「ペインクリニックとは「「痛みの外来」」です。いろんな痛みを医学的に診断した上で、痛みの治療を行います。痛みの原因を取り除くことが第一ですが、痛みの中には、原因のはっきりしないもの、現代の医学では原因を取り除けないものが多くあります。痛みを我慢し、放置しておくと痛みが強くなり、慢性化して、身体的、精神的に悪影響を及ぼすことがわかってきました。痛みを和らげることが必要なのです。当院では神経ブロック、物理療法、薬物療法、東洋医学的方法を用い、総合的な痛みの治療をおこないます。頭痛、腰痛、五十肩、神経痛、帯状疱疹ほか、体中のほとんどすべての痛みや顔面神経麻痺、突発性難聴についても御相談ください。
首、肩、腕が痛いといって病院に行くと診察、レントゲン検査で、原因が診断されます。原因は大まかにわけると、頚部椎間板ヘルニアや胸郭出口症候群といって神経が障害、圧迫されたもの、頚椎症、肩関節周囲炎(五十肩)のように骨、筋肉、腱や靱帯の変性や炎症を起こしたものなどです。ふつう、症状の軽いものは投薬や理学療法で様子を見ますが重症例では手術が必要になります。しかし、手術をやる前にやってみる価値があるのが神経ブロック療法です。胸郭出口症候群といって一番多くおこなわれるのが星状神経節という頚部にある交感神経のかたまりに対する注射です。この部位に局所麻酔剤を注射すると頭部、頚部、腕の毛細血管の血の流れが良くなります。神経が圧迫されて痛みが起こる原因の一つに血流の低下による神経の炎症や腫れがあり、星状神経節ブロックにより局所的の血流が改善することにより、神経の腫れがおさまり、症状を改善させることができるのです。
大多数の方が一度は経験するのが腰痛で、最近よく見られるのが腰を作っている骨、筋肉、椎間板が運動不足や老化現象によって弱くなり、負担に耐えられなくなって起こってくるものです。
腰の痛みで病院を訪れますと整形外科やペインクリニック科ではまずお話を聞き、必要な検査をして、治療を始めます。ペインクリニック科では手術をすることはありませんので、診断や治療をすすめるなかで手術が必要な場合は入院施設のある整形外科に御紹介します。整形外科は基本的には外科が専門ですが、外来でおこなう治療は温熱療法、牽引療法、貼り薬、飲み薬が主体です。ところが、これらの治療でなかなか効果がない場合は整形外科での治療をあきらめ、接骨院やカイロプラクティック、鍼灸院に行って治療を受けていると思われます。
ペインクリニック科を受診してほしいのはこのような方です。ペインクリニック科は体のどこでも痛みを感じたときにまず受診していただきたい病院ですが、今まで整形外科を受診したがなかかな改善しない場合、鍼灸院などでも効果のない場合等でもあきらめないで下さい。ぜひ一度ペインクリニック科にご相談して下さい。
星状神経節は、首のやや側方に位置しており、頭、顔、頸部、上肢、上胸部の交感神経を支配しています。 この神経が働くのは、怒ったとき、痛いこと、怖いこと、びっくりしたときなどで、手が冷たくなったり、手や顔に冷汗をかいたりします。星状神経節に局所麻酔薬を注入してブロックすると副交感神経優位となり支配領域の抹消血管が拡張し血流が改善します。
ですからブロック後は、目が充血したり、鼻が詰まったり、顔が火照ったり、手が暖かくなったりします。 治療の効果として現れるこれらの症状は、1時間ほどでもとの状態に戻ります。首の周りの神経に
薬がもれるとまれに腕がしびれること、声がかすれることがありますが、1時間ほどでもとの状態に戻ります。
若杉文吉先生(武蔵野病院名誉院長)は長年、星状神経節ブロックを研究され、この神経ブロックを繰り返して行うことにより、以下の多様な疾患に有効性があることを発見されました。
