隼の眼
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パ―――――――――ン! パシィ―――――――ン! 「キエ―――――――――イ!」 「ッタァ―――――――――!」 体育館のあちらこちらで竹刀の重なり合う音と気合いの入った声が飛び交っている。 バシ―――――――――ン!! 「ッドォ――――――――――ォ!!」 稲妻が走るかの如く一瞬の切れを見せる竹刀。 雷鳴が轟くかの如くひときわ響き渡る声。 さざなみのようにざわめきが立つ。 体育館にいる人間の視線は、一人の浅黒い肌を持つ少年へと集まっている。 刹那、少年の竹刀が再び綺麗な弧を描いて相手の面を捕らえた。 「・・・スッゲー・・・」 「・・・今の動き、見たか・・・?」 「あっちゅう間やったなぁ・・・」 「相手、すくんどったで?」 「俺昨日いっぺん組んでもろたけど、相手の気持ちようわかるで」 「そんなに凄いんか?」 「ああ。何っちゅうたらええんやろ? せやなあ、獲物を捕らえた隼みたいやで」 「隼って見たことあるんか?!」 「ない!」 「・・・あんなあ」 「でもホンマにそんな感じやで? 別に鷹かて虎かて獅子かてそんなん何でもええ。 とにかく組んでみたら一発でわかるで」 「泉心の沖田とどっちが強いんやろ?」 「さあなあ。アイツとは組んだことないからようわからへんけど、飄々としてるんに どっこも隙があらへんからな。服部とはまた違う強さやろなぁ」 空がいつのまにか高くなった。 街の木々が色づき始めた。 心地よい風が吹いている昼下がり、大阪市内のある体育館は剣道具を身にまとった高校生で 溢れ返っていた。 そこでは3日間の連休を利用して剣道部の地区合同練習が行われていた。 今日はその最終日。 午後からの練習ということもあって、互角練習が始まる頃にはもう太陽が傾き出していた。 「なあ、ちょー休憩させてや」 先程から凄まじい切れを見せていた彼は、一息つくために自分の仲間がいる方へと戻って行く。 「合同練習でもない限り改方の服部とは組むことが出来ない」と、他校の部員が次々に 練習相手を申し込んでくるので、毎日数え切れない人数を相手にしてきた。 だが集中力の持続は体力を激しく消耗する。 いくら大阪府警の強者どもを一人で相手にできるタフな彼でも、3日間連続の長丁場な練習では さすがに疲労が見えてきた。 「・・・ホンマはダラダラと時間かけて練習するより集中してやる方がええんやけどなぁ」 面を外しながら一人呟く。 ふと後ろから、柔らかなタオルが差し出された。 「何や和葉、今日も来とったんか?」 「あれ、アタシやってようわかったな」 「そんなんこの手ェ見ればすぐわかるわ」 目の前に差し出されているその白い手を軽く弾きながら、タオルを受け取った。 汗で湿った手ぬぐいを頭から外し、額の汗を柔らかなタオルで吸い取っていく。 「しっかしお前も暇やなあ。せっかくの連休やってのに毎日練習見に来るなんて」 「別に暇ちゃうで。用事があって、その帰りに寄ってるだけや」 「ちゃんと制服着てか?」 「しゃあないやん。私服やと目立つやろ? それに今日は付き添いでやって来てん」 「付き添い?」 「そうや。あっち」 細い人差し指の指す方向へ目をやると、和葉の友達が立っていた。 その視線はこちらではなく、練習をしている方を向いている。 「練習見に行きたいってゆうからな、一緒に来てん」 「あの姉ちゃん、剣道に興味あったんか?」 「んー、まあそんなトコやなぁ・・・」 「あん?」 「それよか平次、調子はどうなん?」 「まあまあっちゅうトコやな。ただちぃと疲れてもうたけど」 「平次でも疲れるんやなぁ」 「そらオレかて人間やし・・・っぐぇっ・・・」 「お前ら相変わらず仲ええなあ」 坐っている平次の背中に、剣道部の仲間が乗りかかってきた。 端から見たら仲良さそうに会話をしている二人をツッコミに来たのだ。 「・・・っ重・・・」 「遠山も毎日大変やな」 「えっ?」 「見とるだけやとつまらんやろ? 休みやってのに練習ばかりでどっこも遊びに行けへんなんてなぁ」 「そんなことあらへんよ。練習見てるの楽しいし」 「ほんならええけど」 「っだーっ!重いっちゅうねん!」 