森の恵みと沢にひたるツアー
ツアー記録
目次へ



特注仕事目次へ
地質調査総合センター・登攀研修応用編
のようす(注:長いです)
 ゴルジュの多い沢の踏査を安全に行うための研修を行った。下田川内のような、全体にゆるやかだが源頭や側壁がきびしい多雪地帯を想定した。初級でやらなかった泳ぎや渡渉の他、残置支点のない雪国での登攀と懸垂下降、ビバークの練習を行った。
 
2008年7月14日(月) 泳ぎ、渡渉、三角法、ビバーク
15日(火) その他ゴルジュでのテクニック
16日( 登攀、懸垂下降、ビバーク
17日( その他緊急時対策、雪渓通過
A ゴルジュ
A1 泳ぎ
通常は平泳ぎでよい(好みでクロールでも)が、流れが強い場合は側壁に沿ってホールドやフリクションを利用して進む。横泳ぎのようになるのを通称「ヤツメ(ウナギ)」と呼ぶ
右(左)岸から左(右)岸に移ることもある。その際、泳ぐだけでなく飛び込んだ勢いを使うこともある
はいあがる(上陸)のが難しいこともあるので、あらかじめルートを2,3考えておくとよい
つかっている時間が長いと冷えて消耗する。日当たりのよいところで十分休む。
ウェットスーツがよい。カッパを着る(すねスパッツはその上から着ける)と冷えにくい。ただし水がたまるので随時水を抜く
ザックが浮いて頭を押さえつけるので、ウェストベルトを外し、肩ひもをゆるめてザックを横(斜め)にする
ヘルメットも頭を押さえつけるので、ザックにしまうか外に付ける。
ただし流されたりして岩に頭をぶつけそうなときはかぶっておく

ザックは浸水するので、水抜き穴をあけておく。ザックの内側にはまず防水袋を入れ、さらに濡れて困るもの(服、シュラフ、食べ物など)は個別にビニール袋に入れるなど防水しておく
A2 泳ぎでのロープ使用
トップが泳いで行ければ、後続は引っ張ってもらえば楽々である。ロープ使用は登攀では安全確保が主だが、泳ぐ場面では大変スピードアップ&体力温存できる。

3人以上でロープが泳ぎ長さの2倍以上あれば、中間にエイトノットを作って往復させる(通称ピストン)。その際、エイトノットにハーネスをつないでもよいが、手でつかむだけのこともあり、ザックを結んでその上に体を乗せるととても楽だ(が、ザックの浸水はひどい)

流れがゆるければロープを固定して後続がたぐっていっても早い。ただしロープが流れの中で岩にひっかかったりするといけないので、最終者は末端をつけてひっぱってもらうのを原則とする(登攀と同様)

トップが泳ぐのに水流がきつい場合はザックを置いて空身で泳いだ方がよい。後でザックをロープで引く(これに後続がのっかると早い)
A3 チョックストーンや短い滝ののっこしなど
フリーで登れない場合、クラックにハーケンやカムをセットし、スリングをつかんで登る(A0)。カムは外すのも早く、有効である
一人が踏み台になり、肩や背中(ときには頭)を踏んづけて登る(通称「ショルダー」)
大変有効である。頭を踏む場合はヘルメットをかぶって岩に押し付けて安定させるとよい
1/2引き上げ。上側でロープ一端を固定し、引き上げられる人のハーネスのビナに通して、他端を引く。引くところは確保器を使うとよい。引き上げられる人が固定端側ロープをつかんで(「ゴボウ」)体を持ち上げ、その間に引くとうまくいった。ビナを通すところに滑車を使うとかなり楽だ。

1/3システムなどもあるが、滑車がないと実質的に楽にならないので、短い段差では1/2引き上げが簡単だ
へつりでは、高く登るか水際を歩くか迷ったら下を選ぶと安全だ。流れや雨のために水面下が見えなくても、水中ホールドがあったり、案外浅くて歩けたりすることも多い
B 渡渉
B1 スクラム
流れの強いところを渡るのに、スクラムを組む。一人で不安定でも、他の人が安定していれば流されない。
2人だと横に組む。きびしくなければ相手の肩ひもを近い方の脇のあたりで持つ。きびしいときは肩を組み、できれば遠い方の肩ひもの上部をつかむ。
3人だと、きびしくなければ2人の延長で横1列に組む。きびしいときは、2人組の後に1人が付いて三角形にする。

声をかけあって安定を確認しながら進むのが重要で、自分が不安定なら「待った」とか言って、他の人が安定しているのを確認してから動く。不安定なまま進んではいっしょに流される。

またパーティのスピードを決めるのは遅い人(弱い、疲れているなど)なので、先行者が一人で行かずに遅い人を待ってスクラムを組むのが重要。
B2 三角法
(3人の場合)
ロープで確保して渡渉する方法に、三角法がある。
トップは上流からのロープに支えられて進み(振り子的)、万一流されたら下流に引き寄せる。

図でトップはハーネスにロープの中間を固定し、上流は確保器で長さを調整してやる。下流も確保器で練習したが、流されたときにすばやく引けなかった。下流は手だけか、肩がらみ・腰がらみがいいだろう。なお上流確保者はセルフビレイを取ったほうがよく、流れが強いときは下流も取ったほうがいい。
トップが渡ったら両岸にロープを固定する。セカンドはそれにカラビナを通して渡る。流されたときにロープをつかめるよう、ハーネスとの接続を長すぎないようにしておく
きびしくなければ上のやりかたでいいが、きびしいときはラストもトップのような確保をするため、次のように「末端交換」しておいてロープが2本ある状態でセカンドが渡ることになる
末端交換

