人の家族がいる。
僕と妹は血が繋がっていない義理の兄妹で、僕は母の、妹は父の連れ子で、親の再婚で兄妹となった。

「彼女には弟の分まで元気でいてほしいからね」

 十年以上も前、僕にはもうひとり家族がいた。妹と二卵性双生児の弟がそれだ。
だが彼は、僕らが兄弟となってまもなく亡くなってしまった。

「確か母子感染だったよな?」
「ああ」

 僕の実の両親は性格の不一致による離婚で別れたが、妹たちの両親は死別だった。
妹の生母は、某病原菌遺伝子キャリアだったそうで、病気の発病が原因で亡くなったのだと聞いている。
弟も母親と同じ病気で亡くなった。

 そして、妹もまた遺伝子キャリアである。
原因は出産時の出血による母子感染。避けられないことはなかったはずだった。
なのに感染は起きてしまった。医療ミスもいいところだ。

「妹と弟が入院していた病院で調べたんだけど、念のため、こっちでも妹に検査を受けさせたんだ。
コスモアカデミー関連の医療施設のほうが信用できるし、僕としても安心したかったからね。
母が言うには前の病院もそんなに悪いところじゃなかったらしいけど、どうしても念を押したくてさ」

 双子の子供たちの見舞いに通っていた父と、当時、妹と弟の入院先で看護師として働いていた母。
ふたりが出会うのは必然だったのか。
意気投合したふたりが結婚を決めるまでの期間はとても短かった。

「新しいお母さんができて、家族で一番喜んだのはおそらく弟だったんじゃないかな。
弟は治療が間に合わなくて、齢五歳にして早世してしまったけれど、両親は弟のためにも結婚を早めたんじゃないかって思ってる。それほどスピード結婚だったから」

 だが、いくら愛する人との結婚とはいえ、病気の双子を抱えた男との結婚をそう簡単に決められるものだろうか。
いや、そんなわけがない。

 今もあまり感情を表に出すほうではないが、今よりずっと当時の僕は妙に冷めているところがあって、他人に関心もなければ干渉もしたくもない、そんなつまらない子供だった。
きっと母は短い間の中でたくさん迷って苦しんで、その結果決めたのだと今なら想像できるのだが、その頃の僕は勉強が面白くて、家族などいてもいなくても一緒だった。
そもそも看護師の母は普段から家にいなく留守がちで、だからなのか、その頃の僕は家族が共にあるという概念が薄かった。

「弟はかわいそうだったと思う。確かな治療を受けていればきっと生きられたはずなんだ。
治療の情報さえあれば、最新の医療施設にかかっていれば、助かった命だったろうにって今でも思うよ」

 子供だからか進行が速く、あまり苦しまないまま逝けたのがまだ救いだったと大人たちは慰めるように話していたが、僕は納得がいかなかった。
誰が望んで早死にしたいものか。ましてやあんなに小さな子供が。
「お兄ちゃん」と呼んでくれた弟の、僕に伸ばした手は、病気で痩せ細くなってガリガリになっていた。
とてもじゃないが五歳の子の手には見えなかった。
何十年も生きた老人の手と言ってもおかしくないくらい皺くちゃで、その小さな手を握り締める時、僕の手はいつも震えてしまっていた。
どうしてこの子がこんな目に合わないといけないんだと何度唇を噛み締めたことか。

 子供の頃、将来、医師になろうと僕は希望に目を輝いていた。
母が看護師ということもあったのだろう。昔から医師に漠然とした憧れを持っていた。

 だが、病気を治すのは医師にしかできないことだと一辺倒にしか考えが及ばない、狭い世界しか知らなかった僕は、病理寮棟の壮絶な現実を目の当たりするまで、本当の意味での医学進歩の必要性をまったく理解していなかった。
ベッドに横たわる弟の子供らしからぬ病身の姿は、そんな頭でっかちな僕にガツンと大きな衝撃を与えたのだった。

 弟の手を気持ち悪いなどとは思わなかった。
けれど治療がうまくいかないその結果が弟の皺くちゃな手なのだと思うと、不治の二文字への不安がはっきりと目の当たりに晒されてすごく怖くて悔しかった。

 僕が手を握ると弟はいつもにこにこと笑ってくれる。
そんな弟はとても神々しくさえ見え、痩せて窪んだ大きな瞳は柔らかい光をたたえて輝いていた。
母たちは結婚を決めたばかりでまだ正式に婚姻していなかったが、彼は兄という存在をその時すでに喜んで受け入れてくれていた。
彼の瞳に映る僕は法的にはまだ兄弟ではなかったが、すでに彼にとって兄だった。

『お兄ちゃんはすごく頭がいいんでしょ? お医者さんを目指しているって聞いたよ。すごいなあ。
これからたくさんの人が元気になれるだねえ。いいねえ。
でもお父さんが、お兄ちゃんがお医者さんになるまではまだ何年もかかるって言ってた。
ぼく、お兄ちゃんがお医者さんになるまで頑張れるかなあ』

 病床の弟はよく笑っていた。
まだ五歳やそこらの小さな子がこんな小さな部屋でチューブに何本も繋がれて、どこにも行けず友達も作れないまま一身に病気と闘いながら、僕に賢明に笑顔を向けてくる。
顔色の悪い、生気のない弟を見れば、もう長くないことは一目瞭然だった。
なのに、なんて強いのだろう。

 母が受け入れた結婚が幸せだけではないこと。
そんな大変な結婚を、どうして母は短期間で決心できたのか。
弟と出会って、すべてがわかった。

 家族という繋がりをそれほど重要に考えていなかった僕が、家族の大切さを本当の意味で思い知ったのはこの時だったと思う。

 あとわずかであろう弟の残された命ができるだけ幸せでありますように。
僕は普段祈ったこともない神という存在に、初めて縋った。

「弟がいなかったら僕はきみとは出会えなかったかもしれない。
弟に恥じないように生きたかったから、僕は初めて死にもの狂いで勉強したんだ。
自分でいうのも何だけど、それまでだって僕はそれなりに出来たんだよ。
けれど、ちょっと出来るだけじゃだめなんだと弟に思い知らされた。
やりたくてもできないことばかりだった弟だったから。
たいした努力もしないままそれなりに出来るってことに満足していていいのかってね、真面目に考えさせられた。
僕は今でも弟と出会ったことを心から感謝しているよ」

 弟と過ごした時間はとても短かった。
早すぎた死──。
あまり苦しまないまま逝けたのがまだ救いだったと諦め口調で語っていた大人たちは弟の何を知っていたというのか。

 病院や医師たちが弟に良くしてくれたことには感謝してる。
でも、あの治療法が弟にとって最善の治療だったのだろうか。
担当医のどこか割り切ったような表情が頭から離れず、疑問と後悔がいつまでも燻ってなかなか消えてくれなかった。

 疑問があるなら自分で答えを見つければいい。
そう心に決めた時、疑問と後悔は目標と夢に変わった。

 僕にはまだ弟と同じ病原菌遺伝子キャリアの妹がいる。
まだ諦めるわけにはいかないのだと心に強く刻んだのだった。

「JS式治療はもっと周知されるべきだよ。僕はそう思う」

 ガリオ星系惑星ショルナは銀河連邦でも最高水準の大学であるコスモアカデミーが所在する星として世間に広く知られている。
コスモアカデミーは複数の大学で構成されており、各大学医学部にはそれぞれ大学病院が併設され、そこの研究室ではさまざまなテーマにそった最新医療技術が常に研究され続けている。

 妹はガリオ星系への父の転勤がきっかけとなって転院したことにより、最先端の医療を受けられることになった。
妹の病気にとって、父の転勤先が惑星ショルナだったことがどれほどの幸運となったか、父の転勤先を決めた人事担当はきっと今も知らないままだろう。

