士郎 正宗――攻殻機動隊2は主人公がいっぱい



 士郎正宗の『攻殻機動隊』は、アニメ映画にもなって外国でも上映された作品だ。

 主人公は草薙素子というサイボーグ。ここで言うサイボーグとは、脳だけが人間のもので、体は外見上は人間と見分けがつかない作り物(「義体」と呼ばれている)。一方、頭脳の方も「AI」と呼ばれるコンピュータのソフトウエアが、人間とほぼ同じ水準のものまで作られている。つまり、同じ身体(義体)でも、人間の脳が入っていればサイボーグ、AIが入っていればロボットなのである。外見上は全く区別がつかないサイボーグとロボットとを、何をもって区別するか。それがゴーストと呼ばれる、いうなれば人間の魂の有無だ。

 『攻殻機動隊』の英語名は、THE GHOST IN THE SHELL という。

 物語の後半で、草薙素子は「人形使い」というAIと出会う。このAIは、自分はゴーストを持っており、人間(または新種の生命体)であると主張する。物語の最後で、草薙素子と人形使いは、自分たちのゴーストを融合させる。そして、人形使いと融合した草薙素子は、後に自分たちの変種(正確に言えばゴースト付きのAI)をネットワークに放つであろうことが語られる。

 ちなみに、人形使いが草薙素子に融合を申し出る場面は10ページにわたる難解な会話なのだが、なに、どうってことはない。男が女にプロポーズしてるだけなのだ。「結婚してください」「僕たちの子供を作りましょう」なんと痛快なラブストーリー。そしてなんて難解なハッピーエンドであろうか。

 さて、『攻殻機動隊2』。

 この物語の主人公は、ラブストーリー風に言えば、人形使いと草薙素子の娘である。SF風に言えば、草薙素子がコンピュータネットワークに放出したゴースト付きAIだ。草薙素子の場合は彼女の脳が入っている義体がすなわち草薙素子だったのだが、「娘」の方は実体は何もない。ということは、何体も義体を用意して置いて、ネットワーク経由で移動すれば、ほぼ瞬時に違う外見の主人公が登場し、活躍することになる。

 物語中では、世界各地に配備してある何体もの義体はもちろん、さらに実体はないもののコンピュータやネットワーク内で活躍するAIとしての活躍も、漫画なので絵として表現されているので、姿の違う主人公が何人も出てくるのである。

 『攻殻機動隊2』の物語は、ある日の朝から午後までのたった半日の出来事なのだが、この設定により、世界各地から軌道上の衛星までを舞台に主人公が活躍できるのだ。しかし……。ふと考えると、たった半日でこれだけ仕事をするなんて、なんて忙しい主人公なんでしょう。

 主人公は、「荒巻素子」と名乗ってポセイドンという巨大企業の考査部部長として働いている。考査部というのがどんな部署なのかはわからないのだが、部長の素子(以下、2巻の主人公・荒巻素子を素子と書く)はよく戦う。潜水艦同士とか人間同士(実際には義体同士)の戦いもあるにはあるが、主な戦いはネットワークを経由してのコンピュータ戦争だ。敵のネットワークに侵入し、いろいろなウイルスプログラムをばらまく。当然、相手も防御し反撃してくるので戦いになる。サイボーグは体に接続端子を持ち、コンピュータやネットワークに接続できるのだが、サイボーグの体はコンピュータの一種でもあるので、防御が弱ければ敵の体にも侵入して操ることもできるし、逆に相手に自分の体を操られてしまうことだってある。

 サイボーグなどまだ存在しないし、技術水準も月とスッポンなのだが、この戦いは、現在インターネットで行われているものと本質的には何も変わらない。現在、非常に大きなシェアを持っているにもかかわらず、セキュリティに関しての意識が非常に低く、技術も未熟な某巨大ソフトハウスの会長を始めとする社員の人々に、是非読んでもらいたい本である。

■攻殻機動隊1 THE GHOST IN THE SHELL
   ヤングマガジンKCDX-248 1991.10.5

■攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE
   ヤングマガジンKCDX-1441 2001.6.28



トップへ  

MAN man@leaf.email.ne.jp