Before Beginning







なんや、やっぱわからんのか・・・しゃーないのぉ・・・・」
「ふむ・・そうか・・・わかった・・・・」

店内で聞こえないように低く小さく話し終える。
席をたたなかったせめてものこと。
用件だけの電話をピッと切り、胸の内側へとしまい込む。

「事件・・・なん?」
「いや・・・」
「事件やったら・・・アタシの事はええよ?」

「和葉・・・・」
「そりゃ・・・おとうちゃんとこうして外食なんて久し振りやし・・・残念やけど・・・
これでも、刑事の娘やし・・・ええよ?」

自分をを気遣うかのように向けられる笑み。
ここで、席を立ってしまったら、一人店内に取り残されてしまう。
食べ始めたばかりの食事を一人とる状況にいたるのは分かっているのだが、
それも慣れていることだから、そう、その笑みから読み取れる。

久し振りの非番で、二人で食事に出たきた。
学校生活、友人のことや、最近の出来事を話ながら、偶にこんな風に過ごす。
いつのまにかうまれてきた、忙しい親子の久し振りコミュニケーションの手段。

時には、事件やニュースの話題もでてきたり。
そして、きまって娘の口から出てくるひとりの名前。

娘がその名を口にする時、どんなに呆れ顔でも、怒った顔でも一番いい表情を見せる。
自分に向けられる笑顔とどこか違っていることも知っている。
少々悔しい気もするが、自分もこの顔が娘の一番良い表情だと知っているから。

「・・ちゃん・・・おとうちゃん・・・」
「あ、ああ・・・」
「ほんまに事件やったら・・・ええよ?・・・・楠川さんがどうかしたん?」

黙り込んだ自分の様子から事件の事を考えていると思ったのだろう。

「いや・・・大丈夫や」
「ほんまに・・・?」
「ああ」
「うんっ」

再三の大丈夫との言葉にやっと納得をみせる顔。
まだ、この笑顔を他人に独占されるのは面白くない・・・そんな思いがよぎる。

「楠川さんって・・・・あの楠川さん、なん?」
「そうや・・・」
「おとうちゃんの下にいた人やったよね?」

「よー覚え取るな・・・和葉」
「やって・・・刑事やめされられたって聞いた時、ビックリしたもん・・・・
なんかあったん?連絡とれへんとか言っとたやん・・・」

さっきの電話から読み取った事。
大事な話があるといったきり、連絡がとれなくなった楠川。

「なぁ・・・おとうちゃん・・・・」
「ん?」
「今度・・・蘭ちゃんとこ遊びにいくやん・・・・
そん時、様子見てこようか?確か・・・今、東京とか言うとたったよね?」
「和葉・・・?」

「大丈夫やって・・・・・東京やったら・・・蘭ちゃんとこのおっちゃんもおるし・・・・」
「しかしやな・・・・」
「心配ないって・・・無茶はせーへんもん・・・・平次もいっしょやし」
「平次君・・・・」
「うん」

その名前とともに零れ落ちる笑顔。
娘の中では、自分と同じくらい、もしかしたらそれ以上に身近で頼りにしている存在。

「はいっ」
差し出される携帯。

「平次に連絡するんやろ?」
「・・・・無茶はあかんぞ?」
「大丈夫やって・・・様子、見にいくだけやし・・・はいっ」

ピッと発進音のなった携帯が再度手渡される。


                 *   *   *   *   *   *   *   *


「あー平次君・・・わしや・・・・」
「あぁ・・・和葉の電話からや・・・・」

目の前で平次と話している。
アタシや思って出た電話口の平次はきっとおどろいたはず。

この間、いつものことやけど、半ば強引に平次を誘ってみた。
蘭ちゃんと盛り上がって、皆でトロピカルランドに遊びに行こうと計画した。
だから、東京に行く予定はうそじゃない。

『なぁ・・えんやん・・・行こう?』
『・・・わざわざ東京まで行かんでもええやんか・・・』

乗り気で誘ったアタシとは正反対の平次。
平次がそういうとこを苦手とするのは百も承知。

『ええやん・・・行ったことないんやし・・・・もう蘭ちゃんと約束してもうたもん・・・』
『面倒やなぁ・・・』
『それに・・・蘭ちゃんと買い物に行く約束もしたん・・・』