 新しくかかりつけとなった大学病院で受けた検査の結果、妹のキャリア遺伝子の活動を抑制するのに複数の花の酵素が有効であることがわかり、治療の見通しが立ったと聞かされた時、僕を含め家族みんながどんなに嬉し涙で頬を濡らしたことか。
早速治療を始めたところ、てき面に効果が現れたことも嬉しかったが、未来が開けて見えたことが何より喜びだった。

 その治療薬の素となった酵素は、ある花が本来持っている酵素を人工的に変化させて作られたもので、このような特別な酵素を持つ花は特定されるが、そういう特効薬の素となりそうな酵素を生み出す花はこれまでにも複数の種類が発見されており、なおかつ今も発見され続けている。

 もともと医学部志望だった僕はその酵素にとても興味を持った。
花の種類によって酵素の働きは異なるのだというのだから、その可能性は無限大だ。
この銀河連邦には様々な星があり、無数の植物が生息しているのだ。
どれだけの可能性が秘められているか。
考えるだけで心が躍った。

「あれを発想した人はまさに病理の世界に変革を与えたんだ。
何しろ、JS式の可能性は探せば探すだけ可能性が広がるんだからものすごいよ」
「JS化傾向が高いものの中には酵素の作用が変化しているものが多いからな。
とはいえ、この銀河中の植物全部から見つけ出すなんて砂の中からダイヤを探すようなもんだろうが」

「それでも見つける価値はある。それで助かる命があるかもしれない限り、見つける努力はするべきだ。
何にしても可能性を指し示してくれただけでもJS式はすごい発見だと僕は思うよ」
「それは、まあそうだな。その点は俺も認めてやるよ」

 植物の中には無重力の環境に一定時間置くと花の酸、つまり酵素に変化が現れるものがあることが発券されたのは今から二十年以上前のことである。
その特定酵素への変化をJS化、その変化の度合いをJS化傾向と呼び、JS式とはJS化した酵素を用いた治療法全般の総称を指す。

 両親と共に訪れた大学病院で妹の担当医から今後の治療の方向性とスケジュールについて説明を受けた時、初めて僕はJS式という最新医療技術を知った。
JS式という治療法との出会いによって、妹の闘病生活は一変したのだった。

 JS式の場合、最新と言ってもひたすら研究され続けられている医療技術なので、昨日治療法がない病気も明日見通しが立つ可能性がある。
仮にJS式の研究に限界が訪れるというならば、それはこの宇宙に生息している植物すべての検査をし尽くした時だと言うのだから、目が点になっても致し方ないだろう。

 妹の担当医はとても気さくな人で、治療の合間にしてくれる世間話に交えたJS式の話を聞くのが僕はとても好きだった。

『実はね、この世紀の治療法を発見したのはコスモアカデミーの卒業生なんだよ。
つまりエスターくん、きみの先輩ということになるね。
一介の大学生が発表した卒業論文の研究テーマだったものが二十年経った今でも最新医療として研究され続けているなんて、これってすごいと思わないかい?』

 僕は即座に頷いた。まさにJS式は画期的な発見だった。
その偉大なる可能性を持つ画期的なJS式が一学生による研究テーマが元となっていると聞いて驚かないでいられようか。

『植物学者でありながら医学に精通したJS式発見者の彼はね、自分の研究成果を実証するために卒業後ELGとなって、あらゆる星に赴いて千種類を超える酵素を発見したんだよ。
現在のJS式治療の土台を作り上げる彼の業績はまさに偉業とも言えるね。
JS式で命を救われた患者は数知れない。
私たち、現場に携わる医者はね、患者さんたちが元気になってくれるのが何より嬉しいことなんだ。
彼は多くの命を救ってくれた。そして私たち医師にも希望を与えてくれた。
本当に、彼には感謝しきれないくらいだよ』

 コスモアカデミーの卒業論文として書かれたレポートが植物学界と医学界に激震を起こすなど、当時の誰が予想しただろう。

 担当医からJS式の発見者の話を聞いたのは僕が十三歳の時、コスモアカデミーに入学したばかりの頃だった。
僕よりほんの少し年上くらいでそんなにすごい発見をした人がいるなんてと、とても感銘を受けたのをよく覚えている。

『自慢じゃないが、私が大学に通っていた時、彼も同じ大学に在学しててね。
まあ、彼は特に優秀だったから、私よりも年下のくせに彼のほうが早くに卒業してしまったんだが。
そう言えば、久しぶりに医局で懐かしい顔を見かけた時、あまりにも学生の頃と変わりなくてすごく驚いたな。
だって、その時すでに卒業して十年は経っていたのに、だよ? なのにあの若さはありえないよ。
JS式で老化を抑える特効薬を作ったのかってね、真剣に疑ったっけ』

 妹の担当医はそう言って、計器の数値を確認しながらくすくす笑った。
そんなふうに昔を思い出して楽しそうに笑う担当医につられて、僕も妹も治療中だというのに、つい笑みが零れてしまう。
真っ白の病室が朗らかな空気に包まれて、まるで春が訪れたように笑いにあふれていた。

 未来に希望が持てる──。
それがあるだけで、あの頃の病室がどんなに明るかったことか。

 いつか僕もたくさんの特別な花を見つけたい。
花の酵素で妹のように病気が治る可能性があるというならば、いろんな花を見つけて、とことん研究をしてみたい。
僕はそんな夢をいつしか抱くようになっていた。





「このスパイスティー、身体が温まるね」
「今、朱里の奴が嵌ってるんだよ。
アイスばかり食って、身体を冷やしてどうしようもないからってさ、ここんとこずっと無理やり飲まされてる」

「ははは。朱里くん、アースの健康を気にしてるんだよ。結構なことじゃないか」
「最近ずっと生姜攻めなんだぞ。笑ってられるか」

 不貞腐れたような顔はどんなに年月を経ても昔とそれほど変わらない。

 アスファラールと僕はコスモアカデミーで同窓だった。
コスモアカデミーに編入してきたアスファラールを最初見た時、僕は皆の噂話の信憑性を疑ったくらい、彼は当時からすごく大人びていた。

「あれで十三歳? まさかだろ……」

 身長や纏う雰囲気ひとつとっても、とても十三歳の少年のそれではなかった。
ふたつ年上の僕と並んでも遜色ない、いや、ともすれば僕より年上だと言われても、きっと僕は信じただろう。

 乳白色の瞳と髪が特色の華麗な容姿をもつ彼の行動はいつでもどこでも注目されていた。
秀でた容姿を目にするたびに、この上、白い翼を拡げたらどれほど神々しいさまになるんだろうと、僕は遠目に窺いながら、アスファラールに天使の偶像を重ねていたものだ。

 きっと僕のように幻想的な想像を重ねていた輩は多かったのだろう。
中には天使が本当に存在するのか確かめようと、大胆にも触ろうした者たちもいたが、いつだってアスファラールは柳のようにしなやかに彼らを流して去って行った。

 時には誰の目にも余るほどアスファラールの周辺に執拗に纏わりつく輩もいた。
「あれじゃ彼だって気の毒だ」「他人の迷惑、少しは考えられないのかね」などと同窓の者たちは内心みんな、アスファラールに同情を寄せたものだが、気が付けばいつの間にか迷惑な輩たちは見なくなっているのがいつものパターンで。
そのうち同じようなことがあっても、すぐにまた平和な日常が戻ってくるのだとみんな安易に考えるようになってしまい、新たなストーカーが現れても誰もそんなに気にしなくなった。

 迷惑な相手がいなくなる──。
それは確かにいいことなのに、どうしていなくなったのか、その過程が僕はなぜかすごく気になって。
気が付けば、アスファラールの行動を観察するように目で追っていた。

 あの頃、自分でもよくわからない行動をしていたと思う。
そのうち熱が冷めたようにアスファラールの動向がそれほど気にならなくなって、自分でもなぜあれほど固執していたのか、そんな疑問を抱くようになってしばらくしてから、以前ストーカーのようにアスファラールに纏わりついていた男を偶然見かけた。

