ハーシェル関連史料
「カロライン・ハーシェルが発見した彗星」への追記


[1] 35P

 カロラインが見つけた彗星に35P/Herschel-Rigollet(ハーシェル・リゴレー)というのがありますが、この35Pは周期彗星の登録番号で、この彗星が周期彗星として登録された35番目であることを意味します。2回以上の近日点通過が観測されて軌道要素が確定し、周期も明らかになった周期彗星には、確認された順によって番号がつき、その後にPと書くことが1994年の国際天文学連合の総会のときに新たに決められ、1995年に出版された彗星軌道のカタログの第10版からそのようになりました。1PはHalley(ハレー)彗星で、2PがEncke(エンケ)彗星というようになっていて、1938年に34番目のGale(ガレ)周期彗星が確認され、その翌年に35P/ハーシェル・リゴレーが確定するという巡り合せになったのです。

[2] ハーシェル・リゴレー周期彗星の周期より長い周期の彗星には、どのようなものがあるか

 たった1回の近日点通過の観測しかなく、計算では周期がわかっていても、それだけでは周期彗星とは確認されません。2回目の近日点通過が観測されて、その軌道要素や周期が確実なものにならない限り、周期彗星の登録番号はつきません。

 恒星の既知の位置を基にして測定される彗星の位置には測定誤差はつきものですし、また基準になった恒星の座標系そのものにも、系統的な誤差が必ずあります。従って数カ月、長くても数年の期間の位置観測から、数10年あるいは100年を越える長い周期を正確に決定し、次回の近日点通過の日時を予報することは、かなり困難なことです。そしてこの期間に、彗星の運動には木星などの惑星の引力の影響が働いていて、彗星の運動は絶えず変化しています。これを惑星摂動の影響というのですが、これには惑星の質量や位置が正しく分かっていないと正確に計算することはできません。今でも惑星の質量や位置にはある程度の誤差があります。しかも惑星は木星だけではなく、その他にも大惑星といわれる天体がいくつもありますし、小さい「小惑星」も、なんらかの影響を与えていると考えられます。

 というようなことで、2回以上あるいは何回も近日点を通り、その度に位置観測が行われて、やっと周期彗星の存在が確認されます。

 ところで、今のところ、周期が100年以上200年末満で、その内に第2回目の近日点通過が観測されるだろうと期待されている彗星には次のようなものがあります。彗星名と周期を掲げておきます。

C/1998Y1 (Linear) 108年 C/1999G1 (Linear) 133年
C/1889M1 (Barnard 2) 145年 C/1917F1 (Mellish) 145年
C/1984A1 (Bradfield 1) 151年 C/1937D1 (Wilk) 187年

 なお、周期135年で、8月のペルセウス座流星群の母彗星である109P/Swift-Tuttle(スウィフト・タットル)という周期彗星があります。周期が100年以下でまだ確認されていないものや、200年以上の周期が計算されている彗星はこの他にたくさんあります。

 先にも書さましたように35P/ハーシェル・リゴレーが確認されたのは、カロラインがこの彗星を1788年つまり今から200年以上も前に発見していてくれたおかげと思います。リゴレーが1939年に偶然発見してくれていたこともありますが、カロラインが発見していなくて、リゴレーの発見が最初ならば、まだ周期彗星であることは確認でさていません。

 2P/エンケは、1795年にカロラインも発見していましたが、このエンケ彗星の周期は3.3年と短くて、度々近日点に帰って来ますから、カロライン以外の誰かが必ず見つけていたと思います。

日本ハーシェル協会ニューズレター第106号より転載

 協会会員でもある七宝作家・飯沢能布子さんの「カロライン彗星の七宝作品」もご覧ください。


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