One-side love





アナタのこと どれくらい好きかと聞かれたら
私は瞳を閉じて こう言うだろう

   アナタを想うと 涙が出るくらい 好きなんです












「どないしたんや?」

学校からの帰り道。
アタシと平次。
いつもみたいに肩を並べて歩いてた。
いつもだったら嬉しくて、楽しくて、沢山話してしまうのに
今日のアタシ、それができない。

視線は下を向きっぱなし。
白のソックス、黒いローファー、灰色のアスファルト。
目に入ってくるのは、モノクロのモノばかり。
今のアタシの気持ちみたい。
そんなアタシに、右上の方から低い声が響いてくる。


「なァ、どないしたん?」
「ん・・・何が?」
「昼あたりから、元気なかったやろ? 今も、話、聞いてへんかったし」
「あ・・・ゴメン」

平次の方に向けた視線も、すぐに下を向いてしまう。
いつもの平次だったら、呆れ返るのかもしれない。
でも、アタシが、本当に落ち込んでるときは、チガウ。
とても、優しい。

「や、ベツに大した話ちゃうから、構へんけど・・・。で?」
「ん、ちょっとな」
「何や、ちょっとって」
「プライバシーに関わることやから、言えへん」
「けったいな言い方すんなァ。オレと和葉の仲やねんから、隠すことないやろ」

???
・・・わかんない。
はてなマークが、アタシの頭の中で並んでる。

「アタシと、平次の仲? どんな仲?」
「や、ほら、アレや、何でも言える仲っちゅうこっちゃ」
「平次、それって・・・」
「オレら、幼なじみやねんからな」

優しいけど、残酷。
優しいから、残酷。
平次、痛いです。
その中途半端な優しさが・・・







昼休み、英語科準備室に寄った帰りだった。
視聴覚教室のドアが開け放たれて、そこから女の子たちの声が聞こえてきた。
お昼でも食べてんやろなー、と思って覗いたのが悪かった。
一瞬、アタシと目が合ったコが、一緒にいたコに話し掛けた。

「遠山さんってさー、服部君と、ホンマに付き合うてんの?」
「たぶん、ちゃうんやない?」
「そうなん? ほんならアタシ、ホンキ出してみよかな」

ドッキン・・・!
鼓動が、一気に跳ね上がった。
ホンキ出すって、なんやの?
それ、どういう意味で言ってんの?

「何、そのホンキて」

アタシが声に出して聞く前に、彼女と一緒にいたコが尋ねてくれた。

「やって、服部君、結構いい感じやん。カレシにしたら、よくない?」
「けど、アカンのとちゃう?」
「アカンて?」
「あの二人、付き合うてへんみたいやけど、幼なじみやし」
「幼なじみやって言うても、付き合うてへんやったら構へんやん」
「まーねー。ほんなら試してみたら? 遠山さん、かなり嫉妬深いみたいやけど」
「カノジョやないのにな」

クスクス笑い合う、二人の声。
アタシ、怒りとかよりも、最後のコトバが辛かった。

確かにアタシ、平次のカノジョじゃないんだよね・・・







「えーと、”鈴木氏の考えは、一方的な見解によるもので・・・”」

「うちでやるか?」という平次の誘いを断って
自分の家で英語の宿題と睨めっこ。
明日の英語表現は、当たる可能性大。
しかも、時間割は1時間目。
だから沈んだ気分でも、予習しなくちゃいけない。

「一方的、一方的・・・片側は、one-sideやから・・・」

シャーペンを持った右手で、ペラペラと英和辞典をめくってみる。
平次がくれた、おそろいのシャーペン。
凄くキレイなアイスブルーの、スケルトンタイプ。
平次と一緒に宿題をしていたとき、いいなーといったら、くれたモノ。

「同じの持っとるから、1本やるわ」

アタシの宝物が、またひとつ増えた。


「one-side、one-side・・・あった。one-side・・・」

one-side view
それがお目当ての熟語だったのに
アタシの目に飛び込んできたのは、その1行前のもの。


“one-side love”

片思い。


辞書に記された、機械的な文字。
“one-side love”
アタシのことだ・・・。

片想い。
両想いになる前の、ドキドキ感がたまらないって、人は言う。
アタシも、そういうのもあるかなって、思ったりもする。
でも・・・
やっぱり、片想いは片想い。
両想いじゃない。
どんなに楽しくたって、向こうの気持ちがどこを向いてるかわからない。
それってやっぱり、凄く辛い。

one-side love

辞書の上を、なぞってみた。
そしたら、小さなオルゴール音が流れてきた。

「何やの・・・?」

遠くから聞こえてくる、小さなオルゴール音。
でもよく聞くと、オルゴールよりも、ちょっと機械的な音がする。
どこからかなーってキョロキョロしてたら、枕下だと気が付いた。

「あ、携帯やわ。メールの着信音、変えたの忘れてた」

液晶画面に「メールを受信しました」の文字。
開いてみたら、平次からだった。

   “まだ、へこんどるんか?”

アタシ、泣きそうになった。

   “ちょっと、な・・・。 気にしてくれたん?”

後に続けた“心配かけて、ゴメン”の文字は消して、送信した。
バックライトが消えてすぐに、またメールがやってきた。

   “そしたら、窓、開けてみ?”