「ああ、スマンスマン」 すっかりオカンムリになってしまった平次は、他の友達の方へと行ってしまった。 「スマンなあ。服部、怒らしてしもうた」 「ええよ。いつものことやもん」 「そや、遠山。お前気ィつけや」 「何を?」 「色んな意味でや。ほんなら俺、もうちょい練習してくるよって、またな」 「うん、頑張ってや」 (気ィつけやって何をやろ・・・?) その言葉に小首を傾げつつ、一人練習を見るのに夢中になっている友達の方へと和葉も向かった。 「どう? 見つかった?」 「あ、和葉。うん、多分あれやないかと思うんやけど・・・自信ないねん」 「垂れが学校名やとわかりにくいもんやね。なんなら聞いて確かめて来よか?」 「う、ううん! ええのよ・・・おおきに」 「ホンマにええの?」 「うん・・・変な噂立ったら悪いし・・・今はまだ見てるだけでええ」 「そう? 何もできひんかもしれんけどアタシにできることがあったらいつでもゆうてや」 「ん、ありがと」 頬をほのかに染める友達の姿が可愛かった。 好きな人がいる女の子はこんなにも柔らかくて愛らしい表情をするのかと改めて思う。 アタシはどんな顔をしてるんやろか・・・? と平次のいる方を見ながらふと考える。 「和葉はええの? 服部君は?」 「平次? 平次やったらさっき会うて来たよ。ちょっと疲れてるみたいやったけど」 「そうなん? 何や服部君のこと狙ってる女が何人もいてるみたいやし、気ィつけや」 「・・・そのことか・・・」 「えっ?」 「さっきも言われてん。気ィつけや、って。ホンマに平次の奴、愛想だけはええからなあ」 「何ゆうてんの! 服部君のええトコ、和葉が一番知ってるやろ?」 「・・・それはそうなんやけど・・・」 「アタシは和葉がええ女やってこともよう知ってるで。あんたにかなう女なんてそうおらんのやで? 和葉こそ早よ勇気出して頑張りや!」 「お世辞でも嬉しいわ」 「お世辞なんかとちゃう! アタシはホンマに・・・」 「ありがとォ」 大きな瞳を優しく細める和葉に、これ以上言葉を発することはできなかった。 この笑顔に沢山の辛さが隠れているのだろうと思うと、何も言えなくなる。 「お互い、頑張ろな」 軽く腕を叩きながら励ましてくれる。 自分だって切ないだろうに・・・ 「・・・ホンマ、服部君は幸せ者やね」 「えっ?」 「和葉みたいなええ女に好いてもろうて」 「さっきから何ゆうてんの。そんなんゆうてくれても、何も出えへんよ」 「あんたねえ、たまには友達の言うこと素直に聞きや!」 「はいはい、おーきに。それよかこんなトコからやとよう見えへんやろ? もうちょい前に行こ!」 友達の手を取り人だかりを上手に進んで行く。 そんな和葉の様子を、じっと見つめている男がいた・・・・・・。 「服部、気ィつけや。アイツ、遠山のこと狙てんねん」 「ああ?」 「せやからあの男、遠山のこと狙うてるんやって。アイツだけやない、他にも何人もいてるんやで? まあ相手が服部やってわかったら諦めてるみたいやけど・・・」 「オレが何の相手なん?」 「遠山の相手に決まっとるやろ。遠山の男がお前やからみんな諦めてるんやで」 「なんでオレが和葉の男なん? あいつはただの・・・」 「幼馴染やってゆうんやろ? もう聞き飽きたわ。一応そういうことにしといたるけど、 早よハッキリせんと他の男に取られてまうで」 「・・・・・・」 「さっきゆうたアイツ、最近東京の方から来たばっかりらしくてお前の凄さをようわかってへん みたいやからな。きっと遠山にも手ェ出して来よるで。ホンマに気ィつけんとアカンで」 「和葉がねえ・・・」 「あれ、服部、センセがお前のこと呼んでるみたいやで。ほら、もうひと暴れして来いや」 「おわっ・・・」 押し出されるように背中を叩かれ、つい躓きそうになる。 (和葉のこと狙てんねやで、なんてゆわれてもなぁ・・・) 面をつけながら何気にその男を見やる。 そいつの視線を追っていくと、その先には和葉がいた・・・・・・。 「よろしくお願いします」 「へっ・・・?」 突然の東京弁に、一瞬耳を疑う。 よく見ると、相手はアイツだった。 「服部。アイツはなァ、都大会で準優勝をして関東大会でもベスト4やったそうや。 よう気合い入れてけや!」 「・・・ほう、ちったあ骨のある男なんやろな?」 「お前の方が骨のある男やってトコ、見せて来ぃ!」 