天保十二年のシェイクスピア

2002.3.31 厚生年金会館芸術ホール


原作:井上ひさし 企画監修:鴻上尚史 演出:いのうえひでのり
出演:佐渡の三世次(上川隆也)、お光・おさち(沢口靖子)、尾瀬の幕兵衛・国定村の忠治(古田新太)、蝮の九郎治・利根の河岸安(池田成志)、きじるしの王次・手付(阿部サダヲ)、よだれ牛の紋太・百姓(橋本じゅん)、お里・安中の老婆(西牟田恵)、お文・真岡の老婆(村木よし子)、お冬・大聞々の老婆・百姓(高橋礼恵)、小見川の花平・笹川の繁蔵(粟根まこと)、土井茂平太(山本亨)、鰤の十兵衛・飯岡の助五郎(小林勝也)、ぼろ安・大前田の英五郎・百姓(森塚敏)、清滝の老婆(熊谷真美)

一応、お芝居を見る前に井上ひさし原作の「天保十二年のシェイクスピア」を読んでいたので、かなり理解することができました。でも普通にシェイクスピアを知っている程度でも、結構楽しめる作りになっているかと思います。しかし場面転換が早いので、あっ、ここはロミオとジュリエットだわとか、ハムレットだわとか思っているとどんどん先に進んでいくのがちと辛かったりもしますが...

あらすじ
江戸時代天保の頃、下総国清滝村には鰤の十兵衛(小林勝也)経営の二軒の旅籠があった。十兵衛には、お文(村木よし子)、お里(西牟田恵)、お光(沢口靖子)の三人の娘がいた。三人の娘の誰かに身上を譲ろうと考えた十兵衛に、お文、お里はどれだけ自分が父親のことを思っているのかと美辞麗句で答えるが、心根の優しい口べたなお光はきれい事が言えず、普通のことを普通に言うだけであった。自分がきついことを言えば姉達に勝つようなきれい事を言うだろうと思った鰤の十兵衛が「それだけしか言えないのか。それだったら追放するぞ。」と言ったところ、その言葉ををそのまま取って、お光は自分から家を出ていってしまうのであった。

3年の月日が流れ、左足を引きずったせむしで顔に火傷のある無宿者・佐渡の三世次(上川隆也)が島抜けをして自分の生まれ故郷であるこの地に戻ってきた。その頃、お文の所には紋太(橋本じゅん)の弟・蝮の九郎治(池田成志)が居候し、お里の所には用心棒・尾瀬の幕兵衛(古田新太)が寄宿していた。お文の甘言に惑わされ、罪は幕兵衛のせいだと言いふらすからと丸め込まれ、九郎治は紋太を殺してしまうが、それを目撃したのは三世次。乞食同様となった十兵衛がやっとお里の家にたどり着いた途端、これもお里の甘言で花平を殺そうとした幕兵衛に、亭主の花平(粟根まこと)と間違われて殺されてしまうのであった。そしてこれをお里は九郎治の仕業だと言いふらし、両家は険悪な関係になる。 

ある日、幕兵衛は不思議な老婆(熊谷真実)に「花平一家の親分になる」と予言される。そこに居合わせた三世次は、老婆に自分の将来も占って欲しいと言う。老婆は三世次に、「お前は、この清滝村の宿を一手に握って、出世街道まっしぐらだが、一人で二人の女に気を付けないと畳の上で往生できない。」と予言される。ことを荒立てない花平に愛想をつかしたお里は、ついに幕兵衛に花平を殺させ、老婆の予言通り、幕兵衛は花平一家の親分となる。そこで、三世次はどちらに取り入る方が有利かと考えた末、お里に自分は頭脳担当として役に立つと売り込み、花平を殺したのは紋太一家の仕業だと大声で言いふらし、新しい親分・幕兵衛の身内となる。 

その頃、飯岡の助五郎のところにいた紋太一家の跡取り・きじるしの王次(阿部サダヲ)が、父・紋太の訃報を聞いて、清滝村に帰ってきた。王次は女郎屋で、三世次が仕組んだ父・紋太の亡霊と会い、母・お文と叔父・九郎治の陰謀で、父が殺されたことを知り、復讐を誓い、きじるしを装う。ぼろ安(森塚敏)の娘・お冬(高橋礼恵)は、そんな王次を気遣うが、王次は「尼寺へ行くか女郎屋にでも行け」と言い、スパイをしていたぼろ安を殺してしまう。自分の父を殺され、王次にそのように扱われて、気が狂ってしまったお冬はとうとう自殺してしまうのであった。 

