<朱里のヤツ、メチャ怒ってたぜ〜。いくら砂漠帰りだからってやっぱりマズかったんじゃねーの?>
「アイスを食ったくらいでガタガタ言うほうがどうかしてるんだ」
俺は絶対悪くない、と言い切る飼い主に、
<それにしたって、一日三食冷凍食品ってのはやっぱりマジィって>
ジャックは宥めるように口を挟んだ。
地球人種とセリーア人、そしてサミュエ種というふたりと一羽の一風変わった組み合わせが同居するアパートメントを背に、有給休暇を悠々自適に満喫するファラは薄手のコートを靡かせて、足取り軽く歩いていた。
そのファラの肩を止まり木にしながら、ジャックはファラへの説得を半分諦め気分で、
<マジに買いに行くんかよォ>
近くのアイスクリーム専門店に向かうこのセリーア人の酔狂に付き合うのも飼い鳥としての役目だと言わんばかりに従者役に勤(いそ)しむ姿勢を貫く。
<この寒空にアイスとはねえ〜。余程、熱帯乾燥地帯とは肌が合わなかったんだろうなァ>
髪も瞳も乳白色のセリーア人のファラと同じく白い羽根のサミュエ種のジャックは、その色彩からして多くの視線を惹きつけた。
しかし、ひとりと一羽は共に慣れたものでその突き刺さるような視線を軽く流しつつ、双方だけに通じる会話を続けながら、一歩一歩自宅から遠ざかる。
目指すアイスクリーム専門店は近くの商店街の一画にあった。
<朱里がまた怒るだろうなァ>
何度目かの溜息をジャックが吐くと、
「無理について来なくてもいいぞ」
ふん、とふんぞり返ったファラの視線が突き刺さった。
<何をおっしゃるやら。もちろん、お供させていただきますともっ>
この上、ファラにまで機嫌を損ねられたら堪らないとばかりにひたすらへりくだった態度で臨むジャックは、「長いものには巻かれろ」の極意を本能で知っている世渡り上手なサミュエ種だった──。
ジャックの憂い──それは、ファラが「食べない」ことから始まっていた。
実際は「食べている」のだが、朱里に言わせればそれは「ちゃんと食べてない」ことになる。
というのも、三日前、青イボカメカエルの捕獲任務から無事戻ったセリーア人の堕落した食生活がすべての原因だった。
エステル・ストマー組の最後の共同作業となった稀有なカメカエルのその捕獲任務は、ここ、第四惑星ショルナのこことはお隣さんである、同じガリオ星系の第三惑星リオの特定地域で行われた。
その惑星リオから帰宅してからというものの、任務中に陥った水分不足を補うかのように、ファラは時間を見つけては浴室に閉じこもり蛇口をひねりっぱなしで水を浴び、水浴びに飽きた頃合になると今度は朱里が用意した食事を摂らずに冷凍庫からアイスクリームや氷菓子を取り出して気の向くまま食べるという生活をこの三日間続けている。
そして、その偏った食生活こそが、諸悪の根源にほかならなかったのだが──。
飼い主の愚行はこの際見ないようにして。
<もとはといえば、すべてはあの青イボカメカエルが悪ィんだ……>
八つ当たりだと重々知りつつも、ジャックはグィ〜と唸りながら、家庭崩壊の危機を招いた希少なカメカエルのその奇抜な特徴を思い描いた。
カメカエルはカエルの一種で、敵に遭遇したり寝る時、頭部を引っ込める姿がカメに似ているところからその名がついている。
それらの多種存在するカメカエルの中でも、ガリオ星系第三惑星リオの熱帯乾燥地帯、つまりは砂漠地帯だけに生息する青イボカメカエルは、暑さがもっとも厳しい季節には夏眠することもある、体の表面に小さな突起と大きな青いイボを持つ珍しいカメカエルだった。
暑さの厳しい昼間は石の下や砂の中など涼しい場所に潜む青イボカメカエルは、体の表面の小さな突起から粘液を出して体表の湿り気を保っている。
必要な水分は獲物の昆虫や直接皮膚から吸収するため水を飲む必要もない。
それに、大型の青いイボから毒液を出すため、天敵もこのカメカエルには手が出せなかった。
だが、一見、無敵のように思えるこの青イボカメカエルも弱点があった。
両生類である以上、繁殖期だけは水溜まりや池などを必要としたのだ。
