CDジャケット写真
    

「ウクレレ・クリスマス」
(レイ・レコードLEIR−0050)

「 Christmas Ukulele Style」
Roy Sakuma RSCD7887



解 説

■ マルチ・プレイヤーのウクレレ・アルバム第2弾

このCD「ウクレレ・クリスマス」は「Hawaiian Classics(RSCD8895)」に続いてロイ・サクマ・プロダクションからリリースされたダニエル・ホーのウクレレ・アルバム第2弾ですが、ダニエルはウクレレ以外にもいろいろな楽器を弾くマルチ・プレイヤーで、それぞれの楽器によるアルバムも数多くリリースされています。

1960年代後半にホノルルで生まれたダニエルは、幼少のころから父親の掛けていたフランク・シナトラやナット・キング・コールのレコードに親しんでいましたが、それに物足らなくなり、やがて彼の好みはビートルズからシカゴやクイーンまでに広がっていきました。

一方、小学二年生のときにオルガンを習ったのを皮切りに、三年生ではロイ・サクマにウクレレを、四年生ではクラシック・ギターを、クラシック・ピアノを五年生と六年生のときに、エレキ・ギターとエレキ・ベースを七年生(中1)と八年生(中2)で、そして九年生(中3)ではドラムをと毎年のように新しい楽器の演奏に挑戦していった彼は、高校のジャズ・バンドでベースを、マーチング・バンドでドラムをそれぞれ担当するかたわら、自分の「ガレージ・バンド」をも組織していました。それでもヒマがあれば他の若者と同じようにサーフィンや魚釣りを楽しんでいたのです。

クラシック・ピアノの腕を上げたダニエルにとって大変なショックを受ける出来事がありました。ミシガン大学で開催された「若いピアノ演奏家のコンクール」の予選を無事に通過した彼は、本選会場でなんとわずか九歳の少年が彼よりもはるかに上手にピアノ協奏曲を弾くのを見てしまったのです。この出来事を機に、彼はクラシック音楽への道をあきらめ、ポピュラー音楽の作曲家として立つ決心をし、ロサンゼルスのグローブ音楽学校に入学しました。しかし音楽学校で作曲法、編曲法などを学んでいるとき、彼の父親が病気になったため急遽ホノルルへ戻り、ハワイ大学の音楽コースに奨学生として転入学しました。

1990年にカリフォルニア州の出版会社に招かれたダニエルは、そこでプロデューサー、作曲家、アレンジャーそして演奏家として7年間を過ごし、その間にジャズからポップスさらにはモダーン・ハワイアンと幅広いジャンルでアルバムを数多く手がけてきました。それらのアルバムで彼が主に担当した楽器はキーボードだったのですが、次第にアコースティック楽器それも幼少のころに聴いたスラックキー・ギターに熱中するようになり、カリフォルニアに住んでいた間に独学でマスターしてしまいました。

■ 代表的なダニエルのアルバムを紹介

ダニエルがリーダーであった五人編成のジャズ・グループ「キラウエア」はAntigua Blue, Tropical Pleasures, Spring Break, Midnight on the Blvd.,Diamond Collection, Full Circleという六枚のアルバムをリリースし、いずれもが全米のベスト・セラーに、そして三枚はビルボードのトップ10入りを果たしたのち、ダニエルはキラウエアから独立し、ソロ演奏家となりました。

ソロ・デビュー・アルバムはジャケットに著名な海洋画家ワイランドの協力をえたスラック・キー・ギターによるソフト・ジャズ演奏アルバムWatercolorsでした。このコンビはその後もダニエルのキーボードによるHarmony, Mysteries,Paradiseという三つのアルバムに続き、いずれも海洋環境保護を目的としたワイランド財団へのサポートにつながっています。

1999年になるとダニエルは更にThe Voyage HomeおよびHymns of Hawaiiという二つのアルバムをリリースしました。前者はスラック・キー・ギターにジャズやブルースの手法を採り入れた、全く新しいスラック・キーによるハワイアン音楽演奏であったことが大きな反響を呼び、「最新技法を駆使するスラック・キー演奏家」の呼び名まで獲得したほどでした。後者は有名なスラック・キー・ギター奏者のジョージ・カフモク・ジュニアとのデュオ・アルバムで、ジョージの十二弦スラック・キー・ギターを六弦ギターとウクレレ、それにパーカッションで支えています。

