贅沢な悩み

6月6日なんで副題悪魔の飽食

2000年6月6日
  
 とんねるずがやっていた「食わず嫌い王選手権」という番組がけっこう好きでした。
 タレントが二人登場して、5品づつ「大好物」を試食して、その中に紛れ込んでいる「実は大嫌いな食べ物」を当てっこするという人気番組です。苦手な食べ物をいかにおいしそうに食べるかという演技力が要求されます。

 あの番組を観ながら、私はいつも悩んでいました。

 「私がもし、うっかり女優とかタレントとか文化人になってしまい、あの番組に出演を依頼されたら・・・・・どうしよう・・・・・嫌いなものが無い!

 そうなんです。私はこれといって嫌いな食べ物が無いのです。
 やはり「どうしても食べられないもの」のひとつくらいあるのが、現代人のたしなみなのではないかと思い、いろいろと他人の嫌いなものをきいてみると、トマト・エビ・ピーマン・しそ・みょうが・貝類・生魚・トリの脂身・ベーコン・コリアンダー(香菜、タイではパクチー)、羊肉、とうがらし、糠漬け、関西人なら納豆、などなど、実にみなさんいろいろと嫌いな食べ物があってうらやましい限りです。

 家庭環境も影響するのでしょうか?そういえば自分の両親の「嫌いな食べ物」など思い付きません。
 だいたい、私は子供のころ「立派な大人は好き嫌いがない」と信じていて、友人のお母さんが口に入れたものを「うわ、この味だめ!」とペっと口から出したのを見てとてもショックを受けました。
 
 ちなみに私の父はサラリーマン家庭にありがちな「ほとんど尊敬されていない父親」でありましたが、魚を食べさせると背骨しか残さない人で、父の食べ終えた皿をかたづけるときはいつも「ネコイラズとはこういうものを言うのか?いやあれは殺虫剤か、じゃあ、ネコマタギ。あれは猫も食べないという魚の名前か。それじゃあ、ネコナカセ?」などと考えてしまいます。
 家族一同、父親の魚の食べ方に関しては純粋な尊敬の念を隠せませんでした。だいたい背骨もヤワな魚だと、もともとその皿に魚が載っていたことすら思い出せないような状態になります。
 人間としては相当な技量ですが、そんじょそこいらの野良猫には絶対に負けないと思います。すごいぞ!お父さん!
 魚ほど派手ではないですが、他の食べ物でも父は美味いとも不味いとも言わずにきれいさっぱり平らげます。後には何も残らない。全く何も残らない。ぜったいに残るのは卵のカラくらいじゃないでしょうか?あと、やきとりの串も残します。

 そんな立派な親と毎日食卓を囲んでいた成果なのか、「この世に食べられないものは無い」という思想が植え付けられているようです。

 それでも、あまり積極的に食べないものくらいはあります。
 きゅうりは、出されれば食べますが、自分でわざわざ購入したことはありません。でも、居酒屋でモロキュウはたのんだりしますし、きゅうりの漬物はわりと好きですが、あまり生のままバリバリ食べたりしません。
 メロンも自分で買ったことはありません。長ねぎもあまり買わないのですが、鍋やうどんの中に入っていれば残すことはないです。どちらかというと薬味で使うほうが好きで、煮込んだネギはあまり好きではないという程度です。
 奈良漬やべったら漬けのように、甘い漬物はあまり好きではありませんが、「これは食べられないので、ゴメンナサイ」というほどのもんでもないです。
 
 ただ、羊羹はできるだけ手をつけたくありません。味もたいて甘すぎるし、それよりも歯に染みて痛いからです。でも、水ようかんと芋ようかんは大好きです。最中もあまり好きじゃないなあ。あと粉っぽい和菓子。らくがんとか美味しいとは思いません。甘いものに関していえば、きっぱりと洋菓子党です。

 「特に嫌いな食べ物がない」という話をすると、まわりの皆さんにいろいろと「じゃあ、あれは?これは?」と聞かれますが、けっこう食べたことないものも多いんですよね。

 クサヤ ・・・ いまどきあまり食卓には並ばないのではないのでしょうか?でも、干物は甘い「みりん干し」は積極的に食べませんが、甘くなければ大丈夫だと思います。基本的に醗酵食品は大丈夫のような気がします。

