トイレご案内男の謎


2000/3/12
 この世の中はさまざまな謎で満ちています。
  「ピラミッドの神秘」や「イースター島のモヤイ像」なんかは万人に共通の謎ですが、私がこのサイトでネチネチ書いているような「身の回りの謎」の方が数の点では圧倒的に勝っていると思います。ちょうど、アフリカ象と大腸菌の数を比較するようなもんです。
  そいういう意味では、ネタが尽きる心配はなさそうなんで喜ばしいことではありますが、私の個人的な「謎」ってあまり一般には通用しないみたいで、まあだからこういうページを作って「だれか、わかってくれないかなあ」と期待しているのですが・・・
  また弱気になってしまいましたが、これから書く話題については、一般的な関心を得られるのではと思います。なぜならこれは「男女間の認識の差による謎」だからです。女性の方には「そうだよねー」男性の方には「そうだったのか!」と言っていただけることと思います。
  しかも、これの謎はもうすでに解答が導きだされておりますので、安心して読み進めてください。

  さて、何年か前、たしか私が20代半ばのころだと記憶しておりますが、友人がお見合いをしました。そのころお見合い未体験者であった私は、後学のためにいろいろ話を聞き出したのですが、まあ詳細は他人様のことですのでここで書くのは控えますが、ひとつ印象に残ったエピソードがありました。

  見合の席での帰り際、相手の男性が彼女に、
「あ、お手洗いはこちらです」
と、教えてくれたそうなのです。彼女は「?」と思ったようですが、「もしかすると口紅が剥げているのを遠回しに指摘されたのかもしれない」と考え、洗面所に入り鏡をみたところ、別に化粧の問題も髪型の問題もありませんでした。変だなあと思いつつも、何せ初対面ですから、「どこがおかしいんですか?」などと面と向かっても聞けないし、なんか釈然としないまま、喫茶店に移動したようです。そこを出るときもまた彼は、
「お手洗いはこちらです」
と、指し示したのです。なんだかよくわからないけど、そこで難癖つけるのも面倒なので、彼女は用もないのに洗面所に行ったそうです。
  その彼とは後日一回だけ会ったそうなのですが、その時も、食事やお茶のあとは必ず「トイレの場所」を教えてくれたらしいのです。
  結局、それが直接の原因ではなかったのですが、彼とのお話はそれ以上は進みませんでした。

  というわけで、彼がなぜ「トイレの場所」にこだわったのかは謎として残されました。
  親しい間柄ならともかく、初対面の男性に「トイレの心配」なんてされたくないですよね。それがいかにも無神経そうな人物が言うのならともかく、お見合いの席をという男性の方だってかなり緊張しているであろう場で、いかにも女性慣れしていない風情の気の小さそうな男性に、
「トイレはあちらです」
なんて、それもきっぱりした口調で(「ここの支払は私がいたします」というのと同じような口調」)言われたら、女性は皆戸惑いながらも逆らえず、渋々トイレに向かうことになります。この先彼が、何回お見合いしても、

「なんで、あんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!トイレくらい自分で行きたいときに行くし、場所くらい店員に聞けばわかるわよ!」

などと、親切に助言してくれる女性は多分現れないと思います。そうして、過ちに気づかないまま、数多くの女性に謎を与え続けていくのでしょう。

  それにしても、なぜそんなことを言うのか、そしてなぜ、それが「女性が不快感を覚える失礼なこと」だということに気がつかないのか、本当に不思議でした。

 「トイレ案内男の謎」は女性同士の集まりなどで披露すると「面白いお見合い体験談」の一つとして、けっこう評判よかたので、あちこちで喋りましたが、なかなか謎は解明しませんでした。女性たちの意見はこんなものでした。
 


  どの仮説もいい線いっていますが、当の本人に正解を聞く機会はないのですから、所詮は憶測に過ぎないわけです。

  さて、この時点での「トイレ案内男の謎」はあくまでも友人がお見合した彼にまつわる謎でありました。
  それから何年かたったある日、雑誌「anan」を読んでいて、思わず私は「あっ!」と声をあげそうになりました。「anan」の目次のページの下にはいつも著名人(小泉今日子や松任谷由実など)の小さなコラムが連載されています。(今でもあるのかな?最近ファッション誌なんて読まないので不確かです)その時はたしか脚本家の内舘牧子氏が書いていたと思いますが、その内容というのが「友人がお見合いしたのだが、その席で相手の男が『お手洗いはあちらです』と教えてくれたので、友人は化粧でも直したほうがいいのかなと思い、化粧室に入ったが、どこもおかしくなかった。いったい彼はなぜそんなことを言ったのか?」という内容でした。
  