窓? なに?
首かしげながら窓に近づいて、カラカラと開けてみた。
窓を開け放つと、タイミングよく入ったメール。

   “上、見てみ”

今度は上?
上って、何があるん・・・

「うっわぁ・・・キレイな空」

街の明かりが反射して、幾らか明るくなっていたけど、紺碧色した深い空は
宝石箱をひっくり返したみたいに、沢山の星がキラキラしてた。
そんな空へのBGMみたいに、携帯が再び鳴り出す。

   “どや? 凄いやろ?”

携帯の向こうで、ちょっと得意そうにしてる、平次の顔が浮かんできた。
子供の頃、ビックリマンチョコでスーパーゼウスが出たときみたいに
“どや、和葉! 凄いやろ? よう、見てみ”なんて言ってる平次。
そんな顔をしてるんだろうなぁ。
ふふふ。

「はぁ・・・でも、ホンマ、めっちゃキレイ・・・」

うっとり気分で溜め息が出ると、クシュン、という小さな声がした。
3月だけどまだ寒いし、思わず出た溜め息は、微かに白く見えたけど。
今のくしゃみ、アタシじゃない。
たかが2,3分窓を開けたくらいで、冷え込むほどの寒さでもない。
ほんなら誰がと思ったら、もう1回聞こえてきた。
クシュン。
アタシ、急いで携帯のボタンを押し出した。

「もしもし平次? もしかして、今、家の前におる?」
「あ、バレてしもた・・・」
「ほんなら、ちょー、待ってて」

通話のOFFボタンも押さないまま、アタシ、家の前へと駆け出した。


ジャケットのポケットに両手を突っ込んでた平次は
愛車に寄りかかったまま、視線は上を向いていた。

「平次!」
「おう」

アタシの声に、平次は少しはにかんだように返事をした。
返事をしただけで、こっちを見ようとはしない。
ずーっと空を眺めている。

「平次、寒ない?」
「あー、平気や。どっちかって言うたら、バイク乗ってる時の方が寒いし」
「そう?」
「ああ」
「それで、どないしたん? わざわざ星のこと、教えるために来てくれたん?」
「いや、星はついでや。和葉ん家に着いて、メット取ったとき
たまたま上向いたらこの空やったからな、こら教えたろってな。
和葉、こういうの好っきやろ?」
「うん。ありがとォ」

そんなアタシの返事に、平次、満足そうに笑ってた。
それがとっても、嬉しかった。
教えたろって思ってくれて、凄く凄く嬉しかった。

「あ、で? 何か用あって来たんとちゃうの?」
「そやそや、宿題、一緒にやろう思てな」
「えっ?」
「和葉、へこみっぱなしやったやろ? せやから、オレが来てやってん」
「は? 言ってる意味、ようわからへんわ」
「まあゴチャゴチャ言わんと、早よ家ん中、入ろや」

平次はバイクから身を起こして、スタスタと歩き出してしまった。
もう、ホンマ、わからへんわ。
優し過ぎて、苦しいわ。
せやけど・・・苦しいけど、苦しい分、嬉しい。

いつもはうるさいとか、何でお前まで来るんやとか
ちょっと不服そうな顔されるから、ホンマはウザイなんて
思われてるかもしれへん・・・って、落ち込んだりもするのに。
アタシが淋しかったり、苦しかったりするときは、なぜかやって来てくれる。
ホンマ、ズルイんやから・・・
でもそんな平次の優しさに、つけこんでるのは他でもない、アタシ。
アタシがいっちゃん、ズルイ・・・。

「コラ、和葉!」
「・・・ふぇ?」
「ええかげん、下ばっかり見とらんと、上、見れや。上!
オレは、いつでも上、見とんねん。そしたら元気、出るやろ?」
「・・・せやから、バイクでこけて、捻挫したんよね」
「アレとコレとは、話はベツや。あん時は、キッド追ってたんやから
しゃーないねん」
「平次の場合、上ばっかり見てへんで、たまには足元よう見ィや」
「ハン、ようやくいつもの和葉に戻って来たな。
よっしゃ、早よ宿題片付けて、一っ走りでもしよか」
「えっ?」
「ほら、さっさと家に入れや」

ポンとアタシの背中を叩いて、平次はさくさく家のドアを開けた。





遠山和葉、17歳。
10年程、片想い。
そして未だ、継続中。

でも、諦めない。
どんなに苦しくても、どんなに辛くても、アタシはやっぱり平次が好きで
その気持ちはホンモノだから、諦めるなんてできません。

だから・・・
いつかちゃんと、伝えたい。
アタシの本当の気持ち、平次に伝えたい。

もう少し勇気が持てるまで、始まったカウントダウン。







アナタのこと どれくらい好きかと聞かれたら
私は両手を広げて こう言うだろう

   この手ではかかえきれないくらい 好きなんです

だから想いがどんどん溢れ
瞳から 口から 指先から 零れ落ちる

   好きです
   大好きです

恥ずかしくて コトバにすることは まだできないけど
もう少し待ってて
必ずアナタに伝えるから












片想いかー。んー、早く和葉ちゃんの恋が、成就するといいな。
そんな思いを込めて・・・とか言えたらカッコイイのですが。
単に、たまたま片想いの英語バージョンを目にしただけで
このタイトル&お話を作ってしまったのでした。








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>>>> Detective CONAN






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