改めてアイツの顔を見る。 不敵な笑みを浮かべ、人を見下したような目をしてる。 (あんな目ェしとる男に、和葉のこと渡せるわけあらへんやろ) 燃え滾る心とは裏腹に、平次のその瞳は静かだった。 剣道で何よりも大事なのはその目だと言われている。 古い言葉を使えば「一眼二足三胆四力」。 基本中の基本である足さばきは本当に見事である。 全ての動作にも無駄がない。 だが昔から「お前はすぐに感情が表に出る」と言われてきた。 それが目に表れるのだ、と。 今でもそれは変わっていない。 ただ試合に入る前のほんの僅かな時間、無心になる。 雑念が全て消えていく。 その時だけ瞳は静謐さを醸し出す。 そして組んだ瞬間から狙った獲物は外さないかのような鋭い眼光を向ける。 烈火の如く輝く瞳。 いや、その存在自体が激しく燃える炎のようだ。 そんな平次が一瞬だけ浮かべる穏やかさ――― 集中し切った平次には、もはや目の前の相手が誰かなど関係なかった。 ただ倒すのみ、それだけだ。 本当に強い相手を目の前にしたときは何とも言えない震えが身体を走る。 怯えているのではない。 心から楽しんでいるのだ。 本当に強い相手と剣を交わせる、その瞬間を。 (こいつにはそれがあらへんな・・・) 勝負はあっという間だった。 二人の勝負を見ようと静まり返った体育館に、高らかな音が響いた。 鮮やかに描かれた竹刀の軌跡。 この3日間で一番の切れ技だった。 「・・・強ぇー・・・」 「・・・何なん、あの速さ」 「二本目なんて相手動けてへんかったで」 「あんなん相手にしたら、死んでまう・・・」 「ホンマ、強すぎるわ」 静寂だった体育館に、溜め息がこぼれる。 視線は一人に集中している。 当の本人は、まあこんなもんやろ、と平然とした様子。 他人の目が自分に注がれていることなど気にも止めていなかった。 礼をして戻ろうとした時、自然にその瞳が探したもの。 それは―― (ホンマに嬉しそうに笑うんやな・・・) 面を外すことが、なぜか無償に恥ずかしかった。 「服部君、カッコよかったなぁ・・・」 「・・・ホンマに・・・」 「惚れ直した?」 「えっ?」 「惚れ直したか、って聞いとんのや」 「もう、何ゆうてん!・・・もう、ホンマにからかわんといて!」 「和葉、かわいいなあ」 「そんなん意地悪ゆうと、あの人にバラしてしまうで?」 「ア、アカン! それだけは止めてや! な? ほ、ほなアタシもう帰るわ。和葉、今日はおーきに」 「えっ、もう帰るん? 最後まで残って行かへんの?」 「何やもう胸いっぱいで」 「それやったらアタシも一緒に帰るわ」 「和葉は服部君と帰りや。それにアタシ、寄ってきたいトコあんねん」 「そうなん? せやけど外、真っ暗やで? 途中まででも一緒に・・・」 「和葉は服部君の傍におらなアカンよ!さっきの服部君見て、また他の女が寄って来るやろうから」 「せやけど・・・」 「ええから!」 「・・・ほな気ィ付けて帰るんやで」 「うん、またな」 「また学校でな」 時計は既に6時半を廻っている。 平次らはクールダウンを兼ねた筋トレに入っていた。 少しずつ人が減っていく体育館の片隅で、和葉は平次の様子を見守っていた。 「遠山さん、でしょ?」 「・・・えっ?」 「改方学園の遠山さん」 「・・・そうやけど・・・」 突然の来訪者は平次の存在を隠してしまった。 和葉の目の前に立ちはだかったのだ。 不適に微笑むその顔に、和葉は何となく苛立ちを覚えた。 「・・・あ、さっき平次と組んでた・・・」 「あ、うん・・・やっぱ見られてたか。あんな恥ずかしい組み合い」 「恥ずかしいことなんてあらへんよ。ただ単に平次が強すぎただけのことやし」 「強すぎる・・・・・・確かにね。東京にいた頃はあんなに激しく強い奴なんていなかったからな」 「そうなん?」 「ああ。それにこんなにカワイイ子もね」 「えっ・・・?」 「遠山さんてさ、服部とはどういう関係なの?」 「どういう関係って・・・?」 「何か親しそうに話してたけど」 「平次とは幼馴染やから・・・」 「なんだ、そうなんだ」 「幼馴染」という言葉に、この男はほくそ笑んだ表情を浮かべた。 「あのさ、遠山さん。もう暗いから送っていくよ。」 「へっ? ああ、おーきに。