「豚舎・設備のお悩み解決!」(13) 豚舎の火災予防

 

空気が乾燥する冬は全国的にも火災が多く発生する季節です。
養豚場の火災も毎年、各地で発生しています。


特に近年の豚舎は電気設備が多くなっていることも有り、
電気事故による火災が季節を問わず発生しているのが現状です。

  表1:畜種別火災発生件数(2013年)
畜種 火災件数 割合 1件当り
被害金額
酪農 77 件 40%  
肉牛 50 件 26%  
養鶏 35 件 18%  
養豚 30 件 16% 830万円
全畜種 192 件 100%  

 

1は昨年1年間の畜舎の火災件数です。
養豚は件数こそ少なかったものの、1件当り被害金額は830万円で、
全畜種の中で最大だったそうです。

表2:近年の養豚場火災と原因  
年月 概要 原因
2007年11月 九州地方豚舎600u全焼 漏電
2007年12月 九州地方豚舎800u全焼 分娩舎暖房器具
2008年1月 関東地方豚舎210u ガスブルーダー?
2008年1月 四国地方豚舎2200u全焼
2008年2月 近畿地方豚舎1200u全焼 ガス温風器&漏電
2008年3月 九州地方豚舎2000u全焼 不明
2009年9月 北海道豚舎2棟全焼 ネズミかじり漏電
2009年11月 関東地方豚舎 照明器具か?
2010年1月 北海道豚舎6棟6300u全焼 ジェットヒーター
2010年9月 九州地方豚舎1600u半焼 溶接作業
2010年10月 東北地方豚舎670u全焼 暖房器具
2010年11月 関東地方豚舎3900u全焼
2011年10月 中国地方豚舎830u全焼
2011年11月 北海道豚舎1棟500u半焼
2012年3月 関東地方豚舎440u全焼
2012年11月 九州地方豚舎922u半焼 溶接作業
2012年12月 東北地方豚舎866u全焼 機械設備の漏電
2013年1月 関東地方豚舎100u全焼 分娩舎コルツヒーター過熱
2012年5月 北海道豚舎300u全焼
2012年4月 関東地方豚舎480u全焼 配電盤漏電又はショート
2013年2月 関東地方豚舎3棟1110u ガスブルーダー?
2013年2月 中部地方豚舎800u全焼 灯油燃焼暖房機
2013年2月 関東地方豚舎2棟1950u 温水高圧洗浄機
2013年11月 九州地方豚舎1棟540u ガスブルーダー?
2013年11月 東北地方豚舎1棟 漏電

表2が近年の養豚場火災の原因をまとめたものですが、
最も多いのが電気の屋内配線からの漏電やショートで原因の約1/3を占めています。

次いで多いのが暖房機器の過熱や暖房機器からの引火で、これも約1/3です。

 

それでは、原因別に防火対策を見ていきましょう

【配線からの漏電やショート】

漏電の原因は@ネズミによる食害、
A配線の経年劣化、
B雨漏りや結露等の水によるものに大別できます。

天井裏の配線がかじられても、普段は目にすることの無い部分ですから、気づかないことがほとんどです。
ですから火災に繋がりやすいのです。

対策としてはネズミ駆除業者に依頼してネズミの繁殖を、
被害の無いレベルまで少なくすることが肝腎です。

ただ、豚舎には豚の餌という、ネズミにとってもご馳走が沢山ありますから、
餌こぼしが起きないように餌箱の調整をまめに行うことや、
空になったペンの餌箱はすみやかに清掃して、ネズミに餌を与えない工夫が必要です。

ネズミが多い豚舎は大抵、このような餌の管理が不徹底な農場のようです。
また、どうしてもネズミが減らない様でしたら、
電気の配線は電線管を通して行うように配線替えする事がもっとも安全な方法です。
特に建築後20年以上経過している古い豚舎では、配線の経年劣化も進んでいますので、
電線管を使って配線替えをする事をお勧めします。

 

また、配電盤や操作盤の中にネズミやゴキブリや蜘蛛などが巣を作っていることがあります。
これも漏電やショートによる発火の原因になりますから、
ボックス内は毎月1回清掃して下さい。

また、電線の引き込み口も点検して下さい。
(図1)はプラボックスへの電線引き込み口の隙間を埋めている良い例です。(図2)は隙間がありますので、ネズミや害虫が侵入しやすくなります。

Bの水分による漏電は、ネズミにかじられた場所や、経年劣化でヒビが入った電線、電線の接続部分などで発生します。電線管を通した配線であれば前者2つの原因は抑える事が出来ます。要注意は電線の接続箇所です。新しい時は電気工事店がきちんと接続ボックスに入れて囲っているはずですが、配線を追加したり、修理したりした時に、防水処理がおざなりになっていることがよくあります。心当たりのある農場では、電気工事店にお願いして、接続部分の防水処理を総点検してもらうことをお勧めします。

いずれの対策も費用が少なからずかかることです。しかし火事になってしまえば、何百万、何千万という損失を被るわけですから、しっかりと点検しましょう。

次に、すべての電気回路に漏電ブレーカーが設置されているか点検しましょう。

(図3)が漏電ブレーカーの設置例です。
最低でも各豚舎のメイン配電盤に1個設置されている必要があります。

また、漏電ブレーカーをバイパスして器具を追加配線するなどの、
危険な改造がされていないかどうかも要チェックです。

 

昨年の豚舎火災の1例では、何棟かある豚舎の中で、
古い豚舎に漏電ブレーカーが設置されておらず、
漏電が原因で火災になったと思われます。

漏電ブレーカーには黄色い点検ボタンが付いていますので、
毎月1度はボタンを押して動作を確認しましょう。

 