 あれは確か、次の講義を受けるため移動していた時で、僕の少し前をアスファラールが歩いていた。
男もアスファラールも、どちらもまだ気が付いていないようだった。

 男とアスファラールの距離がだんだんと近づいていく。
先にアスファラールが男のほうをちらっと見た。
男もそろそろアスファラールに気づくだろうなと窺っていると、男がこちらに顔を向けた──その瞬間、「ギャッ!」という声が僕のところまで響いた。
それはまるで鼠が猫を見つけたかのようだった。
面白いくらいに男の身体はビクンと飛び跳ね、模範的な、いかにも「驚いた!」と言わんばかりの行動をしたあと、男は慌てふためきながら走って行ってしまった。
その逃げ足の速さはまさに絶品。
見事なまでのその機敏さに拍手をおくりたくなるほどだった。

 ちらっとアスファラールを見やれば、「何も逃げなくても」の溜め息交じりの呆れた口調に反して、逃走する男の背中を追う乳白色の目は冷やかに細められていた。
こちらまで冷気が漂ってくるようなその視線の鋭さに、あの男はいったい何をやらかしたんだと心底疑問に思ったものだ。

「礼儀を知らない奴は嫌いだ」

 あの時、アスファラールが男へ渡した引導はそんな言葉だったような気がする。

 それがきっかけだったかどうだったかはもう忘れてしまったが、アスファラールという人間は極めて常識を乱すことが嫌いなのかと、初っ端、僕は思い込んでしまったのだった。

──早い段階でそれは間違いだと気が付いたけどねえ。

 それでもある意味、アスファラールは礼儀をわきまえ、気配りをする性質だというのは正しい見解だと今も思っている。
でもだからと言って、敬意や気遣いを素直に態度や言葉で表わすかと言ったら、これはまた別の話だ。

 長年の付き合いで僕が掴んだアスファラールという男は、一言で表すなら「行動の人」。
つまり、自分の気持ちに素直というか、正直すぎて邁進しすぎる気配があるというか。
そのせいでしばしば誤解を受けやすい損な男だと思う。

 学生の頃、アスファラールはその不可侵の領域である綺麗な外見のイメージそのままに周囲からとても浮いていた。

 アスファラールは真面目に講義に出席する学生だったが、講義が終わるたびに突然ふらっと消えることが多かったため、親睦を深めたくてもクラスメイトでさえ彼と接する機会はほとんどなかった。
まるでアスファラールが皆から逃げているようで、見事に彼を捕まえられないのだ。

 世間話をするチャンスさえ与えてくれない。
一緒にどこかに遊びに行こうということもしない。

──ああ、それでみんな諦めていくのか。

 僕も他人のことは言えないが、どう見てもアスファラールは周囲と親交を深めたいと思っているようには見えなかった。
もしかしたら、彼は地球人種と交流を持ちたくないのだろうか。
その時の僕はそんなことを考えていた。

 他人を避けるように生活していたアスファラールだから、もちろん特別仲のいい友人などできるわけがない。
その一方で、アスファラールに接触しようとする学生は後を絶たなくて、次から次へと彼の近くで見かける顔ぶれはどんどん変わっていった。



 僕とアスファラールがつるむようになったのは、研究テーマごとの班分けがきっかけだった。

「エスターだ、よろしく。前から訊いてみたかったんだけど、君、休憩時間にいつもいなくなるよね。
いったいどこに行ってるんだい?」

 アスファラールと同じグループになったのを機会に、自分でもわからないまま、僕はすんなりとアスファラールに声をかけていた。
普段、知り合いに話しかけるように切り出したのだが、僕の態度が馴れ馴れしすぎたのだろうか。
アスファラールは片眉をわずかに顰めてじっと僕を見つめてきた。

 以前から顔はお互い知っていた、と思う。
僕は当然アスファラールの存在を意識していたし、彼も僕を見かけていたはずだった。

 専攻が同じだったので、たまたま一緒の講義を受けることが多かったし、とにかくアスファラールは悪目立ちする外見の持ち主だったから、自然と視線がそちらに向いてしまう。

 僕はアスファラールが講義の合間にどこかに消えていることから、休憩するのにいい、人気のない穴場を知っているのなら、よかったらぜひ教えてもらおうと尋ねたつもりだったのだけれど、どうやらアスファラールはそうとってはくれなかったようだ。
どこか警戒するかのようにじっと僕の様子を伺ってきて──。

 時間にして数秒だろうか。

「僕、何かまずいことでも訊いたかい?」
「いや」

 沈黙に耐えられなくなった僕が口を開くと、アスファラールは軽く肩を竦め、
「エスター・ストマーを計らせてもらってた」
そう律儀に断りの言葉を入れてきた。

 そして、次の瞬間。

「子供をみているんだ」

 続けて返ってきた彼からの意外な答えに、僕が驚いたのが余程面白かったのか。

「子供? もしかして兄弟か何かかい?」
「いや。そんなんじゃない。地球人種の子供だよ。俺が親代わりをしてるんだ」

 訊けばちゃんと返事をくれる。

 何だ、結構まともに話が通じるjないか。根は真面目なのかもしれないな、が初めて正面向かい合って言葉を交わして受けたアスファラールの印象だった。

 それにしても意外な展開になってきた。
セリーア人の彼が地球人種の子供の世話をしているとは、いったいどういうことなのだろう。

「親代わり? 大学に通いながら、きみが?」
「お守りはつけてる。と言っても、信用は今ひとつだけどな。でも誰もいないよりはな。
まだ小さいから、子供ひとりにしておくのは心配なんだよ。
そんなわけで仕方がないから講義の合間に自宅に帰ってるんだ」
「え? 帰ってる? 一日に何度も?」

「当然だろ。あいつ、目が離せないんだよ」

 それを聞いて僕は驚いた。
十三歳の身空で幼い子供の親代わりをしているということにも意表を突かれたが、それも形だけではなく、本当に自ら子育てをしているというのだから信じられなかった。
親代わりと言っても、てっきりお手伝いさんとかに頼んでいるとか、保育士などに預かってもらっているとか、そういう他力本願での形ばかりの子育てを想像していたのに。

 この天使の末裔とも言われるセリーア人のアスファラールが、家に帰れば料理を指導し(聞けば、料理法を指示するだけで子供に調理をさせているらしい)、掃除も洗濯も子供に手伝わせてはいるものの自分も率先してしているのだと言うのだから驚かずにはいられないだろう。

「聞けば聞くほど信じられないな。
こう言ってはなんだけど、セリーア人には銀河連邦内で円滑に生活が送れるよう政府から世話役とかそういうサービスが用意されてるって噂を聞いてたんだけど、違ったんだな」
「ああ、それは断った。うちの子、人見知りなんだよ。俺も他人を家にはいれたくないしな。
とにかく過敏だからなあ、うちの子。今は目指せ小学校通学なんだ」

──うちの子、ねえ。

「いくつの子?」
「もうすぐ九歳になる」

「じゃあ今は八歳か。確かに小学校に通っててもいい年頃だよね」
「だろ? とりあえず知識に関しては俺が教えてるけど、いつまでも家にばかり籠っているのも問題だし。
かといって急に離れていくのもな、滅茶苦茶気に食わない」

 顔をしかめて子供の心配事をあげてくるアスファラールはまさに子離れができない父親の心境なのだろう。

「その気持ち、よくわかるよ。僕もある意味シスコンだから」

 入院生活で男の医者に診察されることに慣れているせいか、妹はいまだに僕の前で恥ずかしげもなく着替え出す。
そんな妹に、「リズは女の子なんだから、もう少し恥じらいをもたないと」と諭しつつ、いつまでもこのまま純粋でいてほしいと願ってしまう僕はアスファラールと似た者同士だ。

