連載エッセイ◎第3回
銀色タペストリー
どのような生き方をしているにせよ、人との出会いと別れはつきまとう。何気ないように流れているように見える
時間の縦糸の何本かが、偶然のように絡み合い、もつれ合い、いくつかの結び目を作ってはほどきながら流れるままに、出会いと別れとの運命のドラマを編み出す。
あたりまえのように隣の席で笑っていた人達が、いつの間にか自分だけの時間をたぐり寄せて離れて行くとしても
それは新しい自分に出会うまでの少しだけ淋しい儀式なのだろうと、この頃漸く気付き始めた。
河合その子
Sonoko Kawai
4月21日にリリースされたアルバム『Replica』からの
曲を中心に、5月中旬に "Replica Live '90" と題したライブツアーを予定。
5/12 sat.名古屋クラブクアトロ、5/13 sun.大阪ブーミンホール
5/18 fri.川崎クラブチッタ、5/19 sat.MZA有明
詳しいお問い合わせ先P.105を参照して下さい。
最近ものすごく気になっている歌があります。
”職業選択の自由、アハハ〜ン♪”
っていう、アレ。コマーシャルで流れている転職雑誌の歌ですね。
これを耳にするたびに、”そうだよなぁ”なんて、しみじみ考えちゃったりして。私も、普通の職業をやってみたいな……とか思ったりするわけです。
私達みたいな世界の人間って、転職するとしても割と決まった枠の中で変わっていくっていう感じがするんですよね。歌手から作詞家、作曲家とか、レコード会社のディレクターとか。それも、”この仕事は私に向いていないっ!”とか思い立ったら即デューダ! とかっていうノリではできませんから、やっぱり。歌手が退職届とかを出すなんてこともないでしょうし。
私は、とりあえず今は自分の仕事が好きだから、この仕事をやめたいとかは全然思っていません。ただ、その代わりというわけではないですが、他にもう1つ職業を持ちたいな、と思うんです。それも、もとが似た職業で枝分かれっていうんじゃなくて、もう1本違う木が欲しいなっていう感じで。
何となく、そうすれば楽しみも増えるんじゃないかしら……とか思っているんですけれど、生きていく上で。
なんでこんなコトを真剣に考え始めたかっていいますと……実はレコード会社のCBSソニーで私の宣伝担当だった山内さんという方が、突然デューダしてしまうコトになったからです。
お仕事で会うたびにやつれてきていた山内さん。相当、ムリして頑張っているんじゃないかな、と思ってしまうくらい、疲れが出ていたんです。明るくて、すごく元気が良くて、少しカルイ(?)ノリの人だからパワーは発散しているんですけれど、目の下のクマにその反動が現れてきていたんです。端から見てると、その環境に押し込められてるのが本当にツライんだろうなっていう……。
やっぱり、やりたいコト自由にやるっていうのが、人間一番健康的ですよね。肉体の疲労は休養したり栄養とったりすれば快復するけれど、精神的なバランスをくずしちゃう所までいっちゃうんだったら、その環境は思い切って変えちゃう方がいいと思うんですよね。
これが載る頃には、山内さんも新しい会社(広告代理店だそうです)でのびのびとお仕事をして、健康的な生活を取り戻しているんじゃないかな。
そんなわけで、”職業選択の自由、アハハ〜ン♪”にしみじみしてしまう、今日この頃なのであります。
で、先日、このエッセイの打ち合わせをしている時にこの”職業選択の自由”の話題で盛り上がったんです。山内さんの話から始まって、私、河合その子の”人生選択の自由”へと話は展開していきまして。私が発言するたびにみんな”へー”とか言って目を丸くしたり、”さすがB型の割り切り方は違う”とか言われたり。なんか、そんなに意外がられるようなコトじゃないって気が自分ではするんですけどね、うーん。
たとえば、歌手とは別のもうひとつの職業を持つっていうのは、あり得るでしょ? 昔だったら小椋佳さんとか、最近だったらSHINE’Sっていう人達ですか? サラリーマンが本職で、歌手もっていう……。
だから、私が旅館のおかみやりながら歌手やってたりしてもいいていうコトですよねぇ。瀬戸内寂聴さんみたいに、尼さん兼作家パターンもあるわけですから、尼さん兼歌手だとか……琵琶を弾きながら作曲して、リズムボックスは全部木魚を使って、なんていうのもアリだし。”曲作りをする時は、どういった状況から生まれてくるんですか?”とかインタビューで聞かれたら”やっぱり、お線香の香りをかぎながらですね”なんて答えたりして。なんか、わびさびのある哀愁サウンドしかできないような気もするけど。でも、いいなぁ、そういうのも。
ホントは私、一番やってみたい職業っていうの、実はワープロ打ちのOLなんですよ。(これは、本来ならば今、なっているはずの職業ですけど)そして子供の頃の夢だった保母さん♥ なんか楽しそうですよねぇ。童謡作って歌ったりしてね。
でも、満員電車に揺られて早朝出勤、これだけは私、どうしてもダメな気がします。そうするとOLとかっていうのはムリだから、普通の会社員とは時間帯をズラして昼から夜にかけて働く職業じゃないと……ブツブツなんて言ってたら、”CBSソニー出版なら、あなたの望みをバッチリ叶えます”だって。”なにしろ、昼から夜中を過ぎて朝までですから!”と胸を張って言うのはTYO編集部のNさん。ねぇ、それはちょっとカンベンって感じですよ。そんなコトしてたら、肝心の音楽活動の方が何もできなくなってしまう……。
なんてねぇ、職業選択の自由に目覚めて、”あれもいーな、これもいーな”なんて盛り上がってたら、周りの皆さんが一言”理想と現実は違うんだよ”……。それはね、解っているんですよね。でも、枠の中で生きていると、突然”バン!”って破りたいところも出てくるから。”とんでもないコトしてやるぞ!”みたいなのって面白いじゃないですか。一夜明けたら、私が突然尼さんになってるとか……できないコトじゃないですからね、決して。
マジメな話、山内さんを見てて思ったのは、転職するっていうのは、精神的な面で自分の中で”これ以上はダメだ”ってなっちゃった面もあるかもしれないけど、結局は自分の中に向上心があるからこそそういう展開になるんじゃないかなっていう。学べること、やれること、まだまだ誰の中にもたくさんあるはずですものね。
とりあえず私は……山内さんのその後をリサーチしつつ、策を練りたいと思っています。
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