Even if... 「平次・・・!」 ・・・・・・あん・・・? 「平次!」 ・・・・・・誰や・・・? 「へーえーじ!」 「・・・っうるさいわ! 耳元でそんなでかい声で叫ばんでも聞こえるわ!」 「よう言うわ! 何べん起こしたと思ってんの? もう新大阪着くで?」 「へっ・・・?」 「へっ、じゃないわ! 平次わかってんの? 今は新幹線の中で、アンタはぐーぐー寝てたの!」 「・・・せやったらさっきのは夢?」 「もう、何寝ぼけてんのか知らんけど、しゃんとしてや?」 窓側に座っている和葉の顔が呆れてた。 「・・・・・・」 「なに? そんなに凝視して・・・アタシの顔に何か付いてるん?」 左隣で訝しそうな顔をしている。 「あ、イヤ、何でもない。何か変な夢見てもうた」 「夢? どんな夢なん?」 「どんな夢てなァ・・・・・・」 出口扉へと向かいながら、さっきの夢のことを思い出してみた。 「なーなー、どんな夢?」 和葉の声が軽やかに響く。 興味津々と言わんばかりに、目が輝いている。 「忘れたわ」 「は?」 「忘れた」 「えー、ちょー、なにそれーーー」 オレはちょっと不満そうにしている和葉をよそに、新幹線を降りてホームを歩き出した。 しっかしリアルな夢やったな・・・・・・ 歩きながら気が付いた。 汗でびっしょりだ。 ほんの今しがたまで、寒いくらい冷房の効いた車内にいた。 それなのにこのびっしょりな汗。 全て脂汗だろう。 それくらいイヤな夢だった。 「なぁ平次、ホンマ大丈夫なん?」 「あん?」 「さっきからおかしいで?」 「ベツに。ちょっとしんどい夢見ただけや」 ホームに発車ベルの音がけたたましく鳴り響く。 「えっ、なに? 聞こえへんわ」 そう言って顔を近づけてきた和葉のその表情が、あまりにも無防備すぎた。 気づくと、その唇に自分の唇を重ねていた。 フーッと吐息が漏れたあと和葉の顔を見ると、少し困ったような顔をしていた。 「・・・平次、急にどないしたん?」 「イヤやった?」 「えっ、イヤやないよ! イヤやないけど、こんな人前で恥ずかしいやん・・・」 オレが真っ直ぐに和葉を見たせいだろう。 真っ赤になりながら慌ててそれを否定した。 そんな和葉の右手を取った。 「お子様が迷子になるとアカンからな」 「迷子になんかなりませんー」 そう言いながらも、オレの左手をちゃんと繋いでいる。 その右手には、オレがやったシルバーのリングが嵌っている。 「今日の平次、優しいなァ。熱でもあんねん?」 「ないわ、ボケ」 まさかあんな夢を見たせいだとは、口が避けても言えない。 だが自分の気持ちを言葉に出して言うのは、やはり照れくさいものがある。 少しずつ素直になれればいいかと思う。 いつか大切なことも、ちゃんと言葉にできればいい。 「まぁそのうち、もっとええモン買うたるわ」 「えっ、なんのこと?」 「なんやろな?」 「ひとりでニヤニヤしてんの、不気味やで? 教えてやー」 二人の声が雑踏にまぎれていった。 なーんだ、というオチですみません。 やっぱりふたりはラブラブがいいんだもーーーん、という、海月のワガママです。 和葉ちゃんには「平ちゃんと」幸せになって欲しいしネ! タイトルの「Even if...」はそれぞれに意味がありまして ダークバージョンの方は「どんなに愛していても、もう届かない」という意味からの「Even if...」 ハッピーバージョンの方は「どんなことがあっても、絶対に離さない」という意味からつけました。 これで終わりです。 |