星状神経節ブロックの適応
・脳への血流改善は自律神経の最高中枢に影響を与えるため、自律神経失調症の治療に適応となります。
・脳血流の調節異常により引き起こされる偏頭痛や、その他の頭痛顔面痛の治療に適応となります。
・抹消性顔面神経麻痺はストレスなどによる血流障害が原因と考えられており、星状神経節ブロックの適応となります。
・アレルギー性鼻炎では、交感神経の過緊張が症状を悪化させていると思われ、星状神経節ブロックの適応となります。ブロック後に一時的に鼻が詰まりますが、一時間ほどで鼻が通るようになります。
・三叉神経、頸神経、胸神経(上胸部)領域の帯状疱疹では、星状神経節ブロックの適応となります。血流の改善により、帯状疱疹の痛みの原因である血管炎や神経障害を抑えます。
・その他、反射性交感神経性萎縮症等、幅広い疾患に適応となります。
具体的には
1)痛みのある疾患
a) 頭部顔面 : 片頭痛、群発頭痛、筋緊張性頭痛、非定型顔面痛、症候性三叉神経痛(三叉神経領域の帯状疱疹後神経痛、副鼻腔炎後疼痛、抜歯後痛など)、舌痛症
b) 首・肩・上肢 : 頚椎椎間板ヘルニア、頸部神経根症、変形性頚椎症、外傷性頸部症候群、頸肩腕症候群、胸郭出口症候群、肩関節周囲炎、反射性交感神経性ジストロフィー、カウザルギー、幻肢痛、断端痛、閉塞性血栓血管炎、閉塞性動脈硬化症、レイノウ病
c) その他 : 帯状疱疹、帯状疱疹後痛、癌性疼痛
2)痛みのない病気
顔面神経麻痺、突発性難聴、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、網膜血管閉塞症、角膜潰瘍
神経ブロックというのは脳脊髄神経、交感神経、末梢神経の周りにおもに局所麻酔剤を注入して、神経の働きを一時的におさえる方法です。いろんな神経のブロックがあり、施行の難しさ、効果の程度、痛みを抑えるか、筋緊張をとるか、自律神経を抑制するかなどかなり多様です。
ペインクリニックで使用する神経ブロックは痛みの感覚を抑える作用と交感神経の働きをおさえる作用を利用します。
局所麻酔薬は一時的な効果しかないものですが、神経ブロックを行うと薬剤の作用時間が消失したと思われるのにもかかわらず、それより長い時間の除痛後果がえられます。これは痛みの作り出す悪循環を遮断するという考えで説明されています。
”痛み”の悪循環を断つには
人はいろんなことで痛みを感じます。たとえば、手をナイフで切りますと痛いと感じます。それだけではなく体が自動的にいろいろな反応を起こします。痛みにより交感神経が刺激され、血管が収縮して血を出にくくしたり、冷汗を出したり、筋肉を緊張させたり、血圧を上げたりします。このような反応も痛みの原因である手の傷が治ればなくなってしまいます。
しかし、慢性の腰痛、肩こり、頭痛、神経痛などのうち、原因を取り除くのが難しい疾患の痛みもあります。たとえば、首の骨の変形のため肩が凝って痛いとします。このような痛みに対しても交感神経が働き、血管を収縮させ、筋肉をより緊張させたりします。肩の筋肉の血量は減り、筋肉から老廃物が運び出せず、そのため痛みを起こす物質がふえて、痛みがなお強くなります。これが痛みの悪循環で、痛みを治療するにはこの悪循環を断ちきることが重要です。痛みの診療を専門とするペインクリニック科(麻酔科)では痛みの悪循環を断つのに、鍼、マッサージ、温熱療法のほか、神経ブロックも施行することができます。痛みを感じる神経や、悪い反応を起こす神経の働きを局所麻酔剤で一時的に遮断し、痛みの悪循環をたつことが可能です。