「ウクレレ・パラダイス」/JOY
ラッツパック・レコード LEIR-0049
「 Living In Paradise/Joy」
Roy Sakuma RSCD3811
すべてはウクレレ・フェスティバルから始まった
ハーブ・オオタの高弟で、ハーブの持っていた教室をも引き継いでハワイ最大のウクレレ教室主宰者となったロイ・サクマは、ウクレレの本場でありながらあまり重要視されていなかったこの楽器を、もっと普及させたいと考え、ハーブ・オオタの姪で、ウクレレのインストラクターでもあるキャシー夫人とビッグ・イベント「ウクレレ・フェスティバル」を1971年からスタートし、2000年には30回を迎えるまでになりました。
ハーブ・オオタが演奏一筋であるのに対して、持ち前の社交性を生かしたロイは、楽器メーカーや放送局、さらにはハワイ州政府にまで働きかけて、このイベントを盤石の存在に育てあげました。
JOYは超テク集団スーパー・ケイキの卒業生
ウクレレ・フェスティバルではロイ・サクマ教室の生徒を幼児、小学生のグループA〜D、初心者グループ、ウクレレ・バンドと呼ばれる中級者300〜400名の板付きグループ等いくつかのグループに分けて出演させていましたが、なかでも一際目立つ存在が「スーパ・ケイキ」と呼ばれる7〜8人の男女のグループでした。
ケイキというのはハワイ語で子供のことで、子供とは思えない実力の持ち主たちの演奏、歌そしてフラはウクレレ・フェスティバルの目玉とも言える存在でした。
彼等の年齢が「ケイキ」とは言えない年代になったのがきっかけで、ロイとキャシーはその中から4人の女性を選んで「JOY」を結成することにしました。おもしろいのは4人とも日系の姓を持っていることです。PURE HEARTの3名中2名(ジェイク・シマブクロとジョン・ヤマサト)が日系の姓であるのもこれに関連するかも知れませんが、日系の家族が音楽教育に熱心であることの現われと見たら間違いでしょうか。
4人のプロフィール
ジャケット内部に各自の名前付きの写真がありますので、それを参考に見ていただきましょう。
まず、リーダーのリリ・アナマです。ファースト・アルバム時の彼女は結婚前であったので、リリ・サトウとクレジットされています。彼女は大変優れた能力を持ち、9歳からウクレレを始めて14歳でインストラクターの資格を獲得、それ以来ウクレレ・フェスティバル・バンドのとりまとめから、カイムキ地区における教室の指導者、1991年からはスーパー・ケイキのリーダーを、そしてJOY結成に伴い、このグループのまとめまで受け持っているスーパー・レディーです。ステージをご覧になった方はお分かりでしょうが、彼女がいつも裏に回って他のメンバーの演奏をサポートしている姿は、若いプレイング・マネージャーそのものです。
私はここの所、毎年ウクレレ・フェスティバルを見物に行っていますが、忙しいなかをゲストの世話までしている彼女の姿勢には、いつも感激させられます。ネリー・トヤマは5歳でウクレレを始めましたが、その一方、日本の歌謡曲の教室にも通い、子供とは到底思えない声量、音程、そして小ブシの回しかたなどで当時から注目されていました。JOYのファースト・アルバム収録の「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」での彼女の絶唱は必聴ものです。
彼女は昨年ハワイ大学を卒業、ロイ・サクマを助けてアイエア地区等での指導者として活躍しています。
4人のなかでただひとり西洋系の顔立ちをしたジーナ・シマブクも姓から判断すると日系それも沖縄系なのでしょうか。ジーナは作曲の才能があり、ファースト・アルバムでは彼女の作品「レイン・ガーデン」がメンバーの作品として唯一収録されていましたが、今回のアルバムではメンバー中で最大の4曲が収録されています。
彼女はウクレレだけでなくギターも達者で、舞台では隣に立っているネリー・トヤマと一台のギターを交代で弾いていました。
メンバー最年少のキャンディス・ナリマツは、その小さい体からはじけるようにウクレレ・ソロをバリバリ弾きまくります。
ファースト・アルバムでの「クマーナ」を聴いてびっくりされた方も多いと思いますが、今回のアルバムでも「12番街のラグ」で妙技を披露するとともに、いくつかの曲でのソロ・パートでトロイ・フェルナンデスばりのスリー・フィンガー・ソロを聴かせてくれます。実際のステージでも興にのると背中弾き、頭上弾き、はては股間弾きなどのアクロバティック演奏が登場します。
もうひとりの秘蔵っ子ダニエル・ホー
今回のアルバムには何人かのミュージシャン達がJOYの演奏をサポートしていますが、その中でロイ・サクマのもう一人の秘蔵っ子ダニエル・ホーだけは紹介に値する重要度を持っております。
彼はこのアルバムのタイトル・ソング「リビング・イン・パラダイス」を作曲するとともに、ピアノ・キーボードそしてパーカッションで参加しています。実際の彼はそれらの楽器は勿論のこと、ウクレレ、スラック・キー・ギターそしてベースまで演奏するマルチ・タレントなのです。ユニークなグループ「カヌー・クラブ」のリーダーであるとともに、何枚ものウクレレ、スラック・キー・ギターのアルバムもリリースしております。
99年のウクレレ・フェスティバルではPALOLOのベース担当ネーザン・ナヒヌがチノ・モンテロとともにギターを弾いたために、ダニエルが飛び入りでベースを弾くという思わぬ場面が出現し、観衆を楽しませました。彼がロイ・サクマ・プロダクションからリリースしたハワイアン音楽をウクレレで弾いたCDも是非聴いてみることをお勧めします。
曲目解説
マット・コバヤシ