シアワセの存在



スーッと滑らかな感触が身体を走った。
腕と足にあった温かな重さがなくなった。

ただほのかに感じるぬくもりと微妙な痺れが、確かにあったその存在を示していた。


「・・・ん・・・」

重い瞼を微かに開けると、横にあったはずの存在が消えている。

「・・・和葉・・・?」
「あ、ゴメン、起こしてしもーた?」

軽やかに響くその声が、上の方から降り注ぐ。

「ゴメンな、平次。起こさんように気ィ付けたつもりやったんやけど・・・」

こちらを振り返り、すまなそうに首をかしげるその肩に、艶やかな髪がさらさらと流れた。

「なあ平次、起きたんやったら来てみィ」
「・・・あん・・・?」
「ええから、早よ」

ベッドの端に腰掛けながら嬉しそうに微笑んでいる。
柔らかなその顔に一瞬見とれたことを隠すかのように、ぶっきらぼうに呟いた。

「ったく、何なんや」

それでも優しく微笑んでいる。

「まあそう怒らんと、窓の外見てみーな」

促すようにその瞳を窓に移す。
つられて頭ごと窓の方へ向けるが、朝日がガラスに反射して何も見えない。

「・・・眩しいだけやん!」
「もォ、よう見てみィ!」
「よう見ろゆうてもなァ・・・」

まだ眠気が抜けきらない身体を、上半身だけ引きずり起こした。

「・・・何や、雪か・・・?」
「そうなんよ。何や寒いなぁと思ってみたら、雪降っててん」
「雪見て喜ぶなんて、ガキみたいやなァ・・・」

その言葉に勢いよく振り返った顔は、拗ねているような、でも泣き出しそうな
複雑な表情をしていた。

「せやかて今年、初雪なんやもん・・・」
「初雪ゆうたかて、どうせすぐに溶けてまうやろ?」
「・・・ホンマ、アホやなァ・・・」
「誰がや?」
「平次しかおらんやろ?」
「オレが何でアホなんや? お前、朝っぱらからケンカ売っとんのか・・・」

淋しそうに微笑むその顔に、言葉が詰まってしまった。

「平次と一緒に見れたから、嬉しいだけやのに・・・」



「・・・クシュン・・・!」

漆黒の髪が揺らいだ。
細い肩が微かに震えている。

「アホ。寒いのにそんな格好のままでいるからや!」
「そんなん言うたかて・・・」
「言い訳せんでええ」

力強い腕が、白くて柔らかな身体を後ろから包みこむ。

「あっ・・・」
「ええから黙っとれ」
「・・・せやけどそしたら平次が風邪引くやん」
「オレは大丈夫やから」

腕に力が一層こもる。

「・・・なぁ平次、せめてこの毛布、掛けや」

床に転がり落ちている毛布を、どうにか手繰り寄せようとしている。
そんな何気ない動作すら目を細めたくなる。

「ほんならこうしよか」

瞬間、ふわりと毛布が宙を舞った。
それはそのまま二人を優しくくるみこんだ。

「これなら二人とも温いやろ」
「・・・せやな・・・」


本当は、毛布よりも腕の中にある存在から伝わってくるものの方が
ずっとずっと温かかった。
触れている―それだけでこんなにも幸せになる。
このぬくもりが、愛しくてたまらない。


(・・・お前のこと、絶対に離さへんからな・・・)


幸せの存在を噛み締めた朝。
窓から降り注ぐ暖かな光に包まれながら、二人はそっと目を閉じた。

















これ、ねえ・・・。
平次と和葉ちゃん、幾つくらいかなぁ?
海月はあんまり細かい設定とか考えないので、ご想像にお任せします。
海月は雪が降り出すとユウウツです。
それはとてつもなく雪が降るところに住んでいたことがあるので、
いくらスキーが好きだと言えども、イヤです。
なので雪が降るとロマンチックな気分になれる人が羨ましいです。











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