おなら王国の物語

 あるところに、小さな島がありました。そこは「おなら王国」と言いました。(昼寝の前に、誰かが、おならをしたもので、こんな話しをはじめましたが、これは、大失敗のはなしなのです。なにしろ、静かにしなくてはいけない時間に、この1行を言っただけで、大騒ぎになってしまったのです)
 そこは、とても平和な国でした。だって、そうじゃありませんか。普通の国では、もし、人前でおならなんかをしたら、たいへんなことになってしまいます。「まったく、あのひとはくさい」とか「まったく、へいきでおならをして、失礼な人ね」とか言われてしまいます。でも、この国では、違ったのです。もし、良いおならの音がでたならば「君は、すばらしい人間だ」と、ほめられてしまうのです。勉強なんかできることよりも、素敵なおならの音を出せることの方が、ずっと素晴らしいことだったのです。
 ですから、おなら王国の人たちは、みんないつもニコニコしていました。そして、いつも、楽しそうに、おならをしては、ほめあっていました。
 よその国から、遊びに来る人は、まったくいませんでした。なぜなら、おなら王国いがいの国の人たちは、みんな臭いのが嫌いだからです。
 
 そんな平和な国に、あるひとりの男がやってきました。その男の名前は「しょうしゅうざい」と言いました。その男は、おなら王国を自分のものにしようと考えていました。
 その男は、国に入ると大きな声で「おならをすることは悪いことだ。今後、おならをするヤツがいたら、俺の息で、みな殺しにする」と言ったのです。
 おなら王国では、大騒ぎになりました。今まで、いちばん素晴らしかったことが、これからできなくなるんですもの・・・。簡単に言うことを聞くわけにはいきませんでした。それで、なんとかしようと思ったのですが、いい考えは全くうかびませんでした。
 そのうちに、国の人たちは、しょうしゅうざいという男が恐くて、おならをしなくなってしまいました。どうして、そんなに恐いかというと、あるゆうきのある男の人が、しょうしゅうざいという男に「おまえなんか、でていけ」といったのです。そうすると、しょうしゅうざいという男は、口から白い息をシュー−ッと出したのです。すると、その勇気のある男は、バッタリとたおれてしまったのです。
 それを見た人、その話しを聞いた人たちは、恐くてたまらなくなるにきまっていることでした。

 王様は、頭をかかえて悩みました。そして、ぜんぜん良い考えが浮かびませんでした。きっとダメに違いないと思いましたが、町中に「もし、しょうしゅうざいという男をおいだしたものは、姫と結婚して、この国の王様になってもらいたい」と書いた紙をまわしました。
 
 まちのはずれの方に「うだつのあがらない」という、いままで1度もかっこいいおならをしたことのない男がいました。うだつのあがらないという男は、このまま、こんなところにいてもしょうがないので、ためしに行ってみることにしました。なにしろ、うだつのあがらないという男は、おならが下手なものですから、しょうしゅうざいという男が、そんなに恐くはなかったのです。

 うだつのあがらないという男は、町の中心に向って歩いて行きました。そのあいだ、うつくしいお姫様と結婚する夢や、今まで自分をほめてくれなかった人たちが、自分を尊敬の目で見ることを夢みつつ、鼻歌を歌いながら歩いて行きました。そのうちに、すっかりと、その気になってしまって、自分は、ぜったいに負けることがない気持ちになりました。

 ところが、町の中心に近づくにつれて、だんだん不安になってきました。『いったい、どうやって追い出せばいいんだろう。出て行けと言ったって行くわけはないし、力で押したって、だめだろうし、おまけに、しょうしゅざいという男に、白い息をかけられたら、自分は、もしかしたら、死んでしまうかもしれない・・』
 そう考えると、不安は大きくなるばかりでした。そして、町の中心に着いた時には、もう、その不安は爆発寸前でした。
 偉そうな顔をした しょうしゅうざいという男が目の前に腕を組んで立っていました。うだつのあがらないという男は、ずっと歩いていたものですから、そのまま前に歩いて行ってしまいました。しょうしゅうざいという男は、大きな声でこう言いました。「いったい、何の用だ・・・」しょうしゅうざいという男は、話しで聞いたよりも、ずっと大きくて、ずっと強そうでした。
 
 その時、うだつのあがらないという男は、決心しました。『やっぱり、やめよう。ぼくにはむり』そのとたん、しょうしゅうざいという男の前で、くるりと回って、来た道を戻ろうとしたのです。でも、今まで経験もしたこともない恐怖の中で、思わず「ブホーーーーーッ」と、国中に聞こえるほどの大きなおならをしてしまったのです。
 うだつのあがらないという男は、しょうしゅうざいという男に背中を向けていましたので、そのおならは、もろに、しょうしゅうざいという男の顔にかかったのです。そのとたん、しょうしゅうざいという男は、バッタリと倒れて、動けなくなってしまったのです。そして、次に目が覚めた時には、すぐに、船に乗って、おなら王国から、一番遠い国まで逃げて行ったということです。
(子供たちに、話した時には、お姫様と結婚して、ずっと幸せに暮らしましたで終わりました)
 その後、うだつのあがらないという男は、お姫さまと結婚して、ずっと幸せに暮らしました・・・と言いたいのですが、そうではありませんでした。
 うだつのあがらないという男は、お姫さまとの結婚は、十分夢の中で、楽しんだので、僕は、家に帰ります・・・。
 
 そう行って、うだつのあがらないという男は、家に帰ってしまいました。

 その後、うだつのあがらないという男は、町中の女性たちに、もてもてだったらしい・・・。

 
                          おっすまい