子供たちが、小学生で、子育てを楽しんでいた時のことです。

金魚  93年のノートより

 団地で、ペットは、飼えない。子供たちに、せめて生

き物をとハムスタ−やインコを飼ってみた。だが、私

は、生き物の世話が苦手で、みんな殺してしまった。

 去年の夏、子供たちの必死の私への説得で、金魚

を飼った。何匹か死に、5匹が残った。それがみるみ

る大きくなり、大きな水槽を買ってきた。水を変えるの

が面倒臭いので、水が汚れないフイルタ−付きのポ

ンプを買ったり、けっこうお金もかかった。

 今年の春ごろから、一番大きな出目金が寝たきりに

なってしまった。私は、それが気持ちが悪く、死ぬの

を見るのがいやだった。ある日、子供たちに提案し

た。「この金魚は死にそうだから、お池に連れていっ

てあげようよ」すると、10才の娘が、こう答えた。「そ

れじゃあ殺すようなものじゃない」私は、あわてて弁

解した。「だって、こんな小さな水槽の中で死ぬのは

嫌だと思うよ、広い自然の中で死にたいはずだよ」。

すると、7才の息子が「死んだのさわるの かあちゃ

んいやなんでしょう」といった。私は、むきになって、

「あんたたち、年とって死ぬとき、白い壁の小さい病

室で死にたいの?」と叫んだ。これで決まりだと思っ

た。娘は金魚を見て、私を批判的な目でみてこう言っ

た。「だ−れも知らないお池で死ぬより、住み慣れた

水槽の中で死にたいはずだよね」

 私は、娘の態度に腹をたて、「だったら死んだらあ

んたが埋めなさいよ」と言ってしまった。息子が「今ま

で、死んだ金魚はみんなおいらたちが埋めてあげた

んだよ、やってないのかあちゃんだけだよ」と言った。

 完全に私の負けである。親としての立場もなかっ

た。

 それ以来、毎日網で出目金をすくいあげ、朝晩餌を

食べさせている。寝たきりの金魚はまだ元気で生き

ている。今ではすっかり情がうつり、私は二度と「お

池に」なんて言わなくなった。

  この金魚は、この後3年ほど生きました。死んだ時は、親子で泣きました。

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