そんな時、女賭博人となったお光が清滝に戻ってき、そしてお里のところに身を寄せていた。そして謎の老婆の策略によって居合わせた王次と恋に落ちる。同じくお文はお光の変身ぶりに驚き、「お光は十兵衛の実の子供ではない。」と打ち明ける。実は、寺の軒先に捨てられていたお光は双子の姉妹で、姉のおさちは、心優しい代官に拾われ、新しく清滝村に代官として赴任する土井茂平太(山本亨)の妻となっていた。

この間、お光とおさちの間違い騒動があり、三世次がお文を、茂平太が九郎治と王次を殺すこととなる。このすべてを見ていた三世次は、あの予言の一人で二人の女とは、このことだと気づくが、時すでに遅く、恋に落ちてしまう。自分が惚れたのは、お光なのかおさちなのか自分でもわからないままに。 

紋太一家を吸収し、清滝の旅籠を1手につかんだお里は優しい女に変身し、病に臥した亭主の尾瀬の幕兵衛に尽くしていたが、野望を抱く三世次は、最近頭角を現してきた兄貴分の河岸安とお里の中を幕兵衛に誤解させ、幕兵衛はお里を殺し、自らも命を絶った。その後の跡目選びで、今度は三世次は河岸安を褒め倒しながらも実は河岸安が何かを策略したかのように親分衆に思わせ、まんまと後継者となることに成功する。 

三世次はついに欲しいものは全て手に入れたが、惚れたお光だけは思う通りにならず、ついにお光を刺し殺し思いを遂げるのであった。が、離れた所にいた双子の姉おさちには、その情景がはっきりと見えるのであった。三世次は代官所へ捕らえられるが、見張りを買収し、逆に代官・茂平太を殺し、その後がまの代官となり、おさちを形だけでも女房にするのであった。そして代官となった三世次は年貢の取り立ても厳しく、自分が抱え百姓の出であるにも関わらず抱え百姓からも年貢をとりたてようとするのであった。ある日おさちは、醜い三世次を取り寄せた鏡に写し、「あなたの心はもっと醜い」と言う。自分の見にくい姿を映し出された三世次は逆上して鏡を割り、おさちはその破片で自殺してしまうのであった。こうやっておさちの三世次への復讐は遂げられるのであった。その時、三世次のやり方に抗議するためにやってきた百姓隊のリーダーを殺した三世次は怒り狂った百姓隊から三方から竹槍で刺され、殺されてしまうのであった。

感想
ストーリーはシェイクスピア作品をモチーフとした登場人物が不思議な縁でつながっていくというもので、よくぞここまでうまく作られているなぁと関心することしきりでした。まずはオールキャスト総出演みたいな舞台なので、どうしても登場する場面がそれ程なかったりして、この配役でこれはちともったいないというか、もっと見たいというのが本音です。いや、それでもみんな上手いんだけどさ。それに1人で2役をしたりとかで、どこに登場するのか結構気をつけてみてないとわからないので、中々疲れるし。(笑)特に気に入ったのはストーリーテラー役をしていた熊谷真美さん。うまいなぁ。そして役的に美味しいと思ったのがきじるしの王次役の阿部さん。阿部さんの舞台を見ていていつも思うんですが、動きが凄いんですよね。お顔に合わず(すみません)、踊りとかすっごくうまいし、動きがすっごく機敏なんですよね。しかも歌もかなり上手いし。あのハムレット役はいやまさにはまり役でした。えっと、ただ今までの悩める鬱っぽいちょっと陰のあるっぽいハムレット王子ではなかったですが。(笑)そして三世次役の上川さんは一瞬月影先生かと思われるようなヘアスタイルのため、最初登場された時にはわかりませんでした。でも話し出すと、ああ上川さんだって具合。(笑)上川さんの声ってすごく聞き取りやすいのね。しかも長セリフを早口でいて、しかもちゃんと聞き取れるというのは凄いですわ。最初はまだ自分が進むべき道がわからない時は、存在感はそれ程感じさせないのに、だんだんとのし上がっていくうちに、悪役の度合いは高まって、最後には見事なまでのヒールっぷりにブラボォと。で、沢口さんは声の通りとあのしゃべり方がどうしてもこの舞台に合わないというか...心優しいおさち役はお姫様な感じでいいんですが、伝法なお光役で殺陣をする時はあの刀では人を切るどころか、リンゴも切れないと思うのですが...うーーん、設定的に無理があるような。キレイなんだけどねぇ。このお光・おさち役を別の人でもう1度この舞台を見てみたいと強く思うのであります。しかし、これだけの題材をよくぞ1つにまとめあげた井上ひさしは凄いです。あと、歌がみんないいのよねぇ。特にクイーンの名曲を歌詞替えて歌ってくれた時には思わず嬉しくなってしまったりして。DVD出して欲しいなぁ。

HOMEへ戻る