* 駐在員妻のある一日 *
- ドイツ在住中のれぽ〜と 99年1月 -

 日本にいる友人から「ドイツでどんな生活をしているの?」とよく聞かれるので、 ドイツにおける自分の生活を、かいつまんでレポートしてみようかと思う。

 朝はだいたい7時半に起きる。低血圧なので、時計のベルが鳴ってから起きあがるまで30分くらいかかるので、時計は7時頃にセットされている。  
朝起きてすぐ夫の弁当をつくる。ときどき自分の分もつく
る。弁当をつくりながら軽く朝食をすませる。  
それから身支度にとりかかる。化粧はアイシャドウとアイラインをいれるぐらいのシンプルなもの。日本にいた時はいつもビシッと化粧をしていたが、ドイツに来てからは部分的な化粧しかしなくなった。  
ドイツ人の多くは「自然が一番」と考えているので、「化粧をしない、自然な顔が 一番ステキ」という価値観が存在する。デパートで化粧をしていない女性店員をよく見掛けるぐらいだから、それも納得することができる。お陰でドイツに来てから化粧品にあまりお金をかけなくなった。 しかしファンデーションや頬紅を塗らなくなった分、フラメンコが影響してか、アイラインを太くかくようになった。私の化粧をしている姿を夫はじっ〜と眺めながら、 「いつも思うんだけど、そのアイライン太すぎるんとちゃう?頼むから日本に帰ったら そんなに濃くせんとって。」 「うん、分かってるよ。大丈夫、心配しないで。」
でも、こっちではアイラインが太かろうが、化粧が濃かろうが、他人の目は気にならない。  

ヨーロッパは、世間への配慮が要求される日本社会に比べると、開放的で自由に振る舞うことができる。そういった意味ではとても快適だ。「私はこうよ。」と自分の生き方や考え方を堂々と主張し、周囲の人はあれこれ干渉することもな
い。”同棲天 国”でもレポートしたが、結婚のありかたは自由だし、身なりひとつにしてもそれが表れていて、冬の比較的暖かい日に、皮のコートをはおっている人がいるかと思えば、 ノースリーブのタンクトップ姿の人が平然とした顔で歩いているのだ。 これ、本当の話ですよ。  

ちょうど8時20分、私は語学学校へと出掛ける。
  語学学校はフランクフルト市の中心にあり、家から電車で約20分かかる。
 授業は9時から始まり、途中休憩が20分ほどあって、12時15分に終わる。今のクラスは全部で7人で、先生も含めて全員女性だ。私の他に日本人の女性があと1人、 アメリカ人が2人、韓国人が2人、ギリシャ人が1人。
 授業の初めは世間話から始まる。「最近見た映画について」「最近読んだ本の紹 介」「休暇は何をして過ごすか」「車のマナーについて」など、ごく一般的な内容からゴシップ的内容(例えばクリントン大統領の不倫疑惑について)まで幅が広く、 個々の意見を聞いていると国民性がみえてくるから興味深い。
 世間話が落ち着くと、本来の目的である授業が始まる。教科書にそって、文法の勉強をしたり、発音の練習をしたり、討論したり、おもしろい日もあれば、つまらない 日もあ
る。
 授業が終わると全員すぐ帰る。約束なしの「ちょっとこれから昼食でも」はほとんどないので、昼食は休憩時間の11時頃に軽くすませてしまう。この日は、パンをかじっている友達の横で、自分でつくったお弁当を食べた。

 午後の予定は特に決まっていない。すぐ帰宅してまじめにドイツ語の勉強をする日もあれば、友達と買い物に行った
り、美術館に行ったり、ティーパーティーに招待されたり、招待したり、フラメンコのレッスンに行ったりする。
 語学上達の鍵を握っているのが、この午後の行動にあると思う。午前中、学校で習ったことを、実際外でつかってみないとモノにならないからだ。だから私は積極的 に人のいるところに出掛けるよう心掛けている。