 無邪気すぎる妹も妹だが、こんな調子で年頃になって大丈夫なんだろうか、将来変な男に引っかかりやしないだろうかと今から心配する僕もいい加減過保護なのかもしれない。
滅茶苦茶気に食わないと口を尖らせて拗ねるアスファラールとどこが違うと言うのだろう。
思いがけないところで親近感を持ってしまった。

 そうなると、僕も人の子。
やっぱりアスファラールが大事にしている子供というのがどんな子なのかすごく気になった。

「何て名前?」

 だが、アスファラールはそんな僕の興味津々な態度に警戒心を持ったようだ。

「……無駄だぞ。うちの子は見世物じゃない。誰にも会わせるつもりはないからな」

 それは年頃の嫁入り前の娘を囲っている父親の言いぐさじゃないのか?
そう突っ込みたいのを我慢する。

「実はさ、僕の妹もちょうどきみのところの子と同じ八歳なんだよ。
父の転勤でショルナに来て、まだ友達が少ないからどうかなって思ってね」
「どうかなって……会わせてみるってことか?」

「そう。同じくらいの子供同士で遊ぶのもいいんじゃないかな」
「……妹の名前は?」

「エリザベスだよ。家族はリズって呼んでる」
「ふうん。……『朱里』だ。そういうことなら、気が向いたらエリザベスに会わせてやってもいいぞ。
ただし癇癪持ちだったり、すぐ泣くようなガキだったら御免だ。朱里が引き込まれるからな」

「引き込まれる?」
「朱里は感化されやすいんだよ。過敏って言えばわかるか」

「神経質ってこと?」
「それとはちょっと違う。共感というのが近いかな。
まだ心のガードがうまくできないから、今の段階では正直ひとりでは外にも出したくないんだ」

 アスファラールが朱里のことを語る時、氷のように神経質そうな綺麗な顔が柔らかいほのぼのとした表情へと変わる。
きっと自分ではわかっていないのだろう。
その子をとても大事に育てているっていう彼の気持ちが素直に伝わってきた。

 アスファラールと一緒にいるのは楽しかった。打てば響くように返してくるので会話も弾んだ。
でもそのうち、「あれっ?」って思うようになり……。
何に対して違和感を感じたのだろうと思ったとところで、それが掴みきれない。

 でも、いろんなことを話しているうちに、会話の端々にこちらが伝えた以上の情報イメージをアスファラールが正確についてくるのに気が付いた。
それを指摘するとにやりとアスファラールが人の悪い笑みを浮かべる。
このセリーア人はこんな顔もするんだな、と僕は頭を殴られたようなショックを受けたのだが、そういうショックを受けている自分自身にもっと驚いた。
知らず知らずのうちに僕はどこかでアスファラールに教会などでよく見かける天使の慈愛のイメージを重ねていたのだと気づかされたからだ。

 計算高い漆黒の笑み──。
それはアスファラールが、誰にでもいつでも同じ微笑みを浮かべる見せる慈悲深い天使ではないのだと、彼はアスファラール・ティア・エステルという生きた人間であり、一個の個人なのだと痛感する糸口となった。

「おまえ、面白いな」

 自分の中でぐるぐる悩んでいる僕を観察するように見ていたアスファラールが声をあげて笑う。
こんなに楽しそうにしている彼を見たのは初めてで、花がほころんだような微笑みというのはこういうものなのかと他人事のように茫然と同年代の男の笑みに見惚れている自分がそこにいて、あとから思い返して恥じた記憶がある。
それほどアスファラールの自然な微笑みというのは性別関係なく誰しもの目を惹きつける威力があって、これはこれで一種の凶器なんじゃないだろうかと僕はその時思ったものだ。

「エスターはα類でも語ってくるから会話が捕まえやすい」

 アスファラールがまたもや笑顔で返してくる。

 ちなみに今度の笑みは思惑ありそうな笑顔であって、見惚れると言うより肌が鳥立つような緊張をこちらに抱かせる。
上から目線なのがバレバレで、後味悪い薄黒さを秘めていた。

 それでも、いくら薄黒くてもすごく綺麗なのは間違いなく、本当に目が離せない。
一種の吸引力を感じるこの美しさは恐ろしいほどだ。

 セリーア人というのはもしかしたら魔性の種族なのかもしれない。
これではおちおち安心して外を歩けないだろう。
綺麗なものは常に危険と背中合わせにある。
それは古来から変わらない事実であり、何かあってからでは遅いのだと思い直して、用心するに越したことはないぞと助言をしようとしたら、鼻で笑われた。

 老婆心にも、「夜道は気をつけたほうがいいんじゃないか」とか思ってしまったことがまたもやα類の心話で伝わってしまったのだろう。
アスファラールの笑みが更に黒くなる。

「何を馬鹿なことを。俺を押し倒すなどガリオの星を叩き壊すようなもんだぞ。
そこらの地球人種にそんな器用な真似ができるかよ」

 魔性の上に、どうやらセリーア人は好戦的な種族らしい。
恐ろしいことに、アスファラールは攻撃は最大の防御なりを地で行くつもりらしかった。

 その証拠にこんなことを言ってきた。

「仮にそういうことになった場合、相手の命は保証できないな。
ああ、ちなみにこっちでは殺しても正当防衛とやらは効くのか? そこのところは抑えどころだよなあ。
俺が何をしようとこちらの法では裁かれないだろうが、加害者の家族のくせして被害者意識で恨まれてもいい迷惑だ。
加害者なら加害者らしく、精々自分の犯した罪にさいなめばいい。
何より頂けないのは、俺はそんなに器用じゃないから周囲の人間にとばっちりが行く可能性が高いってことだ。
そうだ、正当防衛で第三者を不可抗力で殺した場合はどうなるんだ?
まあ、訊いたところで俺が償う筋合いはないんだろうから関係ないっちゃ関係ないんだけどな」

 力がありすぎる者は細かい力の制御が効かないのだとアスファラールは開き直った自己弁護をする。

「つまり、象が蟻と蟻の隙間を縫って歩いていくのは不可能なように、きみの大きすぎる力は細かい調整が難しいってこと?」
「そう取ってもらって構わない」

 どうやら彼は反撃をしないという考えは全くないらしい。
正当防衛が過剰攻撃にならなければいいのだが。

 そこで、僕は自分でもいい性格をしていると思いながら、ちょっとした意地悪心が働いた。

「だったら、星のひとつくらいの大きなものは? 制御とか関係なかったらどうなんだい?」

 でも、訊かなければよかった。

「ああ、それなら何も細かいことを考えないで済むから楽だな。ただ力をこめればいい話だから。
俺、ちまちましたのは苦手なんだよ」

 どんだけアスファラールの足は大きいんだ。
蟻どころか人間を踏む付けるのさえ不可抗力だと言いたいのか?