事件や言うたら乗り気でのってくるくせに・・・・。
アタシの話をきちんと聞いてくれず、雑誌をパラパラとめくる平次。

『・・・ええよ・・・もう・・・一人でいくし・・・
工藤君も、もしかしたら帰ってきてはるかもしれんし・・・一人で行くからええもん』
『工藤?』
『うん・・・蘭ちゃんに誘いって言うてるもん』

『そりゃ・・・ムリ・・いや・・・・』
『えっ?な、なに?』
『・・・しゃないのぉ・・・・』

『平次?』
『行ってもええけど・・・・』
『ええけど?』
『買い物には付き合わんからな』

『うん・・・買い物は蘭ちゃんとするし・・・ありがと、平次つ』
『はいはい・・・・ったく・・・』
『平次に似合いそうなモノあったら、買うとくから・・・ね・・・』
『そらおおきに・・・』

そう答えた平次の視線は再び雑誌に向けられる。
結局、いつも最後にはアタシの言う事叶えてくれる。

そんなやりとりを思い出しながら、受話器の向こうの彼を思う。
ちょっぴり緊張した顔から、きっと今ごろは探偵としての平次の顔になってるに違いない。
事件にかかわるのはヤだけど、・・・・そういう時に見せる平次の顔もすきなん・・・・


              *   *   *   *   *   *   *   *


再び用件だけの電話を終え、和葉に視線を戻す。
さっきよりも数段嬉しそうな娘の顔。
電話中も瞳のかたすみに映っていた。

やっぱ・・・・平次君・・・かい・・・・

この和葉の笑顔がもっと大輪の華のように咲き誇った時、それは思いが通じた時だろう。
この娘の笑顔がわしより、彼に優先に向けられた時、その時は・・・・
この娘が、わしから離れていく時になるんやろうなぁ・・・・・・。

以前、冗談として片付けられたが、親友に言った言葉は嘘じゃない。
娘の相手は・・・・・。和葉の幸せがどこに待っているかは知っている。

「おとうちゃん?」
「おお・・・」

黙ったままの自分に向けられる視線を不思議そうに首を傾げ問うてくる。
このひとなっつこい笑顔が他に男のモンになると思うと悔しい気もする。

けど・・・・まだお互い“幼馴染”や言うとるみたいやしな・・・・

「和葉・・・・」
「んん?」
「無茶だけはアカンぞ」
「うん・・・・何かあったら・・・ちゃんと連絡するから・・・・・」

ひとまずは娘の言葉を信じる。
何かあった場合、彼がどうでるかはわかってはいるが・・・・・。

「・・・なんとかランド・・・行くんやろ?」
「うんっ・・・楽しみやねん」
「そうか・・・・毛利さんにもよろしゅう言うとくんやで・・・・」
「わかっとるって・・・おとうちゃんの分もちゃんと言うとくから・・・・・」

「蘭ちゃんと色々お買い物にも行く予定なんよ」
「あっ、もちろん、おとうちゃんにも買ってくるからね・・・」
「お土産何がええ?」

コロコロと変わる表情に零れ落ちる笑顔。
この笑顔を一人占めするヤツは・・・とりあえず、ただでは済ませんからな・・ ・
泣かせた日にはやなぁ・・・・・そりゃぁ・・・・

まだ来ぬ未来に、そして・・・・そう遠くないであろう未来に誓う。

そんくらい覚悟して・・・・平次君、和葉のそばにおれや?












MINちゃんから、頂きました〜☆
MINちゃんのおうち、Feiertagsleben様にて、海月はリク権を頂きました。
そのリク権を行使して(偉そう)、海月はMINちゃんに「服部平次危機一髪」の東京行きの
きっかけのお話をお願いしますという、海月にしては珍しい原作に関するお話をリクしました。
そんな無理難題をお願いしたにもかかわらず、MINちゃんはこのようなステキなお話を
届けてくださいました〜♪♪♪
どうもありがとうございます!(多謝)

遠山パパの登場に、海月、大感激!!
和葉ちゃんとお父さんの、二人で大切にしている時間が、とても温かくて。
最後の、お父さんの心情が、父親としては複雑だけど、娘の気持ちを尊重しているのが
伝わってきて、ふっと優しい気持ちになりました。
さりげに優しい平次も、かわいかった〜☆

MINちゃんのお話は、いつもやわらかくて温かくて、ステキです☆
そんなMINちゃんにお話を書いていただけて、海月は幸せデス♪
本当に、どうもありがとうございました!!








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>>>> Detective CONAN






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