駅から家までの道のり、妙にそーっとキャリーバッグを持って緊張した面持ちのワタシはまさに闇の取引人のようだったことでしょう。
しかしワタシの努力のかいあってか?スオミはすやすやおとなしくねむったままウチまでたどりついたのです。
家には、すでにダンナが帰りついていました。
「?」
ヤツの目が何かを訴えています。
「!」
ワタシは力強く目で答えました。
我々の間でこうまで完璧に目で意志が伝わったことがかつてあるでしょうか。
この瞬間、最終決戦に挑むゲッターロボの3人のパイロットのごとく我々の心はひとつだったのです。
「ひっひっひっ、すんごい、可愛いよぉー!」
先にスオミを見ちゃったことでなぜか「一歩リードだもんね」と思っているワタシは、やり手ババァのようにほくそえみながらそぉっとキャリーバッグをおろしました。そして、「いつ出てくるかわかんないけどとりあえず開けとこうね」と「じーっ」とバッグのファスナーを開けたのです。
「仔猫をもらってきたときは、無理にキャリーから出してはいけません。仔猫が自分で出てくるまで、そっとしておきましょう」というのも必ずモノの本には書いてありますよね。
ですから、「きっとすぐには出てこないんだろうな」となんとなく思っていました。
ところが、あの気が弱そうで自信なさそうでいかにも神経細そうだったスオミが!
バッグを開けたとたん、間髪入れずに「つぴょーん」とビックリ箱のように飛び出してきたのです。
正直これは予想外でした。
しかしとびだした小さいスオミの可愛いことといったら!!!(おやばかスタート)
あまりのカワイさに、「あっ!」と叫んで思わず撫でようとしたダンナの手をすりぬけて、ずだだだだーっと走る走る!!
うわあどこに行くんだ、と思わず追えば、ずどどどどーっと逃げる逃げる!!
とてもトロくさい人間なんかにはつかまえられそうもない素早さです。
わっわっ、どうしよう!・・・と思ったそのとき、ダンナはいきなり釣竿にネズミのおもちゃがくっついた猫じゃらしを「しゃきーーん」と振りかざしました。おおっ、いつのまにそんなものを?!・・と驚くワタシでしたが、なんとヤツはしっかり気を利かせて、会社からの帰途ひそかに猫じゃらしまで買ってきていたのです。さすが猫歴が長いだけのことはありますね!(そうか?)
空中を乱舞するネズミおもちゃを目にしたとたん、それまで草原のレイヨウのように逃げ惑っていたスオミは「きききーっ」と急ブレーキをかけて、今度はこっちに突進してきました。まるで闘牛場のウシです。
初対面の我々をこわがりもせず、おもちゃに向かって飛ぶ・走る・くらいつく!!
ワタシの脳裏には猫飼い入門書の「お引越しの当日、こねこはとっても疲れています。可愛いからといっていじりまわしたりせず、静かに休ませましょう」・・云々という一節がよぎり、思わず「い、いいんだろうか・・・」と絶句しました。
しかしスオミは、そんなワタシの思惑をよそに大喜びでぴょんぴょん飛び回っています。
・・・・・・
我々は、写真で見ていたときの印象やブリーダーさんから聞いた話から、すおちゃんはとってもおとなしくて繊細で女の子らしい子なんだろうなと想像していました。ちょっと線が細いみたいに見えたので、もし体が弱かったらどうしようとひそかに余計な心配までしていたのです。
どこがですか。
コイツめちゃくちゃ元気だよ・・・
しかも新しいおうちを、ぜんぜんこわがってないよ。
我々の描いていた「楚々とした三毛少女(ちょっぴりプリントずれ)」のイメージは一瞬にしてガラガラと音を立てて崩れ去っていったのでした。
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