だから、この青イボカメカエルは多量の雨が降った時しか繁殖期を迎えない。
なのに、ここ数年、青イボカメカエルが生息する惑星リオの砂漠地帯では異常気象が続き、多量の降水量が計測されたという報告は皆無だった。
水が無ければ産卵できない青イボカメカエルのその数は減少するばかり。
そして、先日報告されたばかりの「惑星リオにおける特殊生物棲息状況の中間調査報告」上で、その危機的状況が数字に表記され明確となったのが決定打となり、すぐさま、青イボカメカエルは、レッドリストファイル(絶滅のおそれのある生物のリスト)の保護依存種に指定され、銀河連邦環境庁管轄下において、保護計画(個体保護、生息地保全、保護増殖)と人工増殖計画が同時進行で策定されたのだった。
今ちょうど惑星リオの砂漠地帯は冬季を向かえ、青イボカメカエルは産卵期を迎えている。
本来ならば雨期でもある冬季が、すでに砂漠に訪れている──。
そして、環境庁は、ペア解消間近とはいえまだ長期休暇に入っているわけではない自宅待機中の優秀なELGたちをふらふらと遊ばせておくほど人材に余裕などない。
よって、「種の保存法」において青イボカメカエルが保護対象生物と指定されてまもなくのこと、ファラとエスターのふたり宛に、人工増殖に必要な固体、もしくはその遺伝子の採取の出向辞令が発信されたとしても何ら不思議なことではなかった。
青イボカメカエルの捕獲にはその毒液に注意が必要なため、ガードスーツはもちろんなこと、厚手の手袋やガスマスクを必需品とした。
体温調節機能の性能の質に文句たらたらのファラは、自身の念動力でガードスーツの内側に冷気を纏っていたようだが──。
動き易さを優先されたガードスーツは体形にぴったり合うようにデザインされたもので、内側に冷気を纏うにも空気の量に限度がある状態だったため、本来、ファラにとっては容易なはずの周辺空気の温度調節に意外に手子摺(てこづ)ったらしい。
絶え間なく流れ落ちる汗で体内の水分が瞬く間に欠乏していくごとに相反して保水袋が膨れていく砂漠での過酷な作業。
通常装備のひとつである保水袋は非常用飲料水を溜めておく容器で、放出された汗は清浄消毒して精製され、非常用飲料水なって装着者に還元される仕組みとなっていた。
そのような最悪な労働環境とあってはさすがにファラの卓越した能力も鳴りを潜め、ましてや作業時間が経過するのに比例して、ますます心身共に疲労がたまるわ、イラつくわで微妙な調節に手を焼く羽目に陥ったらしく、
「何で俺がこんな苦労をしなきゃならんのだ。一体、労働基準法はどうなってるんだっ」
一見、外面のいいELGは帰宅した途端、その仮面をあっさり脱ぎ捨て、居残り組みの家族に向かって愚痴りに愚痴って出張中に溜まった鬱憤を発散したのだった。
「ELGの指針自体は気に入っているが、砂漠での宝探しは金輪際パスっ」
それがファラの言い分で。
「確かになあ、LR-cd(準危急種保護依存種)ランクの青イボカメカエルの捕獲に、レッドリストファイルの絶滅危惧種最高レベルのCR(近絶滅種)にランク付けされてるセリーア人が狩り出されるってのも何となくヘンな話のように聞こえるけどさあ。
ま、コレはコレで大事なお仕事なんだからさっ。
それに結局、かわいそうなカメカエルが助かるんだからいいじゃんか」
朱里も最初はそう言って、アイスクリームばかりに手を伸ばすファラを尻目に、「砂漠帰りじゃ仕方ないよなあ」と目を瞑(つぶ)っていたのだが──忍耐にも限度があるというもの。
二日目には、「台所を預かる立場上、材料の調達と消費の予定が立たない」と困惑しだし、ファラの冷凍食品(飼い主を庇い、アイスクリームは嗜好品ではなく主食品だと強調してジャックが命名)生活がもう三日目となると、
「俺が作ったもんが食えんのかっ。食いたくないなら作る前にとっとと言えっ」
普段は穏和な朱里もさすがに爆発したのだった。
「ちゃんとご飯作らないとネチネチ愚痴るクセに、そのフザケタ食生活は何だよっ!