これ以外にもロイ・サクマ・プロダクションからリリースされているダニエルのジャズ・グループ「カヌー・クラブ」のアルバムCanoe Club では彼のキーボードおよびウクレレを聴くことができます。

■ 曲目解説

このアルバムではダニエル・ホーのウクレレを中心に、彼自身が弾くピアノやパーカッション等も登場し、更には最後の曲ではカヌー・クラブの女性ヴォーカルのブリジェット・ブライアントも加わって楽しいクリスマスの雰囲気を演出しています。

  1. Away In A Manger
    「飼葉桶より出でて」というキリスト生誕時を歌った曲。作曲者は15世紀の宗教改革の立役者であったマーチン・ルター(マルチン・ルーテル)。この美しい曲をダニエルは自分の弾くピアノとの掛け合いで次々と転調をしながらウクレレを演奏しています。

  2. Jesu, Joy Of Man's Desiring
    邦題を「主よ、人の望みの喜びよ」といい、あの「大バッハ」すなわちヨハン・セバスチャン・バッハの作。クリスマスだけでなく結婚式などでもよく演奏される名曲です。この曲をダニエルはウクレレの二重奏の形で演奏し、原曲のイメージを再現しています。

  3. Silent Night
    言うまでもなく「聖しこの夜」として知られる大変ポピュラーな曲。1818年にオーストリアのチロルの村の教会のオルガン奏者グルーバーが作曲しましたが、クリスマス当日にオルガンが壊れてしまったためギターで演奏されたというエピソードがあります。

  4. What Child Is This
    タイトルを見ただけでは曲が浮かばなかったのですが、聴いてみるとあのアイルランド民謡の「グリーンスリーブス」であることがわかりました。ダニエルは自分の弾くフォーク・ギターをバックにウクレレを弾いています。マルチ・プレイヤーの強みですね。

  5. Trepak-Russian Dance
    チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」第2幕で演奏される「ロシアの踊り」です。クリスマス・プレゼントに貰ったくるみ割り人形が引き起こすこの夢の世界の物語は、クリスマス時期には必ず上演されます。ダニエルはウクレレのみのデュオで演奏しています。

  6. The First Noel
    邦題「まきびとひつじを」で知られている17世紀ごろの英国民謡で、讃美歌103番として歌われています。天使が牧場の羊飼いに言った「イスラエルの王が生まれた、さあクリスマスを祝おう!」という曲。ダニエルはピアノとパーカッションをバックに演奏しています。

  7. Joy To The World
    バッハと並び称される大作曲家ヘンデルの「メサイヤ」のメロディーにアイザック・ワッツが歌詞を付けた曲で、讃美歌98番「もろびとこぞりて」としてもよく知られています。ダニエルは伴奏ウクレレとドラムをバックに軽快なウクレレ演奏を聴かせてくれます。

  8. The Christmas Song
    歌手のメル・トーメがロバート・ウェルズと共同でつくった題名自体もクリスマス・ソングという曲。メルに続いて吹き込んだナット・キング・コールのレコードがミリオン・セラーとなったことですっかり有名になりました。美しいピアノの導入部に続いてウクレレが登場します。

  9. Canon in D
    大バッハより30歳年上の作曲家パッヘルベルの「三声によるカノンとジーグ、ニ長調」ですが、普通は「パッヘルベルのカノン」として知られています。ダニエルは原曲に忠実に「三声」の演奏を行っています。ウクレレによるクラシック音楽もいいものですね。

  10. Have Yourself A Merry Little Christmas
    1943年のMGM映画「Meet Me in St.Louis」の主題歌として作られた曲で、ジュディー・ガーランド(ライザ・ミネリの母親)が歌ってヒットしました。(この映画の監督はライザの父親ビンセント・ミネリ)。ダニエルはこの曲をピアノをバックにしっとりと聴かせてくれます。

  11. Christmas Lullaby
    最後の曲は「作曲家」ダニエル・ホーのオリジナル曲。彼は自分のアルバムだけでなく、JOYやナレオ等たくさんのアーティストに曲を提供しています。この曲では彼のジャズ・グループ「カヌー・クラブ」の女性歌手ブリジェット・ブライアントが歌っています。

     小 林  正 巳 


    Jam Selections