 セリーア人の能力がどれほどのものか何も知らなかったこの時の僕は、セリーア人という種族はすごいなと思ったわけだが、事実は少し違っていた。
あとで知ったのだが、自分が相手にしているアスファラールをただのセリーア人だと思っていたこと自体がそもそも間違いで、アスファラールはセリーア人の中でも最高レベルの力の持ち主だというのだ。
それを知った時、さわらぬ神に祟りなしという言葉がふいに頭に浮かんだ僕の気持ちがわかるだろうか。

 そんなこんなで僕とアスファラールは八歳の子供同士を会わせてみようという話になり、話はとんとん拍子に進んでいった。
約束した場所は大学近くの動植物園。休日ともなれば子供連れの家族で賑わう人気スポットに決めた。
アスファラールの養い子が人ごみが苦手ということもあって、講義のない平日に行くことになり、僕はさっそく妹を誘った。

 そして、約束の日。
アスファラールは待ち合わせ場所に、大きな白い鳥を小さな肩に乗せた、目のくりっとした黒髪の少年を連れてきた。
少年は女の子と言っても通じそうな顔の整った子で、大きな瞳が吸いこまれそうなくらい黒々としていて、キョロキョロと挙動不審なところがどこか小動物を彷彿(ほうふつ)させた。
触れたら毛を逆立ちさせそうなくらいこちらを警戒しているくせに、構ってオーラを垂れ流ししているという、まさに僕好みの子である。
お兄さんとしてはどうにかしてあげたくなってしまうシスコンの血が疼くのが止まらなくなりそうになって困った。

 その目を惹く男の子の、僕と妹を見て、きょとんとした表情がこれまたすごくあどけない。
だが、人恋しそうに見える反面、その子からは神秘的な不可侵の領域もまた感じられて。
触れてほしいのか、触れさせたくないのか。
何とも不思議な雰囲気を醸し出している子だった。
こりゃアスファラールが嵌るのも仕方ないなと頷けた。

 朱里という名の少年は余程の恥ずかしがりやなのか、すぐにアスファラールの背中に隠れてしまってなかなか出てこない。
どれだけ庇護欲を誘うのだろう。
うーん、これもまたかわいい。
保護者の目が怖くて、撫でてみようとか、そんな少々のお試しすら今は許されそうにもないが、いつかあの黒髪を撫でまわしてみたいと思った僕だった。

「ほら、朱里。出てこい」
「やー」

 朱里がじたばた嫌がると、小さな肩にいた白い鳥が上空に向かって羽ばたいた。
背後に隠れて自分の服を握り締める朱里の身体に、アスファラールが腕を回して軽々と抱き上げる。

「もう帰るー」
「いいのか。おまえが見たがってた舌長アリクイもいるぞ。
ストローの舌で白アリを吸うのが見れるかもしれないのになあ。
尾長カワセミもいるかもなあ。尻尾で魚釣りしてパクンと魚を食うんだったよなあ」

 最初のうちは足をバタつけせて抵抗していた朱里だったが、アスファラールがぎゅっと抱きしめると暴れるのをピタリとやめた。

 どうしたのかと不思議に思っていると、アスファラールがこう言った。

「ああ、言いきかせたんだ。おまえは誰にも触れさせやしないって」
「は?」

 それは普通恋人にいう台詞じゃないのかと突っ込まなかった僕を誰か褒めてほしい。
その頃には少ない付き合いですら、アスファラールの言動がしばしば僕の予想の上をゆくのはわかっていたつもりだったが、朱里が絡むとどうやら拍車がかかるらしい。

 以前にも思ったが、アスファラールは天然なのか、それとも彼のあれは故意なのか。
意外に突っ込みどころ満載な気がするのは僕の思い過ごしだろうか。

 そんなやり取りを僕たちがしている間、僕の隣りで天使なセリーア人とその養い子の様子をじっと観察していた我が妹は、「キレイ〜、キレイ〜」と瞳をキラキラと輝かせていた。

 ぼくは「わああぁ…」と頭を抱えたくなった。
今月の妹の愛読書は理想の王子様が出てくる童話で、ヒロインが黒髪のお姫様だということを僕は知っていた。
そして、童話の最後のページに描かれた、王子がお姫様を抱き上げる挿絵を溜め息つきながら妹がじっと眺めていたのは昨日だけではないことも。
妹はどうやらアスファラールと朱里のことが殊の外、気に入ってしまったようだ。

「ちょっと、リズ。どうどう。そうやってすぐさま自分の世界に入らないの!」

 朱里が落ち着くと空から白い鳥が降りてきて、今度はアスファラールの肩にとまった。
鳥の名前はジャックと言うらしい。

「ジャックは気まぐれだからな。滅多にα類を使わない。だからと言ってこっちの言っていることがわかってないなどとはゆめゆめ思うなよ」がアスファラールからの助言で、どうやらこの鳥は使徒星からアスファラールが連れてきた鳥なのだと言うから驚きだ。

「こいつは朱里の第二の保護者気取りなんだ。ま、こんなんでもいないよりはマシか」

 そんなアスファラールの言葉に「クゥエッ、カカー」とジャックが鳴いて羽根をバタつかせた。
どうやら鳥なりに抗議をしているらしい。

 アスファラールと手を繋いでいた朱里が、やっと僕に慣れてくれたのか、「ジャックがね、オレがいなきゃファラが困るんだろーだって」とやっと話しかけてきてくれた。
どうやら通訳をしてくれたらしい。

「ファラ? 朱里くんはアスファラールのことをファラって呼んでいるの?」
「ジャックもだよ」

「ジャックも?」
「エスターさん、は……、違うの?」

 僕はアスファラールを思いっきりじっと見つめてしまった。
そういう愛称で彼のことを呼ぼうという気持ちが今まで起きなかったことにいたたまれない気持ちになったのだが、今更だ。

 そうなのだ。友人なら愛称で呼んでもおかしくないのに、いつまで経っても僕は彼を「きみ」とか「アスファラール」とか呼んでいた。
周囲に壁を作っているのはアスファラールのほうだと思っていたが、どうやら僕も壁を作っていたらしい。
改めて、許されるなら僕も愛称で呼んでみたいと心から思った。

 アスファラールがまたもや僕の意を汲んで、にやっと口元に笑みを浮かべる。

 アスファラール。この名を最初耳にした時、思い浮かんだ名前があった。それは──。

「よかったら、アースと呼んでも構わないかな」
「アース?」

「弟がアスランって名だったんだ。僕はアースと呼んでいた。
もう一度、誰かをアースって呼びたいんだ。いいだろうか?」

 僕の我がままをアスファラールは「俺の質問に答えてくれるなら」と認めてくれた。

 で、その質問と言うのは、「どうしてエスターなんて女性名なんだ?」で。
それを聞いて、この名前は僕のコンプレックスで、だから友人たちにはわざわざストマーと呼ばせていたのに、と内心ちょっとイラついた。
アスファラールはわかっていて、わざと訊いてきたのだろうか。
だが、思い返せばアスファラールは最初から僕のことを姓のストマーではなくエスターと呼んでいた。
なぜだろう。

 何にせよ、亡くなって今はもういない弟と同じ名前で呼びたいなんで自分のほうも失礼な我がままを貫こうとしているのだ。
このまま黙ってやり過ごすわけにもいかないだろう。覚悟を決めた。

「……僕の実の父って人はずっと女の子が欲しかったそうでね。
生まれたのが男ですごくショックを受けたらしいよ。
生まれる前に男だってわかっていたのに、これは何かの間違いだって最後まで信じなかったそうだから、余程娘がほしかったんだろうさ。
それにきみを前にして言うのはおもはゆいんだけど、赤ん坊の頃の僕は女の子に間違われることが珍しくないくらい女顔だったんだ。
それもあってか父親は断固としてエスターって付けたかったらしいよ。
母に黙って一存で届けを出してしまうほどにね」

 僕は自分の過去を払拭するかのようにアスファラールに言い放った。
父親から男の僕はいらないと思われていたなんて、こんなの親から愛されない子供の身も蓋もない恥ずかしい話でしかないのに……と最初はいろいろ躊躇していたのに、吐き出してしまえばずっと燻っていた気持ちがすっきりとして、逆に気持ちがいいくらいだった。

──さあ、笑うなら笑え。呆れたなら、それはそれでどこでもいい、突っ込んで来い!

