花さんの親から

MMR裁判第1審の結審を迎えて
 
花の父
 
 平成8年,大阪の原告2家族が起こしていた裁判に加わって以来6年が過ぎました。花は,当時は養護学校に入学したばかりで,週2回の訪問教育を受けるだけでした。小学部5年からは,母親が車で送り迎えをしなければならなりませんが,毎日通学できるようになり,精神的にも大きく成長してきているように思います。そして,この4月中学部に進学しました。その区切りの年に,裁判も第1審の結審を迎えることになりました。
 
 私の娘の花は,平成元年6月,3人兄弟の末っ子として元気に誕生しました。3人の中で一番活発で,鉄棒にぶら下がって得意になって見せたり,高いところからベッドの上に飛び降りて遊ぶことが大好きなおてんばな子どもでした。MMRの副反応が発症する5月8日の前日の夜も,そんな遊びを繰り返し,遊び足りないのを,もう遅いからと促して寝かせつけたのでした。そして,次の日の朝,花の体に重大な変化が起きたのです。
 
 MMRというワクチンは,導入からわずか1年も経過しない段階で無菌性髄膜炎が多発し,死亡者や花のような重度の障害をも負わせた欠陥ワクチンとして,大きくマスコミにも報道され,最終的には中止になりました。私たちは,予防接種による健康被害の認定を申請し幸いにも認められましたが,当時の厚生省から送付された見舞状には,「社会防衛の貴い犠牲となられた」「お気の毒にたえません」とあり,謝罪の言葉はありませんでした。つまり,国は非を認めたわけではなく,MMR予防接種禍の責任は明らかになっていないのです。先に提訴している2家族に続いて,私たちが訴訟に加わることにより,国と製薬会社の責任を公判の場で明らかにしたい,しなければと考えたのです。
 
 花へのMMR接種は意に反するものでした。MMRの副作用が大きく報道されていた時期なので,麻疹単独の接種を希望しましたが(私の母に頼んで花を医院に連れて行った),接種医の強い勧めで,意に反してMMRを接種されたのです。このとき,接種医が無理にMMRを勧めなかったら,花がこんなにならなかったのにという思いがあります。接種医の責任も追及したいとも一時思いました。しかし,MMRが中止になっていない時期でしたので,そのことを問題にすることは難しく,接種医は提訴の相手にしませんでした。
 
 接種医は,その当時MMRを良いワクチンと信じて積極的に推進していました。このことは,被害認定の申請のためカルテ提供等の協力依頼に私が直接会って話を聞いていますし,当時のO市(接種時住んでいた市)のMMRと麻疹単独の接種状況のデータを見れば明らかです。怒りはありますが,予防接種行政の一翼を担い,MMRを良いワクチンと信じて接種していたのですから,第一義的に非はメーカー・国にあります。MMRが欠陥ワクチンでなかったら,国が早期に中止していたら,医者もMMRを接種することはなく,公判で証言台に立つこともなかったのです。その意味では,接種医も被害者と言えます。
 
 このことが起こるまでは,接種医は私たちの家族医として,3人の子供はもちろん私や父も風邪程度では小児科ですが診てもらっていました。そして,花が発症したときも,必死になって救命処置をしてくれました。そのお陰で最初の危機は乗り越えられたのは事実で,そのことは感謝しています。重度の心身障害児になっても,花が生きていて一緒に暮らしていられることは,私たちにとってとても幸福なことです。私たちは今,H市に住んでいますが,本当は私の両親や妻の母親もいるO市で,家族が一緒に,そして,それまでがそうであったように,接種医も一緒に花の健康を守りながら生活できたらと思います。接種医には,そういう姿勢を期待していました。
 
 しかし,接種医は裁判での証言の中で,「その当時はMMRが問題になっていた時期なので勧めていない」と嘘を言っているのです。この証言には驚きました。なぜ,“訴えられてもいない”のに,“被害が起きたのはワクチンに欠陥があり国が中止しなかったからという立場でいればいい”のに,むしろ,自分も欠陥ワクチンと国の失政の被害者であると言えばいいのに,接種医は嘘をついてまで被告側に立つのでしょうか。
 
 さらに,家族の下痢が花に感染したのではないかとか,喘息の発作で呼吸停止になったような証言をしています。しかし,この中で「兄も高熱と下痢で来院」と言っている日は,兄は学校に登校しているので,明らかに嘘です。また,花の喘息は,風邪をひいたときにぜーぜーする程度で,ひどい発作を起こすようなものではなく,発症の前日も寝る直前まで元気に遊んでいました。発作を起こして呼吸停止になることは考えられません。
 このように,接種医は,家族の下痢の症状を殊更に誇張したり,ひどい喘息でもないのに花を病弱であると誇張したり,被告の主張を裏付けるために次から次へと嘘を言っているのです。また,多忙だと言って弁護側からの証言依頼になかなか応じなかったのに,裁判所へは,接種医として証人尋問へ出廷しただけではなく,次の公判へも傍聴に来ていました。このことは,接種医に後ろめたい気持ちがあるからではないかと思います。
 
 被告側は,このような嘘を元に,原因は花自身の病気や家族からの感染が原因と主張してきました。大学病院で治療にあたり花の命を救ってくれた医師への尋問では,髄液の採取が遅かったこと,下痢について検査しなかったことを責めました。花の髄液を培養しワクチン株を分離してくれた衛生研究所の検査官への尋問でも,検査官としての良心から真偽を確定しようとした行為を,なにか意図的なものが働いていたのではないかと疑い,何がなんでもMMR以外の原因を押しつけようとしてきました。
 しかし,接種ワクチン由来の株が出てきた以外に,下痢にしても,脱水にしても推測以外の何ものでもないのです。
 
 これまでの公判を通じて,阪大微研は,欠陥ワクチンを製造し,あのような多くの被害を出したことへの反省の言葉はなく,国も,対応が遅れたため被害を拡大したのに未だにMMRワクチンの有用性を主張しています。これは,まさにエイズやヤコブなどの薬害の図式そのものです。
 
 厚生労働省は,インフルエンザワクチンの社会福祉施設での集団接種やMMRワクチンの再開の動き,また,BCGの問題が出てきて再接種廃止の方針をだしているのに,今年度からではなく来年度から実施するという,BCGの在庫減らしとしか考えられなやりかたで,相変わらず,国民の命・健康よりもワクチンメーカーの利益を守ろうとしているのです。
 薬害ヤコブ病の裁判では和解が成立し,厚生労働大臣が謝罪しました。しかし,狂牛病問題などでもわかるように,被害を受ける側よりも利益を受ける側に立った行政がまかり通っています。このような被害が再び起こらないようにするためにも,また,予防接種行政がより慎重で本当に子供の健康を守るものとなるためにも,司法がMMRの欠陥と行政の責任を判決として明らかにしていただきたいと思います。