棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、材料等をいいますが、決算期末
には棚卸しをして期末棚卸資産の金額を出して決算を組みます。ところが、こ
の期末棚卸資産の金額が減れば減るほど売上原価として損金に落ちる金額が増
えるので、所得も減ることになります。 卸売業、製造業等で棚卸資産の金額が
比較的大きな業種では、この棚卸資産の金額を減らして脱税するのは日常茶飯
事となっています。取引先と通謀する必要がなく、期末の実地棚卸金額を内部
的に減らしておけばいいだけで簡単にできます。 棚卸金額を減らす(税務署で
は棚卸除外といっている)には、単価を下げるのと、数量を減らす方法の二通り
あります。棚卸資産を台帳により、仕入、売上、在庫の単価、数量を継続的に
記帳している会社では、帳簿上の棚卸資産金額が算出されます。これと、実地
棚卸資産金額とが比較され、軽微なものについては棚卸減耗損として損金に落
とすことができます(どれくらいが軽微かは具体的な基準はないが、せいぜい
棚卸資産金額の1〜2%程度です)。意図的に棚卸資産の金額を減らすには、台帳
から数量か単価を減少させなけばなりません。これは、売上の数量や仕入単価、
数量とあわなくなってしまいます。売上帳、仕入帳及び在庫台帳を丹念に突合
させていくと、バレてしまいます。
それに対して、棚卸資産の出入りを一切台帳につけず、期末に実地棚卸だけを
している会社では単に実際あるより、単価あるいは数量を鉛筆を舐めて減らせ
ば事足ります。このような会社に対して、調査官は、期末の実地棚卸表、期末
からさかのぼって3ヶ月くらいの仕入帳、請求書、納品書そして、売上帳、請求
書(控)、納品書(控)の提出を求めます。任意に期末近くのある仕入を取り上げ、
この商品はまず実地棚卸表にあり、単価及び数量が合っているかを調べます。
もし、すべて棚卸表に計上されていれば問題ありませんが。一部あるいは全部
が棚卸表に計上がなければ、当期末の売上帳で何時売れているかを確認します。
これで、売上が計上されていれば問題はありませんが、計上がなければ、棚卸
が漏れていることになります。これを任意に4〜5個ぐらい調べれば、大体の見
当がつくので、あとは代表者を追求します。
前述したのは、決算近くの棚卸資産の除外の発見の仕方ですが、前期以前の古
くからの除外したものを見つけるには、帳簿や納品書等の突合では膨大な量に
なり不可能なので、実地棚卸表をもって、棚卸資産がある倉庫等の保管場所に
行きます。倉庫等に行って、適当に商品を選んで、これは実地棚卸表に載って
いるかどうかを確認します。見つけ方として、倉庫の奥や陰の方に置かれてい
るもの、倉庫だけでなく代表者の自宅、車のトランクの中、取引先の倉庫等に
隠してあるケースもあり、反面に行くことになります。
棚卸資産を意図的に除外する以外に、評価損計上の問題で税務署と争うケース
は多いようです。社長としては、古くに仕入が売れ残った商品等は価値が半減
しているから、商品評価損を計上したいところです。ところが、商品の評価方
法として「低価法」を採用して、商品の時価が客観的に求められるのでなけれ
ば、「商品低価評価損」の計上は困難です。ましてや、「原価法」を採用して
いては、著しい陳腐化をしていなければなりません。この「著しい陳腐化」と
いうのは、棚卸資産そのものには損傷、品質低下等の物質的な欠陥がないにも
かかわらず、型式、性能等の優れた新製品が発売されたこと等経済的な環境の
条件の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価値が今後回復しないと認
められる状態にあるものと解釈されています。