これじゃ、作り損じゃんかっ!」
実家に帰らせていただきます、と家出する亭主を見限った妻よろしく、「マックスのところにでも行かせてもらう」と玄関先に向かう朱里を、こりゃ一大事とばかりに慌てたジャックが飛び出して行って、
<オレは朱里のメシ好きだぞ〜。愛しちゃってるぞ〜。
ちゃんと残さず食ってるのに、俺の分はどうなるんだよ〜ん>
クェ〜ン、クェ〜ンと鳴いては羽ばたき、
<せめてドッグフードを買い置きしておいてくれよぅ>
我が身の大切さをアピールしたのが。
「……わかった。おまえにはキャット缶を用意してやる。そんで、その嘴でもって、しっかり自力で缶開けな」
これが怒らずにいられるか、とばかりに朱里の黒い瞳にギロリと睨み返された。
<ひえ〜っ、朱里がァ〜、朱里がァ本気でイカってるぅ〜>
憤然極まりない態度を崩さずの朱里に、
<缶切りに使うだなんてあんまりだァ〜。
オレ様の優美で知られたこの嘴の曲線がヘナチョコになったらどうするんだ〜!
オレは仮にも銀河で名高い星間希少生物のサミュエ種だぞォ〜>
そうジャックが真剣に訴えても、
「見映えより実用重視!
食うかしゃべるかしかできないソレが『缶切り』という必殺技を得ることができるかどうかの瀬戸際だ。
この際、少しくらいひん曲がったところで支障はない。そのくらい我慢しろよっ」
朱里は冷たく一瞥を投げるのみだった。
それが朱里の本気の言葉と早々に察したジャックは押して駄目なら引いてみろとばかりに今度は下手に出る作戦にがらりと掌を返し、
<オレ、もう我がまま言わないっ。朱里が作ってくれるもんなら何でも食うからァ。ねえ、お、ね、が、い。
台所で美味しいご飯作って下さ〜い>
平に平に頭(こうべ)を垂れて、極上の甘い撫で声でもってやっと朱里を引き止めたのが、つい三時間前の話である。
<オレがここまで気を遣ったんだぞ。ファラもいい加減、砂漠の憂さを晴らすの止めたらどうよ>
「我が愛の巣」と心で呼ぶ自宅をちらりちらり振り返りながら、ファラの足取りを何とか緩めようと一応努力するジャックは、「家内安全」をコトのほか愛する平和主義鳥だった。
「俺のは憂さ晴らしなんかじゃないぞ。身体が水を求めているんだ。これはきっと本能だな。
砂まみれになって熱帯乾燥地帯に生息する保護依存種の捕獲に勤しんだ世帯主の俺が、我が家でのんびり潤いを求めて何が悪い?
朱里だって、『お疲れ様』って笑顔で俺の帰りを迎えてくれたじゃないか」
<ああ、そりゃ確かに三日前までは朱里も機嫌良かったさ。
ファラが帰ってくるからって半日台所で夕食作りに奮闘してたくらいだからよォ>
それが今では、ストライキもしかねない勢いだ。
ジャックは己の今後の食生活に不安と戸惑いを隠せなかった。
そんなジャックに反して、ファラのほうは余裕綽々に、「たまには外のを食べるかな」と飴玉を買う気軽さで家を出て行くものだから、焦ったのはジャックである。
<よりによって店まで買いに行くんかいっ。朱里にバレたら火に油じゃんかっ>
「我が愛の巣」において、折りしも寒冷前線通過中のこの最悪な時期になぜまた……、とジャックは原因ともいえる冷凍食品(ジャック命名のアイスクリーム)を買いに出かけるファラの気が知れなかった。
なのに。
「朱里は大丈夫さ」
これまた飼い主サマが気楽に言ってくださるから、ジャックもファラの肩から動けなくなる。
「朱里はあれでもしっかり誇りを持った料理人だ。俺がそう躾けたからな。
絶対、俺たちを餓死させたりなんかしないさ」
<イイねえ。信頼しあっている仲だからこそ言える言葉なんだよなァ、ソレ>
我が飼い主ながらアッパレアッパレと、ジャックは思わずファラの乳白色の髪に擦り寄ろうとした。
ところが──。
セリーア人がサミュエ種をペットにするほど己の上位にいることをジャックがころりと忘れかけ、尊敬の眼差しで飼い主を見た途端。
「仮に俺がくたばったりしてみろ。
やっと見通しのついたELG就任もパア、学費だって生活費だって入らなくなるんだぞ。
ほら、やっぱりアイツが一番困るだろ?
