ああ……、ぼくはやっぱり諦めきれないんだ。 ぼくのものにならなくてもいい、なんて口で言いながら、その実、ぼくを置いて逝くことを許せないでいる。
──ああ、シン! きみを放したくない……!
心に嵐が吹き荒れる。抑えられない溢れ出る気持ちが、風となって心を揺さぶる。
──いけないっ! このままじゃ……、心を強く保たなければっ!
「ルティエ、顔を上げろっ。まわりをちゃんと見るんだ。
心を落ち着かせるんだ。おい、聞こえてるか。オレを見ろ、ルティエ!」
異変を察知したのか、息を切らして駆け付けたシンは水浸しになるのも構わず、
ぼくの肩を掴み、揺すった。
「おまえのオッドアイは今のオレには効かないっ! だから構わずオレを見ろっ!」
その言葉につられて、ぼくが顔を上げると、
頬を伝う涙に驚いたのか、シンは一瞬、目を見開き、
それからゆっくり腕を背中に回して、強く、強く、ぼくを抱き締めた。
「落ち着け。大丈夫だ、オレはここにいるから……」
「カンギール・オッドアイ」シリーズ 眠りの卵 vol.5より
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