オーリーとトル−ファー

アイザック・B・シンガー

 一本の木がありました。木枯らしの季節を迎えるために、葉はすべてなくなっていました。よく見ると、陽の光を一番浴びている小枝の先に、たった2枚だけ葉が残されていました。2枚の葉は何よりも輝いていました。
 一枚の葉はオーリー、もう一枚はトルーファーという名でした。オーリーとトルーファーは、木枯らしの季節が来たというのに、たった2枚で生きのびていました。寒い夜や雨にも耐えて小枝の先っちょに仲良くしがみついていいました。その理由がなんなのかは彼等にはわかりませんでした。
 オーリーとトルーファーは、深く愛しあうようになりました。自分たちは残されて、他の葉は散って行く。その理由をお互いが抱いている大きな愛の中にあるのだと信じるようになりました。
 オーリはトルーファーより、少しだけ大きくて、何日かだけ年上でした。そしてトルーファーは誰よりも美しくデリケートで可愛いい葉でした。しかし、いくら愛しあっているからとても、一枚の葉が、もう一枚の葉に何かをしてあげらることがあるのでしょうか。
 彼等は風が吹く時、雨が激しく降る時、アラレが降り始めた今も、互いに勇気づけあっていました。ひどい嵐の間、雷が鳴り響き、風が葉だけではなく、小枝のすべてを木から引き裂こうとしている時、オーリーはトルーファーに叫びました。「つかまっているんだ。君の全力でつかまっているんだ!」 トルーファーはそんな嵐の日には、時々泣きごとを言いました。「私の番が来たのよ、オーリー。だけどあなたはつかまっていてね」「何のために僕だけここに残るんだい?君がいなくなっては、僕の人生は意味がない。もし、君が落ちるというのなら、僕も一緒に落ちるよ」「よしてよ、オーリー。そんなことしないでちょうだい。葉が木の枝に捕まっていられる力がある限り、その葉は生き続けなければならないのよ」「僕の生きている意味は、僕と同じ枝に君が一緒にいてくれることにあるんだよ。昼には僕は君の美しさを見つめる。そして褒め賛える。夜には君の香を心の奥まで感じる。最後の一枚の葉になるのなんて絶対に嫌さ」「オーリーあなたの言葉は嬉しいわ。でもそれは、真実ではないのよ。あなたはわかっているでしょ?私がもう美しくないのを。鳥たちの前で私はもう恥ずかしいわ。私のこの皺のよった体をいつも鳥たちが笑っているように思えてならないの。私は、時と共に失ってしまったのよ。美しさも、かわいさも。たった一つ私の中に残されているのは、あなたへ私の愛だけよ」「それで十分じゃないか?僕たちの愛は、何よりも尊いものだもの。僕たちが愛しあっている限り、ここで生きるんだ。どんな風も雨も嵐だって僕たちを殺すことはできなかったじゃないか。僕が君を愛しているほど、君は僕を愛してはいないんだ」「オーリーどうしてそんなことを言うの?私は全身まっ黄色で皺だらけなのよ」「緑が美しくて、黄色が美しくないと誰が君に教えたんだい?すべての色。どの色も同じように美しいと僕は思うよ」
 オーリーが一瞬黙った時、この何か月もの間、トルーファーが密かに恐れてきたことが起こりました。風が吹いたのです。それも、いつものように何気なく吹く風と共に、オーリーは小枝から引き離されてしまったのです。
 トルーファーは震えて泣き出しました。でも、彼女はしっかりと小枝につかまっていました。彼女はオーリーが空中を舞って揺れながら地に落ちて行くのを見ました。
「オーリー、オーリー戻って来て」夢中でトルーファーは叫びました。しかし、彼女の言葉が言い終わらないうちに、オーリーの姿は消えて見えなくなってしまいました。
 トルーファーは木の上にたった一人で取り残されてしまいました。オーリーが去った小枝で、トルーファーは、たった一人ぼっちでした。昼間はなんとか陽の光のおかげで、悲しみも耐えられました。でも、あたりが暗くなって、刺すような雨が降り始めると、彼女は絶望以外の何事も感じられなくなくなりました。彼女は絶望の中で考えました。この不幸の原因は、すべて木にあると思うと憎しみさえも感じました。「葉は悲しみの中で落ちて行くのに、それがこの木にとってどれほど重要なことだろう。どんなに強い風が吹いても、木は地面にしっかりと立ってるて、雨もアラレも木を倒すことはできない。たぶんこの木は永遠に生きるのでしょう」
 トルーファーにとっては、木は神様でした。夏の間、自分たちが浴びた陽の光を木に送り、たくさんの葉たちと共に木のために生きて来たのです。それなのに、木は無常にもすべての葉を自分の体から降り払ってしまいました。みんな殺してしまったのです。たった一枚の葉を残して。
 トルーファーは木に再びオーリーを自分に戻してくれるように祈りました。でも、木は願いを聞いてはくれませんでした。彼女は木に再び夏にしてくれるように祈りました。でも、木はそれも聞いてはくれませんでした。彼女は今までの人生で、これほど夜が長く冷たく感じたことはありませんでした。彼女は去って行ってしまったオーリーに話かけました。暗闇は沈黙を守り、何の答えも聞くことはできませんでした。
 トルーファーは再び木に話しかけました。「あなたが私からオーリーを奪ってしまったのだから、私のことも取り去らせてください」しかし、この祈りさえも木は聞き入れてくれませんでした。しばらくして、トルーファーはまどろみました。眠りとは違った不思議な気の抜けた状態でした。
 どのくらい時間がたったかわかりませんが、トルーファーは突然眼が覚めてあたりを見回しました。何かが違っていました。彼女は驚きました。眠っている間に、風が彼女を小枝から引き離し、今、地上で目覚めたのです。今まで感じていた日の出と共に感じていた目覚めとは違っていました。今まで感じていた恐れも不安もすべてが彼女の心から消えていました。今まで味わったことのない自分の存在がそこにありました。木の上にいたころは、風や木の枝や、すべてのものに頼り切って気紛れに生きていました。ところが、今はたった一枚の葉であるというだけで、宇宙の一部分になった自分を感じました。
 彼女の隣には、あの懐かしいオーリーが横たわっていました。彼等は、今までよりも、もっと深い愛を持って挨拶を交しました。その愛は、今までのような、偶然や気紛れや依存しあっているものではなく、宇宙そのものと同じくらい力強い永遠のものでした。4月から11月までの間、昼も夜もずっと彼等が恐れて来たのは死でした。でも、彼等が今手にしたのは、死ではなく、救いだったのです。
 そよ風が来て、オーリーとトルーファーを舞上がらせました。彼等は、喜びだけを心に持って空中に舞踊りました。永遠を手にして、自分自信を解放したものにだけわかる、無上の喜びを持って・・・・

 注)私の勝手な訳がたくさん入っています