やがて悲しきコンピュータ

第1章 土曜の朝突然に
 その日は快晴だった。僕は休日の朝のコーヒーをめずらしく早めに切り上げ、前夜からの仕事の続きに取りかかった。午前中に原稿を仕上げて、午後はエアロビに燃える。そんな休日になるはずだった。
 原稿をプリントアウトして、最後の校正にかかった。漢字の変換ミスが一ヶ所、「てにをは」を二ヶ所ほど訂正して、仕事は終わる。後はメールで送るだけ。朱を入れた原稿を手にPCに向かい、ファイルを開き、編集をする。
 休日の静寂を破りギーギーという異音が突然、僕の耳に飛び込んできた。と同時に、フリーズする君(コンピュータ)がいた。

第2章 受難 
 悪い予感が脳裏をよぎる。予感がただの杞憂であることを信じ、Ctrl+Alt+Deleteを押す。コンピュータは何の応答もせず、やむなく電源を切る。「いつものことさ」と軽く考えて、電源を入れ再起動をする。スキャンディスクをキャンセルし再度ファイルを開く。コンピュータは何も変わったこともなく、いつものデスクトップを表示する。ファイルを開き、編集・・・・・。ギーギーギーの異音。そしてフリーズ。またしても再起動できず電源を落とす。「一太郎のバグかな。」と思うが、ギーっというハードディスクの異音が最悪の事態を予感させる。再度電源を入れ、スキャンディスクをキャンセルしPCを再起動。今度は秀丸を立ち上げる。日本語入力をONにし、試しに「あいうえを」と入力をしてみると、「あいう」で異音とともにフリーズ。
 悪い予感がだんだんと現実のものとなっていく。 落ち着くためにコーヒーをもう一杯入れ、今度はセーフモードで起動。スキャンディスクを完全でかける。ところが、3分ほどしたところで異音とともにやはりフリーズする。「やばい!」というそう思った瞬間、サポートに電話をかけていた。
 
 日本から販売は撤退したけれど、日経パソコンでサポートNo.1に輝いたゲートウェイ。一発で電話が通じる。(シャープのサポートには、PC購入以来一回も繋がってない。シャープには、今はもう電話する気力もない)事態を説明すると、「FDISKという作業をしますのでシステムディスクをご用意ください。」という返事。
「ぼけ!FDISKかけたらデータ飛ぶやんけ。そないしとうないから電話かけてんや!」と心の中で叫びつつ、「FDISKしなくちゃいけませんか?」と僕。
「ハードの障害だと思われますので、物理的障害か論理的障害かを確認するために、FDISKします。」
「データ消えますね?」
「セーフモードで起動できるのでしたら、大切なデータはフロッピーに保存してください」
「え!!(呆然)」
 いったい3ギガのデータをフロッピーにどうして保存するのというのか。ソフマップにフロッピー2000枚買いに行けというのか?そんなことを考えていると、「ではFDISKを行います。まずシステムディスクを用意して・・・」
「分かりました。FDISKは自分でできます。」と答え電話を切ったものの、顔面蒼白、目の前真っ暗状態。データのバックアップは3ヶ月前にちょろっとやっただけ、システムのバックアップなんて考えたこともなかった。

第3章 苦闘
 コンピュータとつきあって20年あまり。大きなトラブルといえば、データが入ったフロッピーを間違ってフォーマットしたことぐらい。ハードディスクのクラッシュなんて人ごとだと思っていた。
 バックアップの必要性については認識していたつもりだったけど、まさか自分のPCのハードがつぶれるなんて思っていなかった。だからバックアップもいい加減。3ヶ月前にとったバックアップなんてほとんど役にたたない。
 とにかくデータを何とか保存したい。しかし2000枚のフロッピーなんて、無理に決まっている。「絶対必要なデータだけフロッピーに移すのが現実的な対処方法か」と半ばやけになっていると、突然、天啓が閃く。
「ノーマルで起動しても、日本語入力しなければ動いている。ということはCD−Rにデータを移せるかもしれない」
 セーフモードを終了し、ノーマルで再起動。空のCD−RをCD−Creatorでフォーマットすると、見事に成功。そのまま、データをコピー。サイズの大きい映像ファイルや音楽ファイルはこの際見捨ててCD−Rを2枚焼く。コンピュータの神様ありがとう。

 データのコピーが終わると、FDISK。手慣れた作業だけど、心は重い。領域解放から、基本、拡張と領域確保。問題なく進み、FDISKは無事終了。しかし、フォーマットをかけると、10%ほどで再び異音とフリーズ。今回はCtrl+Alt+Deleteは利くけど、何回やっても、またパーティションを切った他の論理ドライブにフォーマットをかけても同じ結果。再びゲートウェイに電話するとすぐに「それなら、ハードディスクの故障ですね。補償期間中ですの新しいハードディスクを送ります。ハードの取り替えは・・」
「自分でできます」
「そしたらよろしくお願いします。5日程度で新しいハードディスクが着くと思います」
 こうして、僕の土曜日が過ぎていった。

第4章 試練
 ハードディスクが到着したのは三日後の夜だった。思いの外早く届いたので、嬉しかった。早速PCにインストールする。システムCDから起動し、FDISKをかける。領域情報をみるとサラの状態。パーティションを切り、フォーマットをかけ、デバイスドライバと主なアプリケーションをインストールし終わる。時計を見ると午前2時をまわっていた。インターネットへの接続の設定を終えようと思ったけど、僕の使っているプロバイダは3月にその設定を変えたばかり。旧設定は記憶にあるが新しいものがうろ覚え。結局設定をあきらめて寝る。これでメールを4日間読んでない。

 翌日朝から、インターネットへの接続の再設定。プロバイダからのメールに再設定についての連絡があったのを思い出し、メールのデータをインポート。メールの情報からやっとプロバイダの設定が完了する。インターネットへの接続もうまくいき、今度はメールの確認。特に重要なメールはなく一安心。
 メールをインポートしたついでに各種データファイルをCD−Rからハードディスクに戻す。無事完了。
 
 次にやるのがアンチウイルスソフトの再インストール。インストールはすぐできるが、ウイルス定義の更新が一苦労。3メガ以上もあり、しかも僕の通信環境は今でもダイアルアップ。1時間かかって終了。すぐにウイルスチェックをかける。そのあと、IEのセキュリティホールの修正パッチを当てる。これが6メガ以上もあり、1時間以上かかる。今月の電話代が恐ろしい。
 これで終わりと思ったけど甘かった。ftpの設定やプリンタのドライバのインストール。結局コンピュータをディスクのクラッシュ前の状態に戻すのに、のべ10時間以上かかったことになる。大変な時間と労力を使ってやっと僕のコンピュータは復元した。

第5章 教訓
 @ コンピュータは必ずクラッシュする。あなたのPCも例外ではありえない。
 A データのバックアップは常識である。バックアップなきデータは必ず消失する。例外は有り得ない。
   しかし、バックアップしたとしても、安心するのは早計である。
 B たとえ完全なバックアップがあったとしてもその復旧には多大な労力を要する。その労力が惜しければ、コンピュータを使うなかれ!
 C 最良のデータバックアップは紙である。重要なデータは必ずプリントアウトすべし。紙の信頼性は電子媒体に勝る。
 D DOSの知識を笑うなかれ。窮地にはDOSの素養があなたを救う。
 E PCを信用するなかれ!信じるものは救われない!

 すべてのPC使用者に神のご加護あるように! アーメン!

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