
3.敬意
スペインで最初に稽古を受けた時に驚いたことは、生徒が先生を名前で呼び捨てにしていたことだった。
「パコ、そのパソがよくわからないの。もう一度やって。」
生徒が先生に親し気に聞く姿が異様に感じた。
これは、ドイツでも同じだった。先生と生徒の立場が同じなのだ。その上下関係を感じさせない開放的な空気が、とても新鮮に感じた。
しかし、洞察力の乏しい私は、ある大切なことを見落としていた。
それは、友達のように接しても、先生に対する敬意を、生徒はきちんと持っているということだ。
いつだったか、スペイン人の個人レッスン(バタ・デ・コーラ)を受けていた時に、その教え方がとても上手だったので
「あなたの教え方はMより上手いわ。」
と彼女をほめるつもりで言ったら、
「なんて事を言うの!彼女はグラン・マエストロ(偉大な師)なのよ。」
ととがめられ、彼女のその反応にびっくりしたことがあった。
それからスペイン人の友達がたくさんできるにつれて、彼らのマエストロ(師)に対する敬意が日本とは違うということを発見した。
スペインでは、自分の師事した前のマエストロ(師)が年をめされても、体が動かないとか踊りが古いとか、冗談でもそんなことは一切言わない。
日本では、師事している間は先生を崇拝しても、やめてしまえば敬意を忘れる人が多いように感じるが、スペインでは師事しなくてもグラン・マエストロに対する敬意の気持ちがとても強いのだ。
芸術に対する意識の違いからくるものなのか?
ドイツに約2年半、イギリスに数週間、スペインには短期ながら何度も滞在した経験ではっきり言えることは、ヨーロッパ市民の芸術に対する意識が、日本とは大きく違うということだ。
芸術だけではなく、文化を守り維持していこうという意識の差は、環境までも変えてしまう。
日本でより良い環境を手に入れるには、もっと視野を広げ、メンタル面での改革をしなくては将来性がないと、強く感じる。
自分ができることは何だろう? と、悩む毎日だ。
2003.07.22.
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