諏訪の森法律事務所 Lawyer SHIGENORI NAKAGAWA

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追記

「都立盲・ろう養護学校不適切運営」報道の実態

昨年1月に『SEXUALITY』という民間教育研究雑誌に七生養護学校での教育実践―気持ちを育てる・将来の力の基礎となる小学部段階の性教育―という記事が載りました。それをもとに7月2日都議会で日野市選出の都議より、性教育に関しての一般質問があり、そして7月4日に3名の都議、日野市議、他30名近くの都教委とサンケイ新聞の記者と共にやってきて「聞き取り調査」が始まりました。そして目にした方は少ないと思うのですが、7月5日のサンケイ新聞に『過激性教育 都議ら視察』という報道が載りました。それは私の息子・宏樹が11年あまり通った七生養護学校の事でした。実際の授業ではそのような使われ方はしないのですが、下半身むきだしの人形を3体並べた写真を撮り、「常識では考えられない、まるでアダルトショップのよう」という悪意にみちた事実をねじまげた内容でした。

都教委立会いのもとに全校保護者会が行なわれた時には、あまりにも一方的な報道と都教委のやり方に抗議の声がたくさんあがりました。七生養護では、授業内容は事前にも事後にも木目細やかに学級通信がだされ、授業を見る機会も意見を聞く機会も多くあったから保護者は充分理解していたからです。また、国会議員の川田えつ子さんが設けてくれた文科省との話し合いの場で「発達段階にあっていない」とか、「一律な授業」であったとか、「保護者から抗議の声があがっている」という虚偽の報告を都教委が国にあげていたこともわかりました。都が8月末に出した報告書があるのですが、それも事実とは違う部分が多くあります。しかし、授業内容を良く知っている当事者である保護者の意見はきいてもらえず、授業を見たこともない3人の都議によって都教委が動いて良いものでしょうか。また、この時「先進国で 未だにエイズが増えつづけているのは日本ぐらいだ。世界中でもっとも性教育の遅れた国だ。性教育のやりすぎなんてありえない」と川田さんも言っていましたが、国際障害者年『国連人権教育の10年』のときには国も都も『性教育』に関してきちんとした指針を出しているのです。

思春期や青年期にはどの子も様々な問題ををかかえています。まして情報弱者である障がいのある子達にとっては、こころとからだの教育はとても大切です。学校でこのような取り組みがなされていないときには家庭だけで解決するにはとても難しく、今までも親は自分たちで自主的に学習する機会を作っていました。また、七生養護の生徒の半数は隣にある福祉園の子たちです。様々な家庭的な背景や事情をかかえた子ども達です。年度途中でも多くの転入生があり、情緒不安定で環境の変化に対応できず行動が落ち着かない子ども達もいます。このような状況に対応するためいろいろ工夫して授業を行っていました。同学年でも一緒にできない生徒や知的な遅れは軽度でもこまやかな対応の必要な生徒、少し大きな集団にいれた方が良かったり、場合によってマンツウマンにしたりと臨機応変な対応が必要です。そんな中で苦労しながら話し合いを重ね作ったクラス編成が不正だと今回言われたのです。子どもが減りつづける中、養護学校では毎年入学者が増えつづけています。どこの学校も教室が足りないため、クラスを増やせず、充分な教員配置もされていません。一つの教室をアコーデオンカーテンでし切り、二分割、四分割までしている学校もあります。そんな自分たちの不備を棚に上げ、あくまでも規則違反だというのです。子どもの実態より規則優先です。

9月10日にはこの後追いをするように渡辺議員が、日野市議会でこの問題をとりあげ、たくさんの傍聴がありました。都議会と違って、教材は持ちこまれませんでしたが、デジカメの画像を使っての質疑でした。この市議が性教育の説明をしてもそれは卑猥でも過激でもなく、あまり説得力がなかったように思いますが、男女平等や障がい児に対する人権感覚のない発言が多く問題でした。「結婚できない障害児に模擬結婚式をさせたり、教えるのはおかしい」と言っていましたが、周囲の支援を受け結婚し、子育てもしている人もいるのです。あまりにも無知で差別的な発言だと思いました。性被害にあいやすく、加害者に間違われたりすることも多く、障がいのある子達の社会的自立にとっては性教育はとても大事です。また、命は大事だということ、こんなふうに生まれてきたんだと自分を肯定することができ、大事に思えることを学ぶ授業です。