 真っ先に考えたのは「私の友人と内舘氏の友人は同じ男と見合いしたのか?」ということですが、それはあまり現実的に可能性は少ないと思います。むしろ、見合相手はまったく別の人間だが、この世には見合いの席で女性にトイレの場所を教える男性が少なくとも2名はいるということです。ゴキブリは2匹見つけたら千匹いると思えといわれてますが、この「トイレ案内男」もひょっとしたらもっとたくさん潜んでいるのではないかと想像しました。
  だとすると、どこかに「お見合い成功マニュアル」というものが存在していてそこには「女性にはお手洗いの場所を教えてあげるのが紳士のエチット」なぞという大嘘が書かれていて、彼らはそれを真に受けているのかも知れないという仮説が浮上してきました。
  この説を「トイレ案内男」と実際に遭遇した友人にも話した所、「それはかなりありえそうな話だ」と納得されたので、あとはその「マニュアル」とやらを探せばよかったのですが、さすがにそこまではやりませんでした。

  さて、それからまた数年たって、ほんの1年前、私は派遣社員としてある会社に勤務していました。そこに出入りしていた税理士が元々はそこの社員で、1年間沖縄支店に勤務していた沖縄びいきで、あるときそこの部署の人間(といっても私以外に男性社員2名のみ)を近所の沖縄料理屋に連れて行くと言い出しました。あんまりオヤジたちにお付き合いするのは好きではないのですが、沖縄料理に興味があったので、のこのことついて行きました。(ただ飯&ただ酒に弱いだけ)
  
 そのお店は、店構えこそ小さかったけど(20人入れば満員)料理もおいしく、また泡盛がおいしいのだという新たな発見もありました。(それまでは、ただ度数の強い酒だと思っていた)私たちの座った席は、小さな居酒屋にありがちの、奥の「お座敷」スペース(テーブル2組、最大収容人数10名ただし身動きとれず)で、おとなりは「大学の同窓生とその恩師」という集まりみたいで、先生1名と女性が5名くらいいましたので、なんかもうぎゅうぎゅう状態でした。私は角の席で縮こまっていたのですが、お腹がいっぱいになり酔いもまわったころ、気も緩んできたせいもあって、少し体勢を楽にしようと足を伸ばそうとしましたが、テーブルの足が邪魔で上手くいかず、いったん腰を上げてから足を入れ直そうと思い、もそもそと体を動かした瞬間、税理士の先生(もうすでにグデングデンの状態でした)が、いきなり、

「お手洗いは正面の右側ですっ!」

と、まるで「天皇陛下万歳!」っていうみたいに、歯切れよく、しかもでかい声で教えてくださいました。
  私はしばしフリーズしましたが、気を取り直して、
「あのう、トイレに行きたいわけじゃないんですけどお・・・ところで、なんでトイレの場所を教えてくださったんですか?」
  先生はすっかり上機嫌ですので、ガハハハと笑うと、
女性にトイレの場所を教えるのがマナーなんだよ、なあ○○(私の上司の60歳のおじさん)、お前もよく覚えておけよ!まったくお前は、そういうエチケットまったく知らないから、だめなんだよー、ガハハハ!!!」

  やはり、私の立てた仮説は正しかったようです。
  旧いエチケットとして「女性が初めて訪れる店では化粧室の場所を教えてあげること」が、世間一般では謳われているようなのです。

  でも、なんであんな狭い店で、お客様全員に私がトイレに行くことを告知されなきゃならないのか、やはり納得しがたい「エチケット」です。
  そのあたり、それを実践している御本人はどう考えているのか聞き出したかったのですが、先生の心は泡盛でぶっ飛んでしまっていて、まともにお話ができる状態ではありませんでした。

  これは私の個人的な見解ですが、多分こういうエチケットが通用した時代があったのだと思います。
  女性がまだ「恥を知っていた」時代。人前でものを食べるのが恥ずかしく、うつむいまま押し黙っていたとか、そんな逸話はよく耳にします。ましてや、男性の前でお手洗いに立つなんて事態になったら、それこそ恥ずかしさのあまり死にたくなるかもしれません。同席している女性がそういう「サイン」を見せたら、そっとお手洗いの場所を教えてあげるのが紳士たるものの勤めでしょう。って、いつの時代の話だよ!
  
