鏡 そのかなたに   ジョセフ・ラヴ

LIGHT

店先を飾る陳列窓、不思議なのはそのあいまいさ---。ことに夕暮れどき、ガラス窓を通してみる室内の光景は、反射された外部の光景とそっくり重なって見える。そこには二重の情報があり、あまりにもうまく融けあっているので、違いを見きわめることは不可能に近い。
このことは、ぼく自身、自分が何であるかを定義し、自分の空間を確立しようとするときの考え方と似ている。自分の内面を探るには、まず外の世界に自分をおいてみねばならないとは、不思議な事実である。ぼくは外界に見るあらゆる事物や人びとのうちに、自分自身が映し出されていることに気づく。
「われは他者である」というランボーの有名な言葉がある。それは自己発見の第一歩ではあるが、「現実」世界を自分自身に反射させることなく、こうしたイマジネーションだけの世界に埋もれてしまうならば、無分別に「現実」に溺れた場合と同様に、成熟せぬ空虚な生に終わるだろう。
" 鏡のなかに見るように、今私たちは神をおぼろげに見ている--- " と聖パウロはいう。すべての事物や人間は反射によって見えている。そこに、創造主の極めて小さな断面---さまざまの顔をも映しながら・・・。
店先の陳列窓---。そこには内なるものと外なるものが、あいまいのまま共存しているではないか。

(「婦人の友」1983年4月号より)

English text


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