天国で、「おやすみ」


発病の事実を知らされた時、
「まさかだろ?」と「やっぱりな」が頭の中を渦巻いた。

やるせなさに拳を固く握り締めると、
どこかで今まで信じていたものが、プツッと途切れる音が聞こえた。

「何で俺が」と世界を恨み、少しだけ泣いて、少しだけヤケになって。
運命を恨み、蔑み、嘆く心を綺麗に隠しながら、「俺は大丈夫」と口癖のように呟いた。

世界はとても非情で、誰がどんな目に合おうといつものように陽は昇り沈んでゆく。
「何も変わりやしない」のだと振舞うのはひどく安易なことだった。

だけど今は──。

すごく穏やかだ。何もかもが凪いでいる。

指に絡みつく長い乳白色の髪。規則的に繰り返す安らかな寝息。
触れる人肌の温かさ。

「この現実も満更悪かねえな」

天使がいる場所が天国だと言うのなら、まさしくここもそうなんだろう。
あの時はこんな日々が訪れるとは想像もしなかった……。

とはいえ、だ。

「イテッ!」

こう、たびたび蹴られると、
「本当にわざとじゃねえんだろうな?」と疑いたくなる。

「コレが口説き落とした夫への仕打ちかよ?」

たまに地獄に引き摺りたくなる気持ちをぐっと抑え、
「ったく、しゃーねえなあ」
今夜も華奢な身体をそっと抱き締めて眠りについた。

「おやすみ」

いろいろ苦労はあるけれど、俺しか知らない天国での眠りは意外と気持ちがいいもんだ。
ほら、天使がキスしてくれる夢だって簡単に見れるしな。


「使徒星の住人たち」シリーズ 「きみが片翼」



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