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脳について(2)



〜「認知症」の具体的な症状 〜

 前回は認知症の物忘れと、正常な物忘れの違いについて書きました。
さて今回は、家族がどんな症状で認知症の発病に気がつくことが多いのか、について書きます。

 普通の物忘れでは、家族は「最近、歳のせいで忘れっぽくなったね」という感じで流せてしまうのです。しかし、下記のような症状があると、やはり「普通じゃない」と思って、「何とかしなければ」と思い始めるのです。

 実際に、最初に気づかれた認知症の症状を、具体的にあげてみましょう。



1.  同じことを言ったり聞いたりする
 「今日は、老人健診だから、行きましょう」

 「あらそう・・・このあいだ、健診に行ったとき、痛い注射されたのよ。
  いきなり打つのよ、ひどいでしょう」

 「そうだったんですか。かわいそうでしたね。
  でも、今日は注射はありませんよ。さあ、支度してください」

 「そうかしらね。痛い注射されたのよ。
  それも、いきなり打つのよ、ひどいでしょう」

 「そんなこと、しませんよ。・・・着替えますよ。
  この、メガネは持っていくんですか?」

 「持っていくわよ・・・そういえば、このあいだ健診に行ったとき
  痛い注射されたのよ。それも、いきなり打つのよ、ひどいでしょう」

 「今日は注射はないんです。バッグはご自分で持ってくださいね。
  健診の紙は持っていますか?」

 「健診の紙ね。そういえばこのあいだ、健診に行ったとき
  痛い注射されたのよ。いきなり打つのよ、ひどいでしょう」

 「注射はないんですよ、さっきから何度も言っているでしょう!?」

 「あらそうだったの。・・・でも、このあいだ、健診に行ったとき
  痛い注射されたのよ。いきなり打つのよ」

お嫁さんは、もううんざりです。


2. 物の名前が出てこなくなった
 「おい、・・・ええと。それ取ってくれ」

 「なに?」

 「それだよ!(怒)」

 「ああ、うちわ、ね」

なんでも「あれ」「それ」で済ますことが増えてきた感じです。


3. 置き忘れやしまい忘れが目立った
 「財布がない」

 「さっきタンスの上に置いてましたよ」

 「あった。あった。しまっておかないとな」

しばらくして、また・・・

 「財布がない」

 「さっき、ご自分でしまってましたよ」

 「そうだったかな・・どこにしまったかな・・」

 「一緒に探しましょうか?」

こんなことが、毎日続きます。


4. 以前はあった関心や興味が失われた
 「お母さん、お習字、いらっしゃらないんですか?」

 「今日は、億劫でね」

 「毎回楽しみにしていらっしゃったのに・・・体の調子がお悪いんですか?」

 「そんなこと、ないわよ。もう歳だし、行ってもしょうがないしね」

大事にしていたお習字の道具も、部屋の片隅に置きっぱなしで、全然練習しなくなってしまいました。


 「あ、お母さん、お相撲の時間ですよ」

 「あらそう?」

 「ほら。(テレビをつける)取り組みが始まりますよ」

以前は、いつも身を乗り出すようにして見ていた相撲中継だが、今はただテレビの前にぼんやり座っているだけです。


5. 日課をしなくなった
 「お父さん、最近歯を磨いてないみたい・・・」

 「朝晩必ず、歯磨きしていたのにね」

 そこへ、お父さん登場。

 「あ、歯磨きはなさったんですか?」

 「うん? あとでするよ・・・」