 悪いけど、今時の女性達はがんがん外食にも行くようになったし、歩きながら飲み食いするのも、もうへっちゃら、そんなの町を闊歩する女の子みりゃ一目瞭然でしょうが!おじさま方の奥さんたちだって、そこまではさすがにやらないかもしれないけど、暇と金さえあれば、都心の有名レストランのランチなんて食べ歩いて、「給料日だからあー、たまにはリッチなお昼にしよっかー」と勇んで行ったOL達を絶望のふちに突き落とします。(だって、せっかく奮発した3500円のランチが香水の匂いぷんぷんさせたおばちゃん達のうるさいおしゃべりで台無し!)
  だいたい、トイレの場所なんか店員に聞けばいいわけだし実際に聞かなくても立ち上がって歩き出すと、気の利いた店員だったら「あちらの奥の右側です」とか教えてくれますよ。それでも、かっこつけたい女性だったら、男性の前でも店員に「お化粧直したいんだけれど・・・」とか言えばいいわけだし、そのくらいの知恵はありますでしょう?

  それに、今の30歳前後の男女に関していえば、ぜったいに女性のほうが場慣れしていると思う。あくまでも「平均値」の想像に過ぎないけど。かしこまった所(高級レストランやおしゃれなバー等)に行っても、たいてい女性のほうが堂々としていたりする。彼女たちは海外でも三つ星レストランに果敢にチャレンジしていたりするので、そうそうびびったりしないのだ。

  「トイレのご案内」はそういった社会趨勢を全く考慮していない「大昔のエチケット」であるので、そういうマニュアルがあるのなら早急に削除することをお勧めします。不幸な男性(しかも往々にして生真面目なやつ)がそれを鵜呑みにして、相手の女性に不快感を与えてしまい「なんか変な人」と思われるのは気の毒です。

  でも女性の立場としては、これはけっこう便利ですよねえ。だって、年寄りならともかく、今の20代から30代の男が堂々と
「お手洗いはあちらです!」
なんて言ったら
「こいつはマニュアル鵜呑み君に違いない。これが女性にとって不愉快だという、想像力すら働かない。だめだこりゃ・・・」
と、無駄足を踏まずに最初のデートでまんまと食い逃げすることができます。

 ですが、私はとても親切なので、こうして私の文章をがまんして読んでくださっている「あまり女性に縁がない」男性諸君にこの事実を開示してさしあげているわけです。デートやお見合いのご成功をお祈りしています。

 さて、ではここでもう一言付け加えておきましょう。
 
 たしかに、今の若い人達のことはよくわかりませんが、女性が男性の前でトイレに立つということは、やはりなかなか難しいものです。特に初デート(死語?)やお見合いの席などではなおさらです。まあこれは男性でも同じだと思いますが、二人っきりだと片方が席を立つのが気まずいということはよくあることです。
 では、ここで、男性諸君にその「男らしさ」を多いに誇示していただきましょう。

 先にトイレに行く

 これでしょう!
 タイミング的には喫茶店なら注文を済ました後、食事なら食べ終わって一息ついたころあたりがいいのではないでしょうか。
 「わるいけど、ちょっと・・・」
 とか、一言断って、どしどし中座しましょう。男性が先に席を立ってくれれば、女性も
 「私も行っておこうかな」
  と、トイレに行きやすくなりますし、そういう些細なことでも「なんか、この人と一緒にいても、それほど緊張しないみたい」とか思ってしまうような気がします。
 そして、女性が「じゃあ、私も・・・」と腰を上げたところですかさず

「レジの右側を入ったところ」

 と、さりげなく「トイレの場所をご案内」してあげる・・・・これがエチケットというものでしょう。
 
 

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