東寮十七室ノイローゼ狂詩組曲

創作 三〇年一一月 改訂 三一年五月

 (ああ玉杯に花受けて)
 ああ玉杯に花受けて、緑酒に月の影宿し

 (炭坑節)
 月が出た出た月が出た
  三鷹寮の上に出た
 あんまりお月さんが丸いので

 (ショジョジの狸ばやし)
 おいらはいかれてノイローゼのノイノイ

 (ウスクダラ)
 三鷹寮をはるばる訪ねてみたら
  世にもアブノーマルなものばかり…

 (田舎のバス)
 三鷹のバスはオンボロ車
  ペンキははげて雨はもる
 それでも学生さんすし詰め乗っている
  小田急バスが高いかアーら
 三鷹のバスはオンボロ車
  凸凹道をノソノソ走る
 アンレマ三鷹の囚人バスが来るダンベ

 (早稲田大学校歌)
 武蔵野の西北新川の森に
  くずれるいらかは我らが食堂
 我らが日頃のエッセンを食うや
  空腹の行列、餓鬼の精神
 エッセン忘れぬあさましきわれら
  かがやくわれらが食い物みよや
 クジラ、クジラ、クジラ、クジラ
  クジラ、クジラ、ノイローゼ

 (靴みがき)
 さあさ皆さん三鷹の名物
  ちっとも動かぬ洗濯機
 手拭鉢巻 腕をまくって
  三鷹のセンタクボーイ
 おいらの頼みのあの小母さん
  今週はまだ来てくれない
 そこで今日は洗濯だ
  講義があってもサァボッテ
 サァサ皆さんぼくがこうすれば
  どんなシャツでも皆破る
 ゴシゴシバリバリゴシゴシバリバリ
  三鷹のセンタクボーイ

 (草津節)
 風呂場よいとこ三日目には入れドコイショ
  お湯の中にはコリャ垢がうくよ
          チョイナチョイナ
 入った入ったよ沢山入ったドッコイショ
  湯ブネの中にはコリャお場もあるよ
          チョイナチョイナ
 押した押しただあわはねかけて
          ドッコイショ
 こすらなくてもコリャ垢はおちる
          チョイナチョイナ

 (モダンボーイ)
 我輩は寮中で一番
  気前がいいと云われた男
 今夜は売店の当番だ
  野郎共あわてて買いに来い
 誰も来ないときや、つまみ食い
  買いに来たときや、毒味
 売った後にはお相伴
  晩餐食わずに済んだ
 そもそも我輩が測りや
  五〇匁と言えば百匁
 五百と言えば一貫匁
  だから売店は赤字

 (叱られて)
 のまされてのまされて
  おいらは御機嫌よくなって
 歌をうたってねんねしな
  懐さみしい月の末
 またまたケルピンになっちゃた

 (オマイパパ)
 オマイパパ
  書留を送れ オオマイパパ

 (宵待草)
 待てど暮らせど 来ぬ書留
  質札たまる やるせなさ
 今宵は月もでぬそうな

 (螢の光)
 かけたお皿に黒い箸
  ゲイカツ食う日 重ねつつ
 いつしか年も 過ぎのとお
  クジラ一匹 平げた
 歌うも笑うも 限りとて
  形見に思う ノイローゼ
 三鷹の寮を 披露して
  それでは 皆さん サヨウナラ

 頃は昭和参拾余年真冬のこと
 所は武蔵の国 新川のはずれ
 草木も眠る うし三つ時
 暗雲たれこめ 外は真暗 闇の夜
 ポーツと窓越しに見える一つの灯
 一つの人影が足音を忍ばせて近づいてくる
 丁度その時、パラパラパララバラ!!
 さては雨か、嵐か、はたマタ霰か
 ヤヤヤッ雨だ、雨だ……寮の雨だ!!