 だが、アスファラールの切り返しはどちらでもなかった。

「へえ、でもおまえにはエスターが似合ってるな。
”エスター”ってどことなく品があるし、美しい響きがすごくいい」

 そんなことを言われたのは初めてだったので拍子抜けした。

「そっちこそ。秀麗な外見のその稀有ほどに、きみは想像以上に意外性の塊のような男だな」

 そうして僕らは呼び合う名前の了承の言質を互いに取り合い、それ以来、僕はアスファラールを『アース』と呼ぶようになった。

 アスファラールは付き合いがすごくいいわけではないが、話せばわかる友人だった。
そして彼が生涯の恩人になるのにも時間はそうかからなかった。





 雨上がりのその日、道路のそこかしこに水たまりができていて、世界はキラキラと輝いていた。
街を歩いていたら、ショッピングアーケードで珍しく朱里とジャックを見かけて僕のほうから声をかけた。
アスファラールに紹介されてからも何度か家に遊びに行った甲斐もあって、朱里とジャックとはすでに顔馴染みになっていた。
日頃から外出を控えていると聞いていたから家にこもりっぱなしなのかと思いきや、朱里の誕生日が近いからこれからケーキを予約しに行くのだと言う。

「エスターさん、この先に新しくできたケーキ屋さん、知ってる?」
「もちろん。
リズにねだられて何度か食べに行ったけど、中でもシフォン生地が抜群にふわふわで美味しかったよ」

 僕がケーキの感想を掻い摘んで朱里に語っていると、ククウェッケッケとジャックが横から入り込んできた。
すると朱里が、「やだよ、ジャックのその口じゃ無理じゃんか。スプーンでいちいち掬って食べさせろって? 我がままだなーもお」とブツブツ言っている。

 朱里が僕を見上げて、
「……えっと、ジャックがプリンはどうなんだって。
おいしいんだったら絶対買えって言ってるんだけど、エスターさん、そこのプリン食べたことある?」
ジャックの言葉を伝えてきた。

 何度この目で見ても不思議なことだが、朱里はジャックの言葉がわかるらしい。
ウェッケケケの奇声のどこからプリンの話を伺い知るのか理解に苦しむところだが、朱里は当然のようにジャックの言葉を通訳する。
一緒に暮らしているからと言って鳥と意思疎通が可能になるという話は聞いたことがないし、やはり使徒星の鳥は違うのだろうか。

 たわいない立ち話をしていると、ジャックに促されて朱里が僕から視線を外した。

「あ、ホントだ。エスターさんの妹さんだ」
「え?」

 自分も倣ってその方向を見やると朱里の言うとおり妹が見えた。
ちょうど学校帰りの時間だったようだ。
友人らしき女の子たちと一緒にエリザベスが向こう岸を歩いていた。
少女たちはおしゃべりに夢中になっているようでこちらにはまったく気づいてない。
妹たちはそれは楽しそうだった。

「ケーキか。朱里くんたちが行くなら、僕も一緒に行こうかな」

 妹は甘くておいしいケーキに目がなかった。
ケーキを買いに行くとなればきっと妹も喜ぶに違いない。
それにどうせ買うならきっと自分で選びたいと言い出すだろうと思って、妹に一言声をかけようかと息を吸いこんだその刹那──。
耳をつんざくような悲鳴がすぐそばから聞こえた。

 咄嗟に振り向き、唖然とした。
朱里が耳を塞ぐように手を当てて、身体中をがくがく震わせていたのだ。

 突然のことにびっくりしながら、何かの発作だろうかと不安になって「どうしたの、朱里くん!」とその小さな肩に触れた刹那、泣き叫ぶ人々の悲鳴のような声や特定の人物を鋭く糾弾する声が聞こえてきた。
それだけではない。怒り、憎しみ、驚愕、恐怖、そして現実から逃げようとする人のたくさんの想いもまた、声なき声となって突然、頭の中に響いてきたのだった。

 感電したかのような痛さを感じて瞬間的に手を放すと声はぱたりと途切れたが、その間にも朱里の口から漏れ出るくぐもった声は「あ、あ、ああ、うあああああ」とどんどん激しくなっている。
このままではいけないと思い、何が起こっているのかわからない恐怖に慄きながらも朱里をこのままひとりにしちゃダメだと咄嗟に判断して抱きしめようとした。
人の体温は気持ちを落ち着かせる働きがあると何かの講義で習った気がして、自然と身体がそう動いたのだが、僕の行動は実を結ばなかった。
僕より先に僕がしようとしたことを実践した人物がいたからだ。

「アース……!?」

 一瞬、目を疑った。
見れば、アスファラールは身体の震えを抑えるかのように朱里をぎゅっときつく抱き締めていた。
同じ時、突風が吹き荒れた。
ゴゴーッと轟音となって一陣の風が僕たちの身体に押しあてられる。
風が止んで、どこか遠くでウケケケケーッ、カカッカーと鳴き声がしたかと思い仰げ見れば、朱里とアスファラールの頭上でジャックがバサバサと羽ばたいて興奮覚めやまない様子で嘴を開閉している。

「もう大丈夫だ。朱里、見てみろ」

 アスファラールの腕の中から恐る恐る伺うように見やる朱里につられて僕も言われた先に視線を投じてみれば、そこには十数台のエアカーがブルブル細かい振動を続けながら空中に浮かんでいるというあり得ない情景が存在していた。

 先頭の赤い車はそこかしこへこんでいて、ところどころ塗装が剥げている。
自動操縦であれば対物回避のセンサーが働くはずだし、これだけの損傷があることから手動で運転されていたことが窺い知れる。
それも相当乱暴な走行をこれまで積み重ねてきたに違いない。

 驚くべきは続く後続車すべてが地元警察車両だったことだ。
今も煩く鳴り響いているサイレン音。
僕の耳は今頃になってやっとその音を認識していた。

 不甲斐ないにも度がありすぎる。
自分の間抜けぶりがまだ信じられないでいた。

 赤色警告灯もそうだが、どうしてこのサイレン音に今まで気が付かなかった?
これほどのたくさんのパトカーの音だ。
こちらに向かって来ているくらいのこと、気付いて当然のはずなのに。

「何を不思議がってる。こいつらはメーターぶっちぎって一気にここまで飛ばしてた。
つまり、それだけ速度を出してたってことだろが」

 アスファラールが理路整然と音速より早いスピードを示唆しつつ、至極冷静に淡々と現状を告げてくる。

「この暴走車、かなりの無茶苦茶をやらかしてくれたみたいだな。
あっちのほうから煩いくらい苦痛にもがく思念が聞こえる」
「苦痛にもがく思念ってそれ……」

「ああ、偉い数だ。どうやら救援が到着したようだが、数が数だからな。
すごい騒ぎになってるみたいだ。
それにしてもここまでよくやってくれたな。
さすがにスピード出しすぎてハンドル取られましたなんてヘタな言い訳は通じないだろうよ。
警察もこれ以上犠牲者を出さないために、とにかくこの車を止めたかったんだろうが、いくら手動の無茶苦茶な運転する車に自動操縦じゃ追いつこうにも追いつけないからといって、手動に切り替えたがために追うのに必死で警告する余裕すらなかったなんて本末転倒な話だ。
まったく笑えないな」

 アスファラールの言葉を証明するかのように、一台のパトカーがマイク越しに、「この車は暴走車です。危険ですので近づかないでください」と今更な注意を促してきた。

 わずかにエコーの効いた音声が空気を震わしている間にも、危険車両に指定された赤いエアカーや後続の警察車両のエアカー群すべてはいまだ三階の建物ほどの上空で浮いたままでいる。
どのエアカーも車体が細かく振動している様子からドライブ状態であることが窺える。
それはまるで車体を掴んでいる大きな手から抜け出そうと、必死にもがいているかのように見えた。

 ぶるぶる振動していても、前進する気配がまったくないのがある意味すごい。
その景観はすごく不自然極まりないのにどこか安心感があるように見えるのは、これらすべて、友人が生み出した状況だったからなのかもしれない。

 当のアスファラールをちらっと見やれば、「ほら、わかっただろう朱里。もう誰も傷つかない。怖がることは何もないんだから安心しろ」と空中に浮かんでいる車のことなどそっちのけにして、一心に朱里を気遣っている。
大学では聞いたこともないアスファラールの優しい声音に、僕のほうが気恥ずかしくなった。

 朱里が涙を一筋流して「うん」と頷けば、アスファラールがその黒い頭を腕の中に再び引き寄せ、外界から一切遮断するかのように養い子の小さな身体を胸にそっと抱き寄せる。
その一連の自然な仕種になぜか目を奪われて、僕はふたりを凝視してしまっていた。

 ぼそぼそとアスファラールが何か言うと何度も頷いてから朱里がゆっくりと顔を上げた。
アスファラールの腕の隙間から覗き見るように視線を投げたその先に、例の赤い暴走車がある。
僕もつられて見やれば、そこには──。

「え? ──ベス?」

 赤い暴走車の斜体のほぼ真下に、妹を含む数名の少女たちがお互いの身体をきつく抱きしめてながら歩道にしゃがみこんでいた。
瞬間、ぞわっと背筋に悪寒が走り、冷たい汗がつうっと背中に流れた。

 もしもアスファラールが暴走車を止めなければ──、エリザベスを含めた歩道にいた人たちすべてが轢き殺されていた……?