【電気器具の加熱やショート】

まず第1にコンセント回りから点検しましょう。
事務所のコンセントでは壁のコンセントに2又や3又の分配を重ねて、
タコ足配線になっているところをよく見かけます。

中には重いACアダプターもぶら下がっていて、
コンセントが抜けかかっている事があります。

そこにホコリが溜まると、湿気を吸った時に火花が散って発火します。

(図4)はその典型的な例です。
基本的に壁コンセントには差し込み口の数だけしかプラグを差してはいけません。

使用器具数が多い場合は、必要な数が間に合う口数があるテーブルタップを使って下さい。

また、延長コードを使用する場合は、
コードの許容電流を超えないように、電流値を計算して使って下さい(図5)。

また、巻き取りドラム式延長コードは許容電流の半分以上電気を流す時は、
全部引き伸ばして使って下さい。

巻いたままですと放熱が悪いので、許容電流内でも発熱してコードが溶ける場合があります。

(図6)は三相200Vプラグです。
この内部が過熱したりショートしたりして発火することがよくあります。

使用後に素手で触れないくらいに熱くなっていたら、
プラグの内部も点検して下さい。

また、電源コードを引き伸ばしたまま長い間使っている場合は、
ドアや引き戸で挟んだり、踏みつけたりしてコードが傷んでいることがあります。
こういった箇所の点検は、毎週行って下さい。
 


(図7)はヒューズ式モーターブレーカーです。
ヒューズが切れた時に、買い置きが無いからと言って、
電線で直結してしまう人がいます。

これは危険ですから絶対にしないで下さい。
また、指定のアンペア数よりも大きなものを付けることもNGです。
しょっちゅうヒューズが切れる時は、
使っている電気器具が過負荷になっています。その原因を取り去ることが先決です。

また、よくある電気器具の発火箇所は
消費電力が大きい機器のメインスイッチです。

高圧洗浄機などが要注意品です。
昨年、高圧洗浄機から発火した火災もありました。

電源スイッチがガタついていたり、その周辺が熱くなっている時は、
コンセントから抜いて、内部を点検して下さい。

例えば、洗浄機が動かなくなった時に、
上司などに相談しに向かうためにコンセントを抜かずに、
あるいはブレーカーを下げずに現場を離れると、
洗浄機の発火だけにとどまらず豚舎火災にまで広がる原因となります。

【ガス暖房器具】

代表的なものはガスブルーダーとガス温風ヒーターです。

ブルーダーの場合、何らかの原因でつり下げている金具が外れて
落下した場合と保温箱の材質が燃えやすいものである場合に火災が発生しやすくなります。

保温箱の蓋をする場合はガスブルーダーではなく、
赤外線保温ランプまたはコルツヒーターの方が安全です(図9)。

また、つり下げる高さは豚にいたずらされない高さが必要です。
他の豚の背中に前足を乗せて背伸びする豚もいますので、
いたずらされても落ちないようにしっかりとつり下げ金具を固定することが必要です。

更に、古くなるとつり下げチェーンが錆びてもろくなっている
場合がありますので、こちらも毎年チェックして下さい。

ガス温風ヒーターでは吹き出し口近くに燃え安いものがあると危険です。
特に空気取り入れ口の網がホコリまみれだった場合、
点火した直後に火の粉を吹くことがあります。
定期的に清掃することが必要です(図10)。

この他にガス器具全てに共通することですが、ガス管が錆びて穴が空いていたり、
ガスホースが経年劣化や豚にかじられたりして、
ガス漏れが発生する場合があります。

ホースの引き回しに注意をするとともに、ホースが堅くなっていたり、
ヒビ割れを発見したら、新しいものと交換して下さい。

【火花が飛ぶ作業】

表2にも2例ありますが、溶接の火花(火玉)は200℃以上の高温になっていますから、
可燃物に飛び散ると、たちまち発火します。

コンパネなどは直ぐに発火せず、作業が終わって、人が離れた後に発火することがあるので
(表2の例でもそうです)溶接作業を始める時は周辺を良く注意して下さい。

また、グラインダーで金属を削った火花も要注意です。
この火花が壁断熱材の継ぎ目を塞ぐアルミテープに当たって発火した例もあります。

【たばこの不始末】

総務省統計の一般の火事原因では3位に入っています。

農場に於いては喫煙場所と喫煙時間を指定するのが最善の策と言えます。

くわえたばこのまま仕事をしている人を見かけたことがありますが、
非常に危険です。

また、喫煙所でも、吸い殻は水につけて火を消して、
燃えるゴミとは別の不燃容器に捨てるようにして下さい。

たばこの火をただもみ消してゴミ箱に捨てた事による発火が各地で報告されています。

【まとめ】

万が一火災が発生した場合に備え、日頃から用意しておくべきもの

まずは火災をいち早く察知するための警報システムまたは火災報知器が必要です。
ウインドレス豚舎では大抵温度警報が付いています。
しかし、誤作動するとうるさいからと言って
OFFにしたままになっている農場があります。
是非とも誤作動しないように、調整を取り、停電と高温警報だけは最低限作動させておいて下さい。
さらに、夜間は無人になる農場では、複数の管理者へ自動で通報するシステムを導入するか、
または警備会社との契約をして下さい。

次に初期消火に備えて1部屋に1本以上の消火器を備え付けてください。
さらに消化器には有効期限がありますので、
年に
1回は確認して、期限が切れたものの更新をして下さい。

一定規模以上の農場では毎年、消防署の立ち入り検査があるはずです。
しかし、シャワーインルールの農場では、消防署員が豚舎まで入らずに書類確認だけで済ませる場合があります。
その場合は、忘れずに豚舎内の防火点検を指導の通りに実行して下さい。

最後に、不幸にも火災に遭ってしまった場合にも再起を図れるように、火災保険の加入も忘れずに確認しましょう。

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23