だから絶対、朱里は俺たちに美味いものを食べさせなきゃならないのさ」
美味くなければ食い物じゃない、美味いモンじゃないと食う気が起きないからだ、とファラの自論が続いた時には、すでにがくりとその小さな肩は落ちていた。
脅迫めいたこのファラの台詞を耳にして、期待した信頼関係は今まさに泡に消えたのだと悟ったジャックはもう脱力するしかない。
<はあ……。朱里、今頃何してんのかなあ……。
そういや、『こうなったらカエルの素揚げ攻めにしてやるっ』とか言ってたなァ>
今のファラにはそれはイヤミ以外の何ものでもない。
例えファラが一口も食べないとしても、そして、いくら食材がカメカエルではなく食用カエルだとしても、
視覚攻撃としては充分有効だろうからだ。
<あれで朱里のヤツ、料理人としての根性だけは天下一品だからホント始末が悪いんだよなァ……>
朱里だったら青イボカメカエルさえも上手く調理するかもしれないと、そんな怖い考えがジャックの脳裏を一瞬過(よ)ぎる。
この数時間、台所にこもったままの朱里と己の今後の食生活を案じつつ、ジャックはファラの肩の上で小さく、
<こりゃ、ヤバイぜ……>
クク、クェケケェ……と呟いた。
それからしばらくして、ファラとジャックは散歩から自宅に戻った。
<今、帰ったぞォ〜>
ジャックがクウェ〜ウィと一声鳴くと、台所に篭城していた朱里が居間に顔を出してきて、愛想のカケラもなく、「飯できた」とつっけんどんな口調で同居人たちを食卓へと誘った。
そして、ファラとジャックがダイニングに向かうと──。
すでにテーブルの上には赤や緑の色鮮やかな品々が数多く用意されていて、ひとりと一羽は意表を突かれた。
<これ……。ホントにいいんか、朱里?>
思わずジャックは喉を鳴らして朱里に確認を取ってしまう。
それもそのはず、その器の中にあるのは──。
「コレはトマト、そっちはアボカド。ンで、こっちのはクリームチーズにアロエを入れてみた。
これなら食べれるんだろう? これで食えないってんなら引っぱたくぞっ」
今にも泣きそうな瞳をしているのに、朱里はそれでもファラを睨んでいた。
食卓には野菜を駆使して作ったアイスクリームがいくつも並んで、とろりと食べ頃に溶け出している。
そのほかにも、冷製スープやテリーヌやゼリーなど、たくさんの料理が用意されていた。
涼しげな透けるガラスの皿や器が並んでいるのは、ファラが被(こうむ)った砂漠の暑さを少しでも拭えればと、朱里が敢えて揃えたのだろう。
<今の今までファラがアイスを食べるのあれほど怒ってたってのによォ……>
だから、朱里の激怒の一部始終を知っているジャックとしては、多種様々なアイスクリームを前にして、本当に食べていいのだろうかと一瞬悩んだのだったが……。
どうやら躊躇したのはジャックだけのようで。
「今夜は冷製尽くしの晩餐か。これは確かに美味そうだ」
にやりと笑ってスプーンを握ったファラに、ぱあっと満顔の笑みを向ける朱里。
やっといつもの食卓が戻ってきたようで、ジャックは嬉しくなってしまった。
<朱里ィ〜、オレにもオレにも。オレもアイス食べたいっ>
「ほら、ジャック用はこれ。これって名案だと思わん?>
朱里は薄くて細長いクラッカーにたっぷりアイスをのせてそれをバインダーに挟むと、ジャックの前に差し出した。
「さすがにアイスは挟めないからさ」
満足げな笑顔で、「ほら、食べてみな」と朱里が最初に勧めたのは真っ赤なトマトのアイスクリームだった。
ジャックが一口突ついてみると、冷たい感触の中にさっぱり感と共に拡がる適度な甘みがとても美味しくて。
<ウンメぇ〜>
ぱたぱた羽根を羽ばたかせながら、ジャックはアイスで汚れた顔を朱里に向けつつ、
<コレ、マジにヒットだぞっ。イケルよ、こいつ。生きてて良かった〜ってカンジ?