そのまま寝室へ・・・


6. だらしなくなった
 「お前、その洋服、この1週間同じ服ばっかりじゃないか。しわくちゃだぞ」

 「そうかしら?」

 「洗濯物もたたみかけで、昨日から置きっぱなしだし・・・」

 「いけない、やらなくちゃね」

2〜3枚たたむが、妻はまたふらっと部屋を出ていってしまいます。


7. 時間や場所の感覚が不確かになった
 「そろそろ寝ようかな・・・」

 「でも、あなた、まだ午前10時ですよ」

 「10時か。だったら、そろそろ夕御飯だなあ」

と、トンチンカンな答えになってしまいます。


 「おや? ここは昔住んでいた新潟の実家の近くだ」

 「あなた、違いますよ。ここは東京ですよ。
  区役所に用があって来たんじゃないですか?」

 「区役所? いや、あそこの路地は、実家の前の道だ。
  ほら、曲がったら、おじさんの家もある」

道を曲がりますが、おじさんの家などありません。

 「おかしいな。昔の家はその先だったかな?」

どんどん歩いていってしまいます。奥さんは、小走りでないとついていけないぐらいです。


8. 財布を盗まれたという
 「あなたなのね!」

 「何がですか、お義母さま」

 「とぼけるのね、泥棒のくせして!(怒)」

 「えっ・・・」

お姑さんとはうまくいっていたのに、突然の泥棒扱いです。

 「お財布よ。こそこそ盗んで!」

 「違います」

 「しらばっくれるのね! いまいましいわね。返しなさい!
  もう、この部屋には入ってこないでちょうだい!」

鍵をかけられてしまい、お嫁さんはお姑さんの部屋に入れてもらえなくなりました。


9. 計算の間違いが多くなった
 「・・・462円になります」

 「いくら?」

 「462円です」

100円玉一個しか出さないで、待っています。

 「462円ですが?」

 「だめかしら?ええっと・・・」

お財布の中をごそごそやっています。

 「これで、いいかしら?」

今度は、千円札を出します。店員さんはおつりをくれます。
このおばあさん、最近こんな買い物ばかりしているので、店員さんは心配になってきています。


10. ささいなことで怒りっぽくなった
 「ちょっとお遣いに行ってきます」

 「だめだ! 勝手に出かけるな!
  俺がこれから散歩にいくんだから、お前は留守番だ!」

 「でも、夕御飯のおかずを買いに行かないと・・・」

 「おかずなんか、どうでもいい! 俺の用は、大事な用なんだよ!」

 「そんな、怒鳴らなくても・・・」

 「うるさい! 言うことを聞け!!」


夫は怒鳴りっぱなしで、奥さんはたじたじです。前から怒りっぽいところはあったけれど、最近は理不尽に怒りだすことが増えたようです。買い物にも行けず、近所に住む娘に電話して、かわりに夕食のおかずを買ってきてもらうことに。


11. 蛇口やガス栓の締め忘れが目立った
 台所で洗い物をしていたと思ったら、しばらくして行ってみると、水道が出しっぱなし。

 お風呂の水があふれていても、無頓着。

 お風呂の沸かし過ぎ。

 ヤカンや鍋を火にかけたまま焦がしてしまう。

 ガスレンジの魚焼き用グリルに火がついていた。気がついたら、台所が暑い。


火事にならなくて良かった・・・


12. 慣れているところで道に迷った
 家から最寄りの駅、郵便局など、しょっちゅう使っていた道が分からなくなる。いつものタバコ屋・スーパーにたどり着けない。近所の人が家まで送ってくれた・・・など。


