天職を探せ!


2000年2月22日
 
 バブル景気にこれといった直接的な恩恵を受けなかったので、今のどん底景気になってからも、それほどダメージを受けているとは実感し難いです。平たく言えば、多少収入が下がっても、物価もそれに応じて下がっているので、生活水準にこれといった変化がないのです。
 そんな好景気でも不景気でもいつでも「やや貧乏」な私でさえ、「うわあ!世中本当に景気悪いんだ!」と実感したときがありました。
 それは就職活動のときです。
 足掛け10年勤めた会社を辞めて、貯金と退職金でしばらくぶらぶらとインドなんかに行ってきて、戻ってきてからさあ働こうと思いきや・・・どこも雇ってくれませんでした。
 30歳過ぎの、これといって資格も専門技能もない人間が、再就職先を探すのは想像以上に困難でした。履歴書を送付してもそっけなく送り返され、最初のころは「そんなにダメなのかなあ私って・・・」と落ち込みましたが、送り返してくる会社によってはご親切にも具体的な状況を添えてくれるところもあって「今回、1名の募集に200通を超える応募がありまして・・・云々」などと書いてあり、その倍率の高さに驚きました。
 履歴書を送っても面接までたどりつけることは全くなくて、書類審査がなくて履歴書持参で面接というところだけ、なんとか採用担当者とお話ができたのですが、それもほんの片手で数えるほどでした。
 結局、面接で精一杯アピールしても採用はされなかったのですが、皆さんきちんとした助言というか厳しいご意見を言って下さいました。

 「あなたは、多分ちゃんと仕事が出来る人なのだろう。でも、この多数の応募者の中で、どうしてもあなたでなくてはならないという理由がない」

 大企業ならともかく、従業員数十名の零細企業でこんなこと言われるんですから、いやはや世の中厳しいですね。
 なんか書いているだけで、だんだん暗い気分になってきます。当時はもっと切羽詰まってたし、さらに暗澹とした気持ちになっていました。

 「もしかして、私ってこの世に存在する価値もないような人間なのか?」

 と、大袈裟ですが、同じように転職した友人達は男女を問わず「履歴書なんて50通くらい出した。その中で面接してくれるのが2社あれば御の字」といった「ダメ自慢」を肴に酒飲んでたりしたので、こういう心情を理解して下さる方は多いことと思います。
 それでも私は元来ポジティブ・シンキングですから、どっぷりと落ち込みながらも「明るい未来」を探りました。

 「人間何か一つくらい取り得はあるはずだ」

 たしかに、頭脳明晰でも美人でもないけど、今までそこそこにやってきたわけだし、それなりに役に立ってきたし、上・中・下で評価されたら、最低でも「中の上」くらいにはなるでしょう。
 そこにもうひとひねり「アピールポイント」とやらを加えれば、絶対に「上の下」くらいにはなるはずです。
 そして、その「アピールポイント」やらが明らかになれば自ずと「私にしか出来ない仕事」というものがわかるはずです。「私にしか出来ない」わけだから、採用する方だって、私を採用するに決っています。

 「私にしかできないことかあ・・・」
 これが、考えてもなかなかこれといったものが思い付きません。もっとも、簡単に思い当たるようなものがあったら、もうすでにそういう職に就いていることでしょう。暇だけはたっぷりあったので、あれこれ考えていたら、ひとつだけ強烈なのを思い付きました。

 「ゴキブリだ!」
 「ヘビ女の恐怖」でも触れましたが、私はゴキブリが全く恐くありません。蟻と同じくらいの存在だと思っています。
 過去の経験では、オフィスにゴキブリが出現して老若男女を巻き込んでのパニック状態になったときに、私が颯爽と登場して、鮮やかに退治し、涼しい顔をして「死体処理」までするので、「ゴキブリが出たらミヤノを呼べ」ということになっていました。
 年末の大掃除のときや、引越しのときなどもよくゴキブリの遺体が発見されて、その処理も快く引き受けました。オフィスに一人いても損はない人材です。
 採用担当者がもし「死ぬほどゴキブリが嫌いな人」であれば、迷わず私を採用するでしょう。

 でも、面接で「ゴキブリならだれにも負けません」と胸を張って宣伝する勇気もありません。

 そこで、もうちょっと現実的に考えました。
 殺虫剤メーカーの研究室などは、多分ゴキブリを大量に飼育しているはずです。もちろん研究者の方々はゴキブリなんて平気に決ってますが、そこには絶対に秘書とか事務員もいるはずです。事務員にゴキブリの世話をさせることは無いでしょうけど、普通のOLさんたちは「ゴキブリが大量に存在する建物」なんかで働きたがらないと思います。よって、そういうところは慢性的な人不足に違いない。それに、選択の余地もないから、一般事務のレベルが低いだろうし、そういう中でなら私もけっこうイイ線いけるかも・・・
 そう考えて、さっそくインターネットで検索してみましたが、そもそもそういう研究所って都内なんかには無いんですね。それでも、私の特殊技能(?)をかってくれて、そこそこの給料出してくれるんだったら、田舎に引っ越してもいいわい!とも思ったのですが、HPで職員募集しているところはたいてい「研究者募集」で「大学院卒以上でなんたらかんたら」とか書いてあって、一般事務については何も触れていませんでした。
 大学の研究室とかで「ゴキブリ研究」してるところとかないのかなあと探したけど発見できなかったし、そういう「虫全般」になってくると、となりの部屋には大量の毛虫がいたりしそうで「ゴキブリは平気でも毛虫がダメ」という私には向いてなさそうです。やっぱり殺虫剤メーカーだよなあ。ダニもアリも平気です。

 そんな現実的とも現実逃避ともいえる試行錯誤をしている間に、なんとか就職先を見つけたのですが、あのまま失業していたら、殺虫剤メーカーに電話かけてたかもしれません。
「ゴキブリが平気なOLいりませんか?」って・・・

今でも、「ゴキブリに囲まれて働く」という夢(?)は捨てていないので、もしそういう環境ゆえに人材不足にお悩みの会社がありましたら、ぜひお知らせください。ただし、繰り返しますがヘビと毛虫とミミズは駄目です。カエルとトカゲとクモは大丈夫。足が2本以上(3本以上と言いたい気分のときもたまにある)8本以下厳守!!!!!

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