トマトってアイスに向いてンのなあ>
味わった感動そのままの率直な感想を述べると、何度もアイスに嘴を埋めては歓喜の奇声を繰り返した。
そんなジャックの賛美に照れながらも気を良くした朱里は、
「よ〜し、今度はコイツだ! ジャック、このアロエの粒々が身体にいいんだ。コレ食べろ、な。
きっとおまえの羽もますます艶が出るに違いないぞ。
そんでこっちが終ったらそいつだ。レモンヨーグルトのアイスだぞ。
前にムースバージョンは作ってやっただろ? それのアイス版だ! 美味いか?
ほら、ファラもちゃんと食ってるぞ。ジャックも頑張ってしっかり食べろよっ」
次から次へと皿を勧めたのだった。
そんな久しぶりの和やかな食卓を最後に飾ったのは──。
「ほれ、『チナム』の新作。今回のは『りんごのクラムケーキ』だったぞ。おまえ、クラム好きだったろう?
クラムのブドウパン。おまえ、一時期はあればっかり食べてたよなあ」
「ああ、カスタードクリームが入ったアレね。うん、俺、今でも好き」
バターと砂糖と小麦粉で作られるクラムはぽろぽろっとしていて食べづらい、と文句を言いつつも、朱里はそのパン屋に行くたび、決まってクラムのブドウパンを選んでいた。
ジャックがそんな朱里の好みを思い出したのは、アイスクリーム屋と同じ並びで営業している手作り菓子店「チナム」のショーウインドーの中の「新作」の赤い文字に目を止めた時だった。
ファラがアイスクリーム屋の前を通り過ぎ、迷うことなく、朱里お気に入りの「チナム」に足を踏み入れた時、
<ああ、さすがにファラは朱里の扱いを良く心得てるわなあ>
ジャックは何も言わない飼い主の一挙一動に心が震えた。
<気にしてるくせに平気な顔しやがってさ。ッたくよォ>
様々な種類のケーキが並ぶショーケースの前で顎に拳を当てて考え込むこんなファラの姿を、朱里は見たことがないだろう。
そして、そんなファラの一面を目にすることを許された自分自身の存在価値。
それを誇りに思いながら、今日もジャックは、
<待て待てぇ〜ぃ。オレにもケーキ食わせろ〜っ>
白い翼をバタつかせて、アレ食いたい、コレ食いたいと駄々を捏(こ)ねてはお腹をヘンに膨らませる。
「おい。食うのはいいが、産卵前のメスと思われるのは勘弁だぞ」
飼い主のそんな手厳しいいつもの忠告を、これまたいつものように耳を塞いで。
<太るのが怖くて、食ってられっかァ〜っ>
情にも弱いが、食欲という名の誘惑にも滅法弱い小姑鳥ジャック(♂)。
今日も感情豊かなサミュエ種の鳴き声が、ふたりと一羽の「愛の巣」に響きわたる──。
おしまい
illustration * えみこ
*** あとがき ***
最後まで、お付き合いしていただき、ありがとうございます。
えみこさまより頂いた素敵なイラストをもとに書いたこの「アイスる我が巣」、いかがでしたでしょうか?
このお話はmoroのオリジナルSF「使徒星の住人たち」の続編にあたります。
主人公はジャックです。一応……(笑)
このお話のあと、エステル・ストマー組は解消、ファラは朱里と新ペアを組むことになりますが、
さてさて朱里はすんなりファラとペアを組むことができるでしょうか。
えみこさまとの初めての合作、とても楽しく書かせていただきました。
えみこさま、素敵なファラ&ジャックを本当にありがとうございました〜(お辞儀)♪
by moro
moro*on presents
この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
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