遠い日の見果てぬ夢



  夢を見た。
俺のことを「朱里」と呼ぶ、黒髪の男の夢を……。

「フラレれちまったな」

俺に向けられる、夕焼けで赤く染まったその笑顔がとても眩しかった。

おいて行かないで。
一緒に連れてって──。

俺は一心に望んだけれど、俺の声は届かなくて。
男は天使に連れて行かれてしまった。

せつなくて、哀しくて、寂しくて。
胸が苦しくなって、思わず何かを叫びながら、俺はもがくように飛び起きた。



「どうした? おまえ、唸されてたぞ」

あの夕焼けの空は、もうどこにもなかった。

代わりに、目の前にひろがる乳白色の色彩を見つけて、安堵の溜息が思わず漏れる。

そこは我が家の寝室で、見慣れた天井といつもと変わらない寝台があった。

枕元に眠るジャックの温かい身体もいつもと同じ。
隣りにファラがいるのもいつものことだ。

「食いすぎた夢でも見たのか?」
「……何でもない」

からかうようなその口調も、これまた聞き慣れたもの。

だから、大丈夫。
俺は再び、あの眠りの海へと沈んでゆける。

「安心しろ。おまえは俺が連れて翔んでやるから。
おまえはもう、地上に取り残されることはないんだ」

ファラの声が深い海の底から泡のように海面へと浮かんでゆく。

「さあ、おやすみ」

その優しい泡に包まれながら、深く深く俺は沈んでゆく。



そして、眠りの狭間で朧気に。

「あの遠い日は二度と帰って来ない──」

そう呟く俺自身の声が聴こえた。


「使徒星の住人たち」シリーズ



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