 鮒寿司 ・・・ 関西の人によくそう言われますが、関東育ちは食べたことない人多いのではないでしょうか?試してみたいです。

 ホヤ ・・・ 東北の人はけっこうこれを挙げる方が多いのですが、けっこう珍味というか東京では高級食材のような気がします。海産物はたいてい平気なので、これの噂に聞く生臭さも大丈夫のような気がします。だれかご馳走してください。

 あん肝は大好きだし、マトンも自分で買って料理しちゃうし、基本的に酒飲みなので「つまみ系の珍味」もたいてい大丈夫でした。もずくは居酒屋でいつも食べているし、辛いものは大好物だし、「美味しんぼ」でも語られていましたが、「グロテスクなものほど美味しい」というのは真実だと思っています。白子なんて美味しいですよね。あの調子で羊の脳みそも調理されていれば食べちゃうと思います。

 「ほら、よくテレビで罰ゲームになる青汁は?」
 「フィリピンのおやつの孵りかけのゆで卵は?ひよこの形がわかるやつ」
 「韓国のさなぎの缶詰は?」

 青汁は問題なしです。好きといってもいいかもしれない。粉末よりもスタンドで売っている生ジュースの方が飲みやすいです。
 フィリピンのゆで卵や、韓国のさなぎの缶詰に関しては、ちょっと自信がないのですが、ちょっと待ってください。私はあくまでも「食わず嫌い王」に出演したときのことを想定しているのです。あの番組でそんなもん「大好物です」と並べられないじゃないですか!一応、多くの日本人が美味しいと思っているのに、その本人はどうしても食べられないものというのが前提です。あきらかなゲテモノは除外です。そうじゃないと、「じゃあ、ミミズは?ムカデは?ゴキブリは?」という話になってしまいます。
 それよりも、どうせなら「シーラカンスは?」とか聞いてほしいです。ついでに持って来てくだされば食べてみたいですね。イルカは美味しいんでしょうかねえ・・・

 たまに行く下北沢にあるアフリカ料理屋のご主人はケニアに滞在していたころに珍しい動物の肉をいろいろ食してみたようで、「ラクダは不味かったけど、サイは美味しかった」なんて話しを聞くと、うらやましくなります。

 「それでは、ミヤノさんの大好物は、サイの蒲焼き、の竜田揚げ、キリンのシチュー、ラクダのしゃぶしゃぶ、ナマケモノのステーキの5品です」

 やだなあそれ・・・・

 青カビのチーズは丸ごと齧っちゃうし、塩辛も大好き、光り物の魚も大好きというより寿司屋に行くと「とりあえず、光り物は全部食べたいです」と言うくらい、宝石には興味ないくせに光る魚は大好きです。レバーも好きで特に牛の生レバーは大好き。食べたこと無いけども馬刺しも大丈夫でしょう。内臓も大好き。豚足豚耳モツガツ蜂の巣も大好き。肉屋で牛タンの元の姿にはさすがに驚きましたが、スライスされていれば大好物。

 ああ、やはり、
 「それでは、ミヤノさんの大好物は、さなぎの佃煮、ヘビの白焼き、ヤモリの黒焼き、ミミズハンバーグ、サメの刺し身の5品です」
 なんてことになってしまうのでしょうか。

 もしくは、シュール・ストレンミング(スウェーデンの世界最強と言われる缶詰。缶の中で醗酵が進んでいるために不用意に開けるとよく振ったコーラ缶のように吹き出す。ものすごい匂いがするらしい)、エイの漬物(韓国名産、エイをぶつ切りにして醗酵させる。ものすごいアンモニア臭がするらしいが現地では結婚式などで供されるご馳走)などの、日本人には馴染みのない強烈な醗酵食品にでもご登場ねがわないといけないのでしょうか。
 でも、醗酵食品では日本のものも外国人にとっては「すごい臭い!」ものだったりするでしょうから、けっこう大丈夫のような気もするのですが是非試してみたいものです。

 でもそんな、明らかに壮絶な匂いのするものじゃあ、「食わず嫌い王」で勝者になれませんよねえ・・・
 あーあ、なんかいい食べ物ないでしょうかねえ。
 多くの人が美味しいと思っているのに、私はどうしても食べられないもの・・・・・

 贅沢な悩みなのでありました。

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