これまでのスポーツ科学は、素質に恵まれ、競技に取り組む環境を与えられた一部の選手のための理論でした。年齢も肉体的素質もさまざまで、時間的・経済的制約のなかで競技をするアマチュアのための、しかもトップ選手でさえ8時間はかかる超持久スポーツに関する研究はごくわずかでした。
自分自身が競技をし、また現場の声を聞くことによって実感した「新しいスポーツ科学と情報提供の必要性」。これが私の出発点です。
たとえば、私は血液検査でGOTやGPTが高くて肝炎を疑われたことがあります。病院では診断がつかず、自分で文献を調べたところ、激しい運動で筋肉が損傷するとこれらの数値が高くなるという研究が見つかりました。そんな知識一つも、10年前には競技者本人はもちろん、医者でさえ知らなかったのです。
私は大学では生物学を専攻していましたが、トライアスロンにもっと関わりたくて、大学院では「超持久運動による疲労」をテーマに研究をしました。そして、大学院で学んだ知識や研究を生かして、スポーツ&サイエンスライターとして一歩を踏み出したのです。ただ日本では、健康な人が健康に関する情報、あるいはコンサルティングにお金を払う習慣が定着していません。WEBやメールで寄せられる質問にヒントを得て、他の媒体に書いて原稿料をもらう、というのが私の仕事スタイルになりました。
このとき聴講していた授業をもとに「21世紀に何を食べるか」、「グルメの話 おいしさの科学」という二冊の本を企画し、出版しました。学生の視点で、研究の先端にある科学の知識と生活をつなぐという試みです。この企画は「サイエンティフィック・アドベンチャーシリーズ」となり、第4巻は私自身の著書として、ひさしぶりに大学で学んだ生物学を思い出し「ウニの赤ちゃんにはとげがない」という本を書きました。2002年夏発行されました。
学位論文を書いていませんのでまだ学位はとれませんが、本にしたいネタ、人脈をたくさん手に入れ、いくつかの本が実際にできたという意味で、大きな収穫のあった復学でした。
2001年秋、私は企画と執筆のScientific Workshop K's(サイエンティフィック・ワークショップ ケイズ)を立ち上げ、このHPを公開しました。その背景には、量的にも質的にも私一人の名前では受けきれない仕事が増え、またそういう仕事を増やしていきたいという希望ももちはじめたということがあります。
そしてK'sを立ち上げたもう一つの理由、それは私が「生活を楽しむこと」に大きなウエイトを置いていることです。
海外では、アイアンマンレースに参加している人の中には60歳代、70歳代の選手もいます。最高齢者は80歳代です。信じられないかもしれませんが、彼ら、彼女らは、なんとか完走しているどころか、素晴らしい成績でフィニッシュラインを踏み、翌日のパーティーにはドレスアップして現れます。
先にも書きましたが、トライアスロンとは、1日限りのレースではありません。生活を、人生をかけるスポーツです。実は私の夫もトライアスロンをしていますが、できれば60歳代になっても一緒にアイアンマンを目指していたいねと話し合っています。そしてK‘sを通じてエイジレス・アスリート(年齢を問わず、スポーツを楽しむ人のこと)のための情報を提供していきたいと思います。
高校生の頃、私はプロスキーヤーになりたいと考えていました。腕前はSAJ1級、SIAゴールドメダルですが、型にはまった滑り方になじめず、進学とともにスキーからは少し離れてしまっていました。
ふたたびスキーにのめり込んだのは、5年ほど前にエキストリーム・カービングのスキーを手に入れてから。これまでとはまったく違う、カービング・ターンの心地よさ、そしてパウダースノーの深雪の中を飛ぶように駆け抜ける快感にすっかりはまってしまいました。私の両親や弟たちもスキーやスノーボードが大好きで、最近はニセコのコテージに家族で連泊し、ニセコやルスツを滑りながら年越しするのが恒例となっています。60歳代の両親、夫や弟たちと共通の趣味をもって楽しめることの幸せも感じています。
ハワイ・アイアンマンは10月の満月に一番近い土曜日に行われます。どんなに遅いランナーがいても、夜になれば月明かりが足元を照らしてくれます。
今年、私は8月24日にカナダの小さな田舎町、ペンティクトンで行われるカナダ・アイアンマンに出場します。年代別の成績で上位に入れば10月18日のハワイ・アイアンマンに出場することができます。
仕事が忙しいときでも、打ち合わせにはランニングで行ってしまえばトレーニングになります。そういう人だと相手に知ってもらえば大丈夫。だって私はランニング・ライター。ウエストポーチには水着とタオル。出版社、プロダクションのみなさま、勝手ながらレースの際は留守にします。