* 誕生日 *
- ドイツ在住中のれぽ〜と 99年2月 -

 ドイツにも誕生日を祝う習慣がある。日本と違うのは、当時者が学校や職場で自分の誕生パーティーを開くということだ。パーティーといっても、ケーキと飲み物(会社によっては食べ物も)を持参して、それを友達や同僚にふるまって祝ってもらうという、ごくシンプルな内容だ。その時に、誕生日プレゼントをあげたりはしない。 よほど親しい友達以外、友達同士でプレゼントを贈る習慣はないらしい。

 ドイツに住んで2年以上経つが、そんな今でも、文化や習慣の違いでビックリしたり、戸惑うことがある。  

1月の、私の誕生日の次の日に、イタリア人の友達のモニカといつものように買い物に行った。
「まりこ、誕生日おめでとう!あなたもとうとう30代の仲間入りね。」
「ありがとう。あんまり嬉しくないけどね。」
「あなたに誕生日プレゼントをあげたいんだけど、まだ買っていないの。マリコはスカーフがとても好きよね。今、デパートで布のバーゲンをやっているから、あなたの気に入った布を買って、私があなたの為に縁取りしてスカーフに仕上げてあげるわ。」  

ついこの間のクリスマスに、彼女からアレッシーのプレートとミッソーニの鍋つかみ&鍋敷きセットをもらったばかりだ。しかも、しょっちゅう家に招待してもらってパスタなどのイタリア料理をご馳走してもらっている。私も彼女にクリスマスプレゼントをあげたが、そう頻繁に我が家に招待していないので、なんだか申し訳なく思っ てしまった。 「布の縁取りって、すごく手間がかかって大変じゃない。悪いからいいわよ。気持ちだけ受け取っておくわ。」
「そんなこと気にしないで。私はあなたの為に働きたいの。さあ、布を見に行きましょう!」  

こんな彼女の気持ちに感動して、おとなしく彼女の後に従った。  
1月になるとどこの店もバーゲンセールで、デパートの布売場は、ここぞとばかり 買いあさる女性客で賑わっていた。赤札を見て興奮して買いあさるのは、どこの国の女性も同じだ。
「まりこ、この布はどう?あなたにぴったりじゃない。」 モニカが見つけてくれた黒地に花柄模様の布は、1mあたり19DMが9.50DMの半額になっていて、黒や茶系の服に合いそうなステキな柄だった。
「すごくステキな布ね。こういう柄のスカーフは持っていないから、嬉しいわ。でも 本当にいいの?」
「いいのよ。あなたの為にスカーフをつくってあげたいの。それに、この布はあなたが買えばいいんだから。」
「えっ???(私が買うの?私の誕生日プレゼントなのに?????)」
「マリコがこの布を買い、私はあなたの為にスカーフをつくる。あなたの為に働くことが、私からの誕生日プレゼントよ。さあ、この布を1m買ってきて。ここで待ってるから。」
ここまで言ってもらって、今さらいらないとはとても言えない。さすがの私でも。 「、、、、うっ、うん。わかった。買ってくるね。」  たかが9.50DM(約750円)なんだし、これぐらいなら自分で買ってもいいかな、 と自分に言い聞かせながら買ってみた。しかし、モニカはお金を持っていないわけではないんだから、これぐらい、誕生日プレゼントなんだから買ってくれてもいいのにと思う。嬉しい気持ちと、哀しい気持ちと、なんだか複雑な気持ちだ。  

日本人だったら、きっと布代くらい払ってくれると思う。なんたって、誕生日プレ ゼントなんだから。文化が違うんだからしょうがないけど。。。。  

ドイツ人のパトリシアも誕生日プレゼントに一冊の本をくれた。数年前にベストセ ラーになった”Das Superweib(すごい女)”という小説で、映画化されたくらい有名らしい。 「俗語がたくさん使われているから難しいかもしれないけど、おもしろいし、ドイツ 語の勉強になるわよ。」 「ありがとう!がんばって読んでみるわ。」  ふと、ドイツ人は親しい人にどんな誕生日プレゼントを送るのか気になったので聞 いてみた。
「う〜ん、人によってあげるものは違うけど、例えば男性は女性にネックレスや指 輪、花束、香水を買ってあげたり、女性は男性に趣味の物をあげたり、いろいろよ。」
「そういえば、この前のあなたの誕生日、彼から何をもらったの?」
「あ〜、まりこ、それがすごくステキだったのよ。彼はフラメンコ用のベニア板をくれたの。」
「ベニア板???」
「彼の家でいつもフラメンコの練習をするんだけど、ずっと素足でやっていたの。 だってほら、フラメンコシューズは釘が打ってあるから、床が傷つくでしょ。でも、 彼がくれたベニア板があれば、フラメンコシューズをはいて練習が出来るの。すごく嬉しいわ。」  

ドイツ人は見栄をはって、ブランド物や宝石をあげたりしない。相手が本当に喜ぶ 物をプレゼントする。義理プレゼントなんかは存在しないのだ。なんて楽なことか!  

こうして考えてみると、日本の贈り物の習慣は、物をあげる心よりも、あげる物の値段やその行為に重きがおかれているような気がする。相手が本当に喜ぶ物だったら、別にブランド物じゃなくったって、有名デパートの包装紙でラッピングしてなくったっていいのになと思う。ちなみにドイツでは、デパートの包装紙でラッピングしている贈り物は、心がこもっていないとみられるらしい。だから、ドイツ人は自分で包装紙を買ってラッピングをする。  

とはいうものの、私も日本に帰ったらデパートに贈り物を買いに行くんだろうな。 やはり自分は日本人だから。。。

後日附記(日本帰国後)
日本に帰ったら、案の定、御中元を買いにデパートに はしってしまった。 仕方ないよね〜ここは日本なんだから。

 

会社で夫の誕生日パーティーを
(約30人分の和食をつくる)
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