都教委が持って行ってしまった教材は廃棄されてしまうかもしれません。今のように厳しい管理のもとではもう行なわれないかもしれません。今、保護者達は七生養護で起こってっている事に心を痛め本当に心配しています。

七生養護学校在校生・保護者の会
報告者 洪美珍

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都教委に出した要望書

東京都教育委員会
教育長 横山洋吉様

この度七生養護に起こった一連の出来事に関して大変心を痛めております。これまでに3回全校保護者会が開かれましたが充分に当事者の意見や思いを聞いて頂けたとはとても思えません。また、あの場で語られた多くの保護者の意見は文科省への報告にも8月末にだされた都立盲・ろう・養護学校経営調査委員会報告書にも反映されていませんでした。保護者は毎日子ども達と生活を共にし意見を表明するのが苦手な子ども達の代弁者であります。また、将来の自立へ向けて一所懸命、日々ともに努力しております。それを全く無視した今回の動きは何だったのでしょうか。

知的障害のある人達の自立にとっては様々なスキルが必要です。日々の学習や作業などによって培われる力は卒業後を見据えたものであり、やがて学校を卒業した時に役立つことを保護者は望んでいます。また、1人の人間として自然な振る舞いのできる大人になる事を望んでおります。そして、人を傷つけたり人に傷つけられたりすることのないことを願っております。しかし、それはとても困難な事です。残念なことに悲しい話もたくさん聞きました。世の中は善人や障害者に理解のある人ばかりではありません。養護学校の前から車で連れ去られた女の子の話、ケーキ1つで「やさしいおじさん」について行ってしまう女の子の話、痴漢に間違われ、家族と共に暮らす事のできなくなってしまった男の子の話、人前でしてはいけない事の判断がうまくできず、作業所や職場を首になってしまった人の話…。数え上げればきりがありません。また、軽い知的障害があり、人とのつながりの持ち方がわからず、避妊の知識もなく、次々と父親の違う子どもを産み、自分で養育することが困難で里子に出すという例もあり、そんな困難な子ども達の養育を引き受けていらっしゃる方もいらっしゃいます。こんな重い現実の前に親達の気持ちは焦りを覚え、立ち尽くすばかりでした。

そんな折、七生養護では7年ほど前から性教育に取り組み始めました。それまでにはこの問題に関して多くの悩みを抱えた親達は、仲間で語り合い、先輩の保護者や作業所の指導員さん、大学や専門家の先生などといった細々としたつてを頼り、自分たちでお金を出し合い勉強会を開いてきました。しかし母親達の努力には限界がありました。学校できちんと授業の中で取り組まれることになった時には、本当に良かったと思いました。他の養護学校と交流する中で、他校の保護者から羨ましがられることもあり、誇りにも思っておりました。授業の事前、事後にはきちんとした学校からのお便りがあり、保護者会、公開授業でも何度も参観し、先生達とは蜜に連携しておりました。また、親元ではなく福祉園から通ってくる子ども達もいます。自分が大事な存在に思えず、心が傷ついてしまっている子もいます。あるとき、僕はどうやって産まれてきたのかな、と聞いた子がいて先生達は大きな袋を縫いました。その中に置かれた温かなクッションの上に、その子はうずくまり、おぎゃあと産まれてきて、みんなにおめでとうと祝ってもらいました。この袋の中には他にも見学した大人が入って同じような「命が生まれる」体験をしました。自分もこうやって喜ばれて産まれてきたのだと肯定的な体験ができます。どうしてこの袋に『膣つき子宮内体験袋』という悪意ある仰々しい名前がついたのか理解に苦しみます。その他の教材も先生方が子ども達の実態に合わせて苦心して作ったものです。1日でも早く子ども達の元に戻してくださるようお願いいたします。障害のある子達にとっては反復し、視覚に訴える具体的な授業はとても大事です。

いま、障害のある子の実態も知らず、将来どのように自立させていけば良いのかについて未経験な方が学校に関わっている事にも疑問を感じております。この問題が起こってからまだ1回も開かれておりませんが、学校評議委員会を臨時に開き、多くの方から意見を聞き、検討して行けば良いのではないでしょうか。今回のような一方的なやり方には何らの客観性も感じられず、多くの保護者が疑問を感じて居ります。一日でも早く今までのような子ども達中心の学校にもどしてくださるよう切にお願いいたします。


七生養護学校在校生・保護者の会
報告者 洪美珍

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