 その可能性を改めて噛み締めた途端、ぞぞっと身体中の肌という肌に鳥肌が立った。

 例え、赤い暴走車が急ブレーキをかけたとしても、後続のパトカー群が勢い余って赤い暴走車目もろとも妹たちに向かって頭から突っ込んでいた。
そうなればパトカーさえもが最悪の凶器の塊となっていた。

 アスファラールが超高速度で走行していたすべての車両を止めなければ大参事に巻き込まれて、僕は大事な家族をまたひとり失っていたかもしれなかったのだ。
そんな大事なことを今になって理解するなんて、と余りにも自分自身が情けなくて、僕は至極落ち込んだ。

「お兄ちゃん……」

 自己嫌悪に浸っていた僕を正気に戻したのは妹だった。
いつの間にか僕のそばに来ていて、小さな手が僕の手に添えられていた。

 妹の手はまだ震えていて、目にも涙が溜まっている。
それで僕はまた失敗したことに気が付いた。

「怖かっただろう。もう大丈夫だよ。アースがみんなを助けてくれたから」

──何をしているんだ僕は! 落ち込むのは後回しだ!

 咄嗟に気持ちを切り替えて、その小さな肩を抱き寄せると、妹はうんうんと頷きながらを僕に抱きついてきた。

 失くさないで済んだ大切なものの大きさを噛みしめていると、ここ何年も泣いた思い出がない目に自然と涙が浮かんでくる。

「アース、何てお礼を言っていいかわからない。ありがとう……。ありがとう、恩に着るよ。
どんなに感謝してもしきれない。このお礼は必ずするから!」

 だが、アスファラールは「ついでにしたことだ」と言って僕の誓いを受け付けなかった。
しかしそれでは僕の気持ちが納得できない。
いくら人命救助をしようとした行為ではなかったのだとしても、アスファラールが朱里のためだけに駆け付け、朱里の平穏心を取り戻すためだけにしたことなのだとしても、妹やそのほかの多くの人を助けてくれた──その結果がすべてだ。
僕はこれでも礼儀には煩いのだ。受けた恩は必ず返す。
ましてや最愛の妹の命の恩人となれば──。

「きみが困った時、僕は絶対きみを助ける。絶対だ、約束するよ!」

 何度も食い下がる僕にとうとうアスファラールも音をあげて、「そこまで言うならもしもの時に覚えておくか」と確かな言質を取ることができた。

 そして、僕は朱里にも感謝してもしきれなかった。
あの時、朱里が反応しなければ、きっとアスファラールは自ら進んでここには飛んで来なかった。
それは僕の思い過ごしなんかじゃない。
朱里が恐慌状態に陥ったからこそ、妹の命は助かったのだ。

 あの時、不用心に朱里の肩に触れた瞬間、僕は多くの想いを感じ、たくさんの声を聴いた。
後日、あの摩訶不思議な体験を打ち明けても、アスファラールは全く身じろぎもしなかった。

「それは共鳴だ」

 そう、当たり前のことのように、簡素な答えを返してきた。

「前に言っただろう。朱里は共鳴しやすい。他人の気持ちに共感しやすいんだ。
エスターが聴いた声はα類と呼ばれるものだ。朱里はそこらのELGより聴きとるからな」

 確かにこれまでにも、朱里は普通の人間よりも敏感で感じやすいのだとアスファラールから散々教えられてきた。
その過敏な体質が関係しているのかはわからないが、どうやら朱里はα類の精神感応力を自由自在に使いこなしているようだ。

 そして、くしくもその日の事件がきっかけとなって、自分にもα類の精神感応力を受信する能力が備わっていることを知った僕は、その後、精神感応力制御コントロールの特別講座を受講するようになる。

 その時は特にELGを目指すといった明らかな目的があったわけでもない。
ただ、もしかしたらこの能力が何かの役に立つのかもしれないと思ったからなのだが……。。

 でも、どこかで期待していたのかもしれないとも思う。
数億分の一のわずかな確率しかないかもしれないけれど、もしかしたらあのJS式発見者のように自分もELGになることを目指すかもしれないと──。

 数年後、「約束を守ってもらおうか」とアスファラールに誘われてELGとなり派遣任務に追い回されるなどとは露知らぬまま、そうして僕は新たな可能性に向けて進んでいくことになる。

 だとしても、僕のやりたいことはあくまでJS式の発展に尽力することで、何年経とうがその夢に一度もぶれは生じていない。

 JS式発見者は自分の研究成果を広く応用できるようにと、自らELGに就いて各所現地に赴いたのだと聞いている。
JS式を世に知らしめたその彼がJS化傾向の高い花を探し求めて植物採集しに行った先で、当時のJS式では治療不可能な病原菌に感染してしまったというのは皮肉な話だとは思ったものだが。
でも一方で、それほどまでに人生を賭けてやりたいことが見えていた彼が、僕はとても羨ましかった。

 懸命に前だけを見て生きてみたい。彼に少しでも近づきたい。
そんな羨望によく似た願望は僕の中でますます大きくなり、いつしか未来への指針となった。

 いつしか僕も彼のように、誰かのために尽くしたい。
そしてひとりでも多くの人が、妹のように元気に笑えますように──。





 年月が流れ、僕が十九歳、アスファラールが十七歳を迎え、僕たちは医学博士課程の卒業論文に追われるようになった。
その頃になると周囲のほとんどの学生はすでに進路が決まっていて、僕は大学に残って研究を続けるため、近いうちに助手の採用試験を受けることになっていた。

 そして、卒業論文と試験勉強の両立は結構厳しく、毎日が時間に追われるようになり、アスファラールとも滅多に顔を合わすこともなくなっていた。

 採用試験を来週に控えつつ、卒業論文の進行状況に一息ついたある日のこと、残り少ない学生時代を惜しむように大学のカフェテラスでお茶を楽しんでいると、珍しくアスファラールに話があると声を掛けられ、そのままアパートにに連れ込まれた。

 アパートに着いた途端、朱里やジャックへの挨拶もそこそこに、アスファラールが開口一番、「一緒にELGにならないか」と言ってきて、僕は「は?」としか声が出なかった。

「俺とペアを組もう」
「はあ?」

 僕は何を言われたのか理解できないまま、あまりの驚きに玄関先で棒立ちになった。

 ELGはなりたくてもなれない職種だ。
通常、ELGは、現役ELGからのスカウトによって採用される仕組みになっている。
スカウトされた新人は経験者とペアを組み、一人前のELGになるため教育されるのである。
だから、一緒にELGを目指すのならともかく、互いに学生の身でペアを組むなんてありえない。
それなのに、ペアを組もう?