せやけどみんなが終わるの待ってるし、ええよ」 「でも改方の剣道部、何時に終るかわからないじゃん? こんな時間じゃ腹も減ってるでしょ? 俺、なんか奢るし、夕飯食べて帰ろうよ」 「せやけどお腹が空いとるのはみんなも同じことやし・・・」 やんわりと断っているにもかかわらず、その男は和葉の腕を取る。 「ちょー、待って・・・」という和葉の声もそのままに、男はずんずんと引っ張って行こうとする。 いきなりのその行動に、思わずバランスを崩して和葉が倒れかけた瞬間―― 「あっ・・・」 和葉の細い身体を平次がしっかりと受け止めていた。 「ったく、相変わらず間抜けやなァ」 「なっ・・・!」 「ホンマにオレが目ェ離すとすぐこれやもんなァ・・・」 「そんなんゆうても・・・」 「和葉、携帯貸してや」 「えっ・・・ああ、うん、ええけど・・・」 男に引っ張られていた手を振り解くと、和葉は自分の携帯を取り出し平次に手渡した。 無言で平次はダイヤルボタンを押す。 メモリを探さなくても、自然と指が動く番号。 子供の頃から慣れ親しんでいるその番号の先は―― 「あ、オレ、平次やけど」 まわりの視線など気にもせず、平次は一人電話の相手と話し出す。 「あんな、今日、和葉帰るの遅うなるけど、オレ一緒やから。心配せんといて」 二言三言、電話の相手に相槌を打っている。 時折微笑を浮かべながら見えない相手に頷いている。 和葉を支えたその腕は、和葉の細い手首を掴んだまま・・・。 「わかった。帰りに寄るわ・・・ああ、伝えとくで」 そう言うと電話を切り、携帯を返す。 「和葉、もうちょい待っとれや。それとも腹減って死にそうか?」 「平次やあるまいし、平気や」 「じゃあ待っとけ」 平次は空いている方の手で和葉の頭を軽く小突くと、みんなの方へと戻って行った。 「服部、カッコよ過ぎやねん」 「ホンマ、男前なことしよるなー」 「先輩、見直しましたよー」 「いつからそういうキャラになったん」 剣道部の友達が、からかい半分にツッコミを入れてくる。 今頃になって沢山の人に見られていたことに気付き、浅黒い肌が首筋まで真っ赤になった。 「ええから早よ終らせよーや!」 「お、服部、照れてるで!」 「何や、お前でも照れるんか」 「服部先輩、カワイイですやん」 「じゃあかしィ! ええかげんにせんと縛くぞ、コラ!」 そんな様子を頬を真っ赤に染めながら見ている和葉の横で、あの男がポツリと呟く。 「あいつ、さっき何処に電話してたんだ?」 「アタシん家やで」 携帯の履歴を見なくてもわかる。 平次の指の動きでそれと気付き、会話の内容で確信を得た。 「アタシのお母ちゃんと話してたんや。平次、なんや帰りにうち寄るみたいなことゆうてたから 大丈夫やで。ホンマに先帰ってええよ」 「でも俺、遠山さんのこと好きだし、もっと話したいんだけど」 「へっ・・・?」 突然の告白に和葉は目を見開いた。 が、やがて困ったように表情が曇り、それでいて穏やかな微笑みを浮かべてこう言った。 「・・・ゴメンな。アタシ、平次やないとアカンのよ」 「えっ、でも服部とはただの幼馴染だって・・・」 「確かに幼馴染やけど、アタシにとっては大事な人やねん。あんなんやけど、大事な人やねん」 その視線の先にあるのは、真摯な瞳を持つ少年。 さっきまで調子のいいことを言って人を笑わせていたのに、竹刀を握ると急に顔つきが変わる少年。 今日の手合わせを願ったとき、まるで見えないオーラに包まれているかのような隙のなさと、 狙ったものは捕らえて離さないその瞳に、正直竹刀を構えているのがやっとなほど 身体がすくんでしまった。 初めての挫折を感じた。 目の前で無邪気に笑っているあの少年に・・・。 「・・・結局、剣道も遠山さんも、初めから勝負はついていたってワケか」 「ん?」 「いや、何でもない」 「・・・ようわからんけど、初めから諦めたらアカンよ」 「何だ、聞いてたの?」 「最後の方だけ聞こえたんや。何や、初めから勝負はついていたとかゆうとったけど、 そんなんわからんやん。初めから負けやなんて思ってたら、勝てるもんも勝てへんよ? たとえ負けるかもしれへん相手でも、それでも勝ってやるくらいの気持ちで行かなアカンのと ちゃう?」 「そんなこと言うと、俺、遠山さんのこと諦めないよ?」 