トップが渡ったら、支点を取り(あやしかったらそこをセルフビレイにしてボディで)ロープをカラビナに通す。対岸のふたりが寄り、ロープ末端を結び、同様にカラビナに通す。合図して結び目をトップ側に渡す。

そこでロープを固定してセカンドが渡る
セカンドが渡ったら末端をほどいて上流下流に広がり、トップのときと同様に三角形を形成してラストを渡らせる
これをフルセットで使う機会は多くはないが、ロープに頼ると安定するということ、流されたらやや下流から引き寄せるということは使うことがある。慣れないと面倒くさそうに見えるが、練習しておけばすばやくできる。
C 登攀
C1 支点とビレイ方法
ゲレンデと違い、支点を自分で作らねばならない。

雪国で多用する、安心できる支点は、かん木にスリングをタイオフ(ひばり結び)やプルージックで固定したものである。生きたかん木(葉っぱが付いている)なら5cmも太さがあれば通常は問題なし。雪で倒されて横や下を向いているので、滑り落ちないようにふたまたやこぶの上を締め付ける。
この場合スリングはセカンドの確保や懸垂下降なら5mmでよい。
大岩に長いスリングをかけたり、チョックストーンもよい支点だ。

それらがなければカムやハーケンを利用するが、できれば2つ取りたい。


しかし(安心できる)支点が適当な場所に作れるとは限らないのが、クライミングの教科書とは大きく異なる

基本はセルフビレイをとってのボディビレイ(ハーネスから出した確保器の意)。
写真は後に打ったハーケン1つでセルフビレイを取り、座り込んで足を踏ん張りフォロワーをビレイしているようす。傾斜がゆるければセルフなしでやることもある。
アッセンダーで登らせる場合のフィックスも同じ。
これはトップの確保でよい支点がなく、座り込んだ姿勢でボディビレイをしているところ。傾斜がゆるくて墜落の衝撃が小さく、またビレイヤーが引かれたときにゆるやかに斜面に引きこまれると考え、これで耐えられると判断したもの。
墜落の衝撃を考えて現場に合った工夫をする必要がある。
C2 3人パーティの確保システム
2本ロープを使用する場合、支点をたくさん取れないときはツインロープシステム(ランニングにロープ2本とも通す)にする。このときはそれぞれのロープでセカンド、ラストを確保する。
原則としてセカンドがランニングを回収するが、ラストに残すべきときもある。
(写真はカメラマンを入れて5人パーティのリード場面。雪渓上のカスが岩に残っており、ブラシでそうじしたかった)
ロープ1本で登る場合、トップが登ったらロープをフィックスし、セカンドがアッセンダーで登り(原則ランニング回収)、ラストは末端で確保されて登るのを基本とする。場合によってはセカンドを中間エイトで確保とかもあるので、登る前に予想してやり方を話し合っておくことが重要。離れてしまうと声は聞こえない。笛で合図するが複雑なことはわからない。無線利用が有効だ。
アッセンダーは使用することがわかっていれば、アセンションなどのしっかりしたものが望ましい。が、軽量化のためなどもあり、タイブロックなどの軽い器具、プルージック、カラビナバッチマン、ヘッドオンなどを利用する。ロープ径のほか、硬さや毛羽立ちで効き方が違うので、出かける前にメインロープとスリングで試しておき、また実際に登る前にも体重をかけて確認したい。

セカンドが登っているとき、ラストがロープを引いてやるとアッセンダーを進めやすい
C3 その他:落石、絡み、トラバースなど
石が不安定に斜面上に止まっていることがある。これは雪渓が融けて残ったのだろう。

トップが登った後や懸垂下降の前に落としておくこともある。
今回はロープが絡んでそれをほどくのにずいぶん時間を取られた。絶対に避けるというわけにはいかないが、ロープをほどいてから乱れないように地面に置いたり、末端を取り出すときに注意したり、登る前に確認したり(リードとビレイヤー以外で手のあいた人がやるとよい)、気を配りたいものである。
急なブッシュ・草付きの巻きトラバースでは、トップがフィックスしたロープにビナを通して通過する。ピッチを切る時は各自ハーネスからセルフビレイを取る。
D 懸垂下降
基本はかん木にタイオフしたスリングを残置支点とし、ロープを通して下降する。
2本を結んで使うときは、末端をそろえて束ね結び。末端は長めに出す。
ロープは末端を束ねエイトで結び、支点を通して末端からそろえていき、50mなら2つにわけて束ねる。セルフビレイをとり、まず支点側を投げてから末端側を投げると遠くに飛ばしやすい。
直下の傾斜がゆるい、段差がある、ヤブがある、などでひっかかるときは最初の人がロープをかついで少しずつ繰り出しながら下降する
ロープが落石を起こすことも多いので注意
E ビバークなど
宿泊はテント、タープ、緊急用でツェルト
一晩やりすごすだけならシュラフカバーだけというのもあり
晴れていれば川べりの砂地が快適だが、増水すると危険。地形や天候を考慮して判断する
テントは平らなところがあれば設置が簡単だが、斜面に避難した場合は困る
タープは軽くて開放的で、斜面でもなんとか張れるが、設置に手間取る。写真は向こうの岩壁にハーケンで支点を作ってロープを固定、手前は棒を拾ってきてロープを2方向に引っ張って固定し、その上にタープをのせて張ったもの
濡れた体を温めるにはたき火がよい。この日はにわか雨のあとに火を起こした。料理もFDを活用し、たき火と鍋一つでやった。予定の宿泊ならコンロを持参するが、たき火でケチらずに火を使えるのはうれしい。
緊急用品(ピンチパック)として薬やテーピングテープ、非常食を持参する。F氏は極軽量のヘッドランプを、鍋として使えるアルミケースに入れている。日帰りでも持ち歩くため、ヘッドランプを入れているのだ。