「いくらアースだってそんなの無理だよ。第一、ELGは新人同士じゃペアは組めないんだぞ」
「不可能じゃないさ。俺の場合、体験してないだけでELGの経験はあるから」

──は? これまた何わけわからないことを言い出すんだ、こいつわ。

 アスファラールの説明では、どうやらアスファラール自身は新人扱いではないらしく、だから新人の僕をスカウトする権利があると言い切るのだが、どう考えてもそれはアスファラールのごり押しとしか考えられない。

 それに絶滅危惧種のセリーア人がELGに就くなど前代未聞だ。
銀河連邦政府が黙っているとは思えない。

 仮にもしもアスファラールの希望がまかり通れば、異例のペアになることは間違いないだろうが、それはそれでどれだけ注目されることか。
今でさえ大学で、アスファラールの数少ない友人として結構な迷惑を被っているというのに、「また見世物になるのか……」と僕はちょっと引いてしまった。

 正直、アスファラールからの誘いはすごく嬉しかった。
彼に自分を認めてもらえたことがすごく誇らしかった。

 だが、一概に喜べない気持ちもあった。

 本当にそんな特例でELGになって、僕らはちゃんとやっていけるのか。
僕はアスファラールの荷物にならないでいられるか。
本当に僕でいいのか……。

 考えなければならないことはさまざまあって、問題は山積みのはずだった。

 それでも結局、かつて交わした約束もさることながら、将来への夢と希望がぐんと広がって見えたことが、僕にアスファラールの誘いを二つ返事で引き受ける決心をさせた。

 希少動植物の密輸を取り締まる警察まがいな仕事から絶滅危惧種の保善活動、動植物に関連する新技術の研究事業まで、ELGに求められる任務の幅はとても広い。
ELGはとてもやりがいのある職種であり、派遣任務に身を置く間にもきっと得るものがあるに違いない。
この進路は決して遠回りなんかじゃない。
僕にとってたくさんの糧を得るチャンスのひとつとなるだろう──。
そう考え、気持ちがぐんと傾いた。

 また、ELGに就任する際、アスファラールと交わした約束の中に期限があったことも後押しとなった。
いずれ研究事業に携わりJS式新薬発見に尽力できたらいいという思いをずっと抱いてきた僕にとって、『期限付き』はとても有難い申し出だった。

 そうして、互いの利潤が重なって、エステル・ストマー組はアスファラールの希望通りに無事結成されたわけだが……。
やはりと言うべきか、ELGとなり、アスファラールと任務を重ねるごとに、僕はひとつの思いをひしひしと強く感じるようになっていった。

「僕じゃアースの足を引っぱるだけだ」

 僕がそう漏らすと、アスファラールは「誰と組んでもそうなるさ」と言ってくれたし、「おまえはまだマシなほうだ」とも慰めてくれたけれど、いくらアスファラールが「気にするな」と言ってくれたとしても僕では彼の足手まといでしかないことは変わらない。
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 だが、アスファラールとペアを組んで二年ほど経った頃だろうか。
僕はいずれ訪れるその時までの代用であり、アスファラールにとって唯一無二の彼が成長するまでの間、ELGとしての経歴を重ねる手伝いをするだけでいいんだ──と、そう割り切れるようになってからは随分気が楽になった。

 アスファラールが隣りに並び立つものとして心から望んでいるのは今も昔もただひとりだけ。

 それに、かの愛し子が、僕が心から崇拝するJS式発見者の遺児だとアスファラールから内密に教えてもらって以来、彼の存在は僕にとっても言葉にできないくらい特別なものとなっていた。 

 病気を治してくれたJS式発見者。
事故を未然に防いでくれたアスファラール。
そのアスファラールを使わしてくれた朱里。 

 彼らがいなければ、僕がずっと大切してきた妹は今頃どうなっていたことか、考えるだけで恐ろしい。
彼らへの感謝の気持ちはいつまでも絶えることはないだろう。





「ねえ、時期が来たってことはさ、これからは本気で行くってことかい?
精々逃げられなきゃいいけどねえ……」
「エスター、一言多いのはおまえの悪い癖だ」

 苦虫を潰したような顔であっても見惚れてしまうほど華麗な容貌というものがこの世界に存在するのだと、僕はアスファラールと出会ってから初めて知った。

 笑った顔は心臓に悪いほど破壊力満タン。
そんな笑顔の威力は安易に理解できそうなものだが、怒った顔、しかめた顔でさえ彼の魅力はそれほど損なわれないのだから恐れ入る。
見ごたえのある顔というべきか。
強いて言うなら、表情が明るくない分、華やかさが若干削げた感じはするが、その分、妖艶な色気のようなものが増すのだから面白いといえば面白い。

──まずいな、嵌りそうだ。

 朱里に関する話題は毒にも餌にもなるので、アスファラールをからかって遊ぶのならこれに尽きる。

「我慢もそろそろ限界か。まあ、よくもったほうじゃないの?」
「そっちこそ。いい加減しびれを切らしたんじゃないか?
大学に入ればあちこちからの誘惑も多いだろうしなあ」

 意趣返しのつもりだろうがアスファラールにしては詰めが甘い。
そんなヘタな手を僕が打つはずがないことくらいわかっているだろうに。

「お生憎様。
近いうちに僕も研究所務めになるしね、そろそろ頃合いかなって思っていたからちょうどよかったよ」
「へえ、決めたのか。で、早速詰めに行くと。こりゃまた偉く切り替わりが早いな」

「もうすぐ妹も十八になるからね。充分適齢期だとは思わないかい?」
「怖い怖い。まるで獲物を追い詰める肉食獣だな。彼女がものすごく不憫に思えてきたぞ。
ま、嫌われないよう精々頑張れ」

「そっちこそ。同じ言葉をお返しするよ」
「ふん。俺が取り逃がすとでも?」

「いや」
「なら、そういうことだ」

 舌なめずりするアスファラールに狙われたらどんなに抗ってもきっと逃げ場はないだろう。
彼が少々不憫に思わないでもないが、新星エステル・レトマン組の今後の活躍と波乱万丈に満ちるであろうふたりの新たな関係に期待を込めて──。

「今までありがとう」

 僕は心から礼を述べた。

 ペアを組んでからも随分悩んだり不安に思ったりした。
想像以上に自分が余りにも不甲斐なくて、落ち込んだ回数は一度や二度ではない。

 それでもこの四年間、アスファラールにはすごく貴重な時間を過ごさせてもらったと思う。

「こちらこそ助かった」

 アスファラールはとにかく優秀で、何でもひとりで熟(こな)せてしまう。
だからこそ彼の助け手となれる人材は限られる。

 微力ながら僕という人間が少しでもこの友人の助けとなったならば、こんな名誉なことはない。

「追いかけっこの鬼同士、どちらが早く捕まえるか競争でもしてみるかい?
まあ、僕が勝つのは目に見えてるけどね」
「ぬかせ」





 傷を嘗め合う時期は通り過ぎた。
ふたりの『待機』が重なったのは必然なのか偶然なのか……。
だが、それはもう過去のことだ。

 今、時は満ちた。
これから僕とアスファラールはそれぞれ大切な者を狩りに行く。

 さあ、覚悟するがいい。
自分の未来は自分の手で掴みとってやる。

                                                         おしまい


illustration * えみこ



えみこのおまけ


*** あとがき ***

最後まで、お付き合いしていただきまして、ありがとうございます。
エスター主人公のエステル・ストマー組の裏話はいかがでしたでしょうか?
この番外編は「アイスる我が巣」・「『いただきます』をご一緒に」のあとくらいのお話になります。

実はエスターはファラと同じ穴のムジナだったりしたんですねえ(笑)。
狙った獲物は逃がさないってことで、もう何年もターゲットオン状態だったわけでございます。
そういう意味でもファラとはいいコンビだったんじゃないでしょうか(笑)。

目の前で獲物がうろうろ。
いやぁ、なかなか気の長いふたりだったりします〜(笑)。


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