「あれ、あの娘……」
パーティッションで区切られたテーブルの向こう側に男女の寄り添う姿が小さく見えた。
オーウェンは隣りの仁にちらりと目をやり、見知った女の子の不可解な行動を訝しむ。
「何だよ、オーウェン。さっきからじっと見つめやがって。気持ち悪ィなあ」
そのうち、仁も遠目のふたりに気がついて、
「ああ、アレか」
小さな溜息をひとつ吐き出すと、すっと視線を逸らした。
そうして、「仕方ねえよ」の呟きのあと、
「俺は優しくねえってさ。それに怖いんだと。
一緒にいてもずっと緊張しっぱなし、もう耐えられないって言われちゃどうしようもねえじゃん?」
もういいんだ、と仁は口端で笑った。
「好き」という言葉を最初に投げてきたのは彼女だった。
オーウェンと並んで歩いていた仁を呼び止めて、
「話があるの」とロビーの端に連れ出しての告白だった。
それなのに、いつの間にこういうことになってしまっていたのだろう。
仁は優しくないわけではないし、横暴でもない。
ただ、少し自分に素直になるのがヘタなだけだ。
照れ隠しなのか、決まって言葉が突き放すようになってしまう。
そんな仁に慣れない相手には彼の口の悪さだけが目立って真心が伝わりにくいのかもしれない。
……だからこそ。
「私が言うのも何だけど。彼女たちって見る目ないねえ」
「慰めなんかいらねえぞ。引き止められない俺もいけねえんだからさ。
だってよ。本気で好きなら見栄も誇りもかなぐり捨てて、行かないでくれって言えるはずなんだ。
なのに、それが言えねえってことは俺の気持ちがそこまでいってないからだもんな。
そんな中途半端な俺といるより、彼女だって、本気で大切に思ってくれる男のほうがいいに決まってる。
だから、もういいんだ」
来るもの拒まず、去るもの追わず。
まるで孤独から逃げようとするみたいに、仁は寄せられた想いを無下にしない。
そして、例え、ひとり取り残されても文句を言わない。
「仁……」
いつかきっと、仁だってどんなことをしても手に入れたいと思えるような娘と出会うだろう。
今はそういう相手とまだ出会ってないだけだ、と思いたい。
だから、その「いつか」が来たら、その時はその娘を精一杯仁が幸せにしてやればいい。
「ねえ、仁。一度失敗した私が言うことじゃないかもしれないけど……。
愛する人と一緒に生きてゆくってのは結構いいもんだよ?」
「おいおい、俺に結婚を勧めんのか? 相手もいないってのに?
ったく、何を言い出すかと思えば……。
あのよ、そんな奇特な相手がこの銀河にいると本気で思ってんのか?
どうせ、ついていけねえってまた言われるのがオチさ。
第一、俺、別に結婚なんて興味ねえし。おまえと楽しくやってければそれでいいさ」
仁の視線がふいに揺れて、幸せそうに微笑む彼女に向けられる。
「今度の彼氏はチビだってバカにされねーようだな。よかったじゃんか」
強がりなのか、本心なのか。仁の本心はオーウェンにも読めなかった……。
それは何度目かわからない仁の失恋の日。
それがどんな恋であったとしても、
これもまた、ひとつの「決別」であったことに変わりはない──。
「使徒星の住人たち」シリーズ 「きみが片翼」 五年前
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