「豚舎・設備のお悩み解決!」(36)哺育開始頭数アップ対策

最近は遺伝的に産子数が多い母豚を使用する農場が多くなりました。
しかし、せっかく多くの胎児が受胎しても死産や分娩時圧死などが多く、哺育開始頭数がなかなか増えない農場もあります。
先月は分娩看護のポイントや器具についてお話ししましたので、今月は少し視点を変えて哺育開始頭数アップ対策を考えてみましょう。
一般に総産子数の中で哺育開始頭数にカウントされない「死異産」の中で「白子」「黒子」「未熟児」「圧死」が主な分類です。黒子は疾病によることが多いので、今回はそれ以外の3つの分類について、管理面、設備面から対策を紹介します。

最初に「白子」です。厳密に言えば分娩日より数日前に死んだものと娩出途中で窒息死したものを区別して考える必要があります。
数日前に死んだものは少しふにゃふにゃした感じのもので、羊膜(胎児が包まれている薄い膜)が少し灰色がかっていることがあります。
これは、胎盤が剥がれて酸素が供給されなくなって胎児が死に、羊膜が腐敗しかけているからです。
この、胎盤が剥がれて胎児が死ぬタイミングで最も多いのが、母豚を交配妊娠豚舎から分娩舎へ移動した時です。
母豚がなかなか歩かない時に、強く叩いたり無理矢理引きずったりしていないかを、まずチェックしましょう。
トラックやバケットローダーに載せて移動する農場もありますから、急発進、急停車や急カーブなど、母豚にショックを与えるような運転をしていないかをチェックしましょう。

次に豚舎の施設面からは、暑さや寒さの急激な変化がないかどうかを確認しましょう。
分娩柵の後から隙間風が入るところがないかも要チェックです。


次に娩出途中で窒息死したもの(これを白子と区別して死産と呼ぶこともある)。
こちらは胎児が子宮の出口で長い時間留まっていたために窒息死したものです。
留まっていた時間が短かったものは仮死状態で娩出されることもあります。
この場合は胎児を羊膜(袋)から出してやり、人工呼吸または胎児の後ろ足を掴んで逆さまに持ち、何度か上下に振ってやると息を吹き返すことがあります。
ですから、死産を少なくするためには分娩看護を徹底することが必要です。
破水が観察されたら、少なくとも30分間隔で娩出子豚数と母豚のイキミ(陣痛)の様子を観察しましょう。
分娩看護の具体的手順については先月も書きましたので割愛させて頂きますが、そもそも何故難産が多くなるのか、その原因も考えてみる必要があります。

産道の途中で子豚滞留してしまう原因は、
@陣痛が弱い、
A産道(骨盤)が狭い、
B子豚(胎児)が大きい、
に大別されます。
獣医療的な対処方法はここでは割愛させて頂き、予防的対処方法をいくつかご紹介します。

@陣痛が弱い、A産道(骨盤)が狭いことの一員としてあげられるのが母豚の過肥です。
分娩舎に受入瑠時点でのボディコンディションスコアーは4.0を超えないように管理しましょう。
特に夏場は過肥の母豚ほど厚さに弱くなりますから妊娠中の給餌量をこまめに調整することが重要です。

また、直腸内に糞がたくさん溜っていると産道が圧迫されますから、分娩予定日の前日は給餌量を半分ぐらいに減らすことも忘れずに。


B子豚(胎児)が大きい、問題も妊娠中の給餌量に関係してきます。
通常は分娩前30日から給餌量を増やしますが、この量を分娩時子豚体重を見ながら調整してください。
大型種の母豚でも平均子豚体重が1.7kgを超えると難産が多くなる傾向が見られます。
逆にエサを絞りすぎると未熟児の割合が増えてしまいます。
LWやWL母豚では平均子豚体重が1.4〜1.6kgになるように調節しましょう。
分娩時の子豚体重を計測していない農場がまだ結構あるようです。
子豚の処理をする時に体重計測も一緒にやるのが基本です。
写真1がステンレス製のデジタル台秤です。

台車の上に台秤を載せてその上にプラスチックコンテナ(写真2:ジャンボックス100)を載せて、これに1腹分の子豚を全部入れれば作業性が良いです。

欲を言えば、ジャンボックスの中間にコンパネをビス留めしておき、♂と♀を別々に入れられるようにすれば、去勢まで効率よく出来ます。これらは全て通販のモノタローで購入できます。


次に圧死についてですが、
@分娩柵の問題、
A母豚の性格(癖)の問題、
そして管理の問題に分けられますが、
ここでは管理の問題を取り上げます。

寒い時期は分娩前に子豚の保温箱または保温スペースを十分な暖かさに準備しておくことが大切です。
子豚に暖かい場所を早く覚えてもらうことが肝腎で、それが出来ないと、子豚が母豚に寄り添って暖を取るように習慣付いてしまうので、圧死が起きやすくなるわけです。
十分な暖房器具を備えていなかったり、壊れたままになっているとしたら、ここはきちんと設備投資すべきところです。
子豚1頭助ければ粗利が1万円増えるわけですから、圧死が多い農場ではすぐに元が取れるはずです。
ここまで管理面を重点に説明しましたが、夜間に分娩する豚の分娩看護がどうしても残ります。先月号では分娩誘発ホルモンを使って日中分娩させることをお勧めしましたが、アメリカのある大規模農場では、24時間看護分娩で1母豚当り30頭離乳を達成しているところがあるそうです。分娩担当は3交代制なのだそうです。費用対効果を計算しても採算が合うからですよね。
「そんな大変なローテーションはとても組めないよ」
と思う方も多いでしょう。
しかし、例えば週1回離乳のローテーション組んでいる農場ならば、分娩が集中する日は週に2日ぐらいになるはずです。
この日だけ、普段の担当部署にかかわらずに夜勤を入れることは可能なのではないでしょうか。
分娩舎の中又は隣接スペースにソファーとテレビを置いて暇つぶし出来るようにするのも1手かもしれません。
子豚が潰されてギャーギャー鳴いても起こしに行かないのでは逆効果ですがね。

でも、もう一度計算してみて下さい。夜勤2名に3割増しの賃金を払ったとします。
1日の日当が1万円の従業員ならば、2名分でも1日6千円の夜勤手当です。
子豚を1頭以上助ければプラスになるのです。
そう考えれば、全頭に分娩誘発ホルモン注射を打つよりも割安だと思いませんか。
白子、圧死でお困りの農場は是非24時間看護分娩にチャレンジしてみて下さい。
 

 

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最終更新日 : 2022/01/23