 頻繁に会うのはイタリア人の友達、モニカだ。いつも同じ場所で同じ時間に待ち合 わせをする。
「ハローマリコ!!!!」
「ハローモニカ!!!!」
普通の人より少し大きな声で叫びながら抱き合い、両頬にキスをする。 「さて、今日は何がしたい、マリコ?私は行きたい美術館があるの。マイン川沿いに あるシュテーデル美術館よ。行ったことある?入場料はそんなにしないと思う
わ。」 「おもしろそうね。是非いきましょう!」
 いつも感心するのは、彼女はお金の使い方がじつに上手
く、お金をかけない遊びをじつによく知っている。無料の展覧会やコンサートを見つけるのは達人の域に達しているし、有料でも芸術レベルの高い展覧会を見つけては足を運ぶ。  彼女は日本人のように楽をするための余計なお金を使わない。 「フランクフルトの地下鉄は高いし、歩く方が健康にいいからシュテーデル美術館まで歩いて行きましょう。」といって、4駅くらい平気で歩く。これは、モニカに限ら ずヨーロッパの人は本当によく歩く。基礎体力が違う。買い物に行って、ちょっと疲れたからといって喫茶店には入らない。街中のいたるところにあるベンチに座って疲れを取る。  また、付き合いや見栄でお金を使うこともない。 「モニカ、今日は甘いものが食べたいわ。どっかに食べに行かない?」 「そこで売ってるクレープでも買って食べたら?」 「今日はちゃんと座って食べたいの。マクドナルドのアップルパイでもいいから、付き合ってよ。」 「そこまで言うんだったらいいわよ。行きましょう。」 と言って一緒に来てはくれるものの、彼女はなにも注文しないで、アップルパイを食 べている私の前に座っておしゃべりをしながら、私の食べ終わるのをただ待つのである。
きっと逆の立場だったら、付き合いで「私もアップルパイを食べようかな。」と思う。でも「アップルパイだけじゃ格好悪いしコーヒーも注文しちゃおう。」と見栄もはると思う。しかし、彼女は「いらない」と思ったら、160円のコーヒーでも付き合 わない。じつにあっさりとしている。
かといって彼女は貧乏でもなければケチでもない。家の中はブランドの家具できれいに埋め尽くされているし(ヨーロッパの人は家に一番お金をかける)、月に一度は ケーキを焼いたりパスタをつくって、友達をもてなす。
節約できるところは徹底して節約し、使うべきところには惜しみなくバンと使う。 彼女を見ていると、とてもすがすがしい気持ちになる。  
モニカと一緒にいると楽しくて時間はあっという間に過ぎていく。彼女も既婚者なので、夕方の5時頃には夕食をつくりに帰路に着く。

 帰宅してから夕食の支度にかかる。この日の夕食のメニューは、鳥肉の味噌焼き、 ブロッコリーとホタテの中華風炒め、味噌汁、野菜サラダ。  えっ、ただの和食じゃない、と思われるかもしれない。もちろんソーセージやチー ズを食べる日もあれば、パエーリャなどのスペイン料理や、パスタなどのイタリア料 理をつくる日もある。しかし、和食をつくる日が圧倒的に多い。
 その理由の一つは、外食をすると必然的に洋食になってしまうので、せめて家では和食を食べたくなるからだ。疲れたときにはなおさらだ。しかも、大方のレストラン での食事はドイツ人向けの味付けにはなっている。脂っこくて一皿の量が多すぎるので、そう頻繁には食べられない。
 二つ目の理由は、お客さんを食事に招待すると和食が期待されるからだ。以前、学校の友達を家に招待した時、スペイン料理をつくってもてなしたことがあった。友達の何人かが「今日は日本料理じゃないのね」とがっかりした顔をしていた。  だからドイツに来てからは、日本にいた時以上に和食をつくるようになってしまっ たのだ。  

 夫が帰宅してから、ドイツのラジオを聞きながら夕食を食べ、その日あったことを 報告し合う。夕食が終わると、夫はテレビを見ながらお菓子を食べたり、たまにイタリア語の勉強をしたりしている。私はドイツ語を勉強したり、本を読んだり、電子メールをおくったりする。エキサイティングで楽しい日もあれば、何の収穫もない平凡な日もある。
ただ、日本では味わえなかった心地よい時間が私を包み込んでくれる。

後日附記(日本帰国後)
日本にいると、なぜかテレビを見てしまう。時間の浪費のような、そうじゃないような。。。

ドイツ語学校の授業風景
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