「えっ・・・? ・・・せやけどアタシは・・・」 「いいよ。今はまだ全然不利だけど、遠山さんに認めてもらうような男になるから。 とりあえずは剣道でアイツに勝てるようにならないとな」 「平次は負けへんよ?」 「それはやってみないとわからないんだろ?」 「何やアタシ、余計なことゆうてしもたんやろか?」 「ハハ、どうだろうね。まあこれで服部と試合するのが楽しみになったっていうわけだ」 「おい、服部。ええんか? 何や向こう、楽しそうに話しとるで?」 「あん?」 「遠山とあの男や」 「そりゃ和葉かて他の男と話しくらいするやろ?」 「せやけどまたさっきみたいに無理矢理連れてかれるかもしれへんやん!」 「・・・・・・」 「どないするん、服部?」 防具を片付けながらチラリと二人の方に視線を送ると、確かにさっきとは違う 和やかな空気が流れている。 (何や、気に食わん・・・) 「和葉ァ!そんなトコ突っ立っとらんで、片付け手伝えや!」 「えっ?」 「片付け手伝えっちゅうとるんや!」 「何やのその言い方。もっと優しくゆえへんの?」 「ええから早よ来ィや!」 「はいはい、今行くよって・・・」 口ではしぶしぶ返事をしているが、心の中は違っていた。 平次が自分の行動をちゃんと見ていてくれた。 そのことが嬉しかった。 「ホンマに自分のことくらい自分でできひんの?」 「お前があんな男と一緒にいるからや」 「・・・えっ・・・?」 「アイツの目ェなあ、人を見下したような目をしとったん。そんな奴と一緒におるから腹立ってん」 「・・・他の人やったら怒ってはくれへんの?」 「へっ?」 「一緒にいたのがあの人やない他の男の人やったら腹立ったりはせえへんの?」 「何でや?」 「・・・もうええ・・・」 「何がや?」 「何でもない」 「何怒っとるんや? おかしなやっちゃなあ」 「・・・・・・」 「まあそんなしかめっ面してるなや」 ふくれている和葉の頬を、面白そうに指でつつく。 「服部、センセがここで解散にするっちゅうから、遠山と帰れや」 「そんなんみんなで帰ればええやん」 「みんな適当に飯食って帰るし、お前はちゃんと遠山送ってやらんと」 「せやけど・・・」 友達はあの男をチラリと見ながら、平次に耳打ちする。 「アホ。他の男に見せつけとけや」 「・・・・・・」 「ほんなら俺ら帰るよって、また明日な。遠山、服部頼むわ」 「何や、一緒に帰らんの?」 「ああ、俺ら寄るトコあってん」 「そうなん? ほな気ィつけて帰りや」 「おお。またな」 剣道部の仲間達は、平次と和葉に一言二言声をかけて去っていく。 「ほんならオレらも帰るか」 「そやね」 「和葉、お前腹減っとるか? 何か食うてくか?」 「平次のお腹が持たへんのやったら寄ってこや」 「ほんなら何かつまんで帰ろや。今日の晩飯、お前んちでやしな」 「そうなん?」 「さっき電話したときに和葉のオカンに言われてん。オレのオカンもお前んちに居てるらしいわ」 「それやったら早よ帰った方がええんちゃう?」 「アホ。せやから寄り道してくんや」 「何でなん?」 「今日はオヤジもお前んトコのおっちゃんもおらんやろ? 女3人に囲まれたらかなわんわ」 「何やて?」 「まあええやん。奢ったるから寄ってこや」 いつも通りの会話。 二人には当たり前のような会話。 何気ない日常。 ただ、くるくる変わるその表情が今はお互いにだけ向けられてる。 平次の無邪気な笑顔を独り占めしている。 和葉の優しい笑顔を独り占めしている。 他人が話し掛けるのに、一瞬ためらってしまうような二人の空気。 今はまだ甘くない。 熟れる前の、爽やかな香り―― |
剣道や弓道の胴着を着てる姿ってカッコいいなぁ・・・って思います。 柔道の胴着(上着の方)って結構分厚くて重いんだけど、剣道とかの胴着ってどうなのかな。 重いのかな。 高校の道場に(胴着が)吊るしてあったのをよく覚えています。 剣道に関してはちゃんとやっていた友達にイロイロ聞こうと思ってたのに、 結局自分の手元にある資料と記憶だけを頼りにしてしまいました。 だから違ってたらゴメンなさい。 トコロデ。 和葉ちゃんのお母さんは健在でいらっしゃるのかしら。 それがかなり疑問なのですが、今回は登場していただきました。 今後の展開でわかりましたら、たぶん改作する・・・カモ・・・ |