13. 複雑なTVドラマが理解できない
 NHKの大河ドラマが大好きだったのに、筋が分からなくなり、TVの前で居眠りをする。TVのチャンネルを変えてしまう・・・


14. 以前よりもひどく疑い深くなった
おばあさんの部屋の隣の台所でお嫁さんが息子(おばあさんにとっては孫)と学校の話をしていると・・・

 「ちょっと、あんたたち、ここで何やっているの?」

 「おかあさん、ミツルの宿題の話ですよ」

 「そうだよ。おばあちゃん、どうしたの?」

 「私の家を勝手に売り払おうと思っているんじゃないだろうね?」

 「なんですか? そんなこと考えていませんよ」

 「ここは、亡くなったおじいさんが私のために建ててくれた家なんだから、
  絶対売らせないよ」

 「勝手に売ったりしませんよ」

 「ひどい嫁だね。年寄りをだまして!」

そして近所の人にも、「うちの嫁は勝手に家を売ろうとしている」と言いふらしているのです。


家の中に電話のベルが響きます。孫に電話がかかってきました。友達からです。

 「もしもし、僕だよ。今度の日曜? 大丈夫だよ!」

日曜部の遊びのお誘いのようです。
電話を切ると、奥の部屋からおじいさんが出てきました。

 「おい、マサル。誰から電話だ?」

 「誰って・・・友達だよ」

 「・・・そうか? 本当か?」

以前はなかったのに、最近は電話が鳴ると、すぐに「誰から?」としつこく聞くようになりました。「友達から」と言っても、なんだか信じてもらえないみたいです。おじいさんの目つきが恐くなってきました・・・


15. 処方薬の管理ができなくなった
病院にて。

 「お変わりございませんか?」

 「はい、大丈夫です。でもこの間、薬が足りなかったみたいで
  途中でなくなってしまいました」

医師はあわてて前回のカルテを確認して、処方のところを調べますが、日数は合っています・・・

 「失礼ですが、間違えて2回飲んだりしていませんか?」

 「そんなことはありません」

 ご本人は否定します。そして、医師はまた日数を確認して処方します。
 次の来院日、また・・・

 「薬がやっぱり足りませんでした」

これは服薬管理ができなくなってきたということです。記憶力についても調べてみないといけません。


16. 夜中に急に起き出して騒いだ
夜中の1時。家族はみんな寝静まっています。突然、おじいさんが起きだして、家中の明かりをつけて回ります。雨戸も開けます。息子さん、お嫁さん、お孫さんも驚いて目を覚ましてしまいました。

 「おじいさん、どうしたんですか?」

 「これから、仕事だ。朝メシはまだか?
  大事な仕事があるから、もう行かないと・・・」

 「どこへいらっしゃるんですか、こんな夜中に」

 「会社に行くんだよ、社長にも呼ばれている」

 「会社を定年退職してから、10年以上経っているんですよ」

 「そんなことはない、社長に今日は呼ばれている! とにかく出かけるぞ!」

おじいさんはタンスから昔来ていたスーツを出すと、さっさと着替え始めます。ネクタイまでしめて、玄関へ向かいます。すごい勢いで、誰も止められません。息子さんが力づくで止めようとしますが、おじいさんのほうもすごい力です。とりあえず、息子さんはおじいさんに付き添って、真っ暗な屋外へ二人で出ていきました。


17. いつも降りる駅なのに乗り過ごした
今日は、嫁いだ娘さんの家へ実家のお母さんが訪ねてくる日です。月に2〜3回、実家のお母さんがお茶を飲みに来てくれているのです。

しかし、いつも到着する時間帯になっても、お母さんは現れません。娘さんは心配になって、実家に電話をかけましたが、誰も出ません。夕方になって、お母さんから電話があり、娘さんはホッとしましたが、こんな内容の電話なのです。

 「今日はあなたの家へ行こうとして、電車に乗ったのだけれど
  降りる駅が分からなくて、終点まで行って帰ってきたのよ。ごめんなさいね」

今までしょっちゅう来ていた駅なのに、どうして・・・


 さて、いろいろな事例を書いてみました。「財布を盗られた」といった「物盗られ妄想」は、かなり知られていますが、その他にも、ここに書いた事例は、それぞれが特殊なものではありません。私が認知症の患者さんを診察している中で、「よくある症状」なのです。心当たりのある方はいらっしゃいますでしょうか?

 こういった症状があったら、どうしたら良いでしょうか?
 是非、ご相談ください。メールでもご相談をお受けしております。

 次回は、認知症はどんなふうに進行していくものなのか?ということについて書いてみたいと思います。
 また読んでください。

10-10-2002


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