家に帰ってからずっと浮かない顔をして。
自然と目線は下がって、うつむき加減に一点を見ている。
今日の仕事を振り返って、あれはこうしたほうがよかったとか、こうすべきだったとか。
いつもだったら、悩みながらも反省する時は八つ当たりするようにぼやき倒すのが本来の朱里なのに。
今日のこいつは黙りこくって、こっちを振り向きすらしない。
「おい、何か悩み事でもあるのか?」
朱里の想いにふけった気だるい顔を見ていること五分。
親切心で訊いてやったのに、
「どうせファラに訊いても、これっていう的確な答えなんて返ってきやしないんだから」
そう言って、次の瞬間にはまた考え込んでしまう。
ちらっとこっちに目を向けたとしても一瞬だけ。
馬鹿にしたような、呆れたような、そんな目を向けてきた。
おまえ、それはないんじゃないか、と言いたくなるほど素っ気ない態度。
そんなに俺は頼りにならないか?
「とりあえず言うだけ言ってみろよ」
「ヤダ。時間のムダ」
「そんなの言ってみなきゃわからないだろ」
「わかりきってるから言いたくないんだよ」
強情なのは生まれつきか。
それとも俺の育て方が間違っていたのか。
「ファラに訊くくらいなら、まだジャックのほうがマシだね」なんて、
そんな言い草、許せるもんか。
「言い加減にしろ、朱里。俺に出来ないことがあると思ってるのか!」
自慢じゃないが、俺は器用なんだ。
やれば何だってうまくこなせる自信がある。
ただ、面倒だからしないだけだ。
その俺に向かって、ムダとは何だ、ムダとは。
そうさ、俺にできないことなんて滅多にないんだからな──。
だから、俺はふんぞり返りながら言ってやった。
「言ってみろ、朱里。この俺が最高の答えを返してやるぞ」
すると朱里はだるそうに顔をあげて、じと〜っと恨めしそうに見つめてきた。
「ホントだな。信じていいんだな」
念を押すように、縋る目で視線を合わせてくる。
ああ、と自信満々で答えると、
途端、朱里はくわっと口を開いて、弾丸のように言い放った。
「だったら、何でもいいなんて言うなよ! 毎回、夕飯を考える俺の身になれって!
何でもいいなら俺が出したメニューにケチつけんなっ!
食べたいものがあるんなら先に言えっっ!!!」
「……なるほど、そういうことか」
そういうことなら俺の出番はないな。
そそくさと綺麗に無視を決め込んだ俺だった──が、
「腹、へったな」とつい零してしまったのは、やっぱり失敗だったかもしれない。
気がついたら、キャットフードと鰯の蒲焼の缶詰が夕食時の食卓の上に山積みされていた……。
どこでどう間違ったのだろう。
「おまえが作ったものなら何でもいい」
……そう言ったつもりだったのに。
我が家の非常食をフォークで空しく突きながら、ジャック相手に、「まったくなあ」と愚痴をこぼす。
「こっちの言葉はホント難しくて困るな」
「